ラック・メガンティック鉄道事故
ラック・メガンティック鉄道事故 | |
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大量の煙と炎を上げる脱線現場の様子。 | |
発生日 | 2013年7月6日 |
発生時刻 | 01:15 (EDT) |
国 | カナダ |
場所 | ケベック州ラック・メガンティック[1][2] |
運行者 | モントリオール・メイン・アンド・アトランティック鉄道[3] |
事故種類 | 脱線事故[1][2] |
原因 | ブレーキの解除に起因する無人状態での暴走[4] |
統計 | |
列車数 | 1編成[1][2] |
乗客数 | 0人[1][2] |
死者 | 40人 |
その他の損害 | 行方不明者7人 40棟の建物破壊[5] 約2000人の避難[5][6] |
ラック・メガンティック鉄道事故(ラック・メガンティックてつどうじこ)は、東部夏時間2013年7月6日1時15分頃にカナダのケベック州ラック・メガンティックで発生した鉄道事故である。原油を輸送していた貨物列車が無人の状態で暴走し、カーブで一部の車両が脱線・爆発・炎上した[7]。40人の死者と7人の行方不明者を出した。
事故の経緯
[編集]事故を起こした貨物列車は、72両のタンク車[4]を5両の機関車[8](1両目と2両目の間に車掌車を連結)が牽引[5]する編成で、タンク車には1両あたり11万3,000リットルの原油が積載されており[2]、編成の合計では770万4,000リットル以上に達していた。当該列車はモントリオール・メイン・アンド・アトランティック鉄道をアメリカ合衆国のノースダコタ州から10日間かけて、カナダのニューブランズウィック州セントジョンの製油所に輸送する予定であった[3]。
7月5日22時50分頃、列車は事故現場となるラック・メガンティックから約11キロメートル西方のナントの町の待避線に、乗務員の交代のため到着した[8]。このとき、機関車では燃料パイプからの燃料漏れ(8ヶ月前に応急修理済)に起因する小規模な火災が発生しており[9]、23時55分頃に消防士が消火した上で列車の安全を確認し、立ち去った[5]。この時点で列車は完全に無人となったが、このとき消防士が誤って空気ブレーキを解除していた。また、タンク車の長編成による重さに耐え切れず、機関車の5両目とタンク車の編成の連結部分が外れ[4][10]、0時58分に列車は暴走を始めた[5]。停車位置から事故現場までは下り勾配であった[8][11]。
翌7月6日1時15分、当該列車はラック・メガンティックの市街地にあるカーブに突入し、タンク車4両が曲がりきれずに脱線した[6][11]。脱線の衝撃でタンク車に積まれていた原油に引火し、爆発・炎上した。合計4回から6回の爆発[12]は、約2km離れた地点でも熱を感じるほどであった[13]。
爆発で住宅など40棟の建物が破壊されたほか[5]、最初の爆発・火災の影響で約1,000人、その後、有毒ガス発生の懸念から追加で約1,000人が避難した[14]。これはラック・メガンティックの人口の約3分の1に相当する[6][15]。
火の勢いはなかなか収まらず、事故発生から20時間は消火活動に入れなかった[16]。別の2両が爆発する可能性も懸念されたが[11]、150人体制の消火活動によって[2]約2日後に鎮火した[1]。消防士は現場を「戦場のようだった」と形容している[16]。また、爆発地点に水道管が通っていたために断水が発生し、給水車が出動した[17]。近くを流れるオタワ川にも推定10万リットルの原油が漏れ出し、オイルフェンス設置のため一部地域において取水制限が実施された[18]。近くの湖にも原油が流れ込み、生態系に重大な影響を与えた。
事故原因
[編集]直接の事故原因は、貨物列車が無人の状態で暴走したことである。貨物列車は高台に停車していたが、乗務員が列車から離れた後に無人のまま走り出した[1][2]。そのままカーブに突入したため、一部の車両が脱線、タンク車に積まれていた原油に引火して爆発・炎上した[1]。
無人のまま暴走した直接の原因については事故直後から地元警察が捜査し、当初はテロの可能性かとの理由で空気ブレーキと連結が外れたためと見られていた[3][10]。乗員が離れる際にブレーキが適切にかけられていたかを調べていたほか[1]、当初は事件の可能性も否定できないとしていた[2][11]。
8日15時頃、カナダ運輸安全委員会は機関車のブラックボックスの回収を発表した[5]。その後の調べで、事故前の停車時に小規模な火災の対応に当たった消防士が、引火防止のために機関車のエンジンを止めたため、エンジンからの圧縮空気の供給によって稼働するブレーキが解除されていたことが判明した[4]。消防側は指令によって現場に派遣された鉄道会社の職員にエンジンを停止したことを伝えていた[19]が、その職員は運転士でも整備士でもない線路作業員でエンジンやブレーキについての知識はなく[20]、出火の可能性が低いことだけを確認して、エンジンを再始動させずに0時45分頃に現場を去った[21]。
また、停車していた場所は9‰の勾配があったため、タンク車の長編成による重さに耐え切れず機関車とタンク車の連結部分が外れて[16][10]動き出し、次第に速度を増し続けて結果的に暴走に至った。本来、この重さの車両はこの勾配ではハンドブレーキを26両以上掛けなければならなかったにもかかわらず、前の車両7両にしか掛けられていなかった。これは機関士と、機関士に教育を施すべき運行マネージャーがこの勾配を認識していなかったことにあり、運行マネージャーは機関士に十分な教育を行っていなかった上に、機関士も機関車のマニュアルを読んでおらず、普段から1両目から7両目までの7両にしかハンドブレーキを掛けていなかった[20]。
さらに、普段は当該列車は待避線に停車していたが、この日は待避線に故障車両が停車しており、待避線に入れないため指令が本線上に停車するよう指示していた。このナント停車場から街までの約20kmの区間において、列車を止める安全装置や信号は取り付けられていなかった[20]。
最終的に、上記の複数のヒューマンエラーが積み重なって起きた事故であると結論付けられた[20]。
その後
