アラビア語の文法
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全般
[編集]文法構造としてはVSO型の動詞文とSVO型の名詞文とがあり、正則語とされるフスハーでは動詞文が特に多く用いられている。SVO文は主語が主題となっており強調・明示したい場合などに登場するが、口語では後者のSVO文の比率が非常に高い傾向にある。
文字同士をつなげて書くアラビア語文は基本的には単語ごとに切り分けるが、前置詞や性・数・人称変化に関する部分が接続していくのでひとまとまりであっても文節構造を持つことも少なくない。非常に長いことで有名な أَفَٱسْتَسْقَيْنَاكُمُوهَا(ʾa-fa-stasqaynākumūhā, ア・ファ・スタスカイナークムーハー)はこれで一つのかたまりだが、実際に日本語化すると「そして我らはお前たちにそれ(雨水のこと)を降らせるようにするだろう」といった文章になる。
語末に付加される母音等にかかわる文法規則
[編集]主格・属格・対格3つの格
[編集]アラビア語には格が主格、属格、対格の3種類あり、それぞれ単語の語尾の母音によって格変化を表すが見た目・発音上変化が無いケースもある。主格とはその単語が主語もしくは主語の動作のことであり、属格は主格に対する所有格もしくは主語に対する修飾語をさす。また、対格は目的格等を意味する。言語学における詳細は格を参照。
特殊な語形でない限り、主格名詞は語尾の子音に母音記号ダンマが付いて母音は -u になる。属格名詞はカスラが付いて母音は -i 、対格名詞はファトハが付いて母音は -a になる。
また二段変化と呼ばれる名詞では主格名詞は語尾の子音に母音記号ダンマが付いて母音は -u になる。属格名詞は対格同様にファトハが付いて母音は -a 、対格名詞はファトハが付いて母音は -a になる。二段変化は「属格において母音 i が付加されない」に加え、「タンウィーンを受け入れない」という特徴も有する。
アラビア語では形容詞修飾において形容詞は名詞の直後に置かれるが、被修飾語である名詞に格を合わせ語末の母音を付与するのが一般的である。(ただし形容詞修飾しているにもかかわらず、聞き手の注意を促すために敢えて修飾語の格母音を違えるという技術も存在する。)
限定・非限定
[編集]名詞には限定と非限定という概念を持つ。限定とは特定のものをさし、非限定とは不特定多数のものをいう。定冠詞は名詞を限定化させるはたらきを持つが、限定化はそれ以外によっても行われる。この限定と非限定の活用も語尾の母音で示されるのが普通だが文脈や構文による判断が必要なこともある。
非限定名詞では非限定を示すn音添加タンウィーンを伴うため格母音+n音が合わさって主格 -un 、属格 -in 、対格 -anとなる。(これらの母音記号とその発音や性格についてはシャクルの項で解説する。)
なお対格のタンウィーンでは学派によって表記が分かれておりアリフ前の子音にファトハターンを書くكتابًاと、アリフ真上にファトハターンを書くكتاباًとに分かれる。
文語におけるワフクという読み方や口語ではしばしば文末、および語尾の母音が無声化することがある。現代フスハー会話の場合「〜もまた」などを意味する أيضًا(本来は語末に来る時はアイダーと伸ばしていた)などの副詞をはじめとする語のタンウィーンなどは読まれるが、それ以外は口語同様文末だけでなく語末ごとに母音が落とされる傾向が強い。
性別
[編集]男性と女性
[編集]どの単語も性を有する。男性形と女性形があり、ドイツ語やロシア語などに見られるような中性形はない。性は動物のように実際の雌雄に基づいたものと、それ以外の分類で性別が決まったものとに分かれる。動詞や指示代名詞にも性別があり、主格もしくは修飾される語の性にそって活用・変形する。
مصر(エジプト)、بيروت(ベイルート)のような国名や地名は基本的に女性名詞であるが、例外的に7ヵ国の国名は男性名詞である:لبنان(レバノン)、العراق(イラク)、الأردن(ヨルダン)、السودان(スーダン)、المغرب(モロッコ)、اليمن(イエメン)、الصومال(ソマリア)。また、対をなす体の部分の名前も女性名詞である:عين(目)、أذن(耳)、يد(手)、قدم(足)。(ただし対になっていても頬خدّのように男性名詞もありそうした例外は個別に覚えることとなる。)
他にはأرض(土地)、حرب(戦争)やنار(火)のような女性名詞がある。また、طريق(道)やسكين(ナイフ)のような、男性名詞としても女性名詞としても使われる名詞もある。
またزوجのように元々は同じ語が男性も女性も表せる名詞もある。
女性名詞の語尾に多くつくター・マルブータ
[編集]女性名詞の多くは語尾がター・マルブータ(ة)である。これは基本形が男性形である一般名詞に女性化の機能を持つター・マルブータを語尾に付けることで女性形にしたものである。
