テラビット・イーサネット

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テラビット・イーサネット(Terabit Ethernet, TbE)は、イーサネット100 Gbit/sを超える通信速度を持つネットワーク規格の総称。

1 Tbps (1000 Gbps)の通信速度を目指して開発が進められており、2021年現在 200Gbpsおよび400Gbpsの通信速度を持つプロトコルが標準化されている。

歴史[編集]

100GbEが標準化された2010年代初頭から、FacebookGoogleが早くもTbEの必要性を表明している[1]。同時期にカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)は、アジレント・テクノロジー、Google、インテルロックウェル・コリンズベライゾン・コミュニケーションズから助成を受けて次世代イーサネット研究支援を開始した[2]

2012年後半から2013年初頭にかけて、IEEE IC (Industry Connections)プロジェクトのHigher Speed Ethernet Consensusグループでは、次世代の目標として400GbEの実現を掲げることにした。1000 Gbps動作するTbEの実現には課題が多く新機軸の技術が必要になる可能性があるが、400 Gbpsであれば既存技術の応用で実現可能と見込まれたためである[3][4]。さらに、2016年1月には200GbEの追加目標が掲げられた。

2014年3月27日、IEEEは200/400Gbpsの標準化プロジェクトP802.3bsを設置[5]し、100GbEとほぼ同じ技術を流用して策定作業を進めた。 以降、200GbE/400GbE規格が相次いで承認されている。

  • 2017年12月6日、IEEE 802.3bs 承認[6][7][8][9]。200GBASE-DR4/FR4/LR4, 400GBASE-SR16/FR8/LR8/DR4 など実現可能な各種方式。
  • 2018年12月5日、IEEE 802.3cd 承認[10]。 200GBASE-SR4/CR4 など50GbEベースの短距離。
  • 2019年12月20日、IEEE 802.3cn 承認[11]。 200GBASE-ER4, 400GBASE-ER8 など50GbEベースの長距離。
  • 2020年1月30日、IEEE 802.3cm 承認[12]。 400GBASE-SR8/SR4.2 など50GbEベースの短距離。
  • 2021年2月11日、IEEE 802.3cu 承認[13]。 400GBASE-FR4/LR4-6 など100GbEベースの中距離。

2020年以降、800Gbpsおよび1.6Tbpsの通信速度もIEEEのロードマップで示され[14]、この実現を目論んだプロジェクトが進行している[15]。 800GbEの実現には、1レーン112GbpsのSERDES動作を達成することが要求されるものと見込まれている[16][17]

市場動向[編集]

2016年にはすでに200Gと400G用のベンダ独自のソリューションが提供されている。シスコシステムズジュニパーネットワークスなどが発売しているシャーシ・モジュール構成のコアルータ製品は400Gbps全二重通信をサポートしており、ラインカード英語版(スロット挿抜モジュール)は100GbEを1〜4ポート、400GbEを1ポート装備したものが利用できる。802.3cd承認後の2019年には200GbEのラインカードも発売された[18]

規格一覧[編集]

2021年現在までにIEEE 802.3で標準化が策定されているTbE関連規格について媒体ごとに概説する[19][10][11][12][13]

光ファイバーケーブル[編集]

光ファイバーケーブルによる接続では、短距離用にマルチモードファイバー(OM3, OM4, OM5)を、長距離用にシングルモードファイバー(OS1, OS2)を用いた接続が規定されている。

