マルチギガビット・イーサネット

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マルチギガビット・イーサネット(Multi-gigabit Ethernet)は、イーサネットのうち、2.5Gbps/5Gbps (2.5GbE/5GbE)の通信速度を持つネットワーク規格の総称。

IEEE 802.3(IEEE 802.3bz)では2.5GBASE-Tおよび5GBASE-Tとして標準化された[1]。ベンダ独自の名称としてNBASE-TMGBASE-Tとも表現される。

歴史[編集]

マルチギガビットイーサネットの需要が高まった背景は、IEEE 802.11acなどの高速無線規格の転送速度が向上し、既存の主流の有線接続である1000BASE-Tを上回る速度が実現しつつあったことによる。有線の上位規格である10GBASE-Tでは普及率の高いカテゴリ5eケーブルが使えないことが判明したため、既存のギガビット・イーサネット10ギガビット・イーサネットの中間にあたる通信速度をツイストペアケーブルで安価に実現するための方法が検討されるようになった。

2014年10月に「NBASE-Tアライアンス」が設立され、シスコシステムズAquantia英語版フリースケールザイリンクスが参入した[2][3] 。同様の目的で2014年12月には「MGBASE-Tアライアンス」が設立され[4]、NBASE-Tとは対照的にMGBASE-Tの仕様を公開することを表明した[5]。最終的にこの2つのアライアンスはIEEEでの標準化にあたり協同している[6]

IEEE 802.3の「2.5G/5GBASE-Tタスクフォース」では2015年3月に標準化作業が始まり[7]、2016年9月23日にIEEE 802.3bzとして2.5GBASE-Tおよび5GBASE-Tの名称で承認された[8]

2020年6月、IEEE 802.3chとして標準化された2.5/5GBASE-T1では、主に車載組み込み機器の用途で最長15mのシングルペア通信の仕様がまとめられている[9]

技術仕様[編集]

ツイストペアケーブル#LAN規格も参照。

媒体 名称 規格 信号帯域幅 ケーブル ケーブル帯域幅 距離長 用途
ツイストペア 2.5GBASE-T 802.3bz-2016 100MHz Cat.5e 100MHz 100m ツイストペア
5GBASE-T 802.3bz-2016 200MHz Cat.6 250MHz 100m ツイストペア
2.5GBASE-T1 802.3ch-2020 撚対線1対 15m 車載用ツイストペア
5GBASE-T1 802.3ch-2020 撚対線1対 15m 車載用ツイストペア
バックプレーン 2.5GBASE-KX 802.3cb-2018 基板上配線 1m 回路配線
5GBASE-KR 802.3cb-2018 基板上配線 1m 回路配線

2.5G/5GBASE-T[編集]

2016年にIEEE 802.3bzとして標準化された。伝送符号化は10GBASE-Tの方式をそのまま流用し、64b/65bのブロック変換・PAM-16・DSQ128変調を組み合わせている。この符号の動作レートを半分の400MBaud(パルス)に落とすことで5Gbpsを、さらに半分の200MBaudに落とすことで2.5Gbpsをそれぞれ実現している。これによりケーブルに要求される帯域幅が緩和されるため、2.5GBASE-T(信号帯域幅 100MHz)および5GBASE-T(同 200MHz)は、それぞれカテゴリ5e(ケーブル伝送帯域幅 100MHz)およびカテゴリ6(同 250MHz)のケーブルにおいて最長100mの接続ができる[10][11][12]

2.5G/5GBASE-Tでは、PoE (IEEE 802.3bt) もサポートされている。これはNBASE-Tアライアンスが特にこだわった仕様であり[13][14]Wi-Fi6対応アクセスポイントなどの高速無線LAN機器を1本のケーブル接続で給電しながら通信させることが可能となった。

2.5G/5GBASE-T1[編集]

2020年にIEEE 802.3chとして標準化[9]。車載組み込み機器用途で、1対のツイストペア(シングルペア)で最大15m接続する。10GBASE-T1とともに MultiGBASE-T1 の総称で規定され、伝送符号化も共通の方式を採る。PAM4の動作レートを1406.25 Mbaud, 2812.5 MBaudにすることでそれぞれ2.5Gbps, 5Gbpsを実現している[15]

適応・普及[編集]

