可微分多様体 上、外微分 (がいびぶん、英 : exterior derivative )は関数の微分 の概念を高次の微分形式 に拡張する。外微分はエリ・カルタン によって最初に現在の形式で記述された。それによってベクトル解析 のストークスの定理 、ガウスの定理 、グリーンの定理 の自然な、距離 に依存しない一般化ができる。
k 形式を無限小 k 次元平行面体を通る流量を測るものと考えれば、その外微分を (k + 1) -平行面体[どれ? ] の境界を通る正味の流れを測るものと考えることができる。[要追加記述 ]
k 次微分形式 の外微分は k + 1 次微分形式である。
f が滑らかな関数(0 形式)であれば、f の外微分 df は f の全微分 df である。つまり、外微分df は
任意の滑らかなベクトル場 X に対して、df (X ) = dX f (ただし dX f は X 方向への f の方向微分 )。 を満たす一意的な 1 形式 である。
一般の k 形式の外微分には様々な同値な定義が存在する。
外微分 d は以下の性質を満たす k -形式から (k + 1) -形式への一意的な R -線型写像として定義される:
滑らかな関数 f に対して d(f ) ≔ df はf の微分 である。 任意の滑らかな関数 f に対して d(df ) = 0 である。 d(α ∧ β ) = dα ∧ β + (−1)p (α ∧ dβ ) である、ただし α は p -形式とする。つまり、d は微分形式のなす外積代数 上次数 1 の反微分 である。 二番目の定義性質はより一般性を持って成り立つ: 実は、任意の k -形式 α に対して d(dα ) = 0 (より簡潔には、d2 = 0 )である。三番目の定義性質は特別な場合として f が関数で α が k -形式であれば d(fα ) = d(f ∧ α ) = df ∧ α + f ∧ dα であるということを含んでいる。なぜならば、関数は 0 形式であり、スカラー乗法と外積は引数の一方がスカラーであるとき同値であるからである。
代わりに、完全に局所座標系 (x 1 , …, xn ) の言葉で定義することもできる。まず、座標(微分)形式 dx 1 , …, dxn は座標チャート の範囲内で 1-形式の基底をなす。1 ≤ p ≤ k なる各 p に対して 1 ≤ ip ≤ n とし、多重添字 I = (i 1 , …, ik ) (および表記の濫用 で dx i 1 ∧ ⋯ ∧ dxik を dxI と書く)が与えられたとき、R n 上の単純 k -形式 φ = f dxI の外微分は
d φ := ∑ i = 1 n ∂ f ∂ x i d x i ∧ d x I {\displaystyle \mathrm {d} \varphi :=\sum _{i=1}^{n}{\frac {\partial f}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\wedge \mathrm {d} x^{I}} で与えられる。一般の k -形式は I が {1, …, n } の k -元部分集合全てを渡る単純 k -形式の和
ω = ∑ I f I d x I {\displaystyle \omega =\sum _{I}f_{I}\mathrm {d} x^{I}} に書かれるから、その外微分の定義は単純形式の場合を線型 に拡張することによって与えられる。i が多重添え字 I の成分の 1 つであるときにはいつでも dxi ∧ dxI = 0 であることに注意しよう(ウェッジ積 を参照)。
この局所座標系による定義は前節の公理による定義から従う。実際、単純形式 φ ≔ f dxI に対し、前節で述べた性質を適用すれば d(f dxI ) = df ∧ dxI + f d(dxI ) で第二項 = 0 だから dφ = df ∧ dxI = ∑n i =1∂f / ∂xi dxi ∧ dxI を得る。
結果を一般の場合に直截に書けば、k -形式 ω の外微分は
d ω := ∑ I ∑ i = 1 n ∂ f I ∂ x i d x i ∧ d x I {\displaystyle \mathrm {d} \omega :=\sum _{I}\sum _{i=1}^{n}{\frac {\partial f_{I}}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\wedge \mathrm {d} x^{I}} と定義される。
代わりに、明示的な式を k -形式 ω の外微分に対して、k + 1 個の任意の滑らかなベクトル場 V 0 , V 1 , ..., Vk とペアにされたとき、与えることができる[ 1] :
