猿酒
猿酒(さるざけ)は、木の洞や岩の窪みなど自然界で発見される、人の手が加わっていない酒のことである。
概説
[編集]猿が溜め込んだ果実が発酵したものと理解されて、猿酒やましら酒と呼ばれる[1]。 ただし「野生のサルが食料を貯蔵する習性はないとされている。したがって猿酒は存在しないと考えてよい」[2]との説もある。そもそも自然界には酵母が多く存在しているため、果実が自然に落下しただけでも発酵することはある[3]。
サルナシはサルがこの果実を猿酒にしたとされることから名づけられた[4]。
類似した伝説としてはミサゴが魚を巣に溜め込み、自然発酵させたといわれる「鶚鮨(みさごずし)」がある。
秋田県横手市の伝説には、サルを加工して作られたとされる猿酒というものが伝えられる[5]。
日本で飲まれる酒の多くが米や麦など穀物を原料とするものだが、樫や椎の実(団栗)のようなでんぷん質の多い果実を発酵させて得る酒を、他の酒と区別して猿酒といった。かなり甘みが強い素朴な風味の酒である。[要出典]
タンザニアにタケノコ(竹)の樹液が自然発酵して得られるウランジ(ulanji)と呼ばれる酒がある[7]。これは、竹藪に訪れる鳥が異常な行動をすることから発見されたとされる[8]。日本では、ウランジを竹酒と翻訳することもある[9][10]。
野生動物の飲酒
[編集]イギリスでは、発酵した果実をついばんだ野鳥が「酔っ払い飛行」をして衝突死するという事件があった[11]。
ギニアでのオックスフォード・ブルックス大学の研究によれば、現地住民がラフィアヤシの樹液を採取した穴に残った樹液が自然発酵したヤシ酒をチンパンジーがスポンジ状の木の葉を使って飲んでおり、親しい仲間同士での「飲み会」も行われるという。これはアルコールの摂取に関する、人類と類人猿の進化の系譜について貢献する内容である[12]。
上記の脚注記事では「発酵したリンゴを食べて酔うスウェーデンのヘラジカや、カリブ海の島セントキッツで観光客のカクテルを盗み飲むサル」についても言及されている。
また夏季をはじめとする温暖な気候下での樹液も温度や雨後によって水分が当たるなどの条件によっては酵母による発酵もしやすく、カブトムシ、クワガタ、カナブンなどの甲虫類やハチ類、蝶類やアリ類など樹液や糖分を好む昆虫の誘因にもなっている。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 『猿酒』 - コトバンク
- ^ 石毛直道 1998, p. 39.
- ^ 田邊幾之助 & 浜田史郎 1980, pp. 148–149.
- ^ 『サルナシ』 - コトバンク
- ^ 横手の民話伝説 著:糸井藤之助 発行所:出羽印刷株式会社 発行年月日:昭和四十七年九月一日 p.86‐87
- ^ 『角川俳句大歳時記』角川書店、2006年、500頁。ISBN 4-04-621031-1。
- ^ 伊谷樹一 2016.
- ^ swhallgren, Author (2018年7月22日). “Ulanzi: The Miracle Drink of Tanzania” (英語). Teaching High School Biology in Tanzania: A Peace Corps Volunteer Experience. 2023年11月27日閲覧。
- ^ “タンザニアにおけるタケ酒の商品開発と環境保全”. KAKEN. 2023年11月27日閲覧。
- ^ “タンザニアのソコイネ農業大学と大学間学術交流協定を締結しました。(2019年5月20日)”. 京都大学 (2019年6月12日). 2023年11月27日閲覧。
- ^ AFPBBNews. “英国で起きた鳥の集団死、「酔っ払い飛行」が原因か”. 2012年11月4日閲覧。
- ^ AFPBBNews. “ヤシ酒飲むチンパンジー、進化理論解明の手がかりに 研究”. 2015年6月11日閲覧。
参考文献
[編集]- 田邊幾之助、浜田史郎「猿酒について」『鹿児島大学農学部学術報告』第30巻、1980年。
- 石毛直道「酒造と飲酒の文化」『論集 酒と飲酒の文化』、平凡社、1998年、ISBN 4582829201。
- 伊谷樹一「タンザニアにおけるタケ酒の商品開発と環境保全」『科学研究費助成事業研究成果報告書』、独立行政法人日本学術振興会、2016年 。