高山本線

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高山本線
宮川を渡る高山本線のキハ25形気動車 (2022年5月 杉原駅 - 猪谷駅間)
宮川を渡る高山本線のキハ25形気動車
(2022年5月 杉原駅 - 猪谷駅間)
基本情報
日本の旗 日本
所在地 岐阜県富山県
種類 普通鉄道在来線地方交通線
起点 岐阜駅
終点 富山駅
駅数 45駅
電報略号 タヤホセ[1]
路線記号 CG(岐阜駅 - 猪谷駅間)
開業 1920年11月1日 (103年前) (1920-11-01)(高山線)
1927年9月1日 (96年前) (1927-09-01)(飛越線)
全通 1934年10月25日 (89年前) (1934-10-25)
所有者 東海旅客鉄道(岐阜駅 - 猪谷駅間)
西日本旅客鉄道(猪谷駅 - 富山駅間)
運営者 上記各第1種鉄道事業者および
日本貨物鉄道(猪谷駅 - 富山駅間 第2種鉄道事業者)
使用車両 使用車両の節を参照
路線諸元
路線距離 225.8 km
軌間 1,067 mm狭軌
線路数 全線単線
電化方式 全線非電化
閉塞方式 単線自動閉塞式、自動閉塞式(特殊)
最高速度 110 km/h
(普通列車95 km/h)
路線図
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高山本線(たかやまほんせん)は、岐阜県岐阜市岐阜駅から高山駅猪谷駅を経て富山県富山市富山駅に至る鉄道路線地方交通線)である。岐阜駅 - 猪谷駅(富山市)間は東海旅客鉄道(JR東海)、猪谷駅 - 富山駅間は西日本旅客鉄道(JR西日本)の管轄となっている。高山線とも呼ばれる。

概要[編集]

飛水峡より (上麻生駅-白川口駅間)
下原八幡神社境内 (飛騨金山駅-焼石駅間)

飛騨高地の山間を縫って岐阜市と富山市を結んでいるが、山間部あるいは盆地である岐阜県飛騨地方へのアクセス路線でもあり、下呂温泉高山市飛騨市への観光路線としての性格を持つ。岐阜駅 - 猪谷駅(構内を除く)間はJR東海の東海鉄道事業本部が、猪谷駅 - 富山駅間はJR西日本金沢支社北陸広域鉄道部がそれぞれ管轄している。本州の「本線」では唯一、地方交通線に分類されている。

JRの前身である日本国有鉄道(国鉄)時代の1960年代に観光ブームにのって乗客が激増し[注 1]貨物輸送も沿線の開発に伴って増加したため、1960年代後半に蒸気機関車牽引列車の廃止とともに列車行き違い設備の増設[注 2]列車集中制御装置 (CTC) の導入[注 3]といった輸送近代化が行われ、列車の増発が可能になった[2]国鉄分割民営化後は岐阜駅 - 高山駅間において行き違い可能駅で両開き分岐器(Y字ポイント)を110 km/hでの高速通過が可能な型に取り換えるなど、優等列車の高速運転が行えるように改良が行われている。

名古屋駅など東海道本線木曽川駅以南の各駅と、富山駅など北陸本線(現・あいの風とやま鉄道)福岡駅以東の各駅との距離は米原駅経由よりも高山本線経由の方が短い[注 4]。しかし東海道新幹線が米原駅を経由して開業し、あわせて北陸トンネルの開通をはじめ北陸本線の電化・複線化・高速化が行われ電車特急が頻発されるようになったため、所要時間や利用機会(列車本数)は北陸本線経由が優位である。ただし、高山本線の特急「ひだ」がキハ85系に置き換えられスピードアップを果たしてからは、名古屋駅 - 富山駅間の所要時間では米原経由の「しらさぎ」とほぼ同等にまでなった。なお2015年(平成27年)3月14日北陸新幹線長野駅 - 金沢駅間開業以降は「しらさぎ」は金沢止まりとなり、富山へ行くには北陸新幹線あるいはIRいしかわ鉄道線・あいの風とやま鉄道線の列車に乗り換えなければならない。北陸本線の電化区間が富山駅まで達する前の1963年(昭和38年)までは、大阪方面からも距離は長くなるが岐阜駅で列車を乗り継ぎ高山本線を経由する方が富山駅までの所要時間が短いことがあった。

岐阜駅 - 鵜沼駅間では名古屋鉄道(名鉄)各務原線と並行している。同区間の距離における地方交通線の運賃表は200円区間を除き幹線と同一料率であり、名鉄より安い運賃になっている(2024年現在)。また岐阜駅 - 美濃太田駅間はIC乗車カードTOICA」の利用エリアに含まれている。

2015年3月14日の北陸新幹線長野駅 - 金沢駅間開業により、並行在来線区間にあたる北陸本線金沢駅 - 直江津駅間はIRいしかわ鉄道あいの風とやま鉄道えちごトキめき鉄道第三セクター鉄道3社に経営分離されたが、本路線の猪谷駅 - 富山駅間は引続きJR西日本が運営しており、大糸線のJR西日本区間(南小谷駅 - 糸魚川駅間)とともに、他のJR西日本の在来線と接続せず、新幹線とJR他社在来線のみに接続する区間となっている。新幹線の開業後、津幡駅 - 富山駅間の在来線には特急列車が設定されておらず、名古屋・岐阜と富山とを直接結ぶ列車は本路線の「ひだ」のみとなっている。

