少年探偵団
『少年探偵団』(しょうねんたんていだん)とは、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズに登場する探偵団。
または、それらを主人公とした江戸川乱歩の小説。子供のみで構成されており、小林芳雄(小林少年)を団長として、名探偵明智小五郎を補佐する。
作品概要
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『少年探偵団』が初めて登場したのは1936年、『少年倶楽部』に掲載された小説、『怪人二十面相』である。少年を主人公とした冒険譚、変装や人物の入れ替えなどの奇術的なトリック、怪人二十面相の人気などが合わさって大評判となり、その後も年一作のペースで連載が続いた。その後、戦争の影響によって中断したが、終戦後の1949年に『青銅の魔人』で再開。1950年代からは映画化、テレビドラマ化もなされた。
リライト版
[編集]『少年探偵団』シリーズの姉妹編として、「名探偵明智小五郎文庫」をはじめとするリライト版がある。これは『黄金仮面』など江戸川乱歩の推理小説を子供向けに書き直したもので、原作をアレンジして明智小五郎や小林少年などを登場させているものもある。元が一般向けの小説であること、また多くが代作者によってリライトされたことから、作風は『少年探偵団』シリーズと大きく異なっている。ポプラ社の旧版ではこのリライト版が27巻以降に収録されていたが、新版では未収録となっている。これとは別に1972~1973年に講談社が『少年版 江戸川乱歩選集』の名で『蜘蛛男』『一寸法師』『幽鬼の塔』『幽霊塔』『人間豹』『三角館の恐怖』をリライト刊行、表紙と口絵を生頼範義が担当している。
劇中の少年探偵団
[編集]少年探偵団の誕生
[編集]シリーズ第一作目『怪人二十面相』において、怪人二十面相は資産家である羽柴壮太郎の所有するロマノフ王朝の宝冠についていたダイヤを狙っていた。少年探偵団の結成を提案したのは、この羽柴家の次男羽柴壮二である。『怪人二十面相』の終盤で、名探偵明智小五郎が怪人二十面相にさらわれてしまう。明智がさらわれてから三日目、明智の弟子である小林芳雄少年が不安な気持ちで明智の帰りを待っていると、そこに羽柴少年が現われる。そして羽柴少年は明智を救うため、少年だけからなる探偵団『少年探偵団』を結成する。
少年探偵団の団員
[編集]結成時は 10 人だった少年探偵団の団員も、後の『少年探偵』のころには、約二倍の23人に膨れ上がっている。少年探偵団の提案者である羽柴壮二少年は、『少年探偵団』に再度出て以降現われていない。シリーズ中、団長の小林少年以外でよく登場する団員は井上一郎少年と野呂一平少年(ノロちゃん)である。活発な少年で力も強い「井上君」と、小さくて臆病な性格のの「ノロちゃん」の対比が際立つ。また井上君やノロちゃんは『天空の魔人』で大活躍をする。
主な団員
[編集]- 小林芳雄
- 大友久
- 花崎マユミ
- 羽柴壮二
- 桂正一
- 篠崎始
- 野呂一平
- 井上一郎
- ポケット小僧
小林少年
[編集]少年探偵団の団長。本名は小林芳雄。『吸血鬼』で明智小五郎の弟子として初登場。作中ではすでに弟子となっており、出会ったいきさつは不明。当初は顔見せ程度であったが、雑誌「少年倶楽部」に江戸川乱歩が少年向け探偵小説を掲載することになり、その際に少年探偵団の団長とした。このことで一躍有名になり、明智小五郎と小林芳雄のコンビで親しまれている。そして、少年探偵団では、団長として大活躍をした。
作中で小林少年は11~13歳の少年として設定されているが、活躍する時代は満州事変(1931年~)のころから、東京タワー落成(1958年)以降まで幅広い。初期は「りんごのような顔の少年」、後期は「中学生の団長」と僅かに成長していることが描かれている。
実家は新聞販売店だが、両親は他界している。また小林少年には少なくとも二人従兄弟がいる。
子供ではあるが、明智から拳銃の撃ち方を習っており、自動車の運転まで行う。
その最も有名な特技は変装術、特に女装であって、二十面相やその部下たちを尾行するために繰り返し用いた。
