結合長
分子構造において、結合長(けつごうちょう、Bond length)または結合距離 (Bond distance) は、分子内の2つの原子の間の平均距離である。
概要
[編集]結合長は結合次数と関連しており、結合の形成に参加する電子が多くなるほど結合は短くなる。また結合長は、結合強さ及び結合解離エネルギーと逆相関の関係にあり、結合が強くなるほど結合長は短くなる。2つの同じ原子の間の結合長の半分は、共有結合半径と等しい。
結合長は、X線回折を用いて固相で測定されるか、回転分光法を用いて気相で見積もられる。結合を共有する2つの原子の組は、分子ごとに異なる。例えば、メタン中の炭素-水素結合の長さは、クロロメタン中の長さとは異なる。しかし、全体構造が同じ場合は、一般化することが可能である。
炭素と他の元素の結合長
[編集]下表は、実験的に求めた炭素と他の元素の間の単結合の長さである[1]。単位は、pmである。2つの異なる原子の間の結合長は、それぞれの共有結合半径の和で近似できる。一般的な傾向として、結合長は、周期表の周期が大きくなるほど長くなり、族が大きくなるほど短くなる。この傾向は、原子半径と同じである。
元素 | 結合長 (pm) | 族 |
---|---|---|
H | 106 - 112 | 第1族 |
Be | 193 | 第2族 |
Mg | 207 | 第2族 |
B | 156 | 第13族 |
Al | 224 | 第13族 |
In | 216 | 第13族 |
C | 120 - 154 | 第14族 |
Si | 186 | 第14族 |
Sn | 214 | 第14族 |
Pb | 229 | 第14族 |
N | 147 - 210 | 第15族 |
P | 187 | 第15族 |
As | 198 | 第15族 |
Sb | 220 | 第15族 |
Bi | 230 | 第15族 |
O | 143 - 215 | 第16族 |
S | 181 - 255 | 第16族 |
Cr | 192 | 第6族 |
Se | 198 - 271 | 第16族 |
Te | 205 | 第16族 |
Mo | 208 | 第6族 |
W | 206 | 第6族 |
F | 134 | 第17族 |
Cl | 176 | 第17族 |
Br | 193 | 第17族 |
I | 213 | 第17族 |
有機化合物中の結合長
[編集]分子中の2つの原子の間の実際の結合長は、混成軌道や置換基の性質によって異なる。ダイヤモンド中の炭素-炭素結合の長さは154 pmで、通常の炭素の共有結合としては最も長い。
異常に長い結合長というのも存在する。その1つはトリシクロブタベンゼンで、結合長は160 pmにもなることが報告されている。さらにX線回折により、別のシクロブタベンゼンで174 pmというのが現在の最長記録である[2]。
2つのテトラシアノエチレンジアニオン二量体の中に290 pmにも及ぶ非常に長いC-C結合が存在すると主張されているが、これは2電子4中心結合である[3][4]。この型の結合は、中性のフェナレン二量体でも見られる。これらの結合は「パンケーキ結合」と呼ばれ[5]、長さは305 pmにもなる。
平均的な炭素-炭素結合よりも短い結合も見られ、アルケンやアルキンではσ結合のs軌道成分が増えるため、結合長はそれぞれ、133 pm、120 pmとなる。ベンゼンでは、全ての結合が同じ結合長を持ち、139 pmである。s軌道成分の大きい炭素-炭素単結合としては、ジアセチレンの中央の結合(137 pm)やある種のテトラヘドラン二量体の中央の結合(144 pm)も顕著である。
プロパンニトリルでは、電子を欠いたシアノ基が結合長を短くする(144 pm)。歪みによってもC-C結合長は短くなる。In-メチルシクロファンと呼ばれる有機化合物では、トリプチセンとフェニル基の間の結合が147 pmと短くなる。In silicoの実験により、フラーレンに閉じ込められたネオペンタンは、結合長が136 pmと推定された[6] The smallest theoretical CC single bond obtained in this study is 131 pm for a hypothetical tetrahedrane derivative.[7]。この研究で、理論的に最短のCC結合は、仮想的なテトラヘドラン誘導体の131 pmである[7]。
同じ研究で、エタンのCC結合を5 pm伸縮するのに、それぞれ2.8、3.5 kJ/molのエネルギーが必要であると推定された。また、同じ結合を15 pm伸縮するには、それぞれ21.9、37.7 kJ/mol必要であると推定された。
C–H | 長さ (pm) | C–C | 長さ (pm) | 多重結合 | 長さ (pm) |
---|---|---|---|---|---|
sp3–H | 110 | sp3–sp3 | 154 | ベンゼン | 140 |
sp2–H | 109 | sp3–sp2 | 150 | アルケン | 134 |
sp–H | 108 | sp2–sp2 | 147 | アルキン | 120 |
sp3–sp | 146 | アレン | 130 | ||
sp2–sp | 143 | ||||
sp–sp | 137 |
出典
[編集]- ^ Handbook of Chemistry & Physics (65th ed.). CRC Press. ISBN 0-8493-0465-2
- ^ Fumio Toda (April 2000). “Naphthocyclobutenes and Benzodicyclobutadienes: Synthesis in the Solid State and Anomalies in the Bond Lengths”. European Journal of Organic Chemistry 2000 (8): 1377–1386. doi:10.1002/(SICI)1099-0690(200004)2000:8<1377::AID-EJOC1377>3.0.CO;2-I .
- ^ Novoa JJ, Lafuente P, Del Sesto RE, Miller JS (2001-07-02). “Exceptionally Long (2.9 Å) C-C Bonds between [TCNE- Ions: Two-Electron, Four-Center *-* C-C Bonding in -[TCNE]22-”]. Angewandte Chemie International Edition 40 (13): 2540–2545. doi:10.1002/1521-3773(20010702)40:13<2540::AID-ANIE2540>3.0.CO;2-O .
- ^ Lü J-M, Rosokha SV, Kochi JK (2003). “Stable (Long-Bonded) Dimers via the Quantitative Self-Association of Different Cationic, Anionic, and Uncharged -Radicals: Structures, Energetics, and Optical Transitions”. J. Am. Chem. Soc. 125 (40): 12161–12171. doi:10.1021/ja0364928.
- ^ Suzuki S, Morita Y, Fukui K, Sato K, Shiomi D, Takui T, Nakasuji K (2006). “Aromaticity on the Pancake-Bonded Dimer of Neutral Phenalenyl Radical as Studied by MS and NMR Spectroscopies and NICS Analysis”. J. Am. Chem. Soc. 128 (8): 2530–2531. doi:10.1021/ja058387z.
- ^ Huntley DR, Markopoulos G, Donovan PM, Scott LT, Hoffmann R (2005). “Squeezing CC Bonds”. Angewandte Chemie International Edition 44 (46): 7549–7553. doi:10.1002/anie.200502721. PMID 16259033.
- ^ a b Martinez-Guajardo G, Donald KJ, Wittmaack BK, Vazquez MA, Merino G (2010). “Shorter Still: Compresing C-C Single Bonds”. Organic Letters, ASAP 12 (18): 4058. doi:10.1021/ol101671m.
- ^ Fox, Marye Anne; Whitesell, James K. (1995). Organische Chemie: Grundlagen, Mechanismen, Bioorganische Anwendungen. Springer. ISBN 978-3-86025-249-9
- ^ Prof Chao-Jun Li, Ph.D. in lecture, March 2009 (needs citation)