化学反応

化学反応(かがくはんのう、英語: chemical reaction)は、化学変化の事、もしくは化学変化が起こる過程の事をいう[1]化学変化とは1つ以上の化学物質が別の1つ以上の化学物質へと変化する事で[1][2]、反応前化学物質を構成する原子同士が結合されたり、逆に結合が切断されたり、あるいは化学物質の分子から電子が放出されたり、逆に電子を取り込んだりする。広義には溶質溶媒溶解する変化[1]や原子のある同位体が別の同位体に変わる変化[1]液体固体に変わる変化MF2(p386)等も化学変化という。

化学変化の前後では、化学物質の分子を構成する原子の結合が変わって別の分子に変化する事はあるが、原子そのものが別の原子番号の原子に変わる事はない(ただし原子間の電子の授受や同位体の変化はある)。この点で原子そのものが別の原子に変化する原子核反応とは大きく異なる。

化学反応では反応前の化学物質を反応物(reactant)、反応後の化学物質を生成物(product)といい、その過程は化学反応式で表記される。例えば反応物である塩酸)と水酸化ナトリウム)が化学反応して生成物である)と塩化ナトリウム)ができあがる状況を示した化学反応式は

と表記される。

化学平衡

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反応物から生成物をつくる化学反応の際には、逆に生成物から反応物をつくる化学反応も同時に起こっている(このような逆向きの化学反応がある事を強調したい場合は、化学反応式の矢印は「」ではなく「」と表記する。)。

したがって反応物から生成物をつくる化学反応の反応速度がその逆向きの化学反応の反応速度の大小により、反応物と生成物の比が増減し、最終的には反応物と生成物が混在した状態で釣り合う事になる。この状態を化学平衡という。(なお、化学反応の結果最終的に生成物が一切無くなってしまう現象は、生成物が0の状態で化学平衡したという事である)。

化学反応の変化傾向

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外部との相互作用を考慮した変化傾向

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化学変化している系(反応系)は、一般には外部と相互作用しながら化学変化していく(例えば反応熱を外部に放熱する)。こうした状況下、次の事実が知られている:

化学変化は常に、系のエントロピーSsysと外界のエントロピーSsurrを足し合わせた全エントロピーStotalが増大する方向に自発的に進むMF2(p393)

これは熱力学第二法則からの当然の帰結であるMF2(p393)

さらに、

自発的な反応は常に、反応混合物を平衡状態の方向へと変化させるMF2(p385)

よって反応系が外部から孤立している場合には、化学変化の平衡定数Kcと現在の時刻における反応指数英語版Qcと比較する事で、反応がどちらの方向に進むかを知ることができるMF2(p385)

反応系の変化傾向

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反応系の2つの状態ABに対し、Aのときの系のエントロピーとBのときの系のエントロピーの差をΔSsysとすると、

  • ΔSsys>0のとき、系は状態BからAに自発的に変化するMF2(p393)
  • ΔSsys<0のとき、系は状態AからBに自発的に変化するMF2(p393)

また系のエントロピーが時刻変化しない場合は、その系は平衡状態にあるMF2(p393)

なお、一般的な傾向として、系の内部エネルギーや系のエンタルピーは減少させるがMF2(p393)、常に成り立つわけではない。例えばが水に溶解する際には、系は外部から自発的に吸熱するのでMF2(p386)、系の内部エネルギーやエンタルピーは増大するMF2(p386)

内部エネルギーやエンタルピーに減少傾向があるのは、これらの値がエントロピーと比較的簡単な関係式を満たす事に起因している。詳細は熱力学ポテンシャルの項目を参照されたい。

自由エネルギーによる表現

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以上で述べたように系の変化傾向はエントロピーによって記述できるものの、エントロピーは直接測定可能な物理量ではないので、化学ではギブズの自由エネルギーを使って系の変化傾向を記述する事が多いのでMF2(p386)。本節ではこの記述方法について述べる。なお本節では、ギブズの自由エネルギーやエンタルピーといった熱力学ポテンシャルの基本的知識を仮定する。

まず、反応系に対して以下の2つの仮定を課す:

反応系の温度は常に一定である
反応系の温度と外部の温度は常に等しい

1つ目の仮定は、化学変化で反応系に発生した熱が系の外部に全て放出できるのであれば満たされる。2つ目の仮定は外部が十分広く、反応系から放出された熱の影響をほとんど受けないのであれば満たされる。以下、反応系の温度=外部の温度をTと書く。

