マルバトウキ

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マルバトウキ
青森県下北半島 2021年6月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : キキョウ類 Campanulids
: セリ目 Apiales
: セリ科 Apiaceae
: マルバトウキ属 Ligusticum
: Ligusticum scothicum
亜種 : マルバトウキ L. s. subsp. hultenii
学名
Ligusticum scothicum L. subsp. hultenii (Fernald) Hultén (1958)[1]
シノニム
  • Ligusticum scothicum L. (1759)(広義)[2]
  • Ligusticum scothicum L. var. hultenii (Fernald) Boivin (1966)[3]
  • Ligusticum hultenii Fernald (1930)[4]
  • Angelica hultenii (Fernald) M.Hiroe (1949)[5]
和名
マルバトウキ(丸葉当帰)[6][7]

マルバトウキ(丸葉当帰、学名: Ligusticum scothicum subsp. hultenii)は、セリ科マルバトウキ属多年草。海岸に生育する[6][7][8]。別名、ハマトウキ[1]

特徴[編集]

ゴボウ状に太い直根になる。は直立し、上部でまばらに分枝して、高さは30-100cmになる。茎は円く、中空で植物体全体に毛はない。は2回3出複葉で小葉は9個、小葉は卵形から円形で、長さ4-9cm、幅2-9cm、先は鋭頭または鈍頭になり、基部は広いくさび形、縁に鋸歯があり、葉質は厚く表面に光沢がある。葉柄は長さ3-25cmになり、紫色をおび、茎の上部のものは短い。側小葉の葉柄はほとんどない[6][7][8][9]

花期は7-9月。枝先に径3-8cmになる複散形花序をつけ、白色のを多数密につける。歯片は5個で長さ0.5mmになるが不明瞭。花弁は5個で内側に曲がる。複散形花序の下の総苞片は数個あり、線形で、花柄は15-20個あり、長さ1-2cm。小花序の下の小総苞片は数個あり、線形で、小花柄は15-20個あり、長さ約3mmになる。雄蕊は5個あり、花柱は2個ある。果実は褐色に熟し、つやがあり、長さ8-11mmの長楕円形、2個の分果からなり、分果に5個の背隆条があり、脈状または翼状になる[6][7][8][9]。油管は多数あり、分果の表面側の各背溝下に2-3個、分果が接しあう合生面に6個ある[8]

分布と生育環境[編集]

日本では、本州北部と北海道に分布し、海岸に生育する[6][7][8]。世界では、朝鮮半島樺太千島列島カムチャツカ半島、ウスリー、オホーツク海沿岸、アラスカに分布する[7]

名前の由来[編集]

和名マルバトウキは、「丸葉当帰」の意で、葉が円みをおびるセリ科植物で[7]、漢名の「zh:当帰」をあてたが、当帰(トウキ)はシシウド属に属するため系統的には無関係である[6]

種小名(種形容語)scothicum は、「スコットランドの」の意味[10]。亜種名 hultenii は、亜種の命名者であるスウェーデンの植物学者エリク・フルテンへの献名の形になるが、これは、Ligusticum hultenii Fernald (1930)[4]と種小名が自分に献名されていたを、エリク・フルテン自身が種から亜種 Ligusticum scothicum L. subsp. hultenii (Fernald) Hultén (1958) [1]へと階級移動させた結果