ゼニゴケ

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ゼニゴケ
ゼニゴケ (Marchantia polymorpha)。
杯状体が見える。
分類
: 植物界 Plantae
: ゼニゴケ植物門 Marchantiophyta
: ゼニゴケ綱 Marchantiopsida
亜綱 : ゼニゴケ亜綱 Marchantiidae
: ゼニゴケ目 Marchantiales
: ゼニゴケ科 Marchantiaceae
: ゼニゴケ属 Marchantia
: ゼニゴケ M. polymorpha
学名
Marchantia polymorpha
L.
シノニム

Marchantia alpestris
Marchantia aquatica

和名
ゼニゴケ
英名
Common liverwort

ゼニゴケ (Marchantia polymorpha L.) は、ゼニゴケ科ゼニゴケ属の植物である。ただし、ゼニゴケ科のもの全体をよぶ総称として、あるいは類似の構造をもつ苔類の総称としても用いられる。近似種の区別が難しいので、普通は区別せずこう呼ばれることが多い。なお、葉状体の形だけで見ればゼニゴケ亜綱ツノゴケ亜綱のかなりのものが似て見える。

モデル植物としてのゼニゴケ[編集]

19世紀前半から論文が発表されるなど研究対象としては古く[1]、近年においても実験生物として注目され始めている[2]。実験生物として用いる利点は、多くの陸上植物と共通する遺伝子を持ちながらも遺伝的冗長性が低いこと、世代時間が短いこと、形質転換が容易であることが挙げられる[3]

生活環[編集]

ゼニゴケには複相の胞子体世代及び単相の配偶体世代から成り立つ[4]。生活の主体となる葉状体は単相の配偶体であり、雄株、雌株が存在する。雄株には雄器托、雌株には雌器托とそれぞれ呼ばれる生殖器が形成される。有性生殖の過程では、雄株の雄器托の造精器で造られた精子が、雌株の雌器托で造られた造卵器に到達すると、受精が行われ、複相の胞子体が形成される。胞子体の内部で減数分裂がおこると、単相の胞子が形成され、胞子が発芽することにより、原糸体を経て、植物体である葉状体を形成する。一方、無性芽と呼ばれる単細胞を由来とするクローン体を形成することによる無性生殖も行われる[5]

ゼニゴケの植物体である葉状体は二叉分岐を繰り返すことで成長する。葉状体の頂端部は心臓型に湾入しており、その付近が細胞分裂の活発な分裂組織(メリステム)である。葉状体の背側には、胚状体と呼ばれる無性芽器が形成される他、表皮の直下に気室が発達する。気室は内部に葉緑体を含み、気室孔によって外界に通じている。葉状体の腹面側には、腹鱗片と仮根が分化する。仮根は地面の固着に用いられる[5]

生育[編集]

世界中に分布し、日本では北海道から九州まで、主に人家の周辺に繁茂する。特に、家の北側など湿気の多い場所に見られることがある。庭に生えるコケ類は日本庭園では喜ばれることが多いが、ゼニゴケ類は地面に深く張り付いて広がり、見栄えが良くないため、雑草として嫌われることも多い[2][6]。また、非常に除去しにくい。

脚注[編集]

  1. ^ 大和.石崎.河内.2009, p. 25.
  2. ^ a b 大和.石崎.河内 2009, p. 23.
  3. ^ 河内 孝之・西浜 竜一. “基部陸上植物モデル 苔類ゼニゴケ”. 2024年2月22日閲覧。
  4. ^ 新しいモデル生物:苔類ゼニゴケ : ライフサイエンス 領域融合レビュー”. leading.lifesciencedb.jp. 2024年2月22日閲覧。
  5. ^ a b 嶋村正樹. “ゼニゴケの分類学と形態学”. 2024年2月22日閲覧。
  6. ^ 北國新聞社 (2012年4月10日). “「庭の嫌われ者」薬に ゼニゴケで高血圧予防”. http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20120410102.htm 2013年4月21日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 大和勝幸、石崎公庸、河内孝之「ゼニゴケの培養法」『低温科学』第67巻、北海道大学低温科学研究所、2009年、23-29頁、ISSN 18807593NAID 120001492976 
  • 嶋村正樹「ゼニゴケの分類学と形態学」『植物科学最前線』第3巻、日本植物学会、2012年、84-113頁。