電通事件

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最高裁判所判例
事件名 損害賠償請求事件
事件番号 平成10(オ)217
平成12年3月24日
判例集 民集 第54巻3号1155頁
裁判要旨
  1. 電通は男性社員の長時間残業による健康状態悪化に気付きながら十分な措置を採らず、その結果自殺に至ったことに対し損害賠償責任を負う。
  2. 通常想定される範囲を外れない限り労働者の性格などを過失相殺要因として斟酌することはできない。
第2小法廷
裁判長 河合伸一
陪席裁判官 北川弘治 亀山継夫 梶谷玄
意見
参照法条
民法709条,民法715条,民法722条2項
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電通事件(でんつうじけん)は1991年8月27日電通の社員が過労により自殺した事件、およびこの社員の長時間労働について使用者である電通に安全配慮義務違反が認定された判例である。

過労自殺」という概念はこの事件によって初めてクローズアップされるようになったといわれる[1][2][3]

事件概要[編集]

1991年8月27日、電通に入社して2年目の男性社員(当時24歳)が、自宅で自殺した。男性社員の1か月あたりの残業時間は147時間にも及んだとされる[3]。遺族は、会社に強いられた長時間労働によりうつ病を発生したことが原因であるとして、会社に損害賠償請求を起こした。これは、過労に対する安全配慮義務を求めた最初の事例とされ[1]、この訴訟をきっかけとして過労死を理由にした企業への損害賠償請求が繰り返されるようになったといわれる[1][2][3]。2000年、この裁判は同社が遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで結審した[4]

判決では、酒席で上司からの中に注がれたビールを飲むよう強要されたり、靴ので叩かれるなどのパワーハラスメントの事実も認定された[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 濱本真男「「電通事件」判決の黙示」『Core ethics : コア・エシックス』第8巻、立命館大学、2012年、341-350頁。 
  2. ^ a b 外井浩志 (2012). 労災裁判例に学ぶ企業の安全衛生責任. 労働新聞社  p.46
  3. ^ a b c 岩波明 (2006). ポケット図解 臨床心理学がよ~くわかる本. 秀和システム  p.46
  4. ^ 川口友万 (2015). みんなのための「ストレスチェック制度」 明解ハンドブック. 双葉社  p.19
  5. ^ 2008 予防時報 過労自殺の現状と課題” (PDF). 2011年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年11月20日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 濱本真男「「電通事件」判決の黙示 -労働時間・精神医学診断・被害者家族」『Core Ethics : コア・エシックス』第8号、立命館大学大学院先端総合学術研究科、2012年、341-350頁、doi:10.34382/00005564ISSN 1880-0467NAID 110009428286 
  • 田中慶子「アジェンダの源泉としての電通過労自殺裁判 : 日本の自殺対策をめぐる社会問題の構成」『立命館人間科学研究』第27号、立命館大学人間科学研究所、2013年7月、47-59頁、doi:10.34382/00004291ISSN 1346-678XNAID 110009684367 
  • 東京地方裁判所 平成5年(ワ)1420号 判決 大判例、学術研究機関 大判例法学研究所