パリメトロ14号線

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14号線
シャトレ駅
シャトレ駅
基本情報
路線網 パリメトロ
起点 オランピアード駅
終点 メリー・ド・サン=トゥアン駅
駅数 13
開業 1998年
運営者 パリ交通公団
路線諸元
路線距離 13.9 km
軌間 1,435 mm (鉄軌条の軌間)
線路数 複線 (右側通行)
電化方式 直流750V 第三軌条方式
最高速度 80 km/h
路線図
路線図
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パリメトロ14号線(パリメトロ14ごうせん、Ligne 14 du métro de Paris)はパリ市交通公団(RATP)の運営するフランスパリメトロ地下鉄)路線の一つ。パリ近郊サン=トゥアンメリー・ド・サン=トゥアン駅と、南東部のオランピアード駅を結ぶ。1998年に開業したパリで最新のメトロ路線であり、乗務員のいない自動運転を行なっている。

なお1976年まで現13号線の一部が14号線と呼ばれていたが、現14号線と直接の関係はない。

概要[編集]

14号線は1937年開業の旧14号線以来61年ぶりとなるメトロの新規路線である。計画時にはMétéorまたはMETEOR(METro Est-Ouest Rapide、「東西高速メトロ」の意。「流星」(:météore、:meteor)の意味も掛けてある)と呼ばれていた。この路線の目的は主に次の2つである。

14号線は特に都心部で駅間距離が長くなっており、例えばシャトレ駅-リヨン駅間は14号線では一駅であるが、この区間でほぼ並走している1号線では間に3つの駅がある。また都心部では他のメトロやRER路線と交差するため地下深くを走っており、地上の道路の影響を受けない直線的な線形をしている。最高速度は従来のメトロから引き上げられた80km/hとなっている。これらのため14号線の表定速度は他の路線より約10km/h向上した40km/h程度である。

14号線の最大の特徴として、全自動運転を行なっていることが挙げられる。自動運転のため全駅にホームドアが設置されている。軌道は1号線などで利用されているのと同じゴムタイヤを利用した側方案内軌条式であるが、回送や分岐器部分での案内のため鉄のレールも設置されている。地下の構造物を避けるため勾配が多く、最大50パーミルに達する。

駅の内装は従来のメトロのイメージを覆すものであり、サン・ラザール駅の巨大な吹き抜けやリヨン駅の地下庭園など大胆なデザインが採用されている。

自動運転[編集]

14号線はSAEL(Système automatique d'exploitation des trains、自動列車運転システム)で制御されている。新交通システムVALで採用されている方式とは異なり、自動運転と手動運転の列車が混在しても(効率は落ちるが)制御可能な点が大きな特徴である。また夜間は駅に列車を留置することが可能であり、始発列車を途中駅から発車させることができる。このため14号線の留置線は編成数より少なくなっている。

車上システムはDIGISAFEと呼ばれ、3つのマイクロプロセッサMC68020上でMRTK(Matra Real Time Kernel)と呼ばれる専用ソフトウェアが動作している。また中央の列車指令システムはDEC Alpha上のOpenVMSで動作している。システムの開発には形式手法に基づいたB-Methodが用いられた。

自動運転の導入により、列車遅延時や混雑時には臨機応変に臨時列車を運転することが可能になった。また全駅にホームドアが設置されたことと合わせて、駅進入時の速度を上げることができた。これによって最短運転間隔を90秒まで縮めることができたほか、表定速度の向上につながった。さらに、フランスでは頻発するストライキの際にも、14号線のみは運休になることが比較的少ない。

2019年12月5日、フランス全土でゼネラルストライキが行われたが、1号線とともに自動運転のメリットを生かして運行が続けられた[1]

他線への展開[編集]

スイスローザンヌのメトロm2線は14号線と同様のシステムが使用される予定である。

RATPは2010年までに1号線を14号線同様に自動運転化する計画である。また23591213の各線については、2020年までに運転士が乗務するもののほぼ自動で運転するシステムが導入され、列車間隔を短縮する予定である。

沿線概況[編集]

