特性類

特性類 (とくせいるい、: Characteristic class) は、位相群を構造群とするファイバーバンドル不変量であり、(十分性質がよい)位相空間Xを底空間とするファイバーバンドル

に対し、Xコホモロジー群の元を対応させる対応関係

で、「自然な」ものである。

原理的には任意のファイバーバンドルに対して特性類を定義できるが、研究が進んでいるのは主にベクトルバンドルに対する特性類である。ベクトルバンドルの特性類は以下の数学の分野に応用がある:


またX可微分多様体であれば、X接バンドルTXの特性類をX自身の不変量とみなす事ができる。接バンドルTXXの可微分構造に依存しているので、ミルナーTXの特性類を利用する事により、7次元球面と位相同型だが微分位相同型ではない可微分多様体英語版の存在を示した。


1935年の多様体上のベクトル場についてのエドゥアルト・シュティーフェル (Eduard Stiefel) とハスラー・ホイットニー (Hassler Whitney) の仕事より、特性類の考え方が発生した。

定義と基本的な性質

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定義

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以下、Fをファイバーに持つファイバーバンドルの事をF-バンドルと呼ぶこととし、全空間E、底空間Xおよび射影からなるF-バンドルをと表記する。特性類の概念を厳密に定義するには圏論の概念を使う必要があるので、まずは若干厳密性を犠牲にした定義を以下に述べる:

定義 (特性類) ― G位相群とし、FGが作用する位相空間とし、Aアーベル群とし、さらにqを非負整数とする。このとき次数qA係数特異コホモロジー群におけるGに関する特性類とは、CW複体を底空間とし構造群Gを持つF-バンドルにコホモロジー群の元を対応させる「対応関係」

で、任意のCW複体XY、構造群Gを持つY上の任意のF-バンドル、および任意の連続写像

に対し、

が成立するものの事をいう。またF-バンドルcによる像の事をξの(cに関する)特性類と呼ぶ[1]

上の定義における記号の意味を説明すると、における左辺のは、fがコホモロジーに誘導する写像

の事であり、右辺のX上のF-バンドルfによる引き戻しによって定義されるY上のF-バンドルの事である。

注意点

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上の定義に関して2つの注意点を述べる。第一に、上の定義におけるバンドル写像fは構造群GFへの作用と両立するもののみを考えている。したがって例えばn次元実ベクトルバンドルを構造群として持つ-バンドルとみなしたとき、各点のファイバー上にバンドル写像fを制限したは線型同型写像でなければならず、行列式が0になってはならない。逆に言えば、いずれかの点で行列式が0になるfに対してはが成立する必要はないし、次元が異なるベクトルバンドル間の写像に関してもこの性質が成立する必要はない。

第二に、本項では多くの教科書と同様、ファイバーバンドルの底空間BCW複体である場合に限定して特性類を定義したが、より一般の空間、例えばパラコンパクトな位相空間に対しても特性類を定義できる[2]。ただしこの場合本項で述べる性質のいくつかは成立しない[2]。なお幾何学における多くの用途ではCW複体を対象にすれば十分である。実際、任意の可微分多様体は単体的複体、したがってCW複体と位相同型になる事が知られており[3]、(可微分とは限らない)位相多様体もコンパクトな場合はCW複体とホモトピー同型になる事が知られている[3]。さらにいえば任意の位相空間はCW複体と弱ホモトピー同型英語版である[4]

また本項では底空間Bに対してはCW複体である事を要求したものの、構造群G、ファイバーF、全空間Eは(CW複体とは限らない)任意の位相群、位相空間でよい。

ホモトープな写像の特性類

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構造群を持つファイバーバンドルの性質として以下が知られている:

定理 ― XYを位相空間とし、を位相群Gを構造群として持つF-バンドルとし、さらに2つの連続写像

ホモトープであるとする。このときfgによる引き戻しは自然に同型である。 よって特に任意の特性類cに対し、

すなわち特性類を考える上では、底空間の間の写像はホモトピークラスのみを考慮すればよい。

厳密な定義

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以上では特性類の定義に「対応関係」という未定義の言葉を使ったが、圏論の概念を使えばこうした未定義の語に頼らずに特性類の概念を定義できる:

定義 (特性類の厳密な定義) ― GAq上の定義と同様に取る。対象をCW複体、射を連続写像のホモトピークラスとする圏CWをとし、さらにSetを集合の圏とし、 反変関手

を以下のように定義する:

  • CWの対象Xに対し、Xを底空間とするF-バンドル(でGを構造群に持つもの)のホモトピーによる同型類全体の集合[注 1]b(X)と定義する
  • CWの対象間の射に対し、と定義する。ここではホモトピークラスであり、はバンドルの引き戻しである。

このとき、次数qA係数コホモロジー群における構造群Gを持つF-バンドルに関する特性類とは、反変関手から反変関手

への自然変換の事である。また構造群Gを持つF-バンドル(の同型類)のcによる像の事をξの(cに関する)特性類と呼ぶ。

なお、上述の特性類の定義において圏CWの射は連続写像としたが、下記の定理より、これを胞体写像に変えても定義は同値になる:

定理 (胞体近似定理: cellular approximation theorem)) ― XYをCW複体とすると、 任意の連続写像は胞体写像(: cellular map)とホモトープである[5]

特性類に登場するコホモロジーとして、特異コホモロジーより簡便な(だが特異コホモロジーと同値である)胞体コホモロジーを用いる場合は議論に胞体写像を用いる必要があるのでこの定理は有用である。

ファイバーバンドルとその主バンドルの関係

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以下の事実は特性類を具体的に定義する上で鍵となる重要な性質である:

定理 ― 構造群GのファイバーFへの作用が効果的であれば[6]、構造群Gを持つF-バンドルと、構造群G を持つG-バンドルと1対1対応する[7]

この定理と特例類の定義からファイバーバンドルの特性類と主バンドルの特性類が1対1対応するという重要な事実が明らかに従う:

定理 ― GFに効果的に作用しているとき、以下が成立する

  • 構造群Gを持つF-バンドルに対応する主G-バンドルをとし、cを主G-バンドルの特性類とすると、は構造群Gを持つ-Fバンドルの特性類である。
  • 逆に主G-バンドルに対応するF-バンドルをとすると、dを構造群Gを持つF-バンドルの特性類とすると、は主G-バンドルの特性類である。

この事実からファイバーバンドルに対して特性類を定義するには主バンドルに対して特性類が定義できる事が必要十分である事がわかる。そこで以下、おもに主バンドルにフォーカスして特性類の議論をすすめる事とする。

なお上の定理ではGFに効果的に作用している事を仮定しているが、多くの場合この仮定は必須ではない。実際、Fが十分性質の良い空間、たとえはCW複体であれば、GFへの作用が連続である必要十分条件は、GFへ作用のから定まる写像が(コンパクト開位相を入れたとき)連続になる事である[6]。よってGの作用が忠実ではない場合であっても、写像カーネルで割った位相群Fへ忠実かつ連続に作用するので、F-バンドルの特性類を定義するには主-バンドルの特性類を定義すれば良い。

分類空間

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本節では位相群の分類空間のいう概念を導入し、分類空間の概念を用いて主バンドルの特性類の概念を全く別の角度から特徴づける。この分類空間を用いた特性類の定義は、後の節で特性類の具体例を構築する上で非常に有益である。

定義と性質

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定義

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分類空間の概念を定義するため、まず以下の概念を定義する。

定義 ― 位相空間X弱可縮英語版であるとは、任意の自然数nに対し、n次のホモトピー群0になる事である。

弱可縮の概念を用いて、分類空間の概念は以下のように定義される:

定義 ― Gを位相群とする。を主G-バンドルでPが弱可縮なものとするとき、Bの事をG分類空間: classifying space)といい、を(あるいは単にPを)普遍G-バンドル: universal G-bundle)という[8]

「分類空間」という名称の由来は次節に回すが、分類空間は必ず存在し、本質的に一意である:

定理 (普遍G-バンドルの存在性と本質的な一意性) ― 任意の位相群Gに対し、分類空間とその上の普遍G-バンドルが存在する。しかも分類空間はcanonicalなホモトピー同型を除いて一意であり、普遍G-バンドルもG-ホモトピー同型を除いて一意である。さらに分類空間としてCW複体を取る事が可能である[8]

記号の定義 ― Gの(ホモトピー同型を除いて)一意に存在する分類空間、普遍G-バンドルをそれぞれBGPGと表記する。

上述したように、分類空間はホモトピー同型を除いて一意ではあるものの、同一の位相群に対し位相同型ではない複数の分類空間が存在しうる。このため位相群に対する個々の分類空間の事を分類空間のモデル: model)という[8]

分類定理

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分類空間はその名称が示す通り、与えられた底空間上のG-バンドルは、底空間から普遍G-バンドルへの写像のホモトピークラスにより完全に分類される:

定理 (分類定理) ― Gを位相群とし、を主G-バンドルとする。 さらにXを任意のCW複体とし、XからBへの連続写像のホモトピークラス全体の集合とし、X上の主G-バンドルの同型類の集合とする。

このときが普遍G-バンドルである必要十分条件は任意のCW複体Xに対し、

が全単射な事である[8]。ここでによるPXへの引き戻しである。

なお、上の定理において写像well-definedな事は、ホモトープな2つの写像が引き戻したバンドルは互いに同型な事だというすでに見た事実から従う。

上記の定理から、X上の任意の主G-バンドルξに対し、写像がホモトピー同値を除いて一意に定まる。このfの事をξ分類写像: classifying map)という[9]

構造群Gを持つファイバーバンドルと主G-バンドルは1対1対応するので、上記の定理から一般のファイバーバンドルに対する分類定理が系として従う:

 (ファイバーバンドルに対する分類定理) ― Gを位相群とし、を普遍G-バンドルとし、FGが忠実に作用する位相空間とし、に随伴するF-バンドルとする。さらにCW複体Xに対し、構造群Gを持つX上のF-バンドル全体の集合をとする。

このとき、任意のCW複体Xに対し、

が全単射である[10]

分類定理の場合と同様、X上のF-バンドルξに対応する写像ξ分類写像: classifying map)という[9]

離散群の分類空間

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Gが離散群である場合は、定義より明らかに次が成立する:

定理 ― 離散群Gに対し、Gアイレンベルグ・マックレーン空間英語版(: Eilenberg-Maclane space)、およびその普遍被覆空間Gの分類空間、普遍Gバンドルである[11]

この意味において、分類空間とは離散群におけるアイレンベルグ・マックレーン空間の概念を位相群に拡張したものである。

準同型から誘導される写像

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2つの位相群GHの間の連続な準同型写像が与えられたとき、φから分類空間の間の写像を定義できる。

この事を見るために主バンドルの一般論を簡単に復習する。を主G-バンドルとし、を連続準同型写像とするとき、

を同値関係

で割った空間とする事で、バランス積balanced product[12])と呼ばれるX上の主H-バンドル

を構成できる。そこでを次のように定義する:

記号の定義 ―  GHを位相群とし、を連続準同型写像とする。 普遍G-バンドルから主H-バンドルを構成すると、分類定理よりこの主H-バンドルに対応する(ホモトピー同値を除いて一意に定まる)分類写像を

と表記する[13]

実はこの対応関係は関手になっている:

定理 ― 以下のようにBを定義すると、Bは位相群の圏からCW空間のホモトピー同値類の圏への関手である[13]

  • 位相群GBGを対応させる
  • 連続準同型写像を対応させる。

分類空間の性質

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本節では、後で特性類を計算するとき必要となる分類空間の性質を述べる。

分類空間の関手Bは直積に関して以下のように振る舞う。

定理 (直積の分類空間) ― GHを位相群とするとき、

が成立する[14]

ここで「」は位相空間としての直積であり、「」はBGBHの位相空間としての直積から誘導されるコンパクト生成位相英語版を入れた位相空間である。「」は自然なホモトピー同値であり、「」は自然な弱ホモトピー同値英語版である[14]。 ここで弱ホモトピー同値とは、任意のnに対しホモトピー群πnが同型になる事を指す。

なお圏論的に言えば、「」はコンパクト生成位相空間の圏における圏論的な直積になっている[14]


定理 (部分群の分類空間) ― Gを位相群とし、Hをその部分位相群とする。このときBGBHのモデルを適切に選ぶと、包含写像が誘導する写像は各ファイバーがと位相同型なファイバーバンドルになる[15]。特にHGの正規部分群であれば、-主バンドルになる。

分類空間による特性類の特徴づけ

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分類空間の概念を用いる事により、主バンドルに対する特性類の概念を以下のように特徴づける事ができる:

定理 (分類空間による特性類の特徴づけ) ― を位相群Gの分類空間とし、FGが効果的に作用する位相空間とし、さらにAをアーベル群とする。

このとき構造群Gを持つF-バンドルの特性類とBGのコホモロジー群の元は1対1対応する[1]

上述の定理の1対1関係は具体的に以下のようにかける。すでに述べたように構造群Gの忠実な作用を持つ任意のF-バンドルの特性類は主G-バンドルの特性類と主G-バンドルの1対1対応するのでこの場合に話を限定する。 まず主G-バンドルの任意の特性類cに対し、

が対応する。逆にを任意に選ぶと、主G-バンドルに対し、分類定理により分類写像がホモトピーを除いて一意に定まるので、Xcに対する特性類を

により定義できる。

上の定理から、の元を普遍特性類(: universal characteristic class)という事がある。上の定理は普遍特性類と特性類が1対1対応する事を意味している。