d ω ( V 0 , . . . , V k ) = ∑ i ( − 1 ) i V i ( ω ( V 0 , … , V i ∧ , … , V k ) ) + ∑ i < j ( − 1 ) i + j ω ( [ V i , V j ] , V 0 , … , V i ∧ , … , V j ∧ , … , V k ) , {\displaystyle \mathrm {d} \omega (V_{0},...,V_{k})=\sum _{i}(-1)^{i}V_{i}(\omega (V_{0},\ldots ,{\overset {\wedge }{V_{i}}},\ldots ,V_{k}))+\sum _{i<j}(-1)^{i+j}\omega ([V_{i},V_{j}],V_{0},\ldots ,{\overset {\wedge }{V_{i}}},\ldots ,{\overset {\wedge }{V_{j}}},\ldots ,V_{k}),} ただし [Vi , Vj ] は括弧積 (英語版 ) を表し、ハットはその元を取り除くことを表す:
ω ( V 0 , … , V i ∧ , … , V k ) := ω ( V 0 , … , V i − 1 , V i + 1 , … , V k ) . {\displaystyle \omega (V_{0},\ldots ,{\overset {\wedge }{V_{i}}},\ldots ,V_{k}):=\omega (V_{0},\ldots ,V_{i-1},V_{i+1},\ldots ,V_{k}).} 特に、1 形式に対して次が成り立つ: dω (X , Y ) = Xω (Y ) − Yω (X ) − ω ([X , Y ]) , ただし X と Y はベクトル場である。
M が境界をもつ コンパクトで滑らかで向き付け可能な n 次元多様体で、ω は M 上の (n − 1) 形式とするとき、一般化されたストークスの定理 は
∫ M d ω = ∫ ∂ M ω {\displaystyle \int _{M}\mathrm {d} \omega =\int _{\partial {M}}\omega } なることを述べる。直感的には、M が無限小領域に分割されたと考え、すべての領域の境界に渡って流れ (flux) を加えたとき、内部の境界はすべて打ち消し合い、M の境界を通る全体の流れが残る。
例 1. 1 -形式の基底 dx 1 , …, dxn 上 σ = u dx 1 ∧ dx 2 を考えよう。その外微分は: d σ = d ( u ) ∧ d x 1 ∧ d x 2 = ( ∑ i = 1 n ∂ u ∂ x i d x i ) ∧ d x 1 ∧ d x 2 = ∑ i = 3 n ∂ u ∂ x i d x i ∧ d x 1 ∧ d x 2 . {\displaystyle {\begin{aligned}\mathrm {d} \sigma &=\mathrm {d} (u)\wedge \mathrm {d} x^{1}\wedge \mathrm {d} x^{2}\\&=\left(\sum _{i=1}^{n}{\frac {\partial u}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\right)\wedge \mathrm {d} x^{1}\wedge \mathrm {d} x^{2}\\&=\sum _{i=3}^{n}{\frac {\partial u}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\wedge \mathrm {d} x^{1}\wedge \mathrm {d} x^{2}.\end{aligned}}} 最後の式はウェッジ積 の性質から容易に従う。すなわち、dxi ∧ dxi = 0 . 例 2. σ = u dx + v dy を R 2 上の 1 -形式とする。各項に上記の公式を適用することによって(x 1 = x および x 2 = y と考える)次が成り立つ。 d σ = ∑ i = 1 2 ∂ u ∂ x i d x i ∧ d x + ∑ i = 1 2 ∂ v ∂ x i d x i ∧ d y = ∂ u ∂ x d x ∧ d x + ∂ u ∂ y d y ∧ d x + ∂ v ∂ x d x ∧ d y + ∂ v ∂ y d y ∧ d y = 0 − ∂ u ∂ y d x ∧ d y + ∂ v ∂ x d x ∧ d y + 0 = ( ∂ v ∂ x − ∂ u ∂ y ) d x ∧ d y . {\displaystyle {\begin{aligned}\mathrm {d} \sigma &=\sum _{i=1}^{2}{\frac {\partial u}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\wedge \mathrm {d} x+\sum _{i=1}^{2}{\frac {\partial v}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}\wedge \mathrm {d} y\\&={\frac {\partial u}{\partial x}}\mathrm {d} x\wedge \mathrm {d} x+{\frac {\partial u}{\partial y}}\mathrm {d} y\wedge \mathrm {d} x+{\frac {\partial v}{\partial x}}\mathrm {d} x\wedge \mathrm {d} y+{\frac {\partial v}{\partial y}}\mathrm {d} y\wedge \mathrm {d} y\\&=0-{\frac {\partial u}{\partial y}}\mathrm {d} x\wedge \mathrm {d} y+{\frac {\partial v}{\partial x}}\mathrm {d} x\wedge \mathrm {d} y+0\\&=\left({\frac {\partial v}{\partial x}}-{\frac {\partial u}{\partial y}}\right)\mathrm {d} x\wedge \mathrm {d} y.