ター・マルブータとは「結ばれた ت(ター)」という意味で ت(ター)の上部が結ばれてまるくなった形をしているが、実際にはジャーヒリーヤ時代にあった女性語尾の ـت と ـه を融合させたものである。ター・マルブータはtもしくはhの音価を持ち、同時にその直前の文字の母音価をaにする(直前が長母音āの場合もある)。
本来のフスハー文法では息継ぎせず直後の語をそのまま読み上げる非休止形ではt、文末に来た時や直後に息継ぎした時の休止形ではhで読まれる。しかし現代フスハー会話(古典的フスハーを簡略化したタイプの発音が見られる)や口語では後ろから属格支配を受けた時を除きター・マルブータのt音は発音されず、休止形のワクフ発音で行われていたhも発音されず、直前のaまでしか読まれない。
なお女性にしか無い性質(「妊娠している」等)には男性との区別が不要との理由からター・マルブータはつかない。
またター・マルブータには強調などの各種機能もあるため「大学者(عَلَّامَة,アッラーマ)」のように男性名詞にター・マルブータがついたものも多く存在する。男性名詞の不規則複数語末にター・マルブータがつくことも少なくなく、女性名詞の単数として扱わないよう注意が必要である・
女性名詞が男性名として使われている場合
[編集]人名だと女性名詞が男性名に、男性名詞が女性名として使われていることも多い。そのような場合は本人が男性であればこれにかかる動詞や修飾語も男性形が使われ、女性であれば動詞や修飾語も女性形になる。また、性別の混在する場合や不明であるときは原則として男性形が用いられ男女混合の集団はهم(彼ら)で受ける。
外来語と語尾
[編集]アラビア語圏における外来語の場合、慣習的に ا が語尾にくる名詞は女性形として扱われる。外来語の取扱いなどについてはアラビア文字化を参照。
文法の数と数詞
[編集]アラビア語における数の表現
名詞・人称代名詞・指示語・形容詞[1]・動詞の類は単数形、双数形、複数形がある。単数形とはそれが1つであること、双数形とは2つであること、複数形は3つ以上であることをさす。
文法上物体や人間以外は3以上ある複数でも三人称女性単数として扱い、形容詞や動詞も一致させて女性単数とするのが一般的。ただし正則文法として物体の女性複数を女性単数ではなく女性複数等の形容詞で受ける用例なども並存しており、特に古典アラビア語においては画一的ではない。
数を示す場合1つ、もしくは2つの時は単数形や双数形のみで事足りるが、基数詞である1と2を名詞の直後に形容詞修飾の形で後置し添えることもできる。
3つ以上の数量には基数詞が必要となる。また1・2と同様基数詞である3~を名詞の直後に形容詞修飾の形で後置し添えることもできる。
(序数詞などを含む、アラビア語の文法における数の扱い方はアラビア語の数詞で詳しく解説する。)
双数形
[編集]性別 | 単数 | 主格 | 対格・属格 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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男性 | | | | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
女性 | | | |
複数形
[編集]アラビア語の複数形は複雑である。規則変化のものもあるが、「جَمْعُ التَّكْسِيرٍ」(jamʿ al-taksīr, 実際の発音:ジャムウ・ッ=タクスィール, ジャムウ・アッ=タクスィール、直訳は「破壊の複数形」でいわゆる不規則複数のこと)と呼ばれる不規則変化の名詞(特に男性名詞)が非常に多い。不規則と呼ばれてもいくつかのルールがある一方、اِمْرَأَة(女) - نِسَاء(女たち)のような語根を共有していない(補充形)対応関係もある。また、1つ以上の複数形がある名詞も多い[2]。
人称代名詞・指示代名詞
[編集]アラビア語の人称代名詞は主格に用いられる独立形と、それ以外で使われる接続形とがある。
なおアラビア語では英語におけるheとitといった区別がない。指し示す対象の性・数によって使い分けるのみである。
主格指示代名詞
[編集]主語となり、これに続けて対格となる名詞をおくことで存在を表現できる。別章で解説するようにアラビア語にはbe動詞に相当するものがないため、これだけでもっとも基本的な構文が完成する。
「この〜は」というような名詞用指示代名詞は、日本語では「この〜」「その〜」「あの〜」という3つの距離に分けられるが、アラビア語フスハーにおいては至近距離と遠距離しか存在しない。おおむね手が届いたり、相手の手元にあるような場合は至近距離で、それよりも遠くで、且つ視界に入る範囲であれば遠距離になる。