ユダヤ暦

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ユダヤ暦

ユダヤ暦(ユダヤれき、ヘブライ語: הלוח העברי‎、英語: Hebrew calendar)は、ユダヤ人の間で使われている暦法である。

概略[編集]

ユダヤ人はこの暦法をヘブライのの算出に用いる。それによって読むべきトーラーを決め、その日に読むべき聖詩を定め、祝日を定めている。正月にあたる「ニサンの月」は大麦の収穫の始まりを祝う月でもある。

バビロン捕囚の影響[編集]

「ニサンの月」は別名「アビブの月」というように、月名が2つ存在するのは、バビロン捕囚期(『列王記』までの時代と『エズラ記』より後の時代の中間期)にバビロニア暦の影響を受けて月の名に変化があったためという説がある[1]。このニサンという月名もバビロニア語の「ニサンヌ」に由来する。バビロン捕囚中、キュロス2世(大王)による解放以前、メディアの勢力下となった時代を想定して描いている『エステル記』の3章7節に「ニサンの月」という月名があらわれる。

置閏法[編集]

太陽暦グレゴリオ暦とは異なり太陰太陽暦である。第13月(閏月)の挿入は19年に7回の頻度(メトン周期)で行われている。

宗教暦と政治暦[編集]

古代ユダヤには、春から1年が始まる宗教暦(または「教暦」「新暦」ともいう)と、秋から1年が始まる政治暦(または「政暦」「旧暦」ともいう)との2種類があったが、ユダ族(南王国)では後者を使っていたため、その流れで現代のユダヤ暦も政治暦のほうに準拠している。宗教暦の年始めのアビブの月で、今の太陽暦(グレゴリオ暦)では3月から4月の時期にあたり、中国の陰暦では仲春(旧暦の2月)または季春(旧暦の3月)にあたる。政治暦では秋から新年が始まるのでこの月は7番目(閏年では8番目)になる[2]

バビロン捕囚後にあたる時代に描いた『エステル記』に月名がでてくるが、『エステル記』ではテベトを「十月」、シワンを「三月」と呼んでいることから春から始まる宗教暦だったとする説と、月名としての「十月」や「三月」は必ずしも1年の始めの月から数えた数字とは限らない(古代中国顓頊暦の月名や現代の英語の月名などに例がある)ので秋から始まる政治暦であっても問題ないとする説の両方がある。単純にこの頃(『エステル記』の後の時代)に宗教暦から政治暦に移行したというわけではなく、北王国滅亡以降は政治暦を主としつつも古くから両者が並行していた。

ユダヤ紀元[編集]

創世紀元(そうせいきげん)、宇宙創世紀元(うちゅうそうせいきげん)、あるいはユダヤ紀元(ユダヤきげん)、世界紀元(せかいきげん)(Anno Mundiアンノ・ムンディ)は、ユダヤ教において神が世界を創世した日とされる西暦換算で紀元前3761年10月7日紀元とする紀年法である。グレゴリオ暦との間では差があるため、現在の西暦と日付は対応していない。ただし、これは中世に算出されたもので古代ユダヤ史とは関わりがない。

ユダヤ暦と、ユダヤ教の年中行事・祈り[編集]

