酸化プロピレン

酸化プロピレン
{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 75-56-9 チェック
PubChem 6378
ChemSpider 6138
UNII Y4Y7NYD4BK チェック
EC番号 200-879-2
KEGG C15508 ×
ChEBI
特性
化学式 C3H6O
モル質量 58.08 g mol−1
外観 無色の液体
匂い ベンゼンのような[1]
密度 0.859 g/cm3[2]
融点

−111.9°C [2]

沸点

35°C [2]

への溶解度 41% (20 °C)[1]
蒸気圧 445 mmHg (20 °C)[1]
磁化率 −4.25×10−5 cm3/mol[3]
屈折率 (nD) 1.3660[2]
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −123.0 kJ·mol−1[4]
標準モルエントロピー So 196.5 J·(K·mol)−1
標準定圧モル比熱, Cpo 120.4 J·(K·mol)−1
危険性
GHSピクトグラム 可燃性経口・吸飲による有害性急性毒性(低毒性)
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
主な危険性 高い可燃性[6][7]
NFPA 704
4
3
2
引火点 −37 °C (−35 °F; 236 K)
発火点 747 °C (1,377 °F; 1,020 K)
爆発限界 2.3–36%[1]
許容曝露限界 TWA 100 ppm (240 mg/m3)[1]
最低致死濃度 LCLo 2005 ppm (イヌ, 4時間)
4000 ppm (モルモット, 4時間)[5]
半数致死量 LD50 660 mg/kg (モルモット, 経口)
380 mg/kg (ラット, 経口)
440 mg/kg (マウス, 経口)
1140 mg/kg (ラット, 経口)
690 mg/kg (モルモット, 経口)[5]
半数致死濃度 LC50 1740 ppm (マウス, 4時間)
4000 ppm (ラット, 4時間)[5]
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

酸化プロピレン(さんかプロピレン)は、分子式 C3H6O で表される有機化合物で、エポキシドのひとつ。無色で揮発性の高い液体で、ポリウレタンをはじめとする各種化成品の原料として重要であり、石油化学工業的に大量に生産されている。別名プロピレンオキシド1,2-エポキシプロパンメチルオキシランなど。構造異性体オキセタン(1,3-プロピレンオキシド)と区別するため1,2-プロピレンオキシドと呼ばれることもある。

性質

[編集]

常温では無色でエーテル臭を持つ可燃性液体。ジエチルエーテル、エタノールなどと任意に混じり合い、水にもよく溶ける。

毒性麻酔作用があり、皮膚に接触すると薬傷を生じる。

沸点(34℃)、引火点(−37℃)ともに低いため、非常に引火しやすい。また、アルカリ存在下では重合反応が進行し発熱・爆発するおそれがある[8]

光学異性体が存在するが、通常ラセミ体で利用される。

生産

[編集]
クロロヒドリンにアルカリを作用させると形式的に塩化水素が脱離してエポキシドを形成する。
ハルコン法の例。副生成物のアルコールを脱水すればスチレンが得られる。

酸化プロピレンは各種化成品の出発原料として重要で、1990年の年間世界生産量は350万トン[9]、2008年度日本国内生産量は 489,295t、消費量は 23,525t である[10]プロピレンを原料として合成され、生産方法としてはクロロヒドリン法ハルコン法の2つが工業化されている[11][12]

クロルヒドリン法は、プロピレンに塩素ガスとを反応させてクロロヒドリンとし、水酸化ナトリウム水酸化カリウム水酸化カルシウムなどの塩基によって塩化水素脱離させて合成する方法である。アルカリと塩素の中和反応の副生成物として大量の塩化ナトリウムまたは塩化カリウムが生成し、処理が必要となる。

ハルコン法は、プロピレンをイソブテンエチルベンゼンなどの過酸化物を用い、触媒存在下で酸化する方法である。副生成物としてt-ブチルアルコールまたはスチレンなどが併産するが、クメンヒドロペルオキシドクメンの過酸化物)を用いることで併産物の生じないプロセスも開発されている[13]

近年になり、プロピレンをtert-ブチルヒドロペルオキシドで酸化する方法が工業化された。さらに、過酸化水素を酸化剤とする方法がプラント化まで進んでいる[14]。後者の反応の副成物は水のみであるため、工業設備を簡略化できる有利さが期待されている。

この他、適切な触媒を用いることでプロピレンを酸素によって直接酸化する方法も開発されつつある(例えば、公開特許公報[7][8] など)。

用途

[編集]

酸化プロピレンをそのまま使用することは少なく、生産量のほぼ全てが他の化成品の原料として使用される。その他は、特殊用途の溶媒燃料として用いられている。

化成品原料

[編集]

工業的に製造された酸化プロピレンの大半はポリウレタンポリエステルの製造に用いられる。

加水分解によって得られるプロピレングリコールは、ヒトに対する毒性が低く、適度な親水性を持つことから、食料品や化粧品などの保水剤界面活性剤の原料として広く利用されている。開環重合してできるポリプロピレングリコール(ポリプロピレンオキサイド)も同様に利用される。

その他、メタノールとの反応によって得られる1-メトキシ-2-プロパノールや、加アンモニア分解によって得られるプロパノールアミンなど、多くの化合物の合成原料として利用されている。

燃料

[編集]

酸化プロピレンはかつて自動車レースの燃料として使われていたことがあるが、安全性の問題からすでに禁止されている。現在では模型用エンジン燃料に添加物として加えられることがあるほか、燃料気化爆弾に用いられることもある。

燻蒸剤

[編集]

アメリカではアーモンドやピスタチオに混入するサルモネラを殺菌するための燻蒸剤として利用されている[15]。なお、日本では農薬としての登録は失効している。

電子顕微鏡

[編集]

生物試料を電子顕微鏡で観察する際に、脱水の過程で利用したエタノールを除き樹脂と交換するために用いられている[16]

安全性

[編集]

ヒトに対する発がん性の懸念があり、国際がん研究機関はグループ2Bに分類している。

労働安全衛生法特定第2類物質に指定されている。

法規制

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0538
  2. ^ a b c d Haynes 2011, p. 3.384
  3. ^ Haynes 2011, p. 3.577
  4. ^ Haynes 2011, p. 5.24
  5. ^ a b c Propylene oxide”. 生活や健康に直接的な危険性がある. アメリカ国立労働安全衛生研究所英語版(NIOSH). 2024年11月12日閲覧。
  6. ^ "NFPA DIAMOND". www.otrain.com.
  7. ^ GOV, NOAA Office of Response and Restoration, US. "PROPYLENE OXIDE | CAMEO Chemicals | NOAA". cameochemicals.noaa.gov.
  8. ^ "酸化プロピレン製造装置の中間タンクにおいて混触危険物質を共存によるタンクの爆発" JST失敗知識データベース [1]
  9. ^ 社団法人 日本化学物質安全・情報センター [2]
  10. ^ 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計平成20年年計による
  11. ^ 科学技術動向2001年12月号 文部科学省科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター [3]
  12. ^ "プロピレンを基礎原料とする有機工業薬品の製造", 福岡大学講義資料 [4]
  13. ^ 辻 純平, 山本 純, 石野 勝, 奥 憲章, "プロピレンオキサイド新製法の開発", 住友化学, vol.2006-I, 4-10 (2006). [5]
  14. ^ "Propylene oxide routes take off" Chemical & Engineering News, 2006, Oct 9, 22-23.
  15. ^ See The FDA Guidance Document For More Info
  16. ^ 日立ハイテク "構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術" [6]

参考文献

[編集]


関連項目

[編集]

外部サイト

[編集]