理科離れ
理科離れ(りかばなれ)、理工系離れ(りこうけいばなれ)とは、理科に対する子供の興味・関心・学力の低下、国民全体の科学技術知識の低下、若者の進路選択時の理工系離れと理工系学生の学力低下、そしてその結果、次世代の研究者・技術者が育たないこと、などの問題の総称である[1]。研究者・技術者が育たなくなった結果、ものづくりやイノベーションの基盤が危うくなるといった問題が指摘されている[1]。
現状
[編集]現状では、理科離れの明確な定義は存在しない。それを指摘する根拠の一つとして、国際教育到達度評価学会が実施した「国際数学・理科教育調査」により、日本の生徒は成績が良いにもかかわらず、理科が楽しいと思う生徒が極めて少ないことが挙げられる[2]。科学技術・学術政策研究所の比較調査においても、日本国民の科学技術に対する関心は他の2カ国(アメリカ、イギリス)と比較して低い[3]。
大学受験者の総数に占める理工系志願者(とりわけ工学部)の比率や理科の履修率(とりわけ物理)の低下を指摘し、高校の理科離れとする文献がある[4]。また、文部科学省が発表している学校基本調査によると大学・大学院生の比率は、理学部が3.5%(平成9年度)→3.4%(平成19年度)→3.1%(平成29年度)、工学部が19.5%(平成9年度)→16.7%(平成19年度)→14.9%(平成29年度)まで低下している。また若年人口減少や都市部への人口流出の加速による大学全体の志願者数の減少を理科離れ・工学離れとされている可能性が指摘されている[5]。
日本においては、一般市民の科学リテラシーが先進諸国と比較しても極めて低いことが指摘されている[6]。
「平成22年度の小学校理科教育実態調査」によると、教職経験5年未満の教員で、理科の指導が「得意」「やや得意」と肯定的に回答しているのは49%にとどまっている[7]。
日本を含む先進国で「理科離れ」が浮き彫りになったのは、OECD(経済協力開発機構)の国際的な学習到達度調査が始まった2000年ごろ、子供の理系教科における学力や意識の国際比較が可能になったためである[要出典]。現在、理科離れの傾向に危機感を抱いた各国は、科学技術政策における重点課題に理数系教育の充実を挙げ、科学技術分野の人材育成・確保に力を入れている[8]。
原因
[編集]理科離れは、日本以外の先進国でも共通して見られる現象である。科学技術が発達した時代に生まれ育った現代の若者は、科学技術の成果に基づいて生産されたものを喜んで利用(消費)するが、科学技術への興味・関心はなく、科学技術の成果の生産者になろうとしない。これが理科離れを生むメカニズムであるとされる[1]。
改善策とそれに対する反論
[編集]改善策
[編集]2007年6月、日本学術会議は、小学校高学年から理科専科教員の導入や、博士課程修了者の積極的な教員への採用、小学校教員養成大学の入試で、理科系科目を必須化することなどを提言した[9]。同年12月、教育再生会議も、3次報告で小学校高学年での理科専門教員の配置を盛り込んだ[10]。
文部科学省は、2013年度予算で理科教育振興策を講じた[11]。特に「理科実験準備等支援事業」は、小・中学校などでの理科の観察・実験に使用する設備の準備・調整を行う助手を配置する、というもので、専科教員の不足を補う施策として注目される[12]。
自由民主党の教育再生本部は、文系の大学入試で理数科目を必修とすることや、文部科学省指定の「スーパーサイエンスハイスクール」の生徒を倍増すること、小学校の理科の授業を中学校や高等学校理科の教員免許を持つ教員に限定することを提案している[13]。
科学技術振興機構は、理数系教員(コア・サイエンス・ティーチャー)養成拠点構築プログラムによって、「理工学系学生」「現職教員」「教育学系学生」を地域の理数系教育の中核を担う教員となるよう養成している[14]。
反論
[編集]大槻義彦は自著で「科学館やイベントで一時的に科学に対する関心や面白さを喚起しても、持続できずに結果として関心が失せてしまう」と理科イベントや科学館などによる取り組みを否定している[15]。
脚注
[編集]- ^ a b c 増田貴司 (pdf), 文明社会の宿敵「理科離れ」, 東レ経営研究所 2013年3月28日閲覧。
- ^ 第3回国際数学・理科教育調査 第2段階調査(TIMSS-R), 国立教育政策研究所 2013年7月7日閲覧。 p.21 表2-1およびp.26 表2-5
- ^ 栗山喬行・関口洋美・大竹洋平・茶山秀一 (2011-03), 日・米・英における国民の科学技術に関する意識の比較分析, 科学技術・学術政策研究所 2013年3月28日閲覧。
- ^ 鶴岡森昭・永田敏夫 ・細川敏幸・小野寺彰, “大学・高校理科教育の危機 - 高校における理科離れの実状 -”, 高等教育ジャーナル-高等教育と生涯学習- (北海道大学) (1): 105-115
- ^ 野村総合研究所 (2010-03), 「工学離れ」の検証及び我が国の工学系教育を取り巻く現状と課題に関する調査研究 報告書, 文部科学省 2013年7月7日閲覧。
- ^ 平成16年版科学技術白書 第1部第3章第1節, 文部科学省 2013年7月7日閲覧。
- ^ 別紙1:「平成22年度小学校理科教育実態調査」の目的・概要と学校・教員・児童の経年比較の分析結果(抜粋), 科学技術振興機構, (2012-06-15) 2013年7月7日閲覧。図7 平成22年度小理調査における教職経験年数別にみた「理科全般の内容の指導」に対する意識
- ^ 先進国で浮上する理科離れ問題 科学教育プログラムの最前線|日本経済新聞 電子版特集, 日本経済新聞社 2013年3月28日閲覧。
- ^ “理科離れ、「博士」で解消? 日本学術会議が要望”. 明治図書 (2007年6月27日). 2013年3月30日閲覧。
- ^ “小学校高学年に理科専門教員配置を提言―教育再生会議”. 明治図書 (2007年12月19日). 2013年3月30日閲覧。
- ^ 資料6 平成25年度予算案等における主な理数関連施策の概要:文部科学省
- ^ 小学校理科を考える 「専科教員」の方策を探ろう教育新聞 2013年3月28日閲覧
- ^ “大学入試…文系でも理数必須、小学理科…専門教諭が授業 自民教育再生本部が提言”. 産経新聞 (2013年3月25日). 2013年3月29日閲覧。
- ^ “理数系教員養成拠点構築プログラム”. 科学技術振興機構. 2013年3月29日閲覧。
- ^ 大槻義彦『子供は理系にせよ!』日本放送出版協会〈NHK出版 生活人新書〉、2008年、159-167頁。ISBN 978-4-14-088251-1。[要ページ番号]
関連文献
[編集]- 毎日新聞社科学環境部 - 理系白書 この国を静かに支える人たち 2003:ISBN 4-06-211711-8
- サミュエル・コールマン著(岩館葉子訳)『検証 なぜ日本の科学者は報われないのか』文一総合出版
- 読売新聞社 - ヨミウリオンライン、2007年12月5日記事