\end{aligned}}} k -形式 ω は dω = 0 であるときに閉 (closed) であるという(すなわち閉形式は d の核 の元のことである)。ω はある (k − 1) -形式 α に対して ω = dα であるときに完全 (exact) であるという(すなわち完全形式は d の像 に属する)。d2 = 0 ゆえ、任意の完全形式は閉である。ポワンカレの補題 は、可縮 領域において逆が正しいと述べている。
外微分 d は d2 = 0 という性質をもつので、それを多様体上のド・ラームコホモロジー を定義する微分 (双対境界写像)として使うことができる。k -次ド・ラームコホモロジー(群)は完全 k 形式を法とした閉 k -形式のなすベクトル空間である。直前の節で述べたように、ポワンカレの補題はこれらのベクトル空間が k > 0 に対して可縮領域に対して自明であることを述べている。滑らかな多様体 に対して、形式の共通部分はド・ラームコホモロジーから R 上の特異コホモロジーへの自然な準同型を与える。ド・ラームの定理はこの写像が実は同型であることを示しており、ポワンカレの補題の遠大な一般化である。一般化されたストークスの定理によって示唆されているように、外微分は特異単体上の境界写像 の「双対」である。
外微分はテクニカルな意味で自然である: f : M → N が滑らかな写像で Ωk が各多様体に多様体上の k -形式の空間を割り当てる滑らかな反変関手 であれば、次の図式は交換する
よって d(f *ω ) = f *dω である、ただし f * は f の引き戻し (英語版 ) を表す。このことは、f ∗ を f の押し出し (微分)として、f *ω (•) が定義により ω (f ∗ (•)) に等しいことから従う。ゆえに d は Ωk から Ωk +1 への自然変換 である。
たいていのベクトル解析 の演算子は外微分の概念の特別な場合であるか、あるいは、近い関係である。
滑らかな関数 f : R n → R は 0 -形式である。この 0 -形式の外微分は 1 -形式
d f = ∑ i = 1 n ∂ f ∂ x i d x i = ⟨ ∇ f , ∙ ⟩ {\displaystyle \mathrm {d} f=\sum _{i=1}^{n}{\frac {\partial f}{\partial x^{i}}}\mathrm {d} x^{i}=\langle \nabla f,\bullet \rangle } である。つまり、形式 df は任意のベクトル場 V に作用して、各点において V と f の勾配 ∇f との内積 を返す。
1 -形式 df は余接束 の断面であり、各点の余接空間において f の局所的な線型近似を与える。
R n 上のベクトル場 V = (v 1 , v 2 , …, vn ) は対応する (n − 1) -形式
ω V = v 1 ( d x 2 ∧ d x 3 ∧ ⋯ ∧ d x n ) − v 2 ( d x 1 ∧ d x 3 ∧ ⋯ ∧ d x n ) + ⋯ + ( − 1 ) n − 1 v n ( d x 1 ∧ ⋯ ∧ d x n − 1 ) = ∑ p = 1 n ( − 1 ) ( p − 1 ) v p ( d x 1 ∧ ⋯ ∧ d x p − 1 ∧ d x p ∧ ∧ d x p + 1 ∧ ⋯ ∧ d x n ) {\displaystyle {\begin{aligned}\omega _{V}&=v_{1}(\mathrm {d} x^{2}\wedge \mathrm {d} x^{3}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{n})-v_{2}(\mathrm {d} x^{1}\wedge \mathrm {d} x^{3}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{n})+\cdots +(-1)^{n-1}v_{n}(\mathrm {d} x^{1}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{n-1})\\&=\sum _{p=1}^{n}(-1)^{(p-1)}v_{p}(\mathrm {d} x^{1}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{p-1}\wedge {\overset {\wedge }{\mathrm {d} x^{p}}}\wedge \mathrm {d} x^{p+1}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{n})\end{aligned}}} をもつ、ただし d x p ∧ {\displaystyle {\overset {\wedge }{\mathrm {d} x^{p}}}} はその元を除くことを意味する。