14号線路線図
14号線路線図

サン・ラザール駅からリヨン駅手前のサン・マルタン運河までは主にシールド工法で掘られており、パリ中心部の地下深くを通っている。

サン・ラザール駅からは南向きに進み、マドレーヌ駅の手前で南東方向に向きを変える。ここからはほぼ一直線に進み、パレ・ロワイヤルの直下などを通って都心部を貫通する。シャトレ駅-リヨン駅間の駅間距離2784mは14号線で最長である。サン・マルタン運河を潜ったところから地下浅くまで登り、ベルシー通り地下のリヨン駅に至る。ベルシー駅-クール・サンテミリオン駅間の国鉄ベルシー駅地下でほぼ90度向きを変え、セーヌ川トルビアック橋の上流側に沈埋工法で作られたトンネルで潜り、ほぼトルビアック通りの地下を進んでオランピアドゥ駅に至る。

ベルシー駅近くに6号線との連絡線がある。これが14号線から他線への唯一の連絡線である。

運行形態[編集]

全列車各駅停車で、途中駅での折り返しはない。ただし始発は途中駅からのものもある。全線の所要時間は約13分、運転間隔は最短90秒まで可能である。始発は5時30分発、最終列車は1時15分着であるが、土曜日と祝日は最終列車が1時間遅くなる。

車両[編集]

車内

14号線専用のMP89 CAが使われている。これは1号線用のMP89 CCを自動運転対応にしたもので、CAはConduite Automatique(自動運転)の略である。ただし手動運転も可能であり、自動運転システムのトラブルの際や他線を経由しての回送の際には手動で運転される。

6両編成で、中間の4両が電動車となっており、全長は90mである。各車両ごとに片側3つのドアがあり、ドア間は2+1のクロスシートが一組あり、車端部はロングシートとなっている。先頭と最後尾の運転席に相当する部分もロングシートになっている。車両間は幅の広いでつながれている。ドアは自動開閉であり、ホームドアに対応している。

自動放送装置が備わっており、次駅名のアナウンスの自動放送が入る。パリの都市鉄道で次駅名の車内放送を行うのはこの14号線が初であり、近年は他の路線のメトロ(1号線、3号線、7bisおよび2号線の新型車両)、RER(A, B, E)、バス、トラムなどにも採用されている。

車両基地はオランピアドゥ駅から南西方向に進んだトンネル内にあり、日常的な検査はここで行なわれる。大規模な検査や改修作業は1号線シャトー・ドゥ・ヴァンセンヌ駅の東にあるフォンテネー(Fontenay)車両基地で行なわれる。オランピアドゥ駅開業までは現オランピアドゥ駅が車両基地として使われていた。

ブレーキ音は綺麗に整った倍音を伴い、時折ニ長調主和音(D, F#, A)がはっきり聞き取れる。これは決して偶然ではなく、通常のブレーキ音のような甲高く耳障りな音を楽音処理することで緩和している。

歴史[編集]

Météor計画[編集]

パリ初のメトロ路線の1号線はセーヌ右岸を東西に結ぶ路線であり、この軸はパリでもっとも重要な交通路の一つであった。1977年には1号線とほぼ並行して郊外へ直通するRER A線が開業したが、利用客は増える一方であり、その混雑が問題となっていた。

そこでRATPは1987年に東西高速メトロ(METEOR)の計画を発表した。これはパリ西部のポルト・マイヨーから南東部のメゾン・ブランシュまでサン・ラザール、シャトレ、リヨン駅を経由して結ぶものである。サン・ラザール-リヨン駅間については北駅東駅レピュブリック広場経由で結ぶ案(METEOR2) もあった。またフランス国鉄ではこれとは別にRERの新路線EOLE(Est Ouest Liaison Express、東西連絡急行)の計画があった。これはサン・ラザール駅地下から都心部を通ってRER A線東部の分岐の片方へ直通するものである。1989年10月にフランス政府はMétéorの建設を決定した。またEOLE計画はRER E線として実現することになった。同年11月にはサン・ラザール - トルビアック市街化規制区域(現ビブリオテーク・フランソワ・ミッテラン駅)間の建設計画が定められた。

1期区間[編集]

