エスパイ

エスパイ』は、日本SF作家小松左京SF小説。また、その映画化作品。超能力者を主人公としたスパイアクションである。

概要

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1964年昭和39年)から『週刊漫画サンデー』にて連載された[1][2]。エスパイとは、「エスパー・スパイ」つまり超能力をもったスパイを意味する[3]、本作品における造語である。主人公で物語の語り手・田村良夫らエスパイたちは、超能力者によって構成された世界平和の維持を目的とする秘密組織「エスパイ国際機構」[注釈 1]に所属している。

ソ連首相暗殺で世界を混乱に陥れようとする陰謀に対し、それを防ぐべくエスパイたちが活躍するが、敵組織もまた超能力者で構成されていた[注釈 2]。かくして、戦いは超能力合戦となる。その「敵」も、外宇宙の知的生命体、しかも精神だけの存在に指導されていたことが、ラストシーンで判明する。田村によれば、エスパイ国際機構は世界平和の危機を何度も未然に人知れず防ぎ続けており、ケネディ大統領暗殺事件は間に合わなかった数少ない事例だという。

なお、エスパイの個々は他人が持っていても自分に発現していない能力は使えない[注釈 3]

小松左京らしい、意図的に通俗小説として書かれたSF作品である[4]。過剰とも思えるお色気シーンは、映画版のオーディオ・コメンタリーによると「同時期に連載されていた山田風太郎のエロチックな忍法帖ものに負けないように」との編集者からの要請に応えたものであるという。しかし、濃密なテーマ性は他の小松長編に劣るものではない。発表時よりも若干の近未来を舞台にしながらも国際情勢分析は当時のものを踏襲しており、ソ連首相が善玉で、悪役は西側のタカ派軍人やナチス残党が演じる配置やアラブ系や左派テロリストが登場しないことも、時代の気分を反映している。

映画

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エスパイ
監督
脚本 小川英
原作 小松左京
製作
出演者
音楽
主題歌 尾崎紀世彦
「愛こそすべて」
撮影
編集 池田美千子
製作会社 東宝映像[9][10]
配給 東宝[出典 2][注釈 4]
公開 日本の旗 1974年12月28日[出典 3]
上映時間 94分[出典 4]
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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1974年昭和49年)、東宝映像製作のSF特撮映画[10][7]。カラー、シネマスコープ[出典 5]。併映作は山口百恵の初主演作品『伊豆の踊子[出典 6]

「超能力=愛」をテーマとして、東欧の国バルトニアの首相の来日をめぐり、首相暗殺による世界情勢の悪化を企むオルロフら逆エスパイとの戦いを描くSFスパイアクション[15][14]

映画化にあたり、登場人物や設定が変更されている。原作の田村と恋に落ちるイタリア支部員マリア・トスティに相当するのはマリア原田であり、法条が、田村の上司であるエスパイ機構日本支部長・宮﨑に相当する。新米エスパイの三木次郎は原作に登場しないオリジナルキャラクターである[2][4]。また、ウルロフは原作では宇宙人という設定であるが、「超能力集団同士の対決」という物語の単純化のために変更された[4][注釈 5]。田中文雄は原作のラストにおける宇宙船へのテレポーテーションのシーンも撮影したがり、ポスターにもアポロ宇宙船が描かれたが、田中友幸が絶対に認めずカットされた[17]。個々の超能力の設定にも、田中友幸による細かい制約があった。

音楽は平尾昌晃京建輔の連名となっているが、平尾は主題歌・挿入歌の作曲が主で、劇伴の多くは京が担当した[18][19]

出演者

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ノンクレジット(出演者)

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スタッフ

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参照[9][10][3][14]

ノンクレジット(スタッフ)

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主題歌

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※主題歌と挿入歌を収録したシングルは、1974年11月25日に日本フォノグラムから発売。規格品番はFS-1810。