乱歩は作中人物の名前を自分の知り合いから取ることが多かったため、乱歩の親戚に当たる松村喜雄は、小林少年の「芳雄」という名前の由来が自分ではないかという想像を楽しんだという(『乱歩おじさん』より)。実際小林少年初登場時、松村は小林少年と同世代であるが、松村は真偽を乱歩に確認しなかったので、事実かどうかは分からない(同書)。なお『二銭銅貨』や『一枚の切符』には「松村」という人物が登場している。
戦後も年を取らないため憶測をよんでいる。北村想の『続・怪人二十面相・伝』では戦後二代目明智小五郎となった小林芳雄が浮浪児を小林家の養子にして芳雄と名乗らせた。平山雄一の『明智小五郎回顧談』では初代小林少年は一寸法師に登場した明智小五郎の友人小林紋三の息子。戦後の二代目はその従弟。三代目は二代目の弟。
花崎マユミ
[編集]「少年」探偵団という名前ではあるが、女性の団員もいる。『妖人ゴング』で、明智の姪である
マユミは「小さいときから探偵がすきだった」ので高校卒業後、大学へ進学せず、明智のところで住み込みで働くことにした。多少法医学の知識もある。
マユミに関する乱歩の記述には幾つか矛盾点がある。まず『妖人ゴング』ではマユミは「高校卒業後」明智の事務所に住み込むことになったはずなのに、『夜光人間』によると、住み込むようになって一年後に17歳になったとある。また、彼女は明智の姪にあたるはずだが、『魔術師』によると明智の妻文代には姉妹がいない。
推理作家芦辺拓は、自身のパスティーシュの中で、「花崎マユミ」は小林少年の女装だったのではないかという説を提示している。
チンピラ別働隊
[編集]少年探偵団の団員たちは普通の少年であるため、その活動は余暇を利用してのみに限られ、夜間帯・危険な活動は不可能。この不都合を補うため、小林少年が、彼を“兄貴”と慕う、上野公園に寝泊りする浮浪児たちを糾合して結成したのがチンピラ別働隊である。隊名は“浮浪児を仲間にすると、良家の坊ちゃんの集まりである探偵団員たちから不興を買う”という理由から、別の機関にしておく必要があったため(『青銅の魔人』より)
“「チンピラ」などという名前は嫌だ”という者もいたが、小林少年が“シャーロック・ホームズが「パン屋通りのごろつき隊」というのを、やはりキミらと同様な者を纏めて作っている、だから誇りを持て”と説得して納得させた。
よく登場する団員は、曲芸団出身で潜入任務を得意とするポケット小僧(本名不明)。『怪人と少年探偵』の記述では小学五年生ぐらい。チンピラ別働隊の活動は小林少年を介したものばかりで、少年探偵団の団員とのつながりは弱い。中には浮浪児という経済的弱みにつけこまれ、二十面相から賄賂を受け取り嘘の証言をでっち上げ、小林少年から激しく非難される団員もいた。始めは20人以上いたが、社会の安定とともに人数は減り、『妖人ゴング』のころには5人となった。
七つ道具とBDバッジ
[編集]少年探偵団の団員は
この他『鉄塔の怪人』では小型写真機、指紋を調べる道具、万能鍵たば(どんな錠でも合う鍵が1本必ず含まれている)をあげている。他にも呼子笛、黒い糸(小穴を空けたブリキ缶にコールタールを入れたもの。犬を使った追跡に使える。明智が『人間豹』で発明)がある。また小林少年専用の道具として「どんなかぎ穴にも当てはまる針金」、手品師の使う魔法の杖、伝書鳩の「ピッポちゃん」などがある。
作品リスト
[編集]☆はポプラ社版で未収録となっている作品(光文社文庫版『江戸川乱歩全集』には収録されている)。
- 怪人二十面相(『少年倶楽部』1936年1月 - 12月)
- 少年探偵団(『少年倶楽部』1937年1月 - 12月)
- 妖怪博士(『少年倶楽部』1938年1月 - 12月)
- 大金塊(『少年倶楽部』1939年1月 - 1940年2月)
- 青銅の魔人(『少年』1949年1月 - 12月)
- 虎の牙 (『少年』1950年1月 - 12月) *別題『地底の魔術王』
- 透明怪人(『少年』1951年1月 - 12月)
- 怪奇四十面相(『少年』1952年1月 - 12月)
- 宇宙怪人(『少年』1953年1月 - 12月)
- 鉄塔の怪人(『少年』1954年1月 - 12月) *別題『鉄塔王国の恐怖』
- 黄金の虎(『読売新聞』1955年1月 - 12月) *『探偵少年』改題
- 灰色の巨人(『少年クラブ』1955年1月 - 12月)
- 海底の魔術師(『少年』1955年1月 - 12月)
- 黄金豹(『少年クラブ』1956年1月 - 12月)
