ジャンムー・カシミール連邦直轄領

ジャンムー・カシミール連邦直轄領
Jammu and Kashmir
ジャンムー・カシミール連邦直轄領 Jammu and Kashmirの公式印章
印章
Occupied Kashmir
ジャンムー・カシミール連邦直轄領の位置
インドの旗 インド
連邦直轄領の設置 2019年10月31日
主都 シュリーナガル(夏季)
ジャンムー(冬季)[1]
行政区画 20県英語版
政府
 • 種別 連邦直轄領政府英語版
 • 副知事英語版 マノジ・シンハ英語版
 • 首相英語版 空席
 • 連邦直轄領議会英語版 一院制 (114議席) [2]
 • 第17期インド連邦議会 ラージヤ・サバー (4議席)
ローク・サバー (5議席)
 • 高等裁判所英語版 ジャンムー・カシミール高等裁判所英語版
面積
 • 合計 42,241 km2
最高標高 7,135 m
最低標高 247 m
人口
(2011年)
 • 合計 12,258,433人
 • 密度 290人/km2
等時帯 UTC+05:30 (IST)
ISO 3166コード IN-JK
ナンバープレート JK
公用語 ウルドゥー語, ヒンディー語, カシミール語, 英語
その他の言語 ドーグリー語, パンジャーブ語, パハリ語, グジャール語, ダドリ語(Dadri),[4][5] en:Bhadarwahi,[6] バテラ語,[7] シナー語,[8] ブルシャスキー語,[9] and コワール語[10]
ウェブサイト http://jkgad.nic.in/

ジャンムー・カシミール連邦直轄領(ジャンムー・カシミールれんぽうちょっかつりょう)は、インド北部にある連邦直轄領ジャンムー・カシミール州の分割に伴って2019年10月31日に発足した。日本のマスメディアなどでは、前身の州を含めてジャム・カシミールと表記されることが多い[11]

歴史

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イギリス領インド帝国第二次世界大戦後に独立へ向かい、ヒンドゥー教が主流のインドと、ムスリム(イスラム教徒)が多数派のパキスタンは別々の国家になった(インド・パキスタン分離独立)。この際、カシミール地方を統治していたジャンムー・カシミール藩王国の藩王ハリ・シングインドへの帰属英語版を表明し、ジャンムー・カシミール藩王国はインド領のジャンムー・カシミール州となった。しかし、ムスリムが住民の多数を占めていたことからパキスタンも領有権を主張し、帰属権を巡って第一次印パ戦争が勃発した。その後もカルギル戦争を含めてカシミール紛争は21世紀に至るまで続いている。

1949年に制定されたインド憲法第370条英語版でジャンムー・カシミール州には特別自治権[12]が認められてきた。

インド政府は2019年8月5日にこの特別自治権を剥奪する大統領令を公布した[13]し、インターネット通信などを制限した[14]。また、インド政府はインドの国会ジャンムー・カシミール州再編成法英語版を提出、かねてから特別自治権の撤廃を主張してきた[12]インド人民党の賛成で承認され、8月9日に成立した。これに対して抗議するデモ隊と治安部隊の衝突などが起き[15][16]、パキスタンは住民への人権侵害と反発した[17]。また同法の規定により、ジャンムー・カシミール州は2019年10月31日付で廃止され、ラダック連邦直轄領ジャンムー・カシミール連邦直轄領とに分割された[18][19]。自治権剥奪と州の分割については旧ジャンムー・カシミール州側から異議申し立てが行われたが、2023年12月11日にインド最高裁判所が憲法370条は一時的な措置であったとして中央政府の決定を支持する判断を下し、2024年9月30日までに地方選挙を実施するよう命じた[20]

この地方議会(定数90)の選挙は地域別に3回の予定で同年9月18日から始まり、開票は予定されていたとおり10月8日[11]に実施され、中央政府のナレンドラ・モディ首相の与党であるインド人民党が獲得議席29で敗北した[21]。州時代に政権を担っていた地域政党ジャム・カシミール民族協議会、インド国民会議派などの野党連合は49議席を獲得した[21]。20以上の政党から800人以上が立候補しており、インド人民党以外は自治権回復を訴えているが、同地の議会には、かつて自治権を認めていた憲法条項を復活させる法的権限はない[11]。モディ政権が直轄領化した理由も、表向きのテロ対策や地域開発だけでなく、連邦法を適用する際に州議会の承認を必要としていたことが不満だったとの見方がある[11]