定理の証明は以下の通りである:

ベクトルバンドルの構造群の分類空間

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特性類の概念は原理的には任意の位相群の主バンドルに対して定義できるが、研究が進んでいるのはベクトルバンドル(の主バンドル)に対する特性類である。

そこでベクトルバンドルの特性類について記述するための準備として、本節ではベクトルバンドルの構造群の分類空間を具体的に記述する。

すなわち本節ではに対し、一般線型群の分類空間を記述する。さらにの場合にはベクトルバンドルに向き付けが定義可能なので、向き付け可能な上ベクトルバンドルの構造群であるの分類空間についても記述する。ここで行列式が正の上可逆行列のなす群である。


本節ではさらに、ユニタリ群直交群回転群の分類空間についても記述する。後述するようにの分類空間は、実はそれぞれの分類空間と等しい。

スティーフェル多様体とグラスマン多様体

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GLn(K)の分類空間を記述する為、本節ではスティーフェル多様体英語版グラスマン多様体英語版を定義する。

後述するようにこれらはそれぞれ普遍GLn(K)-バンドルの全空間、分類空間になる。

定義 (スティーフェル多様体) ― とし、K計量ベクトル空間とする。

n個の一次独立なベクトルの組を上のn-フレームという。さらにn個のベクトルがすべて長さ1で互いに直交しているものをn-正規直交フレームという。

n-のフレーム

とし、さらに

上のn-正規直交フレーム

の場合)、もしくはの場合)と書く事にする。

の事をW上のn次元スティーフェル多様体英語版: Stiefel manifold)という[16][注 2]

Wが次元mの有限次元ベクトル空間の場合は、は集合として自然に

という同一視ができ[注 3]、上式右辺には多様体としての構造が入る事がリー群の一般論[注 4]から従うので、スティーフェル「多様体」と呼ぶ。Wが無限次元の場合はは有限次元多様体にはならないが、言葉を混用してこの場合もスティーフェル「多様体」と呼ぶ。

定義 (グラスマン多様体) ― を上と同様に取り、Wn次元部分ベクトル空間全体の集合W上のn次元グラスマン多様体英語版: Grassmannian)という[16]。 また、のとき、Wの向きづけられたn次元部分ベクトル空間全体の集合W上のn次元向きづけられたグラスマン多様体: oriented Grassmannian)という[16]

スティーフェル多様体と同様、Wが次元mの有限次元ベクトル空間であれば、

および

という同一視ができ、この同一視により、に多様体としての構造が入る。

GLn(K)の分類空間の具体的記述

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スティーフェル多様体の元であるn-フレームにそのフレームの貼る部分空間を対応させる事で商写像

を定義できる。も同様に定義できる。

定理 (GLn(K)、U(n)、O(n)、SO(n)の分類空間) ― とし、K上の任意の計量ベクトル空間とする。このとき、

はそれぞれ主GLn(K)-バンドル、主U(n)-バンドル、主O(n)-バンドル、主SO(n)-バンドルである。 さらに包含写像

帰納的極限

とし、WKの場合を考えると、これらはそれぞれ普遍GLn(K)-バンドル、普遍U(n)-バンドル、普遍O(n)-バンドル、普遍SO(n)-バンドル(のモデルの1つ)である[17]

上記の定理に関する留意点を述べる。に対するGLn(K)の分類空間はU(n)、O(n)の分類空間と同一な空間である

これはCW複体上の任意のベクトルバンドルには必ず内積が定義でき、グラム・シュミットの正規直交化法によりGLn(K)U(n)、O(n)に可縮である事が理由である[18]

普遍n-平面バンドル

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分類定理で述べたように、GnK上の主GLn(K)-バンドルVnKに随伴するn次元ベクトルバンドルは、任意のCW複体X上のn次元ベクトルバンドルを分類する上で有益である。このためVnKに随伴するn次元ベクトルバンドルの事を普遍n-平面バンドル: universal n-plane bundle[19]と呼ぶ。

バンドルの一般論から、普遍n-平面バンドルはと表記できるが、より具体的に表記する事も可能である。


グラスマン多様体GnKmKmn次元部分ベクトル空間全体のなす多様体なので、グラスマン多様体の元V=ベクトル空間上のファイバーとして、V自身を取ったベクトルバンドルを定義でき、これをグラスマン多様体のトートロジカル・バンドル英語版と呼ぶが、GnKのトートロジカル・バンドルが普遍n-平面バンドルになっている。


