ムラサキシキブ

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ムラサキシキブ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
: ムラサキシキブ属 Callicarpa
: ムラサキシキブ C. japonica
学名
Callicarpa japonica Thunb. (1784)[1][2]
英名
Japanese beautyberry

ムラサキシキブ(紫式部[3]学名: Callicarpa japonica)はシソ科[注 1]ムラサキシキブ属落葉低木である。日本各地の林などに自生し、また果実が紫色で美しいので観賞用に栽培される。別名、ミムラサキ[3]。名前の由来は、紫色に熟す重なり合った実を京では紫重実(むらさきしきみ)とよび、平安時代の女性作家である紫式部に例えたものだというのが通説である[4][3]スウェーデン植物学者カール・ツンベルクが学名を命名した[2]

分布など[編集]

北海道本州四国九州琉球列島沖縄)まで広く見られ、日本国外では朝鮮半島中国台湾に分布する[4]。山野[4]や低山の森林にごく普通に見られ、林道の林縁などにも生える[3]。人為的に庭などにもよく植えられる[5]。ムラサキシキブ(コムラサキ、シロシキブ)の名所として、京都・嵯峨野の正覚寺が有名である。

特徴[編集]

落葉広葉樹低木[4]、高さ2 - 3メートル (m) 程度になる[5]。小枝はやや水平に伸びる。樹皮は淡褐色で、若木の樹皮は滑らかである[5]。一年枝は細く、灰褐色でほぼ無毛である[5]。太い幹の樹皮は縦に裂けてくる[5]

対生し、菱形に近い長楕円形[6]、鋭尖頭(先端が少し突き出すこと)、長さ6 - 13センチメートル (cm) 。細かい鋸歯がある。葉色は黄緑で洋紙質、薄くて表面につやはない。初めは表側に細かい毛があることもある。葉の裏側には黄色の腺点がある[4]。秋には淡い黄色に紅葉する[6][3]

花期は初夏から夏(6 - 7月ごろ)[4]。対になって葉腋から集散花序を出して、小さな淡紫色のが咲く[4]。果期は秋(10月ごろ)で、果実が熟すと紫色になる[3]。果実は直径3ミリメートル (mm) で球形。葉が散ったあとも、果実や花序の柄が冬までよく残る[3][5]。栽培品種には白実のものもあり、シロシキブ(学名: Callicarpa japonica var. japonica f. albibacca[7])とよばれる[4]

冬芽は星状毛が密生するベージュ色の裸芽で、短い柄がついた細長い幼葉が向き合っている[5]。枝先の頂芽側芽よりも大きく、側芽は枝に対生する[5]。葉痕は半円形から円形で突き出しており、維管束痕が1個つく[5]

変異[編集]

非常に変異の幅が広い植物で、栽培もされるため、園芸品種もある。特に果実が白いものはシロシキブと呼ばれ、よく栽培される。その他に果実の小さいコミムラサキシキブ、葉の小さいコバノムラサキシキブなどの名称で呼ばれるものもある。ただし栽培品には下記のコムラサキもあるのでその点には注意されたい。

オオムラサキシキブ[編集]

より大きな変異としては変種として扱われるものにオオムラサキシキブ(学名: Callicarpa japonica var. luxurians[8])がある。岩手県の準絶滅危惧の種に指定されている[9]。基本変種に比べて葉は厚く大きく、長さ20cmにも達する。枝や花序も一回り大きい。本州以南に見られるとされ、やや南よりの分布を持つ。『琉球植物誌』では琉球列島のものはすべてこれであると判断している。しかし、この二者は典型的なものでは一目で全くの別物と思えるほどに異なるのに、中間的なものが結構あり、明確な判断が難しい例も多い。

近似種など[編集]

同じ仲間にヤブムラサキや庭木に多いコムラサキなどがある[3]

コムラサキ[編集]

