ナイルに死す

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ナイルに死す
DEATH ON THE NILE
著者 アガサ・クリスティー
発行日 イギリスの旗1937年11月1日
日本の旗1984年9月30日
発行元 イギリスの旗Collins Crime Club
日本の旗早川書房
ジャンル 推理小説
イギリスの旗 イギリス
前作 もの言えぬ証人
次作 死との約束
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ナイルに死す』(ナイルにしす、Death on the Nile)は、イギリスの女流作家アガサ・クリスティ1937年に発表した推理小説名探偵エルキュール・ポアロが船上での怪事件に挑む。

概要[編集]

クローズド・サークルものの傑作の一つ。中近東を舞台にした長編第2作で[注釈 1]、中近東シリーズ最高峰の作品でもある[1]。クリスティ作品の中でも上位にランクされている(#作品の評価参照)。

作者のクリスティは、1933年に2番目の夫で考古学者であるマックス・マローワンとともにナイル川クルーズ船、「スーダン号」[注釈 2]に乗船。その旅に触発されて4年後に『ナイルに死す』を書き上げた。

あらすじ[編集]

大富豪の娘リネット・リッジウェイウィンドルシャム卿と婚約していたが、何事も自分の思い通りにしたがる性格のため、結婚に躊躇していた。ある日、親友のジャクリーン・ド・ベルフォールがやってきて、自分の婚約者が失業中のため、リネットの屋敷で雇って欲しいと頼んでいった。そして後日、その婚約者であるサイモン・ドイルを連れてきたところ、リネットは彼に一目惚れしてしまい、ジャクリーンから奪うようにして結婚してしまった。

エジプトに新婚旅行に出たリネットらは、しつこくつきまとってくるジャクリーンにいらだたされる。偶然エジプトに来ていた名探偵エルキュール・ポアロは、リネットから頼まれてジャクリーンをたしなめようとするが、彼女は全く聞き入れないどころか、小さなピストルを取り出して、これでリネットを撃ってしまいたくなる、と言った。

リネットらはジャクリーンから逃げるようにしてナイル川を遡る観光船に乗り込んだが、そこにもジャクリーンの姿があった。そしてある晩、展望室で事件が起こった。泥酔したジャクリーンがサイモンと口論になり、ジャクリーンがサイモンの脚を撃ってしまったのだった。ドクター・ベスナーがサイモンを介抱し、ヒステリーを起こしたジャクリーンを看護婦のバウァーズが部屋に連れて行った。

そして次の朝、リネットが部屋で死んでいるのが発見された。寝ている間に頭を撃たれたのだ。凶器はジャクリーンが持っていたピストルらしいが、そのピストルは展望室での事件の後、どこかへ行方不明になっていた。しかも、ジャクリーンが夜中に部屋を出なかったことはバウァーズが証言している。では、いったい誰がリネットを殺害したのか? 船上の殺人事件に、名探偵ポアロと友人のレイス大佐が挑む。

登場人物[編集]

  • エルキュール・ポアロ - 私立探偵。
  • リネット・リッジウェイ - 富と美貌を兼ね備えた女性。
  • サイモン・ドイル - リネットの夫。
  • ジャクリーン・ド・ベルフォール - リネットの友人で、サイモンの元婚約者。
  • ルイーズ・ブールジェ - リネットのメイド。
  • レイス大佐 - 英国特務機関員で、ポアロの友人[注釈 3]。途中から船に乗り込む。
  • ヴァン・スカイラー - 大富豪の貴婦人。
  • コーネリア・ロブスン - スカイラーの従妹。
  • バウァーズ - スカイラーの看護婦。
  • ジョアナ・サウスウッド - 社交界の貴婦人。リネットの友人でもある。
  • ミセス・アラートン - ジョアナの従妹。
  • ティム・アラートン - アラートンの息子。リネットの友人でもある。
  • アンドリュー・ペニントン - リネットの財産管理人。
  • スターンデイル・ロックフォード - ペニントンの共同営業者。
  • ジム・ファンソープ - 弁護士。
  • ウィリアム・カーマイケル - ジムの伯父。弁護士。
  • ファーガスン - 社会主義者。
  • ギド・リケティ - 考古学者。
  • カール・ベスナー - 医者。
  • サロメ・オッタボーン - 作家。
  • ロザリー・オッタボーン - オッタボーンの娘。
  • フリートウッド - 船の機関士。

作品の評価[編集]

  • 作者ベストテンでは、1971年の日本全国のクリスティ・ファン80余名の投票で本作品は7位(1位は『そして誰もいなくなった』、2位は『アクロイド殺し』、3位は『予告殺人』)[3]1982年に行われた日本クリスティ・ファンクラブ員の投票では5位に挙げられている(1位は『そして誰もいなくなった』、2位は『アクロイド殺し』、3位は『オリエント急行の殺人』)[4]
  • 2012年に『週刊文春』で推理作家や推理小説の愛好者ら約500名を対象に実施されたアンケートによる東西ミステリーベスト100で、本作品は99位に評価されている[注釈 4][注釈 5]
  • 作者自身は、著者の前書きで「"外国旅行物"の中で最もいい作品の一つと考えています」と述べている[5]
  • 青山剛昌は『名探偵コナン』のコミック第3巻「青山剛昌の名探偵図鑑」にて、ポアロシリーズの中でお勧めの作品として本作を紹介している[注釈 6]
  • 2015年AGATHA CHRISTIE LIMITEDにより行われた「世界で一番好きなクリスティ・グローバル投票」で本作品は4位に選出されている[6]

備考[編集]