起源
I 旧約聖書に記述のあるもの。太字★三大巡礼祭出エジプト記23:17)
II 旧約聖書の故事や、その後のユダヤ教史で形成
III 近代に形成(現代イスラエル)
IV 失われた祭儀
日数 礼拝、行事など グレゴリオ暦の月
  (参考:バビロニア暦 古代の暦
(cf.カナン暦
現代のユダヤ暦
Nisannu アビブの月 Abhibh ニサン
Nisan, Nissan
30日 01 ローシュ・ホーデッシュ Rōš Hōdheš(=新月)の礼拝 03月/04月
13 ベディーカト・ハーメーツ bədhīqath chāmētz
14 タアニート・ベホーロート Ta'anit B'khorot 初子の断食
15–21   ペサハ(過越し祭)★
Pesach, Pasch, Passover
21 (ペサハ最終日)
イズコール Yizkōr 詠唱
16–翌々月5 オメル(‘Ōmer)
27 ショアの日(ホロコースト記念日) Yom HaShoah
ziw mu, Ayyaru ジブの月
Zīw(Zif)
イヤール
Iyyar
29日 01 新月の礼拝 04月/05月
04 イスラエル戦没者記念日
05 イスラエル独立記念日
18 オメルの33日ラグ・バオメルלַ״ג בָּעׂמֶר Lag Ba‘Ōmer
ティベリアではシモン・バル・ヨハイ祭(ヒッルーラー・デラッビー・シムオーン・バル・ヨハイ)が行われる
Simanu 三月 シバン
Siwan, Sivan
30日 01 新月の礼拝 05月/06月
06– ペンテコステ(Pentecoste、五旬節)、シャブオット(七週の祭り)★ cf.en:Whitsunday
07 イズコール詠唱
Dumuzi, Du‘uz 四月 タンムーズ
Tammūz
29日 01 新月の礼拝 06月/07月
17 タムーズの17日
Abu 五月 アブ
Abh, Av
30日 01 新月の礼拝 07月/08月
09 アブの9日 Tisha' b'Av
elulu 六月 エルール
Elul
29日 01 新月の礼拝 08月/09月
Tashritu エタニムの月
Ethanim
ティシュリー
Tishri
30日 1–10 01,02 新年祭、ローシュ・ハッシャーナー 09月/10月
01–10 畏れの日々(ヤミーム・ノライーム)
Yamim Noraim
03 ゲダリヤの断食
Fast of Gedaliah(Tzom Gedaliah)
09 贖罪式カッパーラkapparah
10 大贖罪日(ヨム・キプール、ヨム・キップール) Yom Kippurイズコール詠唱
15–21 仮庵の祭り(スコット)★
Sukkoth (Feast of Tabernacles)
15 イスラエルでは祝日
16 イスラエルでは祝日
17–19 Chol haMoed。イスラエルでは半日休日
20 半日休日
21 ホシャナ・ラバ Hosha‘na rabba。イスラエルでは半日休日
22 シェミーニー・アツェレット Shmini ‘atzerethイズコール詠唱
律法歓喜祭(スィムハット・トーラー) Śimchath Tōrāh, Rejoicing over the law
Arukhsamu 八月 マルヘシュヴァン
Marchešwān, Cheshvan
29/30日 01 新月の礼拝 10月/11月
Kislimu 九月 キスレーウ
Kislew, Kislev
29/30日 01 新月の礼拝 11月/12月
25–翌月2/3 ハヌカ Chanukkah
T‘ebetu 十月 テベット
T‘ebheth
29日 01 新月の礼拝 12月/01月
10 テベットの10日 Asarah beT‘ebeth
shabat‘u 十一月 シュバット
Šәbhāt‘
30日 01 新月の礼拝 01月/02月
15 樹木の新年 T‘ū biŠәbhāt‘(ローシュ・ハシャナー・ラ、イラノース)
Adarru 十二月 アダル
Adhār, Adar
30日 01 新月の礼拝 02月/03月
13 ニカノルの日
タアニート・エステル(エステルの断食)
14 プリムPūrīm
15 シュシャン・プリム
Makaruša Addari 閏月 アダル・シェーニー
Adhār Šēnī
ヴァ・アダル
waAdhār, Veadar
アダルII
Adar II
29日      

注釈[編集]

  1. ^ 別の説では王国時代にすでに北方の部族(北王国)ではバビロニアからの文化的影響で南王国とは別のバビロニア風の月名を使っていた可能性も考えられている。
  2. ^ バビロニア暦の新年は春分を基準として決まり、春分に最も近い朔日(新月の日)が元日である。春から1年が始まるのはバビロニアの他にペルシアもそうであり、秋から1年が始まるのはミタンニ王国やセレウコス朝などがあり、古代オリエントには古くから両方の暦法が並存した。南王国はエジプトからの文化的影響を受けたが、エジプト暦は恒星暦であるので趣旨が異なるが夏の終わり頃が元旦に当たり、ほぼ秋から始まる部類に入る。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]