ファシスト (侮蔑語)

20世紀の前半にファシズムがヨーロッパに出現してから、言葉としてのファシズムは人々の間で頻繁に政治運動や政府、公共機関等に対する嫌みとして幅広い意味で用いられるようになっていった。しかし、それらは政治学においての主流な使われ方とは異なるものが多かった。殆どの場合、権威主義者の代替語として感情的に使用されていた。

ソビエト連邦において

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ボリシェヴィキと後のソビエト連邦は、"ファシスト"を早期のドイツやイタリア発祥のファシスト運動に伴う争いにおいて、報道などで競争相手(白軍など)を表す際などに、幅広く否定的に用いていた。社会主義者の内部でも社会民主主義者は社会ファシストと呼ばれていた。1939年まではナチスも同様に"ファシスト"と呼んでいたが、独ソ不可侵条約が締結され、独ソ通商協定英語版等もありプロパガンダ等でも肯定的に使用されるようになっていった。

1944年に、イギリスの小説家のジョージ・オーウェルは、「(ヨーロッパの報道で広範に用いられている)言葉としての"ファシズム"はほぼ完璧に無意味だ」と批判し、本来の政治団体などからかけ離れているとした[1]

1941年以降、ソビエト連邦においての"ファシスト"の言葉は事実上全ての反ソビエト運動や意見に用いられるようになっていった。マルクス・レーニン主義による主張では、ファシズムは"ブルジョワジーの危機の最終段階"であり、"資本主義固有の矛盾"から"ファシズムは避難しようとしている"とされた。この結果、ほぼすべての西側資本主義国家は"ファシスト"で、ナチス・ドイツはただ"最も行動した"国というだけであった[2][3]。その結果、1941年以降"ファシスト"の言葉は事実上全ての反ソビエト運動の説明として使われるようになった。例えば、カティンの森事件の調査は"ファシストによる名誉毀損"であり[4]ワルシャワ蜂起は"組織化されたファシストらによる違法行為"であったとされた[5]。また、共産主義者のスルジュバ・ベスピチェインスファポーランド語版トロツキズムチトー主義、また帝国主義を"ファシズムの変異体"とした[6]

西側諸国において

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1980年代においては、この言葉は左派評論家によるロナルド・レーガンの政治的やり口の表現にも使われた。後に、2000年代のジョージ・W・ブッシュ、2010年代後半のドナルド・トランプに対しても同様の表現がその時々の評論家によってなされた。1970年に出版されたBeyond Mare Obedienceによると、神学者のドロテー・ゼレキリスト教根本主義者の説明のためにキリストファシズム英語版という言葉を作ったという記述もある。[7][8][9]

2004年に、サマンサ・パワー(ハーバード大学ケネディスクールで教育を受けている)が60年以上前のジョージ・オーウェルの言葉を反映し、"ファシズム - 共産主義ではなく、社会主義でもなく、資本主義でもなく、また保守主義でもない - それは政敵などを表現するときにレッテル貼りとして使われる言葉"とした。[10]

2014年にウクライナ東部紛争が勃発すると、ロシア国粋主義英語版者やロシアのメディアは"ファシスト"をレトリックとして頻繁に使用し、ウクライナ政府ユーロマイダンを"ファシストだ"、"ナチだ"などいう風に表現した[11][12]。それと同時にそれらの動きを"ユダヤ人の影響"、"ゲイのプロパガンダ"等と非難した[13]

複数の著者が著書においてトランプ大統領を"ファシスト"としたことへの反応として、ボックスメディア英語版の複数人のファシズムを学んだ政治家ら("The Nature of Fascism"の著者のロジャー・グリフィン英語版を含む)の記事では、彼の複数の政治的視点はファシズムと全く違い、反対である点すらあるとし、それには暴力とその固有の良さと民主的なシステムに対しての拒絶や反対な点に関する視点も含むとした。[14]

一般的な使用法

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鉤十字はネオナチの団体が用いるほか、侮蔑としての「ファシスト」や「ナチス」を表現する際にも用いられる

第二次世界大戦後、"ファシスト"を受け入れる団体は無くなり、ソビエト連邦と西側諸国両方のプロパガンダにおいて、同盟とは反対の思想であるが故にファシズムはばかげた思想だとされた。次いで、"ファシズム"の言葉は大した意味を持たなくなった。経済的物質主義者を含むトロツキストのようなマルクス主義者は歴史を調べ、ファシズムが経済の厳密な一点から発生しているとした。これはファシズムが国家資本主義反動の極地であることを示している。ファシストらはコーポラティズムを採用し、それが階級協調に発展し、それは個人資産を守り、あらゆる形式の社会主義を根絶するという考えであったとした。

不正確さと実際のファシズムの行き過ぎの過小評価の2点が批判されている間、"ファシスト"の言葉は権威主義や、明確に分解できる基礎を持った不寛容な権力者の別名としてとして使われていた。何かが提案されてそれを抑圧する行動はファシストのイデオロギーと似たものがあり、特に権威主義に基づく利益は法に触れているものがあるように見えることもあった。