  • オッタボーン夫人が執筆している本の題名は『沙漠に降る雪』(つまり、アガサ・クリスティの処女長編作である『沙漠の雪』とほぼ同じような題名)となっており、ユーモアが感じられる。
  • パーカー・パイン登場』に同一タイトルの短編作品「ナイル河の殺人」 (Death on the Nile) が収載されているが、本作品とは無関係である。
  • 三谷幸喜が脚本を手がけたドラマシリーズ『古畑任三郎』内で、数学界の難問である「ファルコンの定理」を証明した人物として本作の登場人物である"アンドリュー・ペニントン"と"スタンディール・ロックフォード"の名前が流用され複数回にわたって登場している。

日本語訳版[編集]

本作品は、現在、早川書房の日本語版翻訳権独占作品となっている。

出版年月日 タイトル 出版社 文庫名等 訳者 巻末 ページ数 ISBNコード カバーデザイン 備考
1957年10月31日 ナイルに死す 早川書房 世界探偵小説全集374 脇矢徹 315 装幀 上泉秀俊 著者の前書き
1965年2月15日 ナイルに死す 新潮社 新潮文庫 赤135D 西川清子 あとがき 訳者 402 鈴木邦治、野中昇 ほか
1977年10月 ナイルに死す 早川書房 Hayakawa novels 加島祥造 解説「アガサ・クリスティーの映画化」飯島正 429 真鍋博 ほか
1984年9月30日 ナイルに死す 早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫 HM1-76 加島祥造 「クリスティーと映画」双葉十三郎 464 ISBN 978-4-15-070076-8 真鍋博 著者の前書き
訳者からのおねがい
2003年10月 ナイルに死す 早川書房 ハヤカワ文庫、クリスティー文庫 15 加島祥造 解説 西上心太 581 ISBN 978-4-15-130015-8 Hayakawa Design 著者の前書き
訳者からのおねがい
2020年
9月11日
ナイルに死す〔新訳版〕 早川書房 ハヤカワ文庫、クリスティー文庫 15 黒原敏行 解説 西上心太 560 ISBN 978-4-15-131015-7 早川書房デザイン室 クリスティー
デビュー100周年&
生誕130周年記念刊行

児童書

出版年月日 タイトル 出版社 文庫名等 訳者 巻末 ページ数 ISBNコード カバーデザイン 備考
2008年
6月25日
ナイルに死す 上 早川書房 クリスティー・ジュニア・ミステリ 8 佐藤耕士 254 ISBN 978-4-15-208929-8 イラスト:横田美晴
2008年
6月25日
ナイルに死す 下 早川書房 クリスティー・ジュニア・ミステリ 8 佐藤耕士 254 ISBN 978-4-15-208930-4 イラスト:横田美晴
2020年
9月11日
名探偵ポアロ ナイルに死す 早川書房 ハヤカワ・ジュニア・ミステリ 9 佐藤耕士 480 ISBN 978-4-15-209929-7 イラスト:二階堂 彩
イラスト編集:サイドランチ
装幀:早川書房デザイン室

戯曲[編集]

ナイル河上の殺人』 (Murder on the Nile: A Play in Three Acts) の題名で、1948年にクリスティ自身が本作を戯曲化している。ポアロは登場しない。日本でも同戯曲は長沼弘毅の訳で1955年の『宝石』増刊号に掲載されたが、2015年現在、書籍化はされていない。

映像化[編集]

  • 2004年、『名探偵ポワロ』シリーズでテレビドラマ化された。ロザリー・オッタボーンの恋の結末が原作と異なっている。

舞台化[編集]

2004年、『ナイル殺人事件』の題名で、東宝で舞台化された。演出は山田和也、上演台本は橋本二十四、キャストは北大路欣也岩崎良美小林高鹿森ほさち淡路恵子友井雄亮松田かほり愛佳戸井田稔安原義人青山達三、劇場はル・テアトル銀座

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 中近東シリーズの長編第1作は『メソポタミヤの殺人』(1936年)、第3作は『死との約束』(1938年)である。なお、短編作品も含めると『ポアロ登場』に収録されている「エジプト墳墓の謎」(1923年)が同シリーズ第1作である。
  2. ^ 2021年現在も、舞台のモチーフとなった「スーダン号」は現役で稼働しており、多くのファンを集めている[2]
  3. ^ レイス大佐は本作以前に、『ひらいたトランプ』でポアロと知り合っている。ノンシリーズの『茶色の服の男』と『忘られぬ死』にも登場する。
  4. ^ 作者作品では他に、1位に『そして誰もいなくなった』、5位に『アクロイド殺し』、34位に『オリエント急行の殺人』、62位に『ABC殺人事件』が選出されている。
  5. ^ 1985年版では本作品はノーランクだった。
  6. ^ 「ナイル殺人事件」と記載されている。

出典[編集]

  1. ^ 『アガサ・クリスティー百科事典』 数藤康雄・編(ハヤカワ文庫)より、作品事典 長編「22 ナイルに死す」を参照。
  2. ^ クリスティの「ナイルに死す」生んだクルーズ船、コロナ禍でも人気健在”. AFP. クリエイティヴ・リンク (2021年2月7日). 2022年6月3日閲覧。
  3. ^ ゴルフ場の殺人』(創元推理文庫、1976年)巻末解説参照。
  4. ^ 1982年の投票は乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 (6) 『アクロイド殺害事件』(集英社文庫、1998年)巻末解説参照。
  5. ^ 『ナイルに死す』(ハヤカワ文庫、1984年)「著者の前書き」参照。
  6. ^ RESULTS OF WORLD'S FAVORITE AGATHA CHRISTIE GLOBAL VOTE”. THE HOME OF AGATHA CHRISTIE. AGATHA CHRISTIE LIMITED (2015年12月22日). 2024年3月25日閲覧。

外部リンク[編集]