200GbE 光ファイバーケーブル規格
名称 規格(項番) ケーブル・
距離長
ケーブル
本数
波長 符号化[20][21][22]
200GBASE-SR4 802.3cd-2018
(Clause138)
OM3: 70 m
OM4: 100 m
8 850 nm 4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-DR4 802.3bs-2017
(Clause121)
OS2: 500 m 8 1311 ± 6.5 nm 4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-FR4 802.3bs-2017
(Clause122)
OS2: 2 km 2 1271 – 1331 nm
(4波長WDM)
4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-LR4 802.3bs-2017
(Clause122)
OS2: 10 km 2 1295.56 – 1309.14 nm
(4波長WDM)
4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-ER4 802.3cn-2019
(Clause122)
OSx: 40 km 2 1295.56 – 1309.14 nm
(4波長WDM)
4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-VR2
(策定中)
802.3db[23]
(Clause167)
OM3: 30 m
OM4: 50 m
4 850 nm 2レーン × 100GbEベース[注 2]
200GBASE-SR2
(策定中)
802.3db[23]
(Clause167)
OM3: 60 m
OM4: 100 m
4 850 nm 2レーン × 100GbEベース[注 2]
400GbE 光ファイバーケーブル規格
名称 規格(項番) ケーブル・
距離長
ケーブル
本数
波長 符号化[20][21][22]
400GBASE-SR16
(廃止予定)
802.3bs-2017
(Clause123)
OM3: 70 m
OM4: 100 m
OM5: 100 m
32 850 nm 16レーン × 25GbEベース[注 3]
400GBASE-SR8
(廃止予定)
802.3cm-2020
(Clause138)
OM3: 70 m
OM4: 100 m
OM5: 100 m
16 850 nm 8レーン × 50GbEベース[注 1]
400GBASE-SR4.2
802.3cm-2020
(Clause150)
OM3: 70 m
OM4: 100 m
OM5: 150 m
8 850 nm, 912 nm
(2波長1芯双方向)
8レーン × 50GbEベース[注 1]
400GBASE-FR8
802.3bs-2017
(Clause122)
OSx: 2 km 2 1273−1309 nm
(8波長WDM[注 4])
8レーン × 50GbEベース[注 1]
400GBASE-LR8 802.3bs-2017
(Clause122)
OSx: 10 km 2 1273−1309 nm
(8波長WDM[注 4])
8レーン × 50GbEベース[注 1]
400GBASE-ER8 802.3cn-2019
(Clause122)
OSx: 40 km 2 1273−1309 nm
(8波長WDM[注 4])
8レーン × 50GbEベース[注 1]
400GBASE-VR4
(策定中)
802.3db[23]
(Clause167)
OM3: 30 m
OM4: 50 m
OM5: 50 m
8 850 nm 4レーン × 100GbEベース[注 2]
400GBASE-SR4
(策定中)
802.3db[23]
(Clause167)
OM3: 60 m
OM4: 100 m
OM5: 100 m
8 850 nm 4レーン × 100GbEベース[注 2]
400GBASE-DR4 802.3bs-2017
(Clause124)
OSx: 500 m 8 1311 ± 6.5 nm 4レーン × 100GbEベース[注 2]
400GBASE-FR4 802.3cu-2021
(Clause151)
OSx: 2 km 2 1271−1331 nm
(4波長WDM)
4レーン × 100GbEベース[注 2]
ベンダ間合意規格に基づく[24]
400GBASE-LR4-6 802.3cu-2021
(Clause151)
OSx: 6 km 2 1271−1331 nm
(4波長WDM)
4レーン × 100GbEベース[注 2]
400GBASE-ZR
(策定中)
802.3cw[25]
(Clause155/156)
OSx: 80 km 2 (未定) 59.84375 GBaud, DP-16QAM

ダイレクトアタッチケーブル[編集]

データセンター内サーバなどのLAN短距離接続として、Twinaxケーブルを用いた接続が規定されている。

名称 規格(項番) コネクタ・
トランシーバ
距離長 符号化
200GBASE-CR4 802.3cd-2018
(Clause136)
QSFP56,
microQSFP,
QSFP-DD,
OSFP
(SFF-8665)
3 m 4レーン × 50GbEベース[注 1]
200GBASE-CR2
(策定中)
802.3ck[26]
(Clause162)
QSFP112 2 m 2レーン × 100GbEベース[注 2]
400GBASE-CR4
(策定中)
802.3ck[26]
(Clause162)
QSFP-DD 2 m 4レーン × 100GbEベース[注 2]

バックプレーンイーサネット[編集]

1メートルの基板上配線で通信するための物理層仕様が規定されている。

名称 規格(項番) 距離長 配線本数 符号化
200GBASE-KR4 802.3cd-2018
(Clause137)
1 m 8 4レーン × 50GbEベース[注 1]
挿入損失: 30 dB以下(at 13.28125 GHz)
200GBASE-KR2
(策定中)
802.3ck[26]
(Clause163)
1 m 4 2レーン × 100GbEベース[注 2]
挿入損失: 28 dB以下(at 26.56 GHz)
400GBASE-KR4
(策定中)
802.3ck[26]
(Clause163)
1 m 8 4レーン × 100GbEベース[注 2]
挿入損失: 28 dB以下(at 26.56 GHz)

チップ間インタフェイス[編集]

PCS・PMD間接続インタフェイスとして以下のAUIが規定されている。

名称 規格(項番) 距離長 配線本数 符号化
400GAUI-16 802.3bs-2017
(Annex120B/C)
25 cm 32 16レーン × 25GbEベース(FEC付加)[注 5]
400GAUI-8 802.3bs-2017
(Annex120D/E)
25 cm 16 8 レーン × 50GbEベース[注 1]
400GAUI-4 802.3ck[26]
(Annex120F/G)
25 cm 8 4レーン × 100GbEベース[注 2]
200GAUI-8 802.3bs-2017
(Annex120B/C)
25 cm 16 8レーン × 25GbEベース(FEC付加)[注 5]
200GAUI-4 802.3bs-2017
(Annex120D/E)
25 cm 8 4 レーン × 50GbEベース[注 1]
200GAUI-2 802.3ck[26]
(Annex120F/G)
25 cm 4 2レーン × 100GbEベース[注 2]