制作経緯

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東宝は1966年には本作品の映画化権を獲得しており、同年の作品一覧に脚本・監督未定で掲載され、1967年には監督:福田純、脚本:小川英、出演:三橋達也佐藤允浜美枝若林映子での製作が発表されたが、出演が決定していた若林が東宝との契約を更新せずフリーになったことなどにより、製作中止となった[2][4]。その後、1974年にはユリ・ゲラーの来日に端を発する超能力ブームが起こり、これに乗じる形で企画が復活して製作に至った[出典 13]

脚本は、同時期に企画されていた『透明人間対火焔人間』に参加していた東映掛札昌裕が執筆したが、5回もの書き直しによって封切りに間に合わなくなりそうだったため、中西隆三や監督の福田が手直ししたものを小川がまとめる形になった[17][14]

撮影

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製作期間は約1か月で、ヨーロッパ国際特急イスタンブールのシーンは、大森健次郎らB班によって約1週間の現地ロケが行なわれたほか[1][4]、ウルロフ邸の外観は大倉山記念館で撮影された[17][2]。バルトニア首相邸は八ヶ岳高原ヒュッテが用いられた[2]

超能力を映像化するということもあり、試行錯誤をしながらの撮影となった。監督の福田も、原作を刊行時に読んでいたが、「(予算が圧倒的に安い)日本映画では映像化は難しいだろう」という感想を持ったという[4]田中友幸は、超能力を徹底的にリアルな描写にすることを心がけていたといい、忍者映画にはしたくなかったと述べている[21]

オーラの表現には最新のエレクトロニクスが用いられており、実際の炎も用いつつ、それ以外の素材も合わせて表現している[1]

飛行機が蛇行するシーンでは、2台のクレーンを用いてミニチュアを操演するだけでなく、山のセットを10人ほどのスタッフが担いで動かしている[1]

クライマックスの国際会議場のシーンは、撮影所で最大の第8・第9ステージにセットを組み、シャンデリアが落下するシーンを特撮班が、落下の瞬間に人々が逃げまとうシーンを本編班がそれぞれ撮影し、フィルムをつないでいる[2][注釈 11]。田村がテレポーテーションで国際会議場に現れるシーンは、さまざまな視覚効果が試みられたがうまくいかず、フィルムのつなぎで表現した。社長の松岡功もこの描写には満足していたが、虎ノ門ホール[24][注釈 12]での試写会では会場が笑いでざわつくなど不評を買い、原作者の小松も「もう少し何とかならなかったんだろうか…」と不満を持っていた[17]

後年の対談で、小松はカメラワークは気に入っていたといい、スパイ物スリラーとして制作したのが正解であったと評しているが、田中は原作の面白さを活かしきれなかったと述懐している[28]

配役

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マリア役の由美かおるの出演は、原作者の小松の希望もあり[2][4]、スタッフ内でも最初から決まっていたという[17][注釈 13]。由美は前年主演した『同棲時代-今日子と次郎-』での、振り向いた姿を撮影したオールヌードポスターが大きな反響を呼び[29]、話題作の出演が続き[30]、映画関係者の中には「由美かおるの時代が来るのではないか」と言う者もいた[30]。本作でも全編に亘って体の線を強調する薄手の衣装を纏い、敵方に催眠剤を注射されて、艶っぽいダンスを披露した後、敵の黒人にシュミーズを剥ぎ取られ、豊満な美乳が飛び出すシーンがある。

一方、田村役はなかなか決まらず、いろいろなアイデアが出された[17]。また、若山富三郎の起用は田中友幸の提案で、メイキャップや演技を若山自身が考えてきての撮影だったが[4]、芝居のテンポが遅く、周りの芝居をテンポアップしながらの撮影だったという[17]