また、北陸新幹線延伸開業後は、東京 - 高山間の所要時間は「東京→(東海道新幹線)→名古屋→(ひだ)→高山」の経路と「東京→(北陸新幹線)→富山→(ひだ)→高山」の経路でほぼ同等となった[注 5]。一方、神奈川県内からは依然として名古屋経由の方が所要時間・運賃料金ともに有利である。

山間部が多いため、台風大雨の影響を受けやすく土砂崩れや橋脚が流されるなどして長期間の運休も多発している。

電化計画と頓挫[編集]

かつては電化計画もあった。高山本線は中京北陸を結ぶ動脈であることから、観光ルートとして重視していた富山・石川・岐阜・愛知の4県は1964年(昭和39年)に「高山本線強化促進同盟会」を結成し、高山線の複線化・電化を要望し続けてきた[5]。1980年(昭和55年)5月6日の国鉄理事会で全線225.8 kmの電化計画が決定され、翌7日、運輸大臣に認可が申請された[6]。同年5月27日、高山駅構内で起工式が行われた[6]

工事計画では、西富山駅付近など沿線に18か所の変電所を設置し、全線を直流1500 Vで電化する計画で、架線設置だけでなくトンネルや各駅ホームの改修、線路の強化などの付帯工事も行われる計画だった[5]。総工事費は約200億円と試算され、全額が利用債で賄われる計画で、1985年度(昭和60年度)の完成、電化開業を目指していた[5]

電化が完成した暁には山間地で機動力を発揮する振り子式電車が導入され、特急による岐阜 - 富山間の所要時間は4時間28分(1980年時点)から約4時間に短縮されるものと想定されていた[5]。また高速化や利便性・快適性の向上だけでなく、東海道線・中央西線などの電化路線との車両の相互利用が可能になることや、近代化による誘客効果が高まること、北陸 - 中京間の交流強化も期待されていた[5]

車両は当時中央西線の特急「しなの」に使用されていた車両と同じ381系直流特急用振り子式車両の導入、および急行以下用は457系交直流急行形電車の再生産が計画されていたが、需要減や国鉄の財政逼迫から1985年ごろまでに電化計画そのものを取りやめ、駅構内などの線路改良と高性能気動車の導入に転換した。なお、沿線に420本の架線柱が設置されていたが、通信専用線電柱に転用された。その結果、特急列車に関してはJR移行後の新型車両キハ85系の導入によって従来の特急形電車と同等に近い性能となり、高山以南の所要時間は電化された場合と遜色がなく、振り子式車両特有の揺れも無いのでキハ85系導入当初は好評であった。しかし、2008年(平成20年)には東海北陸自動車道が全線開通し、さらには2019年(令和元年)に東海北陸道が愛知県一宮市一宮ジャンクション (JCT) から高山市街地近くの飛騨清見インターチェンジ (IC) まで完全4車線化されたことにより、高速バス「ひだ高山号」との競争が激化している。

路線データ[編集]

  • 管轄・路線距離(営業キロ):全長225.8 km
  • 軌間:1067 mm
  • 駅数:45(起終点駅含む)
    • JR東海:35(猪谷駅を除く)
    • JR西日本:10
      • 高山本線所属駅に限定した場合、東海道本線の岐阜駅が除外され[7]44駅(JR東海は34駅、JR西日本は10駅)となる。終点の富山駅はかつて北陸本線所属だったが、同線があいの風とやま鉄道に移管されたためJR線としての所属線は本路線になっている。
  • 複線区間:なし(全線単線
  • 電化区間:なし(全線非電化
  • 閉塞方式
    • 岐阜駅 - 猪谷駅間 …単線自動閉塞式
    • 猪谷駅 - 富山駅間 …自動閉塞式(特殊)
  • 保安装置:
    • ATS-PT(岐阜駅 - 猪谷駅間)
    • ATS-SW(猪谷駅 - 富山駅間)
  • 最高速度:
    • 岐阜駅 - 下麻生駅間 110 km/h[8]
    • 下麻生駅 - 高山駅間 100 km/h
    • 高山駅 - 富山駅間 85 km/h[9]
  • 運転指令所
    • 岐阜駅 - 猪谷駅間 東海総合指令所
    • 猪谷駅 - 富山駅間 金沢総合指令所(北陸広域鉄道部富山CTC)
  • IC乗車カード対応区間:
    • TOICAエリア(JR東海):岐阜駅 - 美濃太田駅間
    • ICOCAエリア(JR西日本):なし

沿線概況[編集]

美濃太田駅以西は木曽川、久々野駅以南は支流の飛騨川(飛騨金山駅以北の飛騨地方での別称は益田川)、高山盆地南端の飛騨一ノ宮駅以北は神通川の飛騨地方の呼称である宮川、猪谷駅以北は神通川といった川にほぼ沿って路線が通っており、峡谷部を中心に多数の鉄橋トンネルがある。久々野駅 - 飛騨一ノ宮駅間の宮峠宮トンネル)が分水嶺となっている。沿線には日本ライン飛水峡中山七里など名所も多い。なお、これらは飛騨木曽川国定公園に指定されている。

美濃太田駅以西は国道21号、それより高山駅・富山駅方面はおおむね国道41号のルートに沿っているが、飛騨細江駅(飛騨市) - 猪谷駅(富山市)間では国道41号が飛騨市古川町と同市神岡町の境の数河峠を越える越中東街道[注 6]沿いを通っているのに対し、高山本線は急勾配を避けるために宮川の流れに沿った越中西街道国道471号国道360号)沿いを通っている。

楡原駅 - 笹津駅間には、線路に面して白柵に囲われたスギがあるが、これは1947年昭和天皇が戦後巡幸した際に植えたタテヤマスギである。後年、1958年10月に開催された富山国体1969年5月に開催された