注釈[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 50GbEベース = 26.5625 GBaud, PAM4 × RS/FEC(544,514)
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 100GbEベース = 53.125 GBaud, PAM4 × RS/FEC(544,514)
  3. ^ 25GbEベース = 25.5625 GBaud, NRZ × 64b/66b
  4. ^ a b c ここで用いる波長は、以下のように2つの波長帯にわかれている。
    • 1273.5449, 1277.8877, 1282.2603, 1286.6629 nm (229.0, 229.8, 230.6, 231.4 THz)
    • 1295.5595, 1300.0540, 1304.5799, 1309.1374 nm (233.0, 233.8, 234.6, 235.4 THz)
  5. ^ a b 25GbEベース(FEC付加) = 25.78125 GBaud, NRZ × 256b/257b × RS/FEC(528,514)

参考文献[編集]

  1. ^ Feldman, Michael (2010年2月3日). “Facebook Dreams of Terabit Ethernet”. HPCwire. Tabor Communications, Inc.. 2020年9月15日閲覧。
  2. ^ Craig Matsumoto (2010年10月26日). “The Terabit Ethernet Chase Begins”. Light Reading. 2011年12月15日閲覧。
  3. ^ Network boffins say Terabit Ethernet is TOO FAST: Sticking to 400Gb for now”. 2020年12月2日閲覧。
  4. ^ Matsumoto, Craig (2010年3月5日). “Dare We Aim for Terabit Ethernet?”. Light Reading. UBM TechWeb. 2020年12月2日閲覧。
  5. ^ IEEE P802.3bs 200Gb/s and 400Gb/s Ethernet Task Force” (2014年3月27日). 2021年12月10日閲覧。
  6. ^ Network boffins say Terabit Ethernet is TOO FAST: Sticking to 400Gb for now”. 2017年12月14日閲覧。
  7. ^ On-board optics: beyond pluggables
  8. ^ [STDS-802-3-400G IEEE P802.3bs Approved!]”. IEEE 802.3bs Task Force. 2017年12月14日閲覧。
  9. ^ High-Speed Transmission Update: 200G/400G”. 2017年12月14日閲覧。
  10. ^ a b IEEE 802.3cd” (2018年12月5日). 2021年12月10日閲覧。
  11. ^ a b IEEE 802.3cn” (2019年12月19日). 2021年12月10日閲覧。
  12. ^ a b IEEE 802.3cm” (2020年1月29日). 2021年12月10日閲覧。
  13. ^ a b IEEE 802.3cu” (2021年2月10日). 2021年12月10日閲覧。
  14. ^ The 2020 Ethernet Roadmap”. Ethernet Alliance. 2021年12月10日閲覧。
  15. ^ IEEE P802.3df 200 Gb/s, 400 Gb/s, 800 Gb/s, and 1.6 Tb/s Ethernet Task Force” (2021年10月1日). 2021年12月10日閲覧。
  16. ^ 25 Gigabit Ethernet Consortium Rebrands to Ethernet Technology Consortium; Announces 800 Gigabit Ethernet (GbE) Specification - Ethernet Technology Consortium” (英語). 2021年3月2日閲覧。
  17. ^ Recent trends in next generation terabit Ethernet and gigabit wireless local area network”. IEEE. 2017年12月14日閲覧。
  18. ^ Alcatel-Lucent boosts operator capacity to deliver big data and video over existing networks with launch of 400G IP router interface”. 2021年12月10日閲覧。
  19. ^ IEEE 802.3-2018” (2018年8月19日). 2021年12月10日閲覧。
  20. ^ a b Exploring The IEEE 802 Ethernet Ecosystem”. IEEE (2017年6月4日). 2018年8月29日閲覧。
  21. ^ a b Multi-Port Implementations of 50/100/200GbE”. Brocade (2016年5月22日). 2018年8月29日閲覧。
  22. ^ a b 100Gb/s Electrical Signaling”. ieee802.org. IEEE 802.3 NEA Ad hoc. 2021年12月8日閲覧。
  23. ^ a b c d IEEE P802.3db 100 Gb/s, 200 Gb/s, and 400 Gb/s Short Reach Fiber Task Force” (2021年3月11日). 2021年12月10日閲覧。
  24. ^ 400G-FR4 Technical Specification”. 100glambda.com. 100G Lambda MSA Group. 2021年5月26日閲覧。
  25. ^ IEEE P802.3cw 400 Gb/s over DWDM Systems Task Force” (2020年2月12日). 2021年12月10日閲覧。
  26. ^ a b c d e f IEEE P802.3ck 100 Gb/s, 200 Gb/s, and 400 Gb/s Electrical Interfaces Task Force” (2018年5月14日). 2021年12月10日閲覧。

外部リンク[編集]