テンション (音楽)
ウィキペディアから無料の百科事典
テンションとは、音楽において聴いている者に解決や安定を期待させるような音を指す。例えば不協和音などは協和音へと移行する可能性がある。テンションは反復や順次進行によっても作られる。
和声におけるテンション
[編集]テンションは、狭義の機能和声(長調と短調による音楽の和声)で使用される非和声音の一種である。テンション・ノート tension note とも呼ぶ。非和声音のうち、和音の響きに緊張感を与え、かつ和音進行を阻害しない音をテンション・ノートという。テンション・ノートは狭義の機能和声における和音の機能に基づく考え方だが、モーダル・ハーモニーでも同様に扱われる。
テンション・ノートの見つけ方
[編集]- テンション・ノートになる非和声音の条件
- 和音の構成音と短 9 度をなす音はテンション・ノートになり得ない(ドミナント・セブンス・コードの場合はこの限りでない)。
- 和音の進行を阻害する音はテンション・ノートになり得ない。
- テンション・ノートの見つけ方
- テンションを見つけたい和音にアベイラブル・ノート・スケールを設定する。
- 「テンション・ノートになる非和声音の条件」に従う非和声音を見つける。
長調のダイアトニック・コードのテンション
[編集]メジャー・キー(長調)のダイアトニック・コードのテンションおよびその見つけ方を示す。ダイアトニック・コードとはダイアトニック・スケール(全音階)にある音のみから構成される和音のことで、メジャー・キーであればメジャー・スケール(長音階)にある音から構成される和音のことである[1]。
ここではCメジャー・キー(ハ長調)を例に説明する[2]。譜例の下部に書かれた音階名は、それぞれの和音に適用されたアヴェイラブル・ノート・スケールを示している。
I諸和音のテンション
[編集]IM7のテンション
[編集]IM7(C: CM7)において、D音は9thのテンションである。F音は構成音Eと短9度をなし、かつ和音の機能を阻害するためアヴォイド・ノート(テンションになりえない非和声音)である。A音は13thのテンションである。[2]
F音が和音機能を阻害する説明:CM7のE音はF音への限定進行を期待させるため、F音があらかじめ響いているとそれを妨げてしまう。[2]
I6のテンション
[編集]I6(C: C6)はIM7に6thが付加されたものとも捉えうる[注釈 1]。ここで、第6音Aテンション13thではなくI6の構成音6thであるとみなす。D音とF音についてはIM7と同じに捉える。[2]
IIm7のテンション
[編集]IIm7(C: Dm7)において、E音は9thのテンションである。G音は11thのテンションである。B音は和音機能を阻害するためアヴォイド・ノートである。[2]
B音が和音機能を阻害する説明:Dm7の第7音Cは次にB音へ進行することを期待させるため、あらかじめB音が響いているとそれを妨げてしまう。[2]
IIIm7のテンション
[編集]IIIm7(C: Em7)において、F音は構成音Eと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。A音は11thのテンションである。C音は構成音Bと短9度をなし、またこれが響くとCM7(IM7)を感じさせ、IIIm7の色彩が失われるため、アヴォイド・ノートである。[2]
IV諸和音のテンション
[編集]IVM7のテンション
[編集]IVM7(C: FM7)において、G音は9thのテンション、B音は♯11thのテンション、D音は13thのテンションである。[2]
IV6のテンション
[編集]IV6(C: F6)は6thが付加されたものとも捉えうる[注釈 1]。ここで、第6音Dはテンション13thではなくIV6の構成音6thであるとみなす。G音とB音についてはIM7と同じに捉える。[2]
V7のテンション
[編集]V7(C: G7)において、A音は9thのテンションである。C音は和音の機能を阻害するためアヴォイド・ノートである。E音は13thのテンションである。[2]
C音が和音機能を阻害する説明:G7におけるB音は導音と呼ばれ、主音に進行(解決)することを期待させる。あらかじめC音が響いているとそれが阻害される。[2]
VIm7のテンション
[編集]VIm7(C: Am7)において、B音は9thのテンション、D音は11thのテンションである。F音は構成音Eと短9度をなし、またこれが響くとFM7(IVM7)を感じさせ、VIm7の色彩が失われるため、アヴォイド・ノートである。[2]
VIIm7(♭5)のテンション
[編集]VIIm7(♭5)(C: Bm7(♭5))において、C音は根音B音と短9度をなすためアヴォイド・ノートである。E音は11thのテンション、G音は♭13thのテンションである。[2]
短調のダイアトニック・コードのテンション
[編集]マイナー・キー(短調)のダイアトニック・コードのテンションおよびその見つけ方を示す。ダイアトニック・コードとはダイアトニック・スケール(全音階)にある音のみから構成される和音のことで、マイナー・キーであればマイナー・スケール(短音階)にある音のみから構成される和音のことである。[1]
短調の曲では3種の短音階、すなわちナチュラル・マイナー・スケール(自然短音階)、ハーモニック・マイナー・スケール(和声的短音階)、およびメロディック・マイナー・スケール(旋律的短音階)が使い分けられる。それぞれの短音階上にダイアトニック・コードが存在するので、長調よりもダイアトニック・コードの数は多くなる
ここではCマイナー・キー(ハ短調)を例に説明する[2]。譜例の下部に書かれた音階名は、それぞれの和音に適用されたアヴェイラブル・ノート・スケールを示している。
Im諸和音のテンション
[編集]これら3種の短音階の音すべてからなる音階を、トニック・マイナー・スケールという。
Im諸和音のテンションは、トニック・マイナー・スケール[注釈 2]を設定してまとめて捉える。
D音は9thのテンションである。F音は11thのテンションである。A♭音は構成音Gと短9度をなし、またこれが響くとA♭M7(♭VIM7)を感じさせ、Im諸和音の色彩が失われるため、アヴォイド・ノートである。[2]
IIm7(♭5)のテンション