評価

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前年の東宝の正月興行が『日本沈没』で、配収では15億円を挙げるメガヒットだったため[31]山口百恵の初主演作『伊豆の踊子』との2本で8億円は、大きく減らす結果となったが[31]、まずまず妥当と評された[31]。1975年の正月興行は『大地震』や『エアポート'75』『007/黄金銃を持つ男』などの洋画大作が目白押し[31][32]、同じ東宝洋画系で公開された『エマニエル夫人』が大きな話題を呼び[31]、先の由美のヌードもあまり話題に挙がらなかった[31]。『映画年鑑 1976年版』には「一応の評価を受けたもののやや期待を下回った」と書かれている[33]

サウンドトラック

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  • 『東宝映画サントラコレクション リミテッド・エディション 東宝特撮チャンピオンまつり』(2010年9月15日、バップ[34]
    • 5枚組 Disk5に収録。

映像ソフト

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  • VHS 品番 TG4536S[23]
  • LD(1997年12月21日、東宝ビデオ)[35]
  • DVD
    • 『エスパイ』(2004年9月25日、東宝
    • 『エスパイ』【期間限定プライス版】(2013年8月2日、東宝)
    • 『エスパイ』【東宝DVD名作セレクション】(2015年8月19日、東宝)

海外版

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1975年に94分の英語版が製作され、『E.S.P./SPY』の題でユナイテッド・プロダクションズ・オブ・アメリカテレビ映画として番組販売したほか、映像ソフト化された。1994年にはパラマウント・ホーム・メディア・ディストリビューションによる86分の映像ソフトが発売された[8]

漫画

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月刊少年チャンピオン』1975年1月号の「劇画ロードショー」枠に土山しげるによるコミカライズ版が掲載された。

脚注

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注釈

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  1. ^ 企業コンサルティングの多国籍企業「インターナショナル・コンサルタンツ・カンパニー」に偽装。
  2. ^ どういうグループかは不明で「」とのみ表現されている。
  3. ^ 例として、田村は瞬間移動やマリアが後半で使えるようになったパイロキネシスが使えない。またサラバットだけが、未来を大まかに予測出来る。テレパシーや念動力などはほとんどの者が使えることになっている。
  4. ^ ノンクレジット
  5. ^ 準備稿では、異形の姿となり、キリストや釈迦と関わりがあったことを語るシーンが存在した[16]
  6. ^ 資料によっては、役名をサラバッドと表記している[3][13]
  7. ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、役名を駐車場の記者風の男と記述している[3]
  8. ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、役名を国際会議場警備要員と記述している[3]
  9. ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、役名をバルトニア大使館警備員と記述している[3]
  10. ^ 当時のポスターでは「特撮監督」と表記。
  11. ^ 東宝特撮監督の川北紘一は、構成と編集のうまさを評価している[2]
  12. ^ 2004年に解体された[25]。また、1985年に西新橋のビルにて開業した貸し会議室[26][27]とは無関係である。
  13. ^ 由美は当時、小松原作・福田監督で製作・放映が進められていたテレビドラマ『日本沈没』のヒロイン・阿部玲子役でもあった[12][2]

