反論権

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反論権(はんろんけん)とは、マスメディア報道等により批判・中傷を受けた者(報道被害者)が、当該マスメディアに対し、当該マスメディアの紙面上又は、放送上にて反論する機会を求める権利。

アクセス権の一類型である[1]

概略[編集]

反論権は、民放上の不法行為法の成立を前提とする狭義の反論権と、不法行為法の成否を問わないで認める広義の反論権がある[2]

なお、狭義・広義共に、批判を受けたのと同一の紙面スペース又は同一の放送時間・同一の分量・無料反論の確保を前提としている。

大陸法系の西ヨーロッパ各国を中心に反論権を認める立法が存在している[3]

反論権法制化の各国の動向[編集]

フランス

フランスでは、世界で初めて反論権の法制化を実施。1822年出版法によりプレスにおける反論権を導入した。1881年に体系化され今日に至っている。また、1972年には放送法にも反論権が盛り込まれた[4]

ドイツ

ドイツでは、フランスの出版法を参考に、1831年にバーデン州出版法によって最初に反論権が制定された。ドイツ連邦では、1874年に帝國出版法として反論権を法制化された。第二次世界大戦終結後、各州で出版法から放送法、放送法からメディア法へと移行しつつ、ドイツでは武器対等の原則を採用しているのが特徴である[5]

韓国

韓国では、ドイツ法を参考・移植して、1980年に言論基本法が制定され、その中で反論権が盛り込まれ、その後に制定された定期刊行物登録等に関する法律(定刊法)・改正放送法、それらの法を一元化した言論仲裁および被害救済等に関する法律(報道被害救済法)にも反論権は盛り込まれた[6]

英米法圏の国々

アメリカカナダ英国ニュージーランド等の英米法の国々では、法制化されていない。

日本の動向[編集]

1909年に公布・施行された新聞紙法で「正誤・弁駁権」制度が条文に明記され法制化されていたが、終戦後の連合国軍最高司令官総司令部による指示(GHQ指令)により、同法が廃止された(1949年に正式廃止)ので、以後このような制度は作られていない。

判例は、サンケイ新聞事件において、反論権なる制度を法令の根拠もないため認めなかった。

日本の学説上の動向[編集]

従来の通説

多くの憲法学者や一部の民法学者は、最高裁判所が指摘した観点から、反論権には否定的であり、民主的で自由な議論に対する国家による言論統制に繋がる[7]、戦前の新聞紙法の復活にも繋がるという指摘もなされている[8]。主張者に芦部信喜樋口陽一ほか。

近時の有力説

若手の憲法学者やメディア法(言論法)学者などを中心に、言論の多様性に繋がり[9]、司法的救済よりも簡便であるという理由[10]から反論権に肯定的な見解が出されている。主張者に市川正人田島泰彦ほか。

また、一部のメディア法(言論法)学者は、隣国の韓国でも導入されている事を踏まえ、さらに進んで、インターネット上にも反論権を認めてはどうかという見解も出されている[11]

脚注[編集]

  1. ^ 右崎正博「名誉毀損と反論権」浦田賢治編『立憲主義・民主主義・平和主義』三省堂、2001、p403
  2. ^ 韓永學「反論権をめぐる国際的動向と日本の課題」浮田哲ほか編『権力vs市民的自由』花伝社、2018、p41
  3. ^ 曽我部真裕「アクセス権と反論文の掲載」山田健太ほか編『よくわかるメディア法』ミネルヴァ書房、2011、p107
  4. ^ 大石泰彦『フランスのマス・メディア法』現代人文社、1999、p106以下
  5. ^ 鈴木秀美『放送の自由』信山社出版、2000、p38以下
  6. ^ 韓永學『韓国の言論法』日本評論社、p47以下及びp200以下
  7. ^ 幾代通「新聞による名誉毀損と反論権」星野英一編『私法学の新たな展開』有斐閣、1975、p462以下
  8. ^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』青林書院、1995、p542
  9. ^ 右崎正博「反論権考」杉原泰雄ほか編『論争憲法学』日本評論社、1994、p142以下
  10. ^ 田島泰彦「表現の自由とメディアをめぐって」田島泰彦編『表現の自由とメディア』日本評論社、2013、p14
  11. ^ 韓永學「インターネットにおける人権侵害の救済」前掲『表現の自由とメディア』、p114以下

参考文献[編集]

関連項目[編集]