time_t

time_t型は、C言語においてシステム時刻を表現あるいは保存するために標準Cライブラリが定義しているデータ型である。この値は標準ライブラリ関数time()によって得られる。このデータ型は、標準ヘッダファイル<time.h>typedefによって定義されている。Cの国際標準規格ISO/IEC 9899:1999(通称C99)では、time_tを算術型 (arithmetic type[1][2][注釈 1]) と規定しており、またISO/IEC 9899:2011(通称C11)では実数型 (real type[3][4][注釈 2]) と規定しているが、実際の型・値の範囲・周期や、エンコーディング方法は規定しておらず、実装定義 (implementation-defined) としている。また、時刻の値に対する算術演算の動作は定義していない(2つのtime_t型の値の差を求めるにはdifftime()を用いる)。

UNIXPOSIX互換システムでは、UNIX時間協定世界時 (UTC) 1970年1月1日00000からの秒数)を表す符号付の整数(通常は32ビットまたは64ビット)でtime_t型を実装している(閏秒は数えない)。いくつかのシステム[要説明]では、負の時刻値をサポートするが、サポートしないシステムもある。2038年問題のために、32ビットtime_tは非難されている[5]。 そのため、最近[いつ?]のシステムには、time_t64ビットの整数型として定義しているものが多いが、古いシステムではそうでないものもあるので注意が必要である。

ISO Cでは、time()関数だけでなく、システム時刻time_tの値をカレンダー時刻に変換する関数や、逆の変換を行なう関数などを定義している。

利用例

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以下のC言語のコードは現在時刻をtime_t型の値として取得し、文字列に変換して標準出力に出力する例である。

#include <stdio.h> #include <time.h>  /* * The result should look something like * Fri 2008-08-22 15:21:59 WAST */  int main(void) {     time_t     now;     struct tm  *ts;     char       buf[80];      // Get the current time     now = time(NULL);      // Format and print the time, "ddd yyyy-mm-dd hh:mm:ss zzz"     ts = localtime(&now);     strftime(buf, sizeof(buf), "%a %Y-%m-%d %H:%M:%S %Z", ts);     printf("%s\n", buf);     printf("%lld\n", (long long)now);      return 0; } 

tmは、「要素別の時刻」(broken-down time) と呼ばれるカレンダー時刻の構成要素集合を保持する構造体である。C99において、tm構造体は少なくとも下記のメンバーを任意の順序で含むように規定されている(実装によっては他の追加メンバーを含んでいることもある)。そのため、何らかの関数を使ってtime_tの値からtm構造体の値を得た後、これらのメンバーを直接読み取って日時情報を取得することも可能である。文字列への書式化にstrftime()を使う必要はなく、printf系の関数を使うこともできる。

struct tm {     int tm_sec; // seconds after the minute — [0, 60]     int tm_min; // minutes after the hour — [0, 59]     int tm_hour; // hours since midnight — [0, 23]     int tm_mday; // day of the month — [1, 31]     int tm_mon; // months since January — [0, 11]     int tm_year; // years since 1900     int tm_wday; // days since Sunday — [0, 6]     int tm_yday; // days since January 1 — [0, 365]     int tm_isdst; // Daylight Saving Time flag }; 

BSD/GNU拡張では、tm構造体に追加のメンバーtm_gmtofftm_zoneが含まれている[6]

前述のコード例で使用されているlocaltime()関数は、time_tの値をローカル時刻としてtm構造体の値に変換し、そのアドレスを指すポインタを返す。他にもUTC時刻として変換して返すgmtime()関数も規定されている。しかし、これらの関数は仕様に欠陥があり、リエントラント性やスレッドセーフ性が保証されない。スレッドの概念が標準化されたC11では、変換結果の出力先へのポインタstruct tm*を引数として別途受け取るスレッドセーフバージョンのlocaltime_s()gmtime_s()が標準化されたが、境界チェック付き関数と同様、必須機能ではなくオプションである[7][8]

POSIXでは、変換結果の出力先へのポインタを引数として別途受け取り、リエントラント性とスレッドセーフ性を保証したlocaltime_r()/gmtime_r()が規定されている[9][10]。C23ではPOSIXベースのlocaltime_r()/gmtime_r()が標準化される予定である[7][8]

Microsoft Visual C++ (MSVC) では、呼び出しスレッドごとに変数の記憶域を確保するスレッドローカルストレージlocaltime()/gmtime()の実装に用いることで、スレッドセーフ性を実現している[11][12]。また、変換結果の出力先へのポインタを引数として別途受け取るlocaltime_s()/gmtime_s()も用意されている[13][14]。ただし、POSIXのlocaltime_r()/gmtime_r()や、C11のlocaltime_s()/gmtime_s()とは互換性がない。

strftime()は現在設定されているロケールLC_TIMEの影響を受ける。書式文字列における変換指定子%Zは、ロケールのタイムゾーンの名前または略称 (abbreviation) によって置換されるが、タイムゾーン情報が判定できない場合は空文字列となる。変換指定子%zは、ISO 8601形式でUTCからのオフセット(+hhmmまたは-hhmm)によって置換されるが、タイムゾーン情報が判定できない場合は空文字列となる。%zはもともとGNU拡張だったものがC99とPOSIX.1-2001で標準化された[15]。MSVCの実装では、タイムゾーン情報はグローバル変数_timezone_dstbiasを経由して追加投入されるため、gmtime()が返すtm構造体へのポインタをstrftime()に渡した場合、%Z%zによって出力される結果は不正確なものとなる[16]。POSIXではタイムゾーン情報を表す環境変数TZが使用されるが、tm構造体の値を各種関数呼び出しによって生成した後にTZの値が変更された場合、%Z%zによって出力される結果は未定義となる[17]

time_tパーティ

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UNIXファンは、UNIX時間の意味ありげな値を祝賀するためにtime_tパーティを行なってきた歴史がある。これは、多くの暦で年が変わるときに行われる新年パーティと良く似ている。UNIX時間の使用が広がったことで、マイルストーンを祝うことが習慣となった。通常は端数のない10進数の時刻の値が、time_t の値を10進数で眺めるUNIXのコンベンションで祝賀される。一部のグループは、2004年1月10日の13:37:04 UTCに起こった+230のような端数のない2進数も祝賀している。

これらの祝賀イベントは、通常は「UNIX epochからN秒」と呼ばれるが、これは不正確である。上で述べたとおり、UNIX時刻の閏秒の扱いのため、UNIX epochからの秒数はUNIX時刻の数よりもわずかに大きい。

2001年9月9日 01:46:40 UTCUNIX billennium(UNIX時刻が1000000000)の祝賀が行なわれた。

2005年3月18日 01:58:31 UTC、UNIX時刻が1111111111に到達した。

2009年2月13日 23:31:30 UTC、UNIX時刻が1234567890に到達し、世界中のさまざまなテクノロジーサブカルチャーの間でパーティーやその他の祝賀会が開催された。

2033年5月18日 03:33:20 UTC、2回目のUNIX billennium(UNIX時刻が2000000000)の祝賀が行なわれる予定。

脚注

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注釈

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  1. ^ C規格における算術型は整数型浮動小数点数型の総称である。浮動小数点数型には、C99で追加された複素数型や虚数型も含まれる。
  2. ^ C規格における実数型は整数型と実浮動小数点数型の総称である。実浮動小数点数型には、複素数型や虚数型は含まれない。

出典

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関連項目

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