出典

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  1. ^ a b c d 東宝特撮映画全史 1983, pp. 392–393, 「東宝特撮映画作品史 エスパイ」
  2. ^ a b c d e f g h i j 東宝特撮映画大全集 2012, p. 183, 「『エスパイ』撮影秘話/川北監督に訊く」
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n 東宝特撮映画大全集 2012, p. 181, 「『エスパイ』作品解説/俳優名鑑」
  4. ^ a b c d e f g h i j 小林淳 2022, pp. 359–363, 「第九章 種々のジャンルが交錯を奏でる曲節 [1973、1974] 五『エスパイ』」
  5. ^ a b c d ゴジラ来襲 1998, p. 97, 「第2章 東宝・怪獣SF特撮映画の歩み 第3期(1971-1977)」
  6. ^ a b ゴジラ画報 1999, p. 186, 「エスパイ」
  7. ^ a b c d e 東宝特撮映画大全集 2012, p. 180, 「『エスパイ』」
  8. ^ a b Stuart Galbraith IV 『The Toho Studios Story: A History and Complete Filmography』 Scarecrow Press(現・ローワン&リトルフィールド英語版) 2008年 ISBN 978-1461673743 P.299
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 映画資料室”. viewer.kintoneapp.com. 2022年2月23日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g 東宝特撮映画全史 1983, p. 549, 「東宝特撮映画作品リスト」
  11. ^ a b 動画王特別編集ゴジラ大図鑑 2000, p. 142, 「1970年代 エスパイ」
  12. ^ a b 東宝写真集 2005, pp. 96–97, 「エスパイ」
  13. ^ a b c d e f g h 小林淳 2022, p. 433, 「付章 東宝空想特撮映画作品リスト [1984 - 1984]」
  14. ^ a b c d e f g h i j k ゴジラ大鑑 2024, p. 284, 「東宝SF映画の世界 エスパイ / 惑星大戦争」
  15. ^ GTOM vol.0 2022, p. 31, 「エスパイ」
  16. ^ 東宝特撮映画大全集 2012, p. 182, 「『エスパイ』超人図鑑/兵器図録/資料館」
  17. ^ a b c d e f g 『東宝映画100発100中!映画監督福田純』ワイズ出版、2001年、151-160頁。ISBN 4898300634 
  18. ^ 「スーパー戦隊制作の裏舞台 京建輔」『スーパー戦隊 Official Mook 20世紀』《1983 科学戦隊ダイナマン講談社〈講談社シリーズMOOK〉、2018年9月10日、33頁。ISBN 978-4-06-509605-5 
  19. ^ 小林淳 2022, pp. 363–365, 「第九章 種々のジャンルが交錯を奏でる曲節 [1973、1974] 五『エスパイ』」
  20. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 東宝特撮映画全史 1983, p. 538, 「主要特撮作品配役リスト」
  21. ^ a b 東宝特撮映画全史 1983, p. 58, 「田中友幸 特撮映画の思い出」
  22. ^ ゴジラ大全集 1994, pp. 70–71, 「東宝特撮映画史 ゴジラ誕生 スペクタクルのヒット」
  23. ^ a b 日本特撮映画図鑑 1999, p. 142, 「東宝特撮作品 ビデオLDラインナップ 特撮シリーズ」
  24. ^ 特集「霞が関から文化力プロジェクト」 - 文化庁
  25. ^ 虎ノ門ホールの情報 | i-Amabile
  26. ^ 【ホームズ】酔心興栄ビルの建物情報|東京都港区西新橋1丁目9-5
  27. ^ 虎ノ門ホールの詳細|貸し会議室
  28. ^ 東宝特撮映画全史 1983, p. 449, 「特別対談 東宝特撮映画未来へ! 小松左京 田中友幸」
  29. ^ 由美かおるが明かす「初めてオールヌードになったとき」の大騒動「街角に貼られたポスターが次々盗まれて…」
  30. ^ a b 「映画界東西南北談議 例年不調の季節をどう乗りきるか」『映画時報』1973年10月号、映画時報社、35頁。 
  31. ^ a b c d e f 「映画界東西南北談議 新しい映画作りを中心に各社を展望」『映画時報』1975年2月号、映画時報社、35頁。 
  32. ^ 黒井和男「興行価値 外国映画"大地震"のパワー/日本映画 対洋画で苦戦必至」『キネマ旬報』1974年12月下旬、165頁。 
  33. ^ 「製作配給界(邦画)」『映画年鑑 1976年版(映画産業団体連合会協賛)』1975年12月1日発行、時事映画通信社、98–99頁。 
  34. ^ 東宝映画サントラコレクション リミテッド・エディション 東宝特撮チャンピオンまつり ディスクユニオン
  35. ^ 『宇宙船YEAR BOOK 1998』朝日ソノラマ宇宙船別冊〉、1998年4月10日、62頁。雑誌コード:01844-04。 

出典(リンク)

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参考文献

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外部リンク

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