一般に与えられた系のギブズの自由エネルギーGとエンタルピーHはその系のエントロピーS温度Tにより、

という関係式を満たすので、前述の仮定のもと、

が成立するMF2(p395)

また反応系の外部の合計の内部エネルギーUtotal、圧力Ptotal、体積Vtotal

という関係式を満たすが、エネルギー保存則から第一項は0であり、第二項も全体に対する圧力変化dPtotalは存在しないとみなしてよいから、結局

となる。ここで

反応系の外部では化学ポテンシャルや圧力変化、その他の示強変数(例えば分極磁化による電磁場)が無視できる

という仮定を課すと、

が成立するので、

なので、

が成立する。

したがって以上の仮定のもと、全体のエントロピー増大は、反応系のギブズ自由エネルギー減少を招く。よって以下の結論が得られる:

  • ΔGsys<0のとき、系は状態BからAに自発的に変化するMF2(p395)
  • ΔGsys>0のとき、系は状態AからBに自発的に変化するMF2(p395)

また反応系のギブズ自由エネルギーが時刻変化しない場合は、その系は平衡状態にあるMF2(p395)

その他

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化学反応の種類

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化学反応は電子の移動にともなって結合の切断と生成が行われる。化学結合と電子の移動方法に着目して化学反応を分類すると、イオン反応 (ionic reaction) 、ラジカル反応 (free-radical reaction) 、ペリ環状反応 (pericyclic reaction) に大別される。ある化学種がもうひとつの化学種と結合をつくる反応について考えると、イオン反応は、一方の化学種から電子対が供与されて新しい結合性軌道が生成する化学反応で、電子求引性や電子供与性など原子間の電荷の偏りにより反応の方向が支配される。ラジカル反応は、双方の化学種から1電子ずつ電子が供与されて新しい結合性軌道が生成する化学反応である。ペリ環状反応は、化学種のπ軌道からσ軌道へ、環状の遷移状態を経て転化することで2ヶ所以上に新たな結合が生成する化学反応である。切断は結合の逆反応にあたる。

反応機構や、反応物と生成物の構成の違いで化学反応を考える場合、置換反応付加反応脱離反応転位反応などに分類される。

加水分解脱水反応付加重合縮合重合(縮重合)、酸化還元中和は化学反応の用途を意識した分類で、上記 4 反応機構の一つあるいは複数から構成される。

ほかにも光反応重合反応など、反応の特性に応じた分類も存在する。

化学反応論

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化学反応を説明付ける理論は、化学反応事例が集積から導出される経験則とそれを物理学的に説明づける物理化学理論が構築されることにより進展して行く。それ故、物理学の展開と歩調を合わせて化学反応論も段階を経て発展して行った。

18世紀から19世紀元素アントワーヌ・ラヴォアジエジョン・ドルトンらに発見されるのと同時に、化学反応する反応物と生成物との重量比に関して法則性が見出されている。これら化学反応に関与する成分の量的関係に関する理論は、化学量論として体系付けられている。化学量論は一般には経験則である定比例の法則倍数比例の法則として知られている。

19世紀後半に定量分析法が確立し20世紀にかけて発展することで化学物質の変化量が測定できるようになると、化学平衡や反応の進行する速度について、反応速度式として定式化され物質量モル濃度そして温度が化学反応の成分量やその変化量に強く影響を及ぼすことが明らかとなった。熱力学により分子(あるいは)原子に共通な振る舞いが物理学的に説明付けられる様になり、化学平衡や反応速度について物理化学的な理論が確立されるに至った。化学反応における成分量の決定因子とその変化の早さは、化学ポテンシャルで代表される広義の熱力学と反応速度論により体系付けられる。化学ポテンシャルは熱力学第二法則を物理化学的に解釈した指標であり、反応(あるいは平衡)の進行方向を決定付ける。反応速度論により、反応速度が物質量温度により受ける影響を分子などの微視的な振る舞いとして説明づけられるようになった。

反応速度論、特に遷移状態理論により化学反応を熱力学や統計力学のような集団についての理論ではなく、反応物の分子同士の作用として理論付けることが可能になった。今日では反応の種類ごとに分子構造と化学反応を関連付ける反応機構モデルを構築することで化学反応が研究される。

