戦時農園
戦時農園とは、戦時中の国々で行われた庭や公園を使用し、野菜・ハーブ・果物などを栽培する農園の事である。アメリカ、イギリス、カナダ等では、勝利の庭(Victory garden、ビクトリーガーデン)、戦時農園(war gardens)、防衛のための食料庭園(food gardens for defense)という語が使用される。
歴史
[編集]第一次世界大戦
[編集]第一次世界大戦期、とくにヨーロッパでは、農業従事者が兵役に取られて食糧生産は劇的に低下していた。
- アメリカ
- 1917年、第一次世界大戦期のアメリカで5本の指に入る富豪、3代目木材商Charles Lathrop Packによって「勝利の庭」が啓蒙された。このキャンペーンは、利用可能な私有地と公有地での栽培を促進し、米国に500万以上の農園を生み出した[1]。戦争の終結までに12億ドルを超える食料生産を行った[2]。
- これらの取り組みに、陸軍省による資金提供や、教育庁を通じて United States School Garden Army が発足され支援が行われた[3]。
- 大統領ウッドロウ・ウィルソンは、ホワイトハウスの庭に羊を放牧し、芝刈りの経費を削減し、羊毛をオークションにかけ手に入れた$52,823を赤十字に寄付した[4]。
- カナダ
- 農業省のキャンペーン「各家庭で野菜園(A Vegetable Garden for Every Home)」によって、1917年にカナダで一般的になった。トロント市では、女性団体が専門家の園芸家を学校に連れて来て、学校の子供や家族が園芸に興味を持つようにした。じゃがいも、キャベツ、ビーツ等の有用な野菜の栽培のほか、ニワトリの飼育も奨励された[5]。
第二次世界大戦
[編集]- アメリカ
- 日系人の強制収容によって農業人口の減少が起きてしまっていた。カリフォルニア農務局の統計では、カリフォルニアで生産される野菜の40%が日系人によって栽培されていた。これらの土地は没収・強制買い上げされ、ヨーロッパの戦争難民や巨大砂嵐ダストボウルなどの自然災害被災者へ渡った。しかし、カリフォルニアの気候も知らず、農業の経験もない人間では日系人が抜けた穴を補うのは難しかった。この結果、多くの農業資源が失われた[6]。
- 地元のコミュニティは、それぞれの人が自分の庭で育った農産物を紹介するための祭りやコンテストを開催し、それによって地域社会を結束させたが、一部の地域では人種差別的な開催で有色人種に贈られる賞もあった[9]。
- 愛国的な義務とされるが、アンケートの結果では愛国心からというのは20%で、国民の54%は経済的な理由からという結果となっている[10]。
- 戦争が終結すると食料供給がすぐに戻る期待から多くの戦時農園は閉鎖されていった。
この節の加筆が望まれています。 |
- イギリス
- 「digging for victory」キャンペーンを打ち出し、アパートの屋上、鉄道の端などを活用、多くの公園、運動競技場、ゴルフ場を徴収して農園とした。バッキンガム宮殿やウィンザー城の庭も菜園となった[11]。これらの活動によって、1943年までに、菜園の数は1,400,000と倍増した[12]。
- オーストラリア
- 農業労働者の不足から、1942年にDig for Victory campaignを打ち出した。翌年には状況が緩和したが、終戦まで活動が続けられた[13]。
- 日本
- 内閣情報部が発刊している写真週報の第269号や第337号などに、戦時農園についての特集が組まれている。戦時農園講義録(1944年 10巻?)なども発刊された。自治体によっては、戦時農園の申請を行うと種子の配給が行われた[14]。
この節の加筆が望まれています。 |
振興活動
[編集]国によっては、映像やポスターなどのあらゆる媒体で戦時農園を促進した。
- 映像作品
- World War II
- He Plants for Victory (1943)
- World War I
- Grow Vegetables For War Effort
- War Garden Parade
- World War II
- Dig For Victory! (1940, 1941, 1942)
- Children's Allotment Gardens (1942)
- Compost Heaps for Feeding (1942)
- Digging For Victory (1943)
- Winter Greens (1943)
- Blitz on Bugs (1944)
- Dig for Victory - Proceed According To Plan (1944)
- World War II
- Victory Gardens (1941, 1942, 1943)
- Barney Bear's Victory Garden (1942)
- As Ye Sow (1945)
- World War II
- 日本ニュース(社団法人日本映画社) 第210号・食糧増産に空閑地を利用(公開:1944年6月8日)[15]
- ラジオ
- World War II
- Science and Gardening
出典
[編集]- ^ Pack, Charles Lathrop. War Gardens Victorious (Philadelphia: J. B. Lippincott, 1919) p. 15.
- ^ Eyle, Alexandra. Charles Lathrop Pack: Timberman, Forest Conservationist, and Pioneer in Forest Education (Syracuse, NY: Syracuse University Press, 1994) p. 142.
- ^ Hayden-Smith, Rose: Sowing the Seeds of Victory (Jefferson, NC: McFarland, 2014).
