タネツケバナ

ウィキペディアから無料の百科事典

タネツケバナ
福島県会津地方 2023年4月上旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : アオイ類 Malvids
: アブラナ目 Brassicales
: アブラナ科 Brassicaceae
: タネツケバナ属 Cardamine
: タネツケバナ C. occulta
学名
Cardamine occulta Hornem. (1819)[1]
シノニム
和名
タネツケバナ(種漬花)

タネツケバナ(種漬花[10][11]・種付花[10]学名: Cardamine occulta)はアブラナ科タネツケバナ属植物の一種。水田などの水辺に群生する雑草和名の由来は、イネ種籾を水につけて苗代作りの準備をするころに白い花を咲かせることから「種漬け花」と名付けられたといわれる[12][11][13]。別名、タガラシ、ミズガラシ、コメナズナともよばれる[13]。中国植物名は、湾曲砕米薺(わんきょくさいべいせい)[12]

分類[編集]

従来、この植物の学名は、Cardamine flexuosa と混同されていた経過にある。これは北半球に広く分布し、イギリス産の植物に命名された C. flexuosa が日本に分布するタネツケバナと同種とされたためである。京都大学の工藤洋ら (2006) の研究により、C. flexuosa はヨーロッパの山地に広く分布し、ブナ林やトウヒ林の林縁などに生育するのに対し、日本に分布するタネツケバナは、アジアの農耕地周辺に広く分布し、水田やその類似地に生育するものであり、両種の生態的分布は大きく異なり、地理的にも連続しないことが明らかにされた。さらに、Lihová ら (2006) の研究により、C. flexuosa は2n=32の4倍体であるのに対し、タネツケバナは2n=64の8倍体であることが明らかになった。これらのことから、Marhold ら (2016) によって、タネツケバナの学名は、アジアに分布するタネツケバナ属の8倍体の分類群の中で最初につけられた Cardamine occulta が採用された。この学名はデンマークの植物学者イェンス・ヴィルケン・ホルネマンが、コペンハーゲン植物園で種子から育てた中国産のタネツケバナ属の植物につけられたものである[14]

特徴[編集]

日本の北海道本州四国九州南西諸島に分布する[10][15]。日本全土に生育し[16]アジアの農耕地域に広く分布する[14]。平地の小川や水路ぎわ、水田、あぜ道、湿地などの水辺に自生し、湿った場所を好んで群生する[10][13][17]水田雑草としてもよく見られ、時に半ば水につかって育っている。

全体に柔らかい越年草[10]、あるいは一年草[13]は下部から分枝し、高さは変位が大きく10 - 40センチメートル (cm) ほどになる[10][11][17]。茎はふつう、暗紫色を帯びる[17]互生し、茎の根本と下部に、一回羽状複葉をつける。葉の大きさも、草丈に応じてかなり変化する[11]葉身は羽状に深く裂け、下方の葉は7 - 10枚の小葉に分かれ、小葉は丸く小さく、頂の小葉はやや大きい[10][17]。裂片は丸みのある五角形であるが、その形には変化がある[11]

花期は早春から初夏にかけて(3 - 5月ごろ)[10][17]は茎の先端に総状花序をなし、白色の小さな4弁花を10 - 20個つける[10][17]花弁は白、果実は棒状で上を向く。長角果は長さ2 cmほどで、熟すとはじけて2つに裂ける[10]

なお、育ちがよいものは小型のクレソンに似て見えることがある。

利用[編集]