反応機構モデルを構築する基礎原理として、電子が帰属する価電子または共有結合の移動として化学結合を扱い、半経験的原理として有機電子論が体系付けられた。有機電子論やHSAB則において経験的に仮定された電子対の振る舞いは量子化学分子軌道法で定式化することが可能である。また、ペリ環状反応等いくつかの立体特異性反応機構は古典的な電子の振る舞いでは説明づけることはできず、分子軌道の結合規則に関する原理を扱うフロンティア軌道理論により反応機構が説明付けられる。

以上のようにして構築された反応機構は化学反応動力学分子動力学法によりモデルの妥当性や反応の振る舞いについて検証されるが、コンピュータの演算性能の急速な拡大と計算化学的手法の発展により、今日では簡単な系であればコンピュータ・シミュレーションで化学反応を予測することも可能である。

化学反応に影響する因子

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実際に反応を行う、あるいは反応系を開発する場合、その反応を取り巻くさまざまな因子・条件の影響により、速度や成否が左右されることは少なからずある。この節では、化学反応について影響を考慮すべき因子・条件を、定性的、経験的な観点から概説する。反応機構は反応により多様であるため、以下の議論にあてはまらない例ももちろんある。詳細が分かっている反応については、反応速度式なども考慮に入れより定量的な考察を行うべきである。

温度
多くの反応は、より高い温度で行えば、系により多くのエネルギーが与えられるために速度が増加する。一般に、反応温度が 10 ℃ 上がれば反応速度は約2倍になる、というのが目安とされる。ただし、副反応を誘発する、中間体が分解する、反応の暴走を招く、など、温度を上げた結果として反応が失敗することもある。
濃度
多次反応の場合、反応混合物の濃度が高くなると、反応物同士の衝突の頻度が増すことによって反応が起こる確率が高くなり、速度が増加する。連鎖反応の場合は顕著となる。大員環合成などの場合では、分子内反応を分子間反応に対して優先させるために、しばしば高希釈下条件で行われる。また、0次、1次反応では濃度の効果は系の温度変化へ影響するだけにとどまる。濃度を調整する場合についても、副反応や暴走など、温度の調整の際と同様の問題を考慮する必要がある。
圧力
通常、気体が関与する反応は、圧力を上げると速くなる。気体の場合では圧力の上昇は事実上濃度の増加に等しいため、濃度と同様の議論も成り立つ。始原系と生成系でモル数が異なる場合は、平衡状態に達したときの各化合物の割合に圧力が影響する。
光はエネルギーの一形態である。また、反応の経路に影響を及ぼすこともある。反応によっては、副反応を防ぐために遮光しなければならないものもある。光を積極的に利用する光反応では、用いる光の波長や強さを考慮しなければならない。
触媒
反応に触媒を加えると、より活性化エネルギーの低い反応経路をとることができるようになり、正反応・逆反応の速さがともに増加する。触媒反応は当量反応とは異なり、触媒サイクルを円滑に回転させるため、触媒の活性化と安定化について考える必要がある。
表面積
不均一系触媒などを用いた表面反応においては、表面積が大きくなると反応速度も増加する。体積に対する表面積の割合が増せば反応の起こる位置が増え、反応はより速く起こる。固-液、気-液などの複相系、水層-油層などの複層系でも同様に、異なる相/層が接触する地点、あるいはその近傍で反応は起こるため、表面積や撹拌が重要になる。

比喩

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デジタル大辞泉に拠れば、「複数のものが組み合わされて予想しなかった効果が生じること」を、化学反応に例えることもある[1]

脚注

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  1. ^ a b c d e コトバンク『化学変化』(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)”. 2017年8月10日閲覧。
  2. ^ IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版:  (2006-) "chemical reaction".

引用文献

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  • [MF1] J. McMurry、R. C. Fay 著、荻野博、 山本学、大野公一 訳『マクマリー 一般化学(上)』東京化学同人、2010年11月24日。ISBN 9784807907427 
  • [MF2] J. McMurry、R. C. Fay 著、荻野博、 山本学、大野公一 訳『マクマリー 一般化学(下)』東京化学同人、2011年2月23日。ISBN 9784807907434 

関連項目

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外部リンク

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