Wi-Fi5 Wave2 (802.11ac第2世代)やWi-Fi6 (802.11ax)などの広帯域な無線LANが登場すると、有線LANの1000BASE-Tがボトルネックとなった。これを10GBASE-Tに置き換えるにもカテゴリ6以上へのケーブル張り替えが必要となる。信号周波数は100BASE-TX → 1000BASE-Tの移行に際しては2倍だったのに対し、1000BASE-T → 10GBASE-Tの移行では6.4倍に上り、これは信号処理回路のコストアップに直結するため、当初は10GBASE-T機器も高価であった[16]

IEEE 802.3bzの標準化に先駆けて、2015年にNBASE-TアライアンスからいくつかのNBASE-T製品が先行発表されている。下位互換性も考慮され、100BASE-TX/1000BASE-T/10GBASE-T機器とのオートネゴシエーションにも対応したものがあり、NBASE-T対応製品間ではケーブル品質に応じて10G、5G、2.5Gの優先順位で通信速度が自動判別される[17][18]

2019年頃になり、10GbE対応機器の値下がりにより10GbE環境を個人レベルでも実現しやすくなってきたが、10GbEは一般向けとしてはオーバースペックな部分もあった。そこで、より個人向けに導入しやすい価格帯の製品として、マルチギガビット製品が多く発売されるようになった。

参考文献[編集]

  1. ^ IEEE 802.3bz-2016 - IEEE Standard for Ethernet Amendment 7: Media Access Control Parameters, Physical Layers, and Management Parameters for 2.5 Gb/s and 5 Gb/s Operation, Types 2.5GBASE-T and 5GBASE-T”. IEEE Standards Association. 2021年12月3日閲覧。
  2. ^ "Industry Leaders Form NBASE-T Alliance to Promote Multi-Gigabit Ethernet Technology for Enterprise Wired and Wireless Access Networks" (Press release). 28 October 2014. 2020年7月30日閲覧
  3. ^ The NBASE-T Alliance℠”. NBASE-T Alliance, Inc. 2015年12月30日閲覧。
  4. ^ "Open Industry Alliance and IEEE to Bring 2.5G and 5G Ethernet Speeds to Enterprise Access Points" (Press release). 2020年7月30日閲覧
  5. ^ Want 2.5G/5G BASE-T Connections? They're coming.”. 2020年7月30日閲覧。
  6. ^ IEEE's 802.3BZ Task Force Mediates MGBASE-T and NBASE-T Alliances” (2015年6月12日). 2021年12月2日閲覧。
  7. ^ IEEE 802.3bz Project PAR”. IEEE 802.3bz Task Force. 2015年9月22日閲覧。
  8. ^ FW: Approval of IEEE Std 802.3bz 2.5GBASE-T and 5GBASE-T”. IEEE P802.3bz Task Force. 2016年9月24日閲覧。
  9. ^ a b IEEE 802.3ch-2020 - IEEE Standard for Ethernet Amendment 8:Physical Layer Specifications and Management Parameters for 2.5 Gb/s, 5 Gb/s, and 10 Gb/s Automotive Electrical Ethernet”. IEEE Standards Association (2020年6月4日). 2021年12月3日閲覧。
  10. ^ IEEE 802.3-2018, Clause 125, 126
  11. ^ 株式会社バッファロー. “新規格「IEEE 802.3bz(2.5/5GBASE-T)」に対応。 最大10GbEまでに対応し、VLAN・QoS機能を搭載した 法人様向けスイッチを発売”. 株式会社バッファロー. 2022年7月5日閲覧。
  12. ^ 株式会社インプレス (2017年11月16日). “【10GBASE-T、ついに普及?】(第10回)ケーブル変えずに5倍速! CAT5が使える「2.5G/5GBASE-T」、消費電力も低減【ネット新技術】”. INTERNET Watch. 2022年7月5日閲覧。
  13. ^ Cisco NBaseT switches”. 2015年6月3日閲覧。
  14. ^ NBASE-T™ Technology”. NBASE-T. NBASE-T Alliance (2015年). 2021年12月1日閲覧。
  15. ^ IEEE 802.3ch, Clause 149.3.2, Figure 149-6.
  16. ^ マルチギガビットイーサネット徹底解説 第1回”. 日経XTECH (2016年4月4日). 2021年12月3日閲覧。
  17. ^ マルチギガビットイーサネット徹底解説 第3回”. 日経XTECH (2016年4月6日). 2021年12月3日閲覧。
  18. ^ なお、非対応機器との接続では10G、1G、100Mの優先順位となる。また、非対応機器との接続で以下の互換性が問題となる可能性が同記事にて指摘されていた。

外部リンク[編集]