- 魔法博士(『少年』1956年1月 - 12月)
- 天空の魔人(『少年クラブ増刊』1956年1月15日)
- サーカスの怪人(『少年クラブ』1957年1月 - 12月)
- 妖人ゴング(『少年』1957年1月 - 12月) *別題『魔人ゴング』
- 魔法人形(『少女クラブ』1957年1月 - 12月) *別題『悪魔人形』
- まほうやしき(『たのしい三年生』1957年1月 - 3月) ☆
- 赤いかぶとむし(『たのしい三年生』1957年4月 - 1958年3月) ☆
- 奇面城の秘密(『少年クラブ』1958年1月 - 12月)
- 夜光人間(『少年』1958年1月 - 12月)
- 塔上の奇術師(『少女クラブ』1958年1月 - 12月)
- 鉄人Q(『小学四年生』1958年4月 - 1959年3月、『小学五年生』1959年4月 - 1960年3月)
- ふしぎな人(『たのしい二年生』1958年8月 - 1959年3月) → 名たんていと二十めんそう(『たのしい三年生』1959年4月 - 12月) *連載途中で改題 ☆
- 仮面の恐怖王(『少年』1959年1月 - 12月)
- かいじん二十めんそう(『たのしい二年生』1959年10月 - 1960年3月) ☆
- かいじん二十めんそう(『たのしい一年生』1959年11月 - 1960年3月、『たのしい二年生』1960年4月 - 12月) *上記とは別作品 ☆
- 電人M(『少年』1960年1月 - 12月)
- おれは二十面相だ!!(『小学六年生』1960年4月 - 1961年3月) *別題『二十面相の呪い』
- 怪人と少年探偵(『こども家の光』1960年9月 - 1961年9月) *総集編的作品 ☆
- 妖星人R(『少年』1961年1月 - 12月) - 別題『空飛ぶ二十面相』
- 超人ニコラ(『少年』1962年1月 - 12月) *別題『黄金の怪獣』
リライト版 右側は元になった江戸川乱歩の小説。
- 黄金仮面 - 黄金仮面
- 人間豹 - 人間豹
- 赤い妖虫 - 妖虫
- 大暗室 - 大暗室
- 魔術師 - 魔術師
- 黒い魔女 - 黒蜥蜴 *『黒いトカゲ』改題
- 緑衣の鬼 - 緑衣の鬼
- 地獄の仮面 - 吸血鬼
- 三角館の恐怖 - 三角館の恐怖
- 呪いの指紋 - 悪魔の紋章
- 暗黒星 - 暗黒星
- 二銭銅貨 - 二銭銅貨
- 蜘蛛男 - 蜘蛛男
- 地獄の道化師 - 地獄の道化師
- 心理試験 - 心理試験
- 幽鬼の塔 - 幽鬼の塔
- 一寸法師 - 一寸法師
- 時計塔の秘密 - 幽霊塔
- 影男 - 影男
- 白い羽根の謎 - 化人幻戯
- 死の十字路 - 十字路
- 恐怖の魔人王 - 恐怖王
- 黒手組 - 黒手組
刊行物
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- ポプラ社ポプラ文庫「江戸川乱歩・少年探偵団」シリーズ 全26巻(2008年~2009年)
- 怪人二十面相 ISBN:978-4591106198
- 少年探偵団 ISBN:978-4591106204
- 妖怪博士 ISBN:978-4591106211
- 大金塊 ISBN:978-4591106228
- 青銅の魔人 ISBN:978-4591106235
- サーカスの怪人 ISBN:978-4591106242
- 地底の魔術王 ISBN:978-4591108710
- 透明怪人 ISBN:978-4591108741
- 怪奇四十面相 ISBN:978-4591108727
- 宇宙怪人 ISBN:978-4591108734
- 鉄塔王国の恐怖 ISBN:978-4591109618
- 灰色の巨人 ISBN:978-4591109625
- 海底の魔術師 ISBN:978-4591109632
- 黄金豹 ISBN:978-4591109649
- 魔法博士 ISBN:978-4591110546
- 魔人ゴング ISBN:978-4591110553
- 悪魔人形 ISBN:978-4591110560
- 奇面城の秘密 ISBN:978-4591110577
- 夜光人間 ISBN:978-4591111468
- 塔上の奇術師 ISBN:978-4591111475
- 鉄人Q ISBN:978-4591111482