コムラサキ(小紫[5]、学名: Callicarpa dichotoma[10])も、全体に小型だが果実の数が多くて美しいのでよく栽培される。別名コシキブ[10]。和名の由来は、紫色の実が美しく、平安時代の作家・歌人で知られる紫式部にちなむ[11]。落葉低木で、山麓や原野の湿地に自生する[11]。樹皮は黄褐色で滑らかである[5]。枝は細く、紫褐色をしている[11]。小枝は細長く伸びて垂れ気味になり、枝先が枯れることが多い[5]。葉は倒卵状楕円形[11]。秋、薄い黄色に紅葉する[6]

花期は夏(6 - 8月ごろ)で[5]、葉の付け根から散形花序を出して、薄紫色の花を咲かせる[11]。果実は紫色に熟す[11]。ムラサキシキブの仲間では、一番果実が多くつく[5]。冬芽は球形や卵形をした淡褐色の星状毛に覆われた鱗芽で、4 - 6枚の芽鱗に包まれており、側芽は対生する[5]。葉痕は半円形で維管束痕が1個つく[5]

本州四国九州沖縄朝鮮半島中国台湾に分布する[11]岩手県絶滅、その他多数の都道府県レッドリスト絶滅寸前絶滅危惧種危急種・準絶滅危惧の種に指定されている[12]。自生のものはなかなか見る機会が少ないが、植えられたものを庭先や庭園などで見ることが多い[5]庭木としての利用も多い[11]

ムラサキシキブとは別種であるが混同されやすく、コムラサキをムラサキシキブといって栽培していることが大半である。全体によく似ているが、コムラサキの方がこぢんまりとしている。個々の特徴では、葉はコムラサキは葉の先端半分にだけ鋸歯があるが[11]、ムラサキシキブは葉全体に鋸歯があることで区別できる。また、花序ではムラサキシキブのそれが腋生であるのに対して、コムラサキは腋上生で、葉の付け根から数mm離れた上につく。

ウラジロコムラサキ[編集]

ウラジロコムラサキ(学名: Callicarpa parvifolia[13])は、環境省のレッドリストで絶滅寸前の種に指定されている。小笠原諸島固有種父島では絶滅し、兄島に少数の個体が残っている[14]

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト

その他[編集]

○○ムラサキシキブという名は、ムラサキシキブの品種または、変種に付けられている。ムラサキシキブ以外のムラサキシキブ属の植物には、○○ムラサキと言う名が付けられている。

そのほか日本に自生する似たものにはヤブムラサキC. mollis、トサムラサキC. shikokiana などがあり、同属は東アジア東南アジアアメリカ大陸オーストラリアなどに数十種がある。

利用[編集]

庭木や花材にするほか、まっすぐで丈夫な幹からとれる材は道具の柄に使われた[4]

その花と、むしろ果実を愛でる目的で栽培されることがある。ただし、上記のように、この名で栽培されているものは往々にしてコムラサキである。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 最新の分類体系であるAPG体系ではシソ科(Lamiaceae)であるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではクマツヅラ科(Verbenaceae)に分類された[1]

出典[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Callicarpa japonica Thunb. ムラサキシキブ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月7日閲覧。
  2. ^ a b Callicarpa japonica Thunb.(ムラサキシキブ)” (英語). ITIS. 2011年9月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 亀田龍吉 2014, p. 118.
  4. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 153.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 56
  6. ^ a b c 林将之 2008, p. 75.
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Callicarpa japonica Thunb. var. japonica f. albibacca H.Hara”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月7日閲覧。
  8. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Callicarpa japonica Thunb. var. luxurians Rehder オオムラサキシキブ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月7日閲覧。
  9. ^ 日本のレッドデータ検索システム(オオムラサキシキブ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年9月16日閲覧。
  10. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Callicarpa dichotoma (Lour.) K.Koch コムラサキ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月7日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 152.
  12. ^ 日本のレッドデータ検索システム(コムラサキ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年9月16日閲覧。
  13. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Callicarpa parvifolia Hook. et Arn.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月7日閲覧。
  14. ^ 植物絶滅危惧種情報検索(ウラジロコムラサキ)”. 生物多様性情報システム. 2011年9月16日閲覧。

参考文献[編集]

  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日、118頁。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、56頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日。ISBN 4-522-21557-6 

関連項目[編集]