地質調査などの後、1993年から1995年にかけてトンネルの掘削が行われた。マドレーヌ駅からサン・マルタン運河までのトンネルはドイツ製のシールドマシンを用いて22ヶ月かけて掘られた。1995年から1997年にかけてレールの敷設、次いで駅の内装工事が行われた。

路線の工事と並行して自動運転システムのテストも行われた。環状鉄道プティト・サンチュール南部の旧メゾン・ブランシュ駅から現トラム3号線ポテルヌ・デ・プープリエ駅付近(現在も旧サンチュール時代の操車場跡が放置されている)の廃線跡を利用して試運転線が作られ、1995年から自動運転の試験が行われた。1997年5月からはレール敷設の完了した14号線南部で試運転が行われた。

こうして1998年10月15日に1期区間のマドレーヌ-ビブリオテーク・フランソワ・ミッテラン間が開業した。開業式典にはジャック・シラク大統領(計画開始時のパリ市長)が出席した。

延伸[編集]

サン・ラザール - マドレーヌ間は2003年12月16日に開業した。

この区間の工事は1998年7月に始まった。わずか500mほどの区間ではあるが、地上の道路がパリでももっとも混雑する道路であることに加え、多数のメトロ路線と交差すること、サン・ラザール駅の乗り換え通路を他線の運行を妨げることなく建設することなどのために5年の歳月を要した。サン・ラザール乗り入れにより、14号線の利用者数はおよそ30%増加した。

南側では2007年6月26日にビブリオテーク・フランソワ・ミッテラン - オランピアード間が開業した。この区間のトンネルは1期区間開業時にすでに掘られており、オランピアード駅が車両基地として使われていた。この区間の旅客化のため、トンネルを西へ延長して車両基地を移設した。

当初の予定ではオランピアード間は2006年には開業する予定だった。しかしオランピアード駅西方でのトンネル工事中に、地上の小学校の校庭が陥没する事故が発生した。校庭は無人だったため死傷者はなかったものの、この事故のため開業は2007年まで遅れた。なおパリ市南部の地下には古代から中世までの採石場跡があり、工事には細心の注意を要する。

年表[編集]

  • 1998年10月15日 - マドレーヌからビブリオテーク・フランソワ・ミッテラン間開業。
  • 2003年12月16日 - サン・ラザールからマドレーヌ間延伸開業。
  • 2007年6月26日 - ビブリオテーク・フランソワ・ミッテランからオランピアード間延伸開業。
  • 2020年12月14日 - サン・ラザールからメリー・ド・サン=トゥアン間延伸開業。

将来[編集]

北への延伸[編集]

サン・ラザール駅から13号線のラ・フルシュ駅まで延伸する計画である。ラ・フルシュは13号線のクリシー方面とサン・ドニ方面への分岐駅であるが、このうち一方を14号線に移管する構想がある。どちらを移管するかは決まっていないが、クリシー方面が有力である。これはこちらの支線の方が新しく距離も短いため、ゴムタイヤ化、自動運転対応に改造するのが容易であり、またサン・ドニからシャトレへはすでにRER B線、D線があるが、クリシーからシャトレ方面への路線はないため、ネットワークの形成の観点からも好ましいためである。

南への延伸[編集]

オランピアード駅から7号線のメゾン・ブランシュ駅まで延伸する計画である。メゾン・ブランシュから南では7号線は2つに分岐しているが、このうちのヴィルジュイフ方面の支線を14号線に移管する構想がある。さらに南へ進んでオルリー空港まで乗り入れる構想があり、2024年の工事完了を予定している[2]

メゾン・ブランシュ駅への延伸以降、プティト・サンチュール南部の試運転線跡を使った延伸計画があったが、並行するトラム3号線の完成により実現の可能性はほぼなくなった。

[編集]

リヨン駅

脚注[編集]

  1. ^ 年金改革の反対スト始まる、公共交通網が混乱”. JETRO (2019年12月10日). 2019年12月11日閲覧。
  2. ^ Calendrier” (フランス語). Prolongement d'Olympiades à Aéroport d'Orly de la ligne 14 du métro. 2021年6月13日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • RATP (フランス語他)