(例えば、n = 3 つまり三次元空間のとき、2 -形式 ωV は局所的に V とのスカラー三重積 である。)ωV のある超曲面上の積分は V のその超曲面上の流束 である。
この (n − 1) -形式の外微分は n -形式
d ω V = div ( V ) ( d x 1 ∧ d x 2 ∧ ⋯ ∧ d x n ) {\displaystyle \mathrm {d} \omega _{V}=\operatorname {div} (V)(\mathrm {d} x^{1}\wedge \mathrm {d} x^{2}\wedge \cdots \wedge \mathrm {d} x^{n})} である。
R n 上のベクトル場 V もまた対応する 1 -形式
η V = v 1 d x 1 + v 2 d x 2 + ⋯ + v n d x n {\displaystyle \eta _{V}=v_{1}\,\mathrm {d} x^{1}+v_{2}\,\mathrm {d} x^{2}+\cdots +v_{n}\,\mathrm {d} x^{n}} をもつ。局所的には、ηV は V とのドット積である。ある道に沿った ηV の積分はその道に沿って −V に逆らってされた仕事 である。
n = 3 のとき、三次元空間において、1 -形式 ηV の外微分は 2 -形式
d η V = ω curl ( V ) {\displaystyle \mathrm {d} \eta _{V}=\omega _{\operatorname {curl} (V)}} である。
grad, curl, div, およびラプラシアンの不変公式[ 編集 ] 任意のリーマン多様体上、標準的なベクトル解析 の演算子は座標によらない (coordinate-free) 表記で次のように書くことができる:
grad ( f ) = ∇ f = ( d f ) ♯ div ( F ) = ∇ ⋅ F = ⋆ d ⋆ ( F ♭ ) curl ( F ) = ∇ × F = [ ⋆ ( d F ♭ ) ] ♯ , Δ f = ∇ 2 f = ⋆ d ⋆ d f {\displaystyle {\begin{alignedat}{3}\operatorname {grad} (f)&{}=\nabla f&&{}=(\mathrm {d} f)^{\sharp }\\\operatorname {div} (F)&{}=\nabla \cdot F&&{}=\operatorname {\star } \mathrm {d} \operatorname {\star } (F^{\flat })\\\operatorname {curl} (F)&{}=\nabla \times F&&{}=[\operatorname {\star } (\mathrm {d} F^{\flat })]^{\sharp },\\\Delta f&{}=\nabla ^{2}f&&{}=\operatorname {\star } \mathrm {d} \operatorname {\star } \mathrm {d} f\end{alignedat}}} ここで ⋆ {\displaystyle \star } はホッジのスター演算子 であり、 ♭ {\displaystyle \flat } および ♯ {\displaystyle \sharp } は音楽同型 (英語版 ) 、 f {\displaystyle f} はスカラー場 、 F {\displaystyle F} はベクトル場 である。
Flanders, Harley (1989). Differential forms with applications to the physical sciences . New York: Dover Publications. pp. 20. ISBN 0-486-66169-5 Ramanan, S. (2005). Global calculus . Providence, Rhode Island: American Mathematical Society. pp. 54. ISBN 0-8218-3702-8 Conlon, Lawrence (2001). Differentiable manifolds . Basel, Switzerland: Birkhäuser. pp. 239. ISBN 0-8176-4134-3 Darling, R. W. R. (1994). Differential forms and connections . Cambridge, UK: Cambridge University Press. pp. 35. ISBN 0-521-46800-0