摺師

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摺師(すりし)とは、版画において、色料[注釈 1]を付着させた版を用いて、に摺る職人のこと。本項では、多色摺りの浮世絵、則ち錦絵の摺師の作業について述べる。

概要[編集]

絵師の下絵及び指示に従って、彫師によって出来上がった版木は、摺師に渡る。

まずは主版(おもはん。輪郭線を彫った版木。)から摺る。刷毛(明治時代後半からはブラシが主流に[2][3])で版木に墨若しくは色料を版木に染み込ませ(版木表面に乗せるのではない[4]。)、その上に適度に湿らせた紙を置く。その際、紙がずれないように、紙の角と下端を、二か所の目印、「見当」にあてる。そして馬連を用いて、適度に力を入れ、版木内に含まれた色料を吸い取るように摺り出す[4]

馬連は摺師の手作りで、ひも状にした竹皮を繋げて巻いた「芯」、渋紙を貼り重ね、最後は漆で固め、芯を含める「当皮あてかわ」、それを包み込む竹皮の「包み皮」で構成される[5]

その後は色版になる。多色摺りなので、色数だけ版木が必要になるが、面積の狭い色は、他の色版と兼用することがある。上記同様、版をずらさないことが肝要である。色料を用いず、馬連で摺るだけで、地色を活かす凹凸表現の「空摺り」[6]や、版木を雑巾等で湿らせてから色料を摺り込み、にじませる「ぼかし」[7]雲母を蒔く雲母摺り[8]もある。

全ての色版が摺り上がったら、版元と絵師が見分し、問題なければ、地本問屋・絵草紙屋(地本問屋と異なり、版行はしない販売専業店。)に卸される[9]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 鉱物由来の「顔料」と植物由来の「染料」を合わせた名称。「絵具」は西洋色料を連想しがちなので、ここでは「色料」とする[1]

出典[編集]

  1. ^ 藤澤 2008, p. 95.
  2. ^ 菊池ほか 1982, p. 87.
  3. ^ 小林・大久保 1994, p. 204.
  4. ^ a b 安達・小林 1994, p. 201.
  5. ^ 国際浮世絵学会 2008, p. 407安達以乍牟「バレン」
  6. ^ 国際浮世絵学会 2008, p. 146安達以乍牟「空摺り」
  7. ^ 国際浮世絵学会 2008, p. 445安達以乍牟「ぼかし」
  8. ^ 国際浮世絵学会 2008, p. 176安達以乍牟「雲母摺」
  9. ^ 大久保 2005, p. 20.


参考文献[編集]

  • 菊池貞夫、ほか『原色浮世絵大百科事典3 様式・彫摺・版元』大修館書店、1982年4月15日。 
  • 小林忠大久保純一、ほか『浮世絵の鑑賞基礎知識』至文堂、1994年5月20日。ISBN 978-4-7843-0150-8 
    • 大久保純一「制作の場から-企画から完成まで」『浮世絵の鑑賞基礎知識』1994年5月20日、177-178頁。 
    • 安達以乍牟、小林忠「浮世絵とともに50年」『浮世絵の鑑賞基礎知識』1994年5月20日、182-204頁。 
  • 大久保純一『千変万化に描く-北斎の富嶽三十六景』小学館、2005年9月20日。ISBN 4-09-607022-X 
  • 国際浮世絵学会 編『浮世絵大事典』東京堂出版、2008年6月30日。ISBN 978-4-4901-0720-3 
  • 藤澤紫『遊べる浮世絵 体験版・江戸文化入門』東京書籍、2008年9月10日。ISBN 978-4-487-80262-3 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]