符牒
符牒(ふちょう、符丁、符帳)とは、同業者内、仲間内でのみ通用する言葉、また売買の場や顧客が近くにいる現場などで使われる、独特な言葉のこと。
概要
[編集]接客や作業をしている時に、価格・品質・指示などについて、符牒を使用することによって客に知られずに必要なコミュニケーションを行なうのが一般的だが、「○○ネタ」のように日常語として世間で流用されることもある。
定価や値札が導入される前の販売業では、たいていは販売者と客の間で価格交渉が行われたため、仕入れ値やグレードを客に知られるのは販売者側にとって不利であった。そのため、価格や等級を販売者間で秘密裏に伝える方法が符牒である[1]。符牒には紙片に暗号で記入する文字符牒、口頭で隠語を伝える口唱符牒、手ぶりで伝える手ぶり符牒がある。今日の小売業では正札による価格表示が一般的になったため、文字符牒は廃れ、口唱符牒は業界内隠語に変わったが、手ぶり符牒は現在でも取引所(市場、競売所)などの「手セリ」などで使われている[2]。「警察無線コード」のように単に意味のない連番で示す符丁もある。
仕事現場において状態や金額や作業や物事など、顧客など内部以外に知られたくない事柄を話す時に使用される。非常に単純な符丁としては、一般の人が使用する言葉をひっくり返したり(倒語)、外国語を使用したりする。これらは次第に外部にも知られるようになり、一般人が知らない業界用語を「自分は通である」として使用する場合や、豆知識として記事化されることもある。小説『路傍の石』では、主人公が呉服店でまだ新入りの身分の際、番頭から「お召しのノジアン(安物→安(あん)の字→ノジアンという転訛)」を持ってくるように言われ、符牒に慣れておらず当惑する場面が描かれている。
商人符丁のなかでよく普及した紙屋のものは、1 - イ、2 - コ、3 - ヨ、4 - キ、5 - 久(キウ)、6 - 位(クライ)、7 - 保(ホ)、8 - チ、9 - リ、10 - タである(『万法重宝秘伝集』、『筆拍子』十)。
NATOフォネティックコードなど隠匿する意味は殆どなく、無線の雑音による聞き間違えを防ぐ符丁もある(アルファーなど既知の単語が使われるが、とくにそれ自体の意味はない)。
他言語の符牒について
[編集]同様に、政府の監視や仲間以外に伝わらないようにする試みは、英語圏ではcant、ロシア語ではфеня(フェーニャ)もしくはязыки(イズィーク)、ドイツ語ではロートヴェルシュなど、各言語でも符牒言語が使用され、発展している[3][4][5]。
脚注
[編集]- ^ 取引符牒(符丁)を教えてください 東京都中央卸売市場
- ^ “日本大百科全書(小学館) 符牒”. 2011年2月8日閲覧。
- ^ cantの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
- ^ 露 学 階 梯(アーカイブ)
- ^ 河崎靖「Germania-Romana(1) : ゲルマンとラテンの間で」『ドイツ文學研究』第45巻、京都大学総合人間学部ドイツ語部会、2000年4月、59-79頁、ISSN 0419-5817、NAID 120005465663。
関連項目
[編集]- 隠語
- 俗語
- 業界用語
- 専門用語
- 暗号
- 合言葉
- シボレス (文化) - 民族の言語的に特定の発音が異なり、そのワードによって敵対部族の振り分けが行われた。
- 院内緊急コール - 病院内でスタッフに応援を求めたりする際に使用する放送。スタット・コール(緊急招集)、コードブルー(心肺停止などの緊急事態が発生)、コードレッド(火災)などが有名。これらのコールは地域によって独自のコールが追加されていることがある。ドクターハート、ドクターハリー、ハリー先生などが呼ばれ、ハリーコールとも呼ばれる。
- インスペクター・サンズ - イギリスの鉄道機関で駅員で対処できる火事でスタッフを呼ぶために行われる構内コール。
外部リンク
[編集]- 暗黒街往来 : 隠語・符牒辞典 和田信義 東亜書房 昭和11