地理

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ジャンムー・カシミール連邦直轄領の地形図

ジャンムー・カシミールにはカシミール渓谷やタウィ渓谷、シェナブ渓谷、プンチュ渓谷、シンド渓谷リダー渓谷などの渓谷がある[22]。カシミール渓谷は幅100キロメートル、面積1万5520.3平方キロメートル、平均標高はおよそ1,850メートルである[23]チベット高原とは北東部でヒマラヤ山脈により隔てられている[24]。また、渓谷の南部から西部にかけては平均標高約3,000メートルのピール・パンジャル山脈英語版があり[25]ヒンドゥスターン平野とカシミール渓谷を隔てている[26]ジェルム川インダス川、ラービー川、タウィ川、シェナブ川は領内を流れている[27][28]

地方行政区分

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ジャンムー・カシミール連邦直轄領はジャンムー地方カシミール渓谷地方の2地方から構成され、さらに20の県に細分される[29]

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地方 コード 県都 人口 (2011年) 面積 (km2) 人口密度 (/km2)
ジャンムー地方
カトゥアー県 KT カトゥアー 615,711 2,651 230
ジャンムー県 JA ジャンムー 1,526,406 3,097 650
サンバ県 サンバ 318,611 904 320
ユーダンプール県 UD ユーダンプール 555,357 4,550 120
リーシー県 リーシー 314,714 1,719 180
ラージャウリー県 RA ラージャウリー 619,266 2,630 240
プンチュ県 PO プンチュ 476,820 1,674 280
ドーダー県 DO ドーダー 409,576 11,691 160
ランバン県 ランバン 283,313 1,329 210
キシュトワール県 キシュトワール 231,037 1,644 30
合計 5,350,811 26,293
カシミール渓谷地方
アナントナーグ県 AN アナントナーグ 1,069,749 3,984 300
クルガム県 クルガム 423,181 1,067 400
プルワマ県 PU プルワマ 570,060 1,398 410
ショッピアン県 ショッピアン 265,960 612.87 430
バッジャン県 バッジャン 755,331 1,371 537
シュリーナガル県 SR シュリーナガル 1,250,173 2,228 640
ギャンダーボール県 ギャンダーボール 297,003 259 150
バンディポラ県 バンディポラ 385,099 398 1100
バラマラ県 バラマラ 1,015,503 4,588 305
カップワーラ県 KU カップワーラ 875,564 2,379 370
合計 6,894,279 15,948

主要都市

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夏季の州都シュリーナガルは、カシミール地方最大の都市で、インドの支配地域にある。冬季の州都はジャンムー市(ジャンム、ジャムとも表記されるが、原語で語末の音節は長母音である)。

住民

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その他には仏教(0.9%)やシーク教(1.87%)を含む
ジャンムー・カシミールの宗教[30]
宗教 パーセント
イスラーム教
  
68.31%
ヒンドゥー教
  
28.44%
その他
  
3.08%

注釈

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  1. ^ パキスタンが実効支配しているギルギット・バルティスタン州及びアザド・カシミールの面積(78,114平方キロメートル (30,160 sq mi))、中華人民共和国が実効支配しているカラコルム回廊の面積( 5,180平方キロメートル (2,000 sq mi) )を含めない。