- ^ Bowie 著者: Pamela Peck Williams、 Yoku Shaw-Taylor、 City of Bowie Museums p.88
- ^ Hopkins, John Castell (1919). The Province of Ontario in the War: A Record of Government and People. Toronto: Warwick Brothers and Rutter. pp. 60–61
- ^ “Internment of San Francisco Japanese”. 2021年8月17日閲覧。.
- ^ Kallen, Stuart A. (2000). The War at Home. San Diego: Lucent Books. ISBN 1-56006-531-1
- ^ “18,000,000 Gardens for Victory”. Popular Mechanics. (May 1943). p. 1
- ^ 1962-, Bentley, Amy, (1998). Eating for victory : food rationing and the politics of domesticity. Urbana: University of Illinois Press. ISBN 0252067274. OCLC 38168249
- ^ 1962-, Bentley, Amy (1998). Eating for victory : food rationing and the politics of domesticity. Urbana: University of Illinois Press. ISBN 0252067274. OCLC 38168249.
- ^ [1]
- ^ Matless, David (2016-09-15) (英語). Landscape and Englishness: Second Expanded Edition. London: Reaktion Books. pp. 246. ISBN 9781780237145
- ^ “Victory gardens, Second World War”. Australian War Memorial. 2017年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月14日閲覧。
- ^ 太平洋戦争日記 著:伊藤 整
- ^ NHKアーカイブス・日本ニュース 第210号。内田農商大臣のスピーチと、公園農地の開拓に尽力する少年たちの映像
参考文献
[編集]- Cecilia Gowdy-Wygant. Cultivating Victory: The Women's Land Army and the Victory Garden Movement (2013) in Britain and U.S. in both world wars; excerpt
- Hayden-Smith, Rose (2014). Sowing the Seeds of Victory: American Gardening Programs of World War I. McFarland Books. ISBN 978-0-7864-7020-4
- Ginn, Franklin. "Dig for victory! New histories of wartime gardening in Britain." Journal of Historical Geography 38#3 (2012): 294-305.
- Hayden-Smith, Rose (2005年). “Soldiers of the Soil: The Work of the United States School Garden Army in World War 1”. University of California 4-H Youth Development Center. 12 May 2014閲覧。
- Kuhn, Clifford M., "‘It Was a Long Way from Perfect, but It Was Working’: The Canning and Home Production Initiatives in Green County, Georgia, 1940–1942," Agricultural History (2012) 86#1 pp 68–90.
- Madsen, Joseph. “Fighting the War Through Gardening: Ballard High School’s WWII Victory Garden”. 2019年1月14日閲覧。
- C. H. Middleton, Digging for Victory ([1942] London 2008)
- Pack, Charles Lathrop (1919). The War Garden Victorious. J.P. Lippincott Co.. OCLC 425762
- Smith, Daniel (2011). The Spade as Mighty as the Sword: The Story of World War Two's Dig for Victory Campaign. Aurum Press. ISBN 978-1-84513-617-8
関連項目
[編集]- レーションスタンプ - 配給用スタンプ
- 都市農業、市民農園、家庭菜園
- ヴァーレン計画 - 第一次世界大戦の輸入食料激減に端を発するスイスの戦争に備えた農園計画
- 第二次世界大戦中の銃後
- en:Women's Land Army
- 備蓄、救荒食物、節約、節米運動
- 飢餓、飢餓作戦
- 食料自給率 - ドイツでは戦争に備え自給自足体制が整えられていた。肥料となるアンモニアはハーバー・ボッシュ法で安価に製造し、輸入に頼るリンはリサイクルできるよう研究された。人間と食料を競合する豚の飼育数制限なども行われた。改革によって増加した資源を外貨に換える努力も行われた。しかし、備蓄は心もとなく、物資が尽きる前に電撃戦という短期決戦を行い、ソビエトとの貿易協定と侵略で物資を得るのが現実的な計画となった。
- 戦時猛獣処分 - 戦時中、食肉目的で処理されることがあった。また空爆に巻き込まれた動物を加工する例もあった。
- 国会議事堂 - 第二次世界大戦後、食糧難を乗り切るため前庭は芋畑となった。
外部リンク
[編集]- Recipe for Victory: Food and Cooking in Wartime
- PBS: The Victory Garden
- A Visual History of Victory Gardens curated by Michigan State University
- Victory Gardens Handbook of the Victory Garden Committee War Services, Pennsylvania State Council of Defense (April 1944)
- Victory Garden complete film at archive.org
- History of Urban Gardening in the United States
- GARDENS FOR VICTORY reference pubbed Mar. 1942, intro/first chapter
- Victory Garden Initiative - a grassroots organization in Milwaukee, Wisconsin promoting revival of the victory garden movement as a means to address food system and environmental issues.
- Oldest Remaining Victory Gardens in Boston
- 1943 propaganda film He Plants for Victory (カナダ国立映画制作庁)
- 1941 propaganda film Victory Gardens (アメリカ合衆国農務省)