越冬している葉や、早春に出る若芽を食用にする[10]。採取時期は12月から翌年5月にかけて採取できるが[13]関東地方以西が3月ごろ、東北地方から以北が3 - 4月ごろが適期とされ[10]、花が開く前のロゼット状に広がったやわらかい若芽は根際からナイフで切りとり、伸びた茎先ややわらかい若葉を摘む[13][17]。アクは弱く辛味が持ち味で、軽く茹でて水にさらし、おひたし和え物煮びたし、汁の実などにする[10][13][17]。塩味や醤油味をつけて炊いたご飯に混ぜた菜飯にしてもよい[17]。生のまま天ぷらサラダ、肉料理の付け合わせにしても食べられ、花だけ集めてサラダのあしらいとしても利用できる[10][17]。食味は、ピリッと辛く、クレソンに似た爽やかさや苦味がある[13][17]。辛味は、水がきれいで冷たい場所のものほど強いといわれ、熱を加えると苦くなることがある[11]。別種のオオバタネツケバナミズタネツケバナも同様に食用にでき、帰化植物ミチタネツケバナも根出葉が同様に食べられる[10]七草がゆの際には、春の七草ナズナと間違えられる例もある。果実の形が違うので判別は難しくないが、別にはないし食べられるので間違えても実害はない。

アイヌ料理ではと相性が良いとしてシペキナ(鮭の草)の名で鮭料理の香辛料にされた[18]北海道弁では「アイヌ山葵」と呼ばれる[19]

夏に採取した全草は、天日で乾燥させて生薬にし、砕米薺(さいべいせい)と称している[12]。かつては咳止め利尿剤などの民間薬に利用された[13]下痢膀胱炎に、1日量5 - 10グラムを600 ccの水で煎じて3回に分けて服用する民間療法も知られる[12]。熱を冷ます薬草で、肛門尿道に熱感があるときに使うとよいといわれる[12]。ただし、妊婦への服用は禁忌とされる[12]

2月3日の誕生花

近縁種[編集]

タネツケバナには、オランダガラシ(別名:クレソン、学名: Nasturtium officinale)など姿が似た近似種や近縁種がいくつもあるが、多くは花が少し遅い[15]。オランダガラシは野菜として栽培されているが、日本には帰化植物として野生化もしており、タネツケバナと同じく水の冷たいところではかなり辛くなる[15]。水温が低いところでは、小型化してタネツケバナと似た姿になる[15]

山の渓流沿いには、大形のオオバタネツケバナ(学名: Cardamine scutata)が生える[17]。オオバタネツケバナは草姿がクレソンと大変よく似ており、辛味や香りが強く、よりおいしく食べられる[17]

脚注[編集]

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine occulta Hornem. タネツケバナ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine parviflora auct. non L. タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine scutata auct. non Thunb. タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine scutata Thunb. subsp. flexuosa sensu H.Hara タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine manshurica (Kom.) Nakai タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine flexuosa auct. non With. タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine flexuosa With. var. debilis (O.E.Schulz) T.Y.Cheo et R.C.Fang タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  8. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine debilis D.Don タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  9. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cardamine autumnalis Koidz. タネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月3日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 高橋秀男監修 2003, p. 17.
  11. ^ a b c d e f 吉村衞 2007, p. 72.
  12. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 44.
  13. ^ a b c d e f g h i 篠原準八 2008, p. 29.
  14. ^ a b 工藤洋、「日本産アブラナ科タネツケバナ属雑草の生物学」、『雑草研究』Vol.62(4), pp.175-183, (2017)
  15. ^ a b c d 吉村衞 2007, p. 73.
  16. ^ 久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』主婦と生活社、2010年、19ページ、ISBN 978-4-391-13849-8
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m 金田初代 2010, p. 168.
  18. ^ アイヌ 歴史と民俗 P.91
  19. ^ アイヌワサビ

参考文献[編集]

  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、44頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、168頁。ISBN 978-4-569-79145-6 
  • 工藤洋、「日本産アブラナ科タネツケバナ属雑草の生物学」、『雑草研究』Vol.62(4), pp.175-183, (2017)
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、17頁。ISBN 4-05-401881-5 
  • 篠原準八『食べごろ 摘み草図鑑:採取時期・採取部位・調理方法がわかる』講談社、2008年10月8日、29頁。ISBN 978-4-06-214355-4 
  • 吉村衞『おいしく食べる山野草』主婦と生活社、2007年4月23日、72 - 73頁。ISBN 978-4-391-13415-5 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]