公共放送

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公共放送(こうきょうほうそう、: Public broadcasting)は、公共企業体公的機関により行われる放送[1]。また、この放送を運営する事業体。受信料を主たる財源とする非営利事業である場合が多い[2]国営放送民間放送対義語である。

概説[編集]

電波は国民共有の財産であることから、民間放送も公共性が高いとも考えられるが、事業存続のために営利を目的としていることから、民間放送は「商業放送」と呼んで区別される。また、公共放送は基本的に営利を目的としないことから、広告テレビコマーシャル)を放送しない、あるいは広告による収入割合や広告の挿入・表示方法などに、商業放送以上の制限がかけられる場合が多くある。

放送の財源は、テレビ受像機所有者から徴収した受信料、TVライセンス料などである。国家によっては、政府や地方自治体からの補助金交付金があったり、企業・団体・個人の寄付金で賄われていたりすることもある。

日本では特殊法人である日本放送協会(NHK)と特別な学校法人である放送大学学園放送大学)が該当する。ただし実際には、NHK放送文化研究所でさえも明確に定義し切れていない[3][4]

総務省情報流通行政局は、基幹放送普及計画基幹放送用周波数使用計画などの告示、情報通信白書や「ケーブルテレビの現状」などの文書などの所管事項において、基幹放送事業者と登録一般放送事業者はNHK、放送大学学園、その他の三種類に大別されるものとし、その他を民間事業者と規定している。届出一般放送事業者については『民間事業者』を規定していないものの、敷衍して考えれば、NHKと放送大学学園を公共放送事業者と暗に規定していることとなる。

公共放送「3つの柱」[編集]

  • 誰でも好きな番組を自由にみることができること(視聴者に番組をみる自由を提供)
  • 文化の担い手であって、そこに住む人々の心の絆を強めること
  • 視聴者との対話を進め、人々に指針を提供することにより、社会の重要な構成要素となること

(ヨーロッパメディア研究所より)

各国の主な公共放送[編集]

受信料のみで賄われているもの[編集]

デンマーク
TV 2
スウェーデン
SVT
ノルウェー
NRK
フィンランド
YLE
財源は受信料と一定規模の年収のある商業放送企業者によって支払われる事業運営許可料。政府所有の株式会社となっており、国会が選出した委員の運営委員会によって監督されている。

受信料+政府負担で賄われているもの[編集]

日本
NHK(日本放送協会)
イギリス
BBC(英国放送協会)

受信料+広告料で賄われているもの[編集]

大韓民国(韓国)
KBS(韓国放送公社), EBS(韓国教育放送公社)
韓国のテレビ受信料は、韓国電力公社電気料金に含まれており、未払い問題はほとんど発生していない。料金は概ね2,500ウォン程度で推移しており、広告料金でも支援されている都合上、日本円換算で250円程度と、かなり低料金となっている。内訳としては91がKBS受信料、3%がEBS受信料、6%が委託手数料であり、電力公社が直接徴収する[5]
KBSにおける広告放送は、実施しているチャンネルと実施していないチャンネルに分かれ、地上波テレビではKBS第1テレビジョンだけだが、ラジオではKBS第1ラジオとKBSクラシックFMとKBS韓民族放送KBSワールドラジオでは実施していない。KBS WORLDのテレビチャンネル(KBS直営の国際放送のみ)と、KBS News D(韓国国内対象のテレビニュース専門チャンネル)では、ステーションブレイクの放送はされていないが、KBS2の番組におけるタイムCMは実施されている。KBS第3ラジオでは、KBSの自社キャンペーンと公益広告協議会による公共広告が放送され、企業広告の放送はされていない。それ以外の地上波チャンネルと子会社のKBS Nによる有料チャンネルは企業によるスポットCMを実施している。
なお、EBSでの広告放送は2001年から始まり、地上波テレビのEBS第1テレビとケーブルチャンネルのEBS KIDSだけで実施され、それらに該当しないテレビチャンネルと全てのラジオチャンネルでは実施されていない。
ドイツ
ARD,ZDF
第二次世界大戦後、西ドイツはイギリスをモデルに放送局が再編されて公共放送体制をとり、東ドイツ国営放送ドイツテレビジョン放送)体制をとった。西ドイツでは各地方の公共放送局の連合体 (ARD) と、全国で単一の放送局 (ZDF) の2つの公共放送ネットワークが作られた。1990年東西ドイツの統一では旧西ドイツの放送体制がそのまま受け継がれ、旧東ドイツの国営放送は各地域の公共放送 (ARD加盟) へと改編された。一定の時間帯に限ってテレビ・コマーシャルが放送されている。
フランス
フランス・テレビジョン - France 2,France 3,France 4,France 5
株式会社が公共放送を担っている。政府が全額出資者であり、運営・財政面等で政府からの強い統制を受ける。テレビ所有者から「テレビ受信機使用権料」という名目で受信料を徴収している。2005年からは住民税に受信料を上乗せする形で徴収する形態に変わった。
イタリア
RAI
テレビ・ラジオの所有により受信料が課せられるが、日本と同様に罰則もなければ遅延利息もないのが特徴である。
アイルランド
RTE
アイスランド
RUV
スリランカ
SLRC, ITN