[編集]膨大な賠償金を請求された鉄道会社は事実上破産、2014年に倒産した。そして事故の原因を作ったとされている運転士や運行指令員や責任者であるマネージャーらが過失致死罪に問われ、2013年9月から刑事裁判が始まり、4年半近く続いた審理の末に2018年1月19日の刑事裁判で無罪判決が下された。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h “カナダ列車炎上 不明者の捜索本格化” (日本語). NHK News Web. 日本放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “カナダ列車脱線で5人死亡、警察「犯罪の可能性も排除せず」” (日本語). Reuters. トムソン・ロイター. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c For Immediate Release: Dated: Sunday, July 7, 2013: 1615 EST Montreal, Maine & Atlantic Railway
- ^ a b c d “カナダの列車事故、石油輸送への影響は” (日本語). ナショナルジオグラフィック ニュース. ナショナルジオグラフィック協会. (2013年7月10日) 2023年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g “Lac-Mégantic: What we know, what we don’t” (英語). The Gazette. The Gazette. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c “カナダで貨物列車爆発 5人が死亡” (日本語). NHK News Web. 日本放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “カナダ原油貨物列車脱線炎上、死者33人に” (日本語). YOMIURI ONLINE. 読売新聞. オリジナルの2013年7月15日時点におけるアーカイブ。 2013年7月15日閲覧。
- ^ a b c “Lac-Mégantic : la compagnie évoque le système de freinage à air” (フランス語). Radio-LaPresse.ca. La Presse. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “Que s'est-il passé avant le déraillement à Lac-Mégantic?” (フランス語). LaPresse.ca. La Presse. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c “Canada train blast: At least one dead in Lac-Megantic” (英語). BBC News. 英国放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c d “Train blast death toll rises” (英語). Stuff.co.nz. Fairfax New Zealand 2013年7月12日閲覧。
- ^ “1 dead, many missing after Quebec train blasts” (英語). CBC News. カナダ放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “One dead as train explodes in Lac-Mégantic, Quebec forcing residents to flee” (英語). The Toronto Star. トロント・スター 2013年7月12日閲覧。
- ^ “At least one person dead in Lac Mégantic train derailment, explosion” (英語). The Gazette. The Gazette. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “カナダ列車爆発 40人犠牲か” (日本語). NHK News Web. 日本放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ a b c “1 confirmed dead after unmanned train derails, explodes in Lac-Megantic” (英語). CTV News. CTVテレビジョンネットワーク. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “Death toll rises to 5 after Lac-Mégantic train blasts” (英語). CBC News. カナダ放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “Leaking oil from Lac-Mégantic disaster affects nearby towns” (英語). CBC News. カナダ放送協会. オリジナルの2013年7月12日時点におけるアーカイブ。 2013年7月12日閲覧。
- ^ “カナダ列車事故、消防団員がブレーキの動力源遮断し暴走か”. ロイター (トムソン・ロイター). (2013年7月9日)
- ^ a b c d 暴走列車が町に激突!爆破テロ?★時速100kmで脱線の謎(フジテレビ系列の番組「奇跡体験!アンビリバボー」2015年6月25日放送内容、2015年6月26日閲覧) - フジテレビ公式ウェブサイト
- ^ “カナダ列車事故、死者50人か 「ブレーキかけ忘れ」の可能性も浮上”. AFP BBニュース (AFP通信). (2013年7月11日)