[編集]自然短音階上にできるダイアトニック・コードである。
E♭音は根音Dと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。G音は11thのテンション、B♭音は♭13thのテンションである。[2]
IIm7のテンション
[編集]旋律的短音階にできるダイアトニック・コードである。
E♭音は根音Dと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。G音は11thのテンション、B音は和音の機能を阻害するためアヴォイド・ノートである[2]。
B音が和音機能を阻害する説明:Dm7の第7音Cは次にB音へ進行することを期待させるため、あらかじめB音が響いているとそれを妨げてしまう[2]。
♭III諸和音のテンション
[編集]自然短音階上にできるダイアトニック・コードである。
♭IIIM7のテンション
[編集]F音は9thのテンション。A♭音は第3音Gと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。C音は♭III6(C: E♭6)のコード・トーンと捉える。[2]
♭III6のテンション
[編集]♭III6(C: E♭6)は譜例のように、♭IIIM7に6thが付加されたものとも捉えうる[注釈 1]。ここで、第6音Cはテンション13thではなく♭III6の構成音6thであるとみなす。F音とA♭音については♭IIIM7と同じに捉える。[2]
♭IIIaugM7のテンション
[編集]和声的短音階上にできるダイアトニック・コードである。
この和音はほとんど用いられない[4]ため割愛する。
IVm7およびIVm6のテンション
[編集]自然短音階にできるダイアトニック・コードである。
G音は9thのテンション、B♭音は11thのテンションである。D音はIVm6の構成音である第6音(6th)として捉える。[2]
IV7のテンション
[編集]旋律的短音階にできるダイアトニック・コードである。
G音は9thのテンション、B音は♯11thのテンション、D音は13thのテンションである[2]。
Vm7のテンション
[編集]自然短音階にできるダイアトニック・コードである。
A♭音は、根音Gと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。C音は11thのテンションである。E♭音は第5音Dと短9度をなし、また♭IIIM7(E♭M7)を感じさせ、Vm7の色彩を損ねるためアヴォイド・ノートである。[2]
V7のテンション
[編集]和声的短音階にできるダイアトニック・コードである。
ドミナント・セブンス・コード(属七和音)[注釈 3]においては、テンションが構成音と短9度をなしていてもテンションとなり得る。[2]
A♭音は構成音Gと短9度をなすが、♭9thのテンションである。C音は、第3音B(導音と呼ばれる)の進行先であるので、これが同時に響くと和音の機能を阻害するためアヴォイド・ノートである。E♭は構成音Dと短9度をなすが、♭13thのテンションである。[2]
♭VIM7のテンション
[編集]自然短音階にできるダイアトニック・コードである。
B♭音は9thのテンションである。D音は♯11thのテンションである。F音は♭VI6(A♭6)の構成音と捉える[注釈 1]。[2]
VIm7(♭5)のテンション
[編集]旋律的短音階にできるダイアトニック・コードである。
B音は9thのテンションである。D音は11thのテンションである。F音は♭13thのテンションである。[2]
♭VII7のテンション
[編集]自然短音階にできるダイアトニック・コードである。
C音は9thのテンションである。E♭音は第3音Dと短9度をなすためアヴォイド・ノートである。G音は13thのテンションである。[2]
VIIdim7のテンション
[編集]和声的短音階にできるダイアトニック・コードである。
主として短調のV7の代理和音として用いられるため、#V7のテンションを参照のこと[2]。
VIIm7(♭5)のテンション
[編集]旋律的短音階にできるダイアトニック・コードである。
この和音は短調ではほとんど用いられない[2]ため、説明は省く。
関連項目
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b c d 任意の音度Xにおいて、XM7とX6は和声的に常に交換可能である[3]。しかし、実際の音楽でどうすべきかは音楽的判断による。
- ^ 少なくとも本稿ではテンションを説明するための音階であり、3種の短音階を混ぜたこのような音階で実際に演奏すべきとか、一般的に使用されているかどうかを示すものではない。ただしこの音階そのものはウィキペディアの創作ではなく(これはウィキペディアで禁じられている)出典の文献によるものであり、広く知られているものでもある。
- ^ ここでいうドミナント・セブンス・コード(属七和音)とは、長音階や和声的短音階の属音上にできるドミナント機能を持つセブンス・コード(7の和音)に限らず、これと同じ和音形体のすべての和音を指す。
出典
[編集]- ^ a b 小山大宣「第5章 調関係と(Key Relationship)転調(Modulation)」『ジャズセオリーワークショップ』 1巻、武蔵野音楽学院出版部〈JAZZ THEORY WORKSHOP〉(原著1980年10月)、92-105頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad 小山大宣「第6章 Available Note Scale と Tension」『ジャズセオリーワークショップ』 1巻、武蔵野音楽学院出版部〈JAZZ THEORY WORKSHOP〉(原著1980年10月)、92-105頁。
- ^ 小山大宣「第6章 和音(Chord)」『ジャズセオリーワークショップ』 1巻、武蔵野音楽学院出版部〈JAZZ THEORY WORKSHOP〉(原著1980年10月)。
- ^ 小山大宣「第3章 調性(Tonality)と和音(Chord)の機能(function)」『ジャズセオリーワークショップ』 1巻、武蔵野音楽学院出版部〈JAZZ THEORY WORKSHOP〉(原著1980年10月)。