- 仮面の恐怖王 ISBN:978-4591111499
- 電人M ISBN:978-4591112410
- 二十面相の呪い ISBN:978-4591112427
- 空飛ぶ二十面相 ISBN:978-4591112434
- 黄金の怪獣 ISBN:978-4591112441
- 講談社青い鳥文庫「怪人二十面相」 旧版(1983年12月10日、古賀亜十夫・絵)、新装版(2013年5月15日、庭・絵)
このほかに、少年探偵団シリーズの大部分を収録した叢書としては1947年~1959年に光文社から刊行されたシリーズ(松野一夫装画)、上記の原型ハードカバー版であるポプラ社から刊行されたシリーズ(柳瀬茂ほか装画、1964~1970、ただし大人向け作品リライトが続けて同じ叢書で刊行されている)、装画を藤田新策書き下ろしで一新したポプラ社のハードカバー版(1997)、同シリーズの文庫版(2005年、ただし実際は文庫サイズより大きい変型ソフトカバーである)が存在する。また、光文社文庫「江戸川乱歩全集」30巻(2004~2006)には上記叢書未収録の少年探偵団ものも含め全児童向け作品が収録されているが、原則発表順のため、大人向け作品との混載である。
関連作品
[編集]- 少年探偵団 (ラジオドラマ) - ニッポン放送で1956年に放送されたラジオドラマ。
- 怪人二十面相 (映画) - 松竹映画。1954年に三部作が公開。
- 青銅の魔人 (映画) - 松竹映画。四部作で1954年から翌年にかけて公開。
- 少年探偵団 (映画) - 1956年から1959年にかけて東映で9本が制作された。
- 『少年探偵団 第一部 妖怪博士』
- 『少年探偵団 第二部 二十面相の悪魔』
- 『少年探偵団 かぶと虫の妖奇』
- 『少年探偵団 鉄塔の怪人』
- 『少年探偵団 第一部 二十面相の復讐』
- 『少年探偵団 第二部 夜光の魔人』
- 『少年探偵団 透明怪人』
- 『少年探偵団 首なし男』
- 『少年探偵団 敵は原子潜航艇』
- 怪人二十面相 (1958年のテレビドラマ) - 1958年11月から1960年6月まで日本テレビ系列で放送[1]。全81話。
- 少年探偵団 (1960年のテレビドラマ) - 1960年11月3日から1963年9月26日までフジテレビ系列で放送[2]。放送時間は木曜日19:30 - 20:00[2]。全152話[2]。モノクロ作品[2]。
- わんぱく探偵団 - アニメ作品(虫プロダクション製作,モノクロ作品)。フジテレビ系列で1968年放送。全35話。
- 少年探偵団 (BD7) - 日本テレビ系列で1975年放送。全26話。
- 怪人二十面相 - フジテレビ系列で1977年放送。全26話。
- 怪人二十面相と少年探偵団 - 関西テレビ「阪急ドラマシリーズ」としてフジテレビ系列で1983年放送。全24話。
- 怪人二十面相と少年探偵団II - 1984年放送。全23話。
- 乱歩奇譚 Game of Laplace(アニメ作品) - フジテレビ・ノイタミナ枠で2015年放送。全11話。
- TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-(アニメ作品) - TOKYO MX・読売テレビほかで2016年10月より放送。
- 超・少年探偵団NEO(アニメ作品)- TOKYO MXにて2017年放送。
- 超・少年探偵団NEO -Beginning- - 2019年の実写映画。
また、小林少年や怪人二十面相は知名度の高さから他の乱歩作品のドラマにもたびたび登場している。
参考文献
[編集]- 明智探偵事務所を探偵する会編『少年探偵団の謎』 ISBN 4877190449
- 黄金髑髏の会『少年探偵団読本―乱歩と小林少年と怪人二十面相』 ISBN 4795808430
- 堀江あき子編『江戸川乱歩と少年探偵団』 ISBN 4309727220
- 『少年探偵王本格推理マガジン―特集・ぼくらの推理冒険物語』 ISBN 4334732569
- 串間努『少年探偵手帳―完全復刻版』 ISBN 4334728421
脚注
[編集]外部リンク
[編集]- 江戸川乱歩の少年探偵団 Mystery Collection内。ポプラ版全26作のストーリー解説。