具体的には

とし、第一成分への射影によりGnKm上のベクトルバンドルとみなしたものがGnKmのトートロジカル・バンドルであり、m→∞に関する帰納的極限をとった

が普遍n-平面バンドルになっている[19]

複素ベクトルバンドルの特性類:チャーン類

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本章では、複素ベクトルバンドルの特性類であるチャーン類について述べる。これまでの議論からわかるように、複素ベクトルバンドルの整数係数の特性類とは分類空間

のコホモロジーの元と1対1対応するので、の具体的構成を調べる事で複素ベクトルバンドルの特性類を決定できる。チャーン類は、の生成元である。

H*(BU(n);)の具体的記述

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チャーン類について記述するため、まずの具体的構成を調べる。に対しては以下が成立する:

補題 ―  カップ積に関して次数付き環とみなしたとき、あるが存在し、

が成立する[注 5]。ここでは変数に関するに関する多項式環である。

なお、上の補題においては偶数次のコホモロジーの元なので、上カップ積は可換であるため、が可換環であるという事実と矛盾しない。

一般のnに対しての具体的構造を求めるため、連続準同型写像[注 6]

を考える。ここでn×n行列の対角成分に配置したの元である。(なおリー群の観点からは、極大トーラスである)。このとき以下が成立する。

補題 (Splitting Principle) ―  が誘導する写像

は単射環準同型である。ここでαii番目のの生成元である。

なお、上式においてコホモロジー環における積はカップ積である。また上式の値域における同型は直積に対する分類空間の振る舞いKünnethの公式英語版、および上記の補題から従う。

以上の事実から、後はによる像がのどのような部分集合に落ちるかを決定すれば、を具体的に書きあらわす事ができる。

の像を決定するため、主バンドル一般に対して成立する以下の事実を利用する:

命題 ―  任意の位相群G、および任意のに対し、G上の内部自己同型BGに誘導する写像

恒等写像とホモトープである。

に対し上の内部自己同型とすると、上述の命題より、がコホモロジー群に誘導する写像

は恒等写像である。単射によりの部分群とみなし、正規化群

中心化群

で割ったを考え、

と定義する[注 7]とこの定義はWell-definedである。ここでは同値類を表す。

このとき次の事実が従う事が知られている:

定理 ― 写像

は環同型である[20]

一般に連結コンパクトリー群Gに対し、Gの極大トーラスをTとするとき、T正規化群中心化群で割った群

の事をGワイル群という。なお極大トーラスは共役を除いて一意に定まる事が知られているので、ワイル群は極大トーラスの取り方によらず同型になる。またTの極大性から中心化群Z(G)は実はT自身に等しい。

明らかに前述のWのワイル群に相当する。後はのワイル群を決定しさえすれば、の構造が決定できる。

チャーン類

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を第i成分と第j成分を入れ替える行列とすると、明らかにである。この事実を利用すると、以下の事実が示せる:

定理 ― のワイル群置換群と群同型であり、Wの成分の入れ替えとしてに作用する。

位相群に分類空間を対応させる関手Bと位相空間にコホモロジー環を対応させる関手H*が直積を保つので、上述の定理からWを入れ替える形でに作用する。よって

対称多項式全体の集合に一致する。よく知られているように、任意の対称多項式は基本対称式の多項式として書けるので、以上の事実からチャーン類を以下のように定義する:

定義 (チャーン類) ―  上の第i基本多項式

による逆像

iチャーン類: i-th Chern class)と呼ぶ[20]

紛れがなければ添字を省略し、を単にと書く。

分類空間の元と特性類は1対1でするので、第iチャーン類に対応する特性類

をベクトルバンドルξiチャーン類という。分類空間の元と区別したいときは、i普遍チャーン類: i-th universal Chern class)という。

なお、を「0次の基本対象式」とみなし、を第0チャーン類と呼ぶ。また次以上の基本対称式は存在しないので、に対しては、第mチャーン類をと定義する[注 8]

またチャーン類は埋め込みを使って定義されており、この埋め込みはの正規直交基底の取り方に依存している。しかし正規直交基底の取り替えにより、の内部自己同型との合成に置き換わるだけなので、前述した命題から、チャーン類は正規直交基底の取り方によらずwell-definedである。

以上で見たように各α1,...,αnは対称多項式のに相当するものなので、α1,...,αnの事をチャーン根[訳語疑問点]Chern root[21])という。


これまでの議論とチャーン類の定義から明らかに以下の事実が従う:

定理 ― :