デッドモール
デッドモール (英∶dead mall) とは、入居テナントの相次ぐ撤退により、稼働率が極端に低い状態で営業を継続するショッピングモールを指す。閉鎖によって廃墟化した状態で建物が放置されている場合も含むことがある[1]。別名「廃虚モール」と呼ばれることもある[2]。
概要
[編集]デッドモールの問題は主に、ECサイトの台頭とスマートフォンの普及、独身化や少子高齢化によるライフスタイルの変化、都心回帰現象に加え、若者の車離れや高齢化により自家用車を運転しない(できない)者が増加することによるロードサイド店舗の衰退、消費者の価値観の変化、店舗乱立によるオーバーストアの発生などが要因とされている[3]。
小売業の低迷が続くアメリカではこの問題が顕在化しており[3]、同国の1人当たりの小売面積は約2.2平方メートルにも及び、需要の2倍および3倍にのぼるとされている[4]。
日本では、1980年代後半から1990年代前半のバブル時代に大型再開発が続き、2000年の規制緩和による大店法改正で全国各地にショッピングモールの建設が相次いだ。こうして開業したショッピングモールの多くは郊外立地で、無料駐車場が完備され、ひとつの施設内に複数の物販店や飲食店、ゲームセンターなどの娯楽施設や旅行代理店などの各種サービス施設が入居していることから、公共交通機関が未発達な地方部においては既存の商店街や百貨店を凌ぐ顧客吸引力を武器に成長していった。しかし、2010年代以降は長引く不況もあって客足が遠のき、テナントの多くが撤退し稼働率が極端に低い状態に陥るショッピングモールが全国に出現している[3][5]。
世界各国での事例
[編集]アメリカ合衆国
[編集]- ランドーバー・モール(Landover Mall) - メリーランド州ランドーバー
- リンカーン・モール(Lincoln Mall)- イリノイ州マッテソン
- リージェンシー・スクエア(Regency Square)- バージニア州リッチモンド
中華人民共和国
[編集]- 新華南モール - 広東省東莞市
- 2005年にオープン。約46万平方メートルのショッピングエリアに2350店もの店舗が入居可能で、完成当時は世界最大のショッピングモールと称された。しかし商圏住民の多くが経済的に余裕のない労働者であるという立地条件の悪さなどから、大半が空き区画で購買客もほとんどおらず、事実上の機能停止状態に陥っている。原因は合理的な事業計画のない投機的な不動産投資であると指摘されている[8]。
- ヒマラヤズセンター - 上海市浦東新区
- 2015年にオープン。上海浦東、地下鉄7号線の「花木路」駅エリアにあるランドマーク的存在。総面積10万平方m。建物内には、5つ星ホテル、グルメモール、美術館、シアター、映画館などがある。世界的に有名な建築家・磯崎新氏がデザインを手掛けた。
日本での事例
[編集]- ピエリ守山 - 滋賀県守山市
- 大和ハウス工業グループの大和システムとオウミ都市開発の共同開発により、守山市の琵琶湖畔エリアに商業施設面積約55,000平方平方メートル、約200のテナントのモールとして2008年にオープンしたが、開業前後に発生したリーマン・ショックによる景況悪化や、その後に商圏内へ多数の大型商業施設が開業し競合が激化した影響により、次第に店舗数が減少し2013年末にはわずか3店舗を残すのみとなり「生ける廃墟」「明るい廃墟」「ネオ廃墟」とインターネット上で話題になった[9]。大和システムはモレラ岐阜なども運営していたが、2010年に経営破綻し民事再生法を申請。その後、ピエリ守山は大和システムからkodo.ccに売却され、施設改装が計画されるものの実現には至らなかったが、マイルストーンターンアラウンドマネジメントが運営会社の株式を取得し2014年にリニューアルが実施され、デッドモール状態は解消された。
- LCワールド本巣 - 岐阜県本巣市
- 1992年11月3日に当時の本巣郡真正町に開店したが、利便性の悪さや競合店舗の増加によって衰退した。2015年12月31日をもって本館専門店すべてが閉店。さらに、それ以降も営業を続けていた核店舗であったトミダヤも2016年4月20日に営業規模を大幅に縮小し、タマネギの無人販売のみとなった。
- 同年10月25日付でトミダヤ(実態はタマネギの無人販売所)も撤退し、本館は閉鎖され解体。2018年には以前のようなモール型ではないものの、跡地に別の店舗が営業開始した上で、LCワールド本巣(2代目)として再始動している。
- 主な競合店舗は、モレラ岐阜、カラフルタウン岐阜、マーサ21、イオンモール大垣、イオンタウン大垣、イオンモール各務原。
- イオンモール名古屋みなと - 愛知県名古屋市港区
