スコンブロイド食中毒

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スコンブロイド食中毒
別称 Scombrotoxin fish poisoning, scombroid syndrome,[1] scombroid,[2] histamine fish poisoning,[1] scombroid poisoning[3]
ヒスタミン
概要
症状 皮膚の発赤、頭痛、かゆみ、視覚異常、腹痛、下痢[2]
発症時期 10分~60分後[2]
継続期間 2日間程度[2]
原因 不適切な保管や処理により、ヒスタミンを多く含んだ魚を食べることによる[2]
危険因子 マグロサバシイラサーディンカタクチイワシニシンオキスズキカンパチカジキ[2]
診断法 血中トリプターゼの検査[2][1]
鑑別 アレルギー反応,[2] 魚アレルギー[1]
治療 抗ヒスタミン薬, アドレナリンの投与[2][3]
頻度 しばしば起きる[2]
死亡数・ ごく稀[3]
分類および外部参照情報

スコンブロイド食中毒(スコンブロイドしょくちゅうどく、scombroid food poisoning)、一般的に腐敗したを食べた結果として起こる食中毒である[2]ヒスタミン食中毒スコンブロイド魚中毒(scombroid fish poisoning)とも呼ばれる。

名前は、サバ科(Scombridae)、またはサバ亜科(Scombroid)に多かったためで、他のヒスタミンが含有される状態の魚種や食品でも発症することから、サバ科に限定しないヒスタミン食中毒とも呼ばれる[4]

最初に解説されたのは1799年である[1]

症状には、顔面(特に口回りや耳たぶ)が発赤英語版蕁麻疹、頭痛、かゆみ、視覚異常、腹痛、下痢などがあげられる[5][2]。一般的に中毒の原因となる魚を食べてから10-60分後に発症し、2日間程続く[2]。稀に呼吸困難または不整脈を引き起こすことがある[2]。ごくまれに死亡する場合がある[3]

シガテラ中毒と共に、最も一般的な魚介類による食中毒である[2]。世界的に温帯熱帯の両水域に発生する[2]

原因となる食物について[編集]

不適切な保管や処理によって、ヒスタミンが多く含まれるようになった魚を食べることにより発症する[2]。関係性が高い魚は、マグロサバシイラサーディンカタクチイワシニシンオキスズキカンパチカジキなどである[2]。これらの魚はもともと高レベルのヒスチジンが含まれており、不適切な保管により増殖したモルガン菌英語版などのヒスタミン産生菌によりヒスチジンがヒスタミンに変換される[2][6]

鶏肉、ハム、チェダーチーズなどでも起きる場合がある[7]

ヒスタミンが生成された後に、調理、燻製、冷凍しても解毒の効果はない[2]

ヒスタミン産生菌
モルガン菌英語版クレブシエラ・オキシトカ菌英語版などの腸内細菌が増殖する際に生成するヒスチジン脱炭酸酵素英語版によってヒスチジンがヒスタミンへ変換される[8]
そのほか、海洋中に生息する好塩菌フォトバクテリウム属などもヒスタミンを生成し、低温度下では腸内細菌系のヒスタミン産生菌よりヒスタミンを生成する能力が高い[9]

症状[編集]

発赤英語版蕁麻疹、頭痛、かゆみ、視覚異常、腹痛、下痢などの食物アレルギーと似た症状(アレルギー様症状)が出る。アレルギーの発生と比較すると、以下のように、直接アレルギーを起こす物質の一つを取り込んでいるために、アレルギー様症状を発症する[10]

  • アレルギー:アレルギーを起こすアレルゲン物質 → ヒスタミンなどの過剰生成 → アレルギーの諸症状
  • ヒスタミン食中毒:直接ヒスタミン摂取 → アレルギーに似た諸症状

直接アレルギーの諸症状を起こすヒスタミンを摂取する事で起きるため、アレルギー体質とは関係なく、体の許容値を超えるヒスタミンを摂取すれば、だれにでもヒスタミン食中毒は起きえる[10]。このようにして起きるアレルギーに似た症状を仮性アレルギー英語版と呼び、ヒスタミンは仮性アレルゲンとされる。

診断[編集]

診断は一般的に、診察と血中トリプターゼ英語版の検査による[2][1]。同じ魚を食べた多数の人に中毒症状が診られる場合は、スコンブロイドと診断されることがほとんどである[2]

予防と治療[編集]

予防は、魚を捕まえてからすぐに冷蔵または冷凍することである[2]。また、舌にピリピリした感覚がある場合は食べない方がよい[11]

治療は一般的に、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミンラニチジンが用いられる[2][5]。重度の症状にはアドレナリンが用いられることがある[3]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f Ridolo, E; Martignago, I; Senna, G; Ricci, G (October 2016). “Scombroid syndrome: it seems to be fish allergy but... it isn't.”. Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology 16 (5): 516–21. doi:10.1097/ACI.0000000000000297. PMID 27466827. 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Food Poisoning from Marine Toxins - Chapter 2 - 2018 Yellow Book” (英語). CDC (2017年). 2018年6月1日閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
  3. ^ a b c d e Feng, C; Teuber, S; Gershwin, ME (February 2016). “Histamine (Scombroid) Fish Poisoning: a Comprehensive Review.”. Clinical reviews in allergy & immunology 50 (1): 64–9. doi:10.1007/s12016-015-8467-x. PMID 25876709. 
  4. ^ 小原佐衣子 (2022-01-01). “マグロ,カツオなど(ヒスタミン魚中毒)─保存状態の悪いものを食べると……” (英語). 医学のあゆみ 280 (13): 1349–1352. ISSN 0039-2359. https://www.pieronline.jp/content/article/0039-2359/280130/1349. 
  5. ^ a b ヒスタミン食中毒”. www.caa.go.jp. 2023年4月15日閲覧。
  6. ^ ヒスタミンによる食中毒について”. www.mhlw.go.jp. 2023年4月15日閲覧。
  7. ^ ヒスタミンによる食中毒 |「食品衛生の窓」東京都福祉保健局”. www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp. 2023年4月15日閲覧。
  8. ^ 尚, 小林; 孝史, 佐藤; 浩史, 菊川; 政人, 小林; 聡, 金子 (2021). “ヒスタミンの生成と遊離ヒスチジンの変化に対する魚介類の保存温度の影響”. 科学・技術研究 10 (2): 139–146. doi:10.11425/sst.10.139. https://doi.org/10.11425/sst.10.139. 
  9. ^ 政史, 神吉; 正憲, 石橋; 知子, 依田; 定三, 塚本 (2004). “赤身魚におけるヒスタミン生成菌の汚染状況”. 日本食品微生物学会雑誌 21 (3): 216–220. doi:10.5803/jsfm.21.216. https://doi.org/10.5803/jsfm.21.216. 
  10. ^ a b ヒスタミン食中毒の話 神奈川県衛生研究所
  11. ^ 愛媛県庁/ヒスタミン食中毒にご注意ください!”. www.pref.ehime.jp. 2023年7月5日閲覧。

外部リンク[編集]

分類
外部リソース(外部リンクは英語)