キャピュシーヌ大通り (モネ)

ウィキペディアから無料の百科事典

『キャピュシーヌ大通り(ネルソン・アトキンス美術館)』
フランス語: Le Boulevard des Capucines
作者クロード・モネ
製作年1873年 - 1874年
カタログW293
種類油彩、キャンバス
寸法80.3 cm × 60.3 cm (31.6 in × 23.7 in)
状態非展示
所蔵ネルソン・アトキンス美術館[1]アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ミズーリ州カンザスシティ
登録F72-35
『キャピュシーヌ大通り(プーシキン美術館)』
フランス語: Le Boulevard des Capucines
作者クロード・モネ
製作年1873年
カタログW292
種類油彩キャンバス
寸法61 cm × 80 cm (24 in × 31 in)
所蔵プーシキン美術館[2]ロシアの旗 ロシア モスクワ
登録Ж-3397

キャピュシーヌ大通り』(キャピュシーヌおおどおり、Le Boulevard des Capucines)は、印象派の画家クロード・モネ1873年から1874年にかけて制作した油彩画。

現在ネルソン・アトキンス美術館に収蔵されているものと、プーシキン美術館に収蔵されているものの2つがある。

制作[編集]

1910年に撮影されたキャピュシーヌ大通り。

モネは、1873年パリキャピュシーヌ大通り英語版35番地にある写真家ナダールのスタジオの窓から、大通りの喧騒を観察した[3]。ナダールは、この年、キャピュシーヌ大通りからアンジュー街にスタジオを移しており、モネは、ナダールの許可を得て旧スタジオを借り受けて『キャピュシーヌ大通り』を制作した[4]

大通りを行き交う群衆の姿は、黒い単純な筆触で描かれている。モネが表現しようとしたものは、個々の人物ではなく、無数の人々が行き交う大通りの活気であった。ラフな筆触を残すことによって、画家の手の動きも伝えられる[5]

プーシキン美術館作品の右端には、通りを見下ろしている2人の男性の姿が描かれているが、画面右端で切り取られており、トリミングの手法が用いられている。これは、画面が、大通りを垣間見た「偶然的なもの」であることを意味する[6]

発表[編集]

1874年4月15日から、モネを中心とする画家たちが設立した画家、彫刻家、版画家等の芸術家の共同出資会社が、同じキャピュシーヌ大通り35番地のアトリエで「第1回展覧会」を開催した。後に「第1回印象派展」と呼ばれることになる展覧会である[7]

モネは、この第1回印象派展に、『印象・日の出』など他の作品とともに、『キャピュシーヌ大通り』を出品した。もっとも、2作の『キャピュシーヌ大通り』のうち、どちらの作品が展示されたかは論争がある。O. ReuterswärdとCh. Sterlingは、プーシキン美術館作品であるとするのに対し、ジョン・リウォルドは、ネルソン・アトキンス美術館作品であるとしている[8]

展覧会に来た観客は、会場の窓から見えるキャピュシーヌ大通りの光景と、モネの絵とを見比べるように仕組まれていたといえる[9]

評価[編集]

ルイ・ルロワは、『ル・シャリヴァリ英語版』紙に掲載した「印象派の展覧会」[10]と題する風刺記事(1874年4月25日)で、『キャピュシーヌ大通り』について、登場人物に「画面の下の方の、まるで黒いよだれのような、無数の縦長のものは一体何なのだ」と酷評させている。ルイ・ルロワが依拠するアカデミズム絵画の立場からすれば、人体表現は絵画の基本であり、丁寧な仕上げがされていないラフな描き方は非難の対象であった[5]

一方、エルネスト・シェノーフランス語版は、『パリ・ジュルナル』紙(1874年5月7日)で、「これまでこの素晴らしい『キャピュシーヌ大通り』ほど、埃と光の中のおびただしい数の群衆の動き、道路の上の馬車と人々の雑踏、大通りの木々の揺れ、つまりとらえがたいもの、移ろいやすいもの、すなわち運動の瞬間なるものが、その流れ去る性質のままに描き留められたことはかつてなかった。」と、肯定的に評価した。これは、シャルル・ボードレールモデルニテの考えに基づく評価と考えられる[5][11]

来歴[編集]

プーシキン美術館作品[編集]

プーシキン美術館作品の来歴は次のとおり[8]

脚注[編集]

  1. ^ Boulevard des Capucines by Claude Monet.”. The Nelson-Atkins Museum of Art. 2017年2月19日閲覧。
  2. ^ Бульвар Капуцинок в Париже”. Pushkin State Museum of Fine Arts. 2017年2月19日閲覧。
  3. ^ パタン (1997: 60)
  4. ^ 吉川 (2010: 198)
  5. ^ a b c 六人部 (2001: 44)
  6. ^ 六人部 (2001: 44-45)
  7. ^ 島田 (2009: 74-77)
  8. ^ a b Brodskaya, Nathalia (2011). Claude Monet. Parkstone International. p. 62. ISBN 978-1-78042-297-8. https://books.google.com/books?id=j4F8cbbG5ocC&pg=PA62 
  9. ^ 吉川 (2010: 199)
  10. ^ ウィキソースには、印象派の展覧会の日本語訳があります。
  11. ^ パタン (1997: 61)

参考文献[編集]

  • 島田紀夫『印象派の挑戦――モネ、ルノワール、ドガたちの友情と闘い』小学館、2009年。ISBN 978-4-09-682021-6 
  • シルヴィ・パタン『モネ――印象派の誕生』渡辺隆司・村上伸子訳、高階秀爾監修、創元社〈「知の再発見」双書〉、1997年(原著1991年)。ISBN 4-422-21127-7 
  • 六人部昭典『モネ――《睡蓮》への歩み』六耀社〈RIKUYOSHA ART VIEW〉、2001年。ISBN 978-4-89737-389-8 
  • 吉川節子『印象派の誕生――マネとモネ』中央公論新社〈中公新書〉、2010年。ISBN 978-4-12-102052-9