彼らの過度に大規模な戦略は、ええと30、20から30人の元帥が毎日法廷にいて、ええと、軍隊のキャンプのような雰囲気があって、あー、その法律はもうあって……それとああ、私たちはその法律が憲法に基づく権利や社会関係、さらには単純な政治システムにまで違反しているとリチャード・D・メイヤー英語版市長がデモ行進や集合のために公園に集まる権利を与えなかったことを訴えたのと同じように訴えて……。私はこの点において政府がファシズムへの道に向かおうと着手しようとしているという点で同じだと思っています。
--アビー・ホフマン、1969年11月のバイキング・ユース・パワー・アワー英語版でのインタビューにおいて [15]

複数のマルクス主義者の理論では"ファシズム"の言葉を本来の範囲で使っていた。例えば、ニコス・プーランツァスの理論では、国家独占資本主義により軍産複合体ができ、それによって1960年代のアメリカはファシスト的な社会構造であったというものだった。これにより、毛沢東主義者やゲバラ主義英語版者の間では冷戦下の権威主義はファシストが支えていたという意見もある。

複数のマルクス主義者のグループ、例えば第四インターナショナル (再統一)英語版のインディアングループや、イランやイラクにおけるハクマット主義英語版者等は"ファシスト"の細分化された定義はヒンドゥトヴァイラン革命イラク反乱 (2003-2011)英語版のイスラム派に適用されるべきとしている。しかし、これは伝統的なファシズムの範囲に入らないと主張する学者との論争もある。[16][17][18][19]

脚注

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  1. ^ "It will be seen that, as used, the word 'Fascism' is almost entirely meaningless. In conversation, of course, it is used even more wildly than in print. I have heard it applied to farmers, shopkeepers, Social Credit, corporal punishment, fox-hunting, bull-fighting, the 1922 Committee, the 1941 Committee, Kipling, Gandhi, Chiang Kai-Shek, homosexuality, Priestley's broadcasts, Youth Hostels, astrology, women, dogs and I do not know what else.", George Orwell, What is Fascism?, 1944
  2. ^ Наступление фашизма и задачи Коммунистического Интернационала в борьбе за единство рабочего класса против фашизма”. 7th Comintern Congress (20 August 1935). 2015年8月31日閲覧。
  3. ^ Фашизм – наиболее мрачное порождение империализма”. История второй мировой войны 1939–1945 гг. (1973年). 2015年8月31日閲覧。
  4. ^ Robert Stiller, "Semantyka zbrodni"
  5. ^ 1944 – Powstanie Warszawskie”. e-Warszawa.com. 2015年8月31日閲覧。
  6. ^ Dane osoby z katalogu funkcjonariuszy aparatu bezpieczeństwa – Franciszek Przeździał”. Instytut Pamięci Narodowej (1951年). 2015年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月31日閲覧。
  7. ^ Dorothee Sölle (1970). Beyond Mere Obedience: Reflections on a Christian Ethic for the Future. Minneapolis: Augsburg Publishing House. https://books.google.com/?id=zbeCGwAACAAJ&dq 
  8. ^ “Confessing Christ in a Post-Christendom Context.”. The Ecumenical Review. (July 1, 2000). オリジナルの2011年8月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110811202628/http://www.highbeam.com/doc/1G1-66279081.html 2007年12月23日閲覧. "... shall we say this, represent this, live this, without seeming to endorse the kind of christomonism (Dorothee Solle called it "Christofascism"! ..." 
  9. ^ Pinnock, Sarah K. (2003). The Theology of Dorothee Soelle. Trinity Press International. ISBN 1-56338-404-3. https://books.google.com/?id=56_VviorwEsC&dq. "... of establishing a dubious moral superiority to justify organized violence on a massive scale, a perversion of Christianity she called Christofascism. ..." 
  10. ^ Power, Samantha. "The Original Axis of Evil", The New York Times, 2004-05-02.
  11. ^ Simon Shuster (2014年10月29日). “Russians Re-write History to Slur Ukraine Over War”. Time. 2014年10月30日閲覧。
  12. ^ Snyder, Timothy (20 March 2014). “Fascism, Russia, and Ukraine”. The New York Review of Books. 22 July 2014閲覧。
  13. ^ Wagstyl, Stefan. “Fascism: a useful insult”. Financial Times. 22 July 2014閲覧。
  14. ^ Matthews, Dylan (May 19, 2016). “I asked 5 fascism experts whether Donald Trump is a fascist. Here's what they said.”. Vox. Vox Media. August 4, 2016閲覧。
  15. ^ "An Interview About the Trial with Abbie Hoffman"
  16. ^ Chatterjee, Surojit (December 19, 2003). “RSS neither Nationalist nor Fascist, Indian Christian priest's research concludes”. The Christian Post. オリジナルのNovember 13, 2006時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20061113192335/http://world.christianpost.com/article/20031219/1016.htm 
  17. ^ P. Venugopal (August 23, 1998). “RSS neither nationalist nor fascist, says Christian priest after research”. The Indian Express. オリジナルの2004年7月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20040722005929/http://www.expressindia.com/ie/daily/19980823/23550294.html 
  18. ^ Walter K. Andersen, Shridhar D. Damle (May 1989). “The Brotherhood in Saffron: The Rashtriya Swayamsevak Sangh and Hindu Revivalism”. Annals of the American Academy of Political and Social Science 503: 156–57. doi:10.1177/0002716289503001021. 
  19. ^ Ethnic and Racial Studies, Volume 23, Number 3, May 2000, pp. 407–441 ISSN 0141-9870 print/ISSN 1466-4356 online.

関連項目

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外部リンク

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