交付金+広告料で賄われているもの[編集]

オーストラリア
SBS(特別放送サービス
多言語放送。
スペイン
RTVE, SEPI
ニュージーランド
TVNZ
かつては受信料により運営していたが、財政状況悪化により1987年以降は商業放送形態のTVNZ(Television NewZealand)となった。TVNZは公共放送時代のニュージーランド放送協会のテレビ部門を引き継ぎ、1988年、政府の規制緩和政策により株式会社組織となる。株式は100%政府所有。ニュース、ドキュメンタリー、ドラマなどの総合編成。地上波のTV One、TV2ともに広告を入れて放送している。
大韓民国
文化放送(MBC)
かつては民間放送であったが、言論統廃合以降はKBSが70%を出資するようになったため、株式会社株式会社 文化放送)としての公営放送となっており、系列放送局も大半のMBC製作番組をネットする地域民放からMBC本体の連結子会社に変更されているため、最低51%以上をMBC本体が出費している。その後はMBCの母体となる放送文化振興会が大韓民国政府全額出費の公共団体として設立されてからは、KBSの持ち分を放送文化振興会が全て引き継ぎ、現在までに至っている。
中華民国
台湾公共放送グループ中国語版(TBS)
1998年7月1日に政府からの交付金により運営するPTS(公共テレビ)が設立された。運営は国家通信放送委員会の監督を受ける。2006年7月1日にCTS(華視)政府が出資する商業放送)と合併、TBS(Taiwan Broadcasting System 中国語名:台湾公共広播電視集団)という新しい公共放送機関となった。現在は、他に方言テレビ局(客家テレビ:Hakka TV)なども傘下となっている。
ベルギー
RTBF
かつては受信料制度を導入していたが、極度の赤字を抱えたため、政府がほぼ100%株主の商業放送形態となっているところが多い。

広告料のみで賄われているもの[編集]

イギリス
チャンネル4
広告収入をITVと分け合う時期もあった。

交付金や寄付金などで賄われているもの[編集]

アメリカ
公共放送サービス(PBS), アメリカ公共放送社(CPB), NPR
1960年代頃より発足。主に教育放送を目的としたものが多い。PBSは企業寄付団体のCMを放送する(個々の商品の広告ではなく企業を紹介する広告)。
オーストラリア
オーストラリア放送協会(ABC)
連邦政府交付金で運営されている。
カナダ
カナダ放送協会(CBC)
増大していたアメリカのラジオ放送の影響を懸念する動きから、カナダ政府が1936年に設立した。
インドネシア
TVRI
国内にある5つの民放局が広告収入の12.5%をTVRIに納めることにより賄われている。5つの民放局はTVRIが放送する国家行事、定期ニュースを中継する義務を負う。
タイ
タイ公共放送英語版(ThaiPBS)[6]
東南アジア初の公共放送局。現局名としては2008年より放送開始している。1996年7月に放送開始した民間局ITVがその前身であるが、経営者交代を経て2007年TITVとなり、さらに翌年1月「公共放送機構法」発効とともに現在の局名へ変更された。運営資金は酒税・たばこ税の一部で賄われている[6]

公共放送を全く持たない国[編集]

ナウル
国営放送のナウルテレビがその役割をしている。
中華人民共和国
国営放送である中国中央電視台が担っている。
朝鮮民主主義人民共和国
国営放送である朝鮮中央放送のみが担っており、北朝鮮の現地資本によるラジオ・テレビジョン放送局は全て同局が運営している。
ベトナム
国営放送であるベトナムテレビジョンが担っている。

その他[編集]

日本
放送大学学園
授業料日本国政府からの補助金(運営費用の過半数)で賄われている。運営費用の過半数が政府から拠出されているため、放送大学国営放送と捉えられることもある。なお、旧法人は、日本国政府が全額出資する特殊法人だったため、事実上は国営放送であった。
ロシア
チャンネル1

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ ブリタニカ国際大百科事典
  2. ^ 『ブリタニカ国際大百科事典』
  3. ^ 「NHK改革 公共放送の将来を語れ」東京新聞』 2007年10月1日
  4. ^ NHKオンラインでは2022年度まで「NHK Corporate Information」において『NHK, Nippon Hoso Kyokai (Japan Broadcasting Corporation), is Japan's only public broadcaster.』(NHK(日本放送協会)は日本で唯一の公共放送です)と記されていた。
  5. ^ 金泰均 (2023年7月11日). “テレビ受信料を分離徴収へ 大統領が改正案承認=韓国”. 聯合ニュース. 2023年7月11日閲覧。
  6. ^ a b 世界情報通信事情・タイ - 総務省(日本)

関連項目[編集]