脚注

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  1. ^ Desk, The Hindu Net (2017年5月8日). “What is the Darbar Move in J&K all about?” (英語). The Hindu. オリジナルの10 November 2017時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171110135648/http://www.thehindu.com/news/national/other-states/what-is-the-darbar-move-in-j-k-all-about/article18409452.ece 2019年2月23日閲覧。 
  2. ^ https://www.livemint.com/news/india/new-dawn-for-j-k-begins-two-new-federal-units-take-shape-11572493040564.html
  3. ^ Saser Kangri - AAC Publications - Search The American Alpine Journal and Accidents”. Publications.americanalpineclub.org. 14 February 2019時点のオリジナルよりアーカイブ2019年2月14日閲覧。
  4. ^ Khan, N. (2012-08-06) (英語). The Parchment of Kashmir: History, Society, and Polity. Springer. p. 184. ISBN 9781137029584. オリジナルの23 February 2019時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190223184947/https://books.google.com/books?id=RRbIAAAAQBAJ&lpg=PP1&pg=PA184#v=onepage&q&f=false 23 February 2019閲覧。 
  5. ^ Aggarwal, J. C.; Agrawal, S. P. (1995) (英語). Modern History of Jammu and Kashmir: Ancient times to Shimla Agreement. Concept Publishing Company. ISBN 9788170225577. オリジナルの24 February 2019時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190224001711/https://books.google.com/books?id=XNqOjvaAb9cC&lpg=PP1&pg=PA6#v=onepage&q&f=false 23 February 2019閲覧。 
  6. ^ "Bhadrawahi". Ethnologue.com (英語). 2019年8月6日閲覧
  7. ^ Bateri (英語).
  8. ^ Crane, Robert I. (1956) (English). Area Handbook on Jammu and Kashmir State. University of Chicago for the Human Relations Area Files. p. 179. "Shina is the most eastern of these languages and in some of its dialects such as the Brokpa of Dah and Hanu and the dialect of Dras, it impinges upon the area of the Sino-Tibetan language family and has been affected by Tibetan with an overlay of words and idioms." 
  9. ^ "Pakistan's "Burushaski" Language Finds New Relatives". Npr.org (英語). 2019年8月6日閲覧
  10. ^ Simons, Gary F.; Fennig, Charles D. (2017) (English). Ethnologue: Languages of the World, Twentieth Edition. Dallas: SIL International 
  11. ^ a b c d ジャム・カシミール/インド直轄領 編入後初選挙/政権に不満くすぶる」『読売新聞』朝刊2024年9月26日(国際面)
  12. ^ a b “インド最大野党が政権公約を公表、核政策見直しへ”. ロイター通信. (2014年4月7日). https://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYEA3606020140407/ 2014年4月8日閲覧。 
  13. ^ “インド政府、ジャム・カシミール州の特別自治権を剥奪”. AFP通信. (2019年8月5日). https://www.afpbb.com/articles/-/3238581 2019年8月5日閲覧。 
  14. ^ “通信、通行の制限続く=カシミール自治権剥奪1カ月”. AFPBB. (2019年9月5日). https://www.afpbb.com/articles/-/3243227 2019年9月6日閲覧。 
  15. ^ “デモ隊と治安部隊衝突=数千人参加か-印カシミール”. 時事通信. (2019年8月16日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2019081601179 2019年11月20日閲覧。 
  16. ^ “「殴るくらいなら撃ち殺してくれ」 カシミール住民がインド軍の拷問を訴え”. BBC. (2019年8月30日). https://www.bbc.com/japanese/49519985 2019年11月20日閲覧。 
  17. ^ “「人権侵害」と印を非難 カシミール巡りパキスタン”. 日本経済新聞. (2019年9月20日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49652270Q9A910C1910M00/ 2019年11月20日閲覧。 
  18. ^ “10月末にカシミール州消滅 インド、連邦政府直轄地に”. 共同通信. (2019年8月10日). https://this.kiji.is/532668908785927265 2019年8月10日閲覧。 
  19. ^ “インド、カシミール自治権撤廃 パキスタン・中国は反発”. 朝日新聞デジタル. (2019年8月7日). https://www.asahi.com/sp/articles/ASM871PPCM87UHBI001.html?iref=sp_ss_date 2019年8月10日閲覧。 
  20. ^ “Indian court confirms end of special status for Kashmir”. Al Jazeera English. アルジャジーラ. (2023年12月11日). https://www.aljazeera.com/news/2023/12/11/indias-top-court-upholds-end-of-special-status-for-kashmir 2023年12月12日閲覧。 
  21. ^ a b 「インド人民党 議会選で敗北 北部ジャム・カシミール」『読売新聞』朝刊2024年10月9日(国際面)
  22. ^ Vij, Shivam (5 May 2017). “Kashmir Is A Prison With Three Walls”. HuffPost. 9 August 2019閲覧。
  23. ^ Guruswamy, Mohan (28 September 2016). “Indus: The water flow can’t be stopped”. The Asian Age. 9 August 2019閲覧。
  24. ^ Andrei, Mihai (11 March 2019). “Why India and Pakistan keep fighting over Kashmir — the history of the Kashmir conflict”. GME Science. 9 August 2019閲覧。
  25. ^ Doorway of the gods: Himalaya crosses five countries”. The Hindu (21 December 2017). 9 August 2019閲覧。
  26. ^ Khan, Asma (26 April 2018). “A Tryst of the Heart and History along the Karakoram Highway”. Greater Kashmir. 9 August 2019閲覧。
  27. ^ Jhelum River”. Encyclopædia Britannica (15 December 2015). 9 August 2019閲覧。
  28. ^ Agencies (29 July 2019). “Flooding alert issued as India releases water”. The Nation. 9 August 2019閲覧。
  29. ^ Ministry of Home Affairs:: Department of Jammu & Kashmir Affairs”. 8 December 2008時点のオリジナルよりアーカイブ。28 August 2008閲覧。
  30. ^ The Indian Census”. 2016年9月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月21日閲覧。

外部リンク

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