- 1999年に「ベイシティ品川」としてオープンした。2004年には名古屋臨海高速鉄道あおなみ線が営業開始、荒子川公園駅が徒歩3分の場所に設置。開業からしばらくの間周辺に大型ショッピングセンターは無く順調であったが後にららぽーと名古屋みなとアクルス(2018年開業)やイオンモール名古屋茶屋(2014年開業)など大型ショッピングセンターが相次いで開業し密集する激戦区となった。また、専門店街の屋根はテントを張った気密性の低い構造になっており、隙間風が吹き込むため冬は異常なほど寒く、エアコンの風が外へ逃げ夏は異常なほど暑いというのも問題であった。専門店街は4階建てであるが、晩年には2階以上のほとんどのテナントが撤退し、空きテナント部分には壁面アートや小学校で習う漢字一覧などが掲載された。
- 以上のような理由でイオンモール名古屋みなとは2021年2月28日に閉店した[10]。ただしイオンモール・イオンリテール連名の2020年10月7日付プレスリリース「イオンモール名古屋みなと 閉店のお知らせ」では、「今後の新たな再開発計画を鑑み、一旦営業を終了いたします」「なお、今後のスケジュールや詳細等、決定次第改めてご案内させていただきます」とされており、完全撤退ではないことを匂わせている[11][12]。併設していたシネマコンプレックスのTOHOシネマズ名古屋ベイシティは2020年の11月30日に閉館している。
- グランモール - 福岡県遠賀郡水巻町
- 元々は1990年代に「生活城塞都市メルカート」として着工されたもので、当時の出店予定テナントの経営破綻や複雑な道路構造などのため、同地は10年以上に渡り放置されていたものの、取付道路を新設するなどの対策を施して開発を再開し、その後、2011年7月に全館オープンを果たした。
- しかし、周辺の複数の競合店に敗れテナントが徐々に減少し、2021年2月以降は営業している商業テナントは、食品ディスカウントスーパーラ・ムー1店舗のみとなり、デッドモールと化した。
- その後は前述のラ・ムーが営業継続しながら、空き区画の一部にて水巻町と隣接する市である北九州市の新型コロナワクチン接種会場として利用されたり、またバナナ畑として活用されていた[13]が、後に空きスペースに北九州イノベーションセンターが新たに開設され、うち2施設が2023年11月に先行して第1期開業を迎えた[14]。
- レインボープラザ西大和 - 奈良県北葛城郡上牧町
- レインボー小倉 - 京都府宇治市
- ファミリオ - 兵庫県神戸市中央区
- 元々は1992年9月の神戸ハーバーランドの街開きと共に「神戸西武」として全館に入居して開業したが、1994年12月に売上不振で閉店し空きビルとなり、1996年4月に「神戸ハーバーサーカス」として再開業したが、テナントの流出が続いたため、2004年3月末に閉館し、運営会社を変更して2004年12月3日に「ビーズキス」として改めて開業したものの2008年1月のトイザらスなどの主力テナントの撤退が相次いぎ同年4月25日に「ファミリオ」に改めて新装開店したが、2011年1月31日にも衣料品などのテナント14店が一斉に閉店し、以降は1階のファミリーマートや地下1階のサイゼリヤなどわずか4店舗のみになり、また3階以上のフロアは店舗がなくなり閉鎖されることになったため一時期デッドモールと化した。その後2014年7月15日に商業施設の新名称「ハーバーセンター」と発表し、同年7月17日には2階のほぼ全域にしまむらが展開する4ブランドの店舗を一斉に出店し、同年8月1日にも診療所が開業するなど、「地域生活密着」を新たなコンセプトとして施策を進めている。
- コトノハコ神戸 - 兵庫県神戸市中央区
- 神戸ファッションプラザ Rink(現・ROKKO i PARK)- 兵庫県神戸市東灘区
- 元々はファッション・雑貨・インテリア・レストラン・シネマコンプレックスを中心とするショッピングセンターだったが、その後閉店が相次ぎ、2012年9月に3Fの一部と4F~9Fが閉鎖。2015年3月に3階で唯一営業を継続していた二楽園が、2018年3月には2Fで唯一営業していたアルカスーパードラッグが閉店した。2018年7月に1Fで唯一営業を継続していたパントリーが撤退したことにより、全館閉鎖状態となった。その後2023年5月26日に1F・2Fにスーパーのヤマダストアー、7月11日に8Fに大型スポーツエンターテインメント施設のKOBE SUPER STADIUM、10月20日に3Fにドラッグストアのキリン堂、5Fに工具店のファクトリーギア、10月30日に4FにDAISOとTHREEPPYが開業することが発表された。そして2024年3月1日に、ROKKO i PARKとして、リニューアルを果たし、デッドモール状態は現状、改善されたと言える。
- CITY!WAKAYAMA - 和歌山県和歌山市
- 長崎屋和歌山店の跡地を大規模改装する形でオープンした。オープン当初こそコムサイズムや鶴橋風月、SHOE・PLAZAなどの全国チェーン店や、運営会社である延田エンタープライズ直営のアミューズメント施設などもあったが、いずれも数年で撤退。上層階を中心に空きスペースが目立っている。2024年時点では、2階は1店舗のみ、3階も営業店舗は4店舗で空きスペースが多く、4階に至ってはフロア自体が閉鎖されている。
- グランパーク - 山梨県甲府市
- 1997年に郊外型モールとしてオープン。当初は甲府バイパス沿いという車社会の山梨県では最高の立地で営業していたが、2000年に大規模小売店舗立地法が執行されるとイトーヨーカドー甲府昭和店をはじめロードサイド店舗が相次いで進出し競争に晒されることとなった。これにより2006年に当初の管理会社が倒産すると2フロアで営業していたダイソーが撤退し、経営が好調だったグランパーク東宝8も2011年にイオンモール甲府昭和に移転する形で閉館。2012年には2社目の運営会社も倒産し、2013年にはネットカフェやボウリング場が相次いで撤退、残ったのはトイザらスとラーメン店のみとなった。そして2024年3月までにすべての店舗が撤退し閉鎖された。2014年5月にノーリツ鋼機が買収するもイオンモール甲府昭和など競合店が多かったことから営業再開せずそのまま全建物が解体され、跡地はケーズデンキとなっている。
- ココリ - 山梨県甲府市
- 2010年10月に商業施設がオープンしたもののわずか半年で地階の生鮮売り場や2階の小規模店舗が撤退。2階はサブカルチャー主体としたものの客層の変化により核店舗のプレミアムアウトレットジュエリーモールが撤退を検討するなど「新しい店舗を入居しても他がすぐ退去する」という状況が続いた。2014年にイオングループが支援を表明し2016年までに誘致などでフロアが埋まる状況となったが、2020年までにこれら店舗は退去しイオングループも11月30日までに撤退した。他の店舗も改装工事で影響のない店舗を除きすべて撤退したが、2023年に岡島が移転する形で全フロアへ進出したことでデッドモールはひとまず改善されている。
- じゃんぼスクエア交野 - 大阪府交野市
- リベル - 兵庫県尼崎市
- 大東サンメイツ一番館 - 大阪府大東市
- 1978年11月にイズミヤ大東店を中核店舗してオープンした。地下1階地上6階までの店舗フロアのうち1階と2階に専門店街が入るほかはイズミヤがすべて使ってたが、2018年6月5日にイズミヤが閉店してからは1階と2階以外はすべて閉鎖する事態になった。その後2021年4月30日には残った専門店街も閉店ししばらく通路として残されたが2022年より解体工事が始まった。
脚注
[編集]関連項目
[編集]- ^ “「廃虚モール」米で急増 ネット勢に敗れ4分の1消滅へ”. 日本経済新聞
- ^ “廃虚モールが中国で急増 新型コロナと商業施設乱立が影響?!【あさチャン!】”. TBS NEWS DIG POWERED BY JNN. TBS (2021年6月3日). 2023年9月5日閲覧。
- ^ a b c “ショッピングセンターの「廃墟化」が加速しそうな理由”. ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社 (2017年12月19日). 2021年3月13日閲覧。
- ^ “アマゾンではなかった…… アメリカの小売業を低迷させた2つの元凶”. BUSINESS INSIDER JAPAN. (2017年7月26日)
- ^ “ショッピングモールが死んでいく”. INSIGHT NOW!. (2015年11月30日). オリジナルの2015年12月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ “Regency Square's owners on Sears closing: 'It’s a positive step'” (英語). richmondo.com. (2017年6月7日)
- ^ “閉店が続くアメリカ小売業「最期の日々」”. BUSINESS INSIDER JAPAN. (2018年6月7日)
- ^ “「世界最大の商店街」は今やゴーストタウン、不動産バブルのツケ 中国”. CNN.co.jp. (2013年3月10日)
- ^ “30年後、日本は「明るい廃墟モール」だらけ!? ピエリ守山に学ぶ、失敗するモール・成功するモール”. 東洋経済オンライン. (2014年7月31日)
- ^ “イオンモール名古屋みなと/2月28日営業終了”. 流通ニュース. (2020年12月28日)
- ^ 「イオンモール名古屋みなと」閉店のお知らせ (PDF) イオンモール株式会社・イオンリテール株式会社、2020年10月7日
- ^ 「イオンモール名古屋みなと」閉店のお知らせ (PDF) イオンモール株式会社・イオンリテール株式会社、2020年10月7日
- ^ “グランモール水巻、2021年2月以降は商業テナント「1店」のみに-核テナントは「バナナ畑」”. 都商研ニュース. (2021年3月31日)
- ^ “北九州イノベーションセンターとは”. 北九州イノベーションセンター. 2024年1月21日閲覧。
- ^ “イズミヤ交野店が1月14日(日)18時で完全閉店。2003年から2024年の期間じゃんぼスクエア交野店で営業”. 交野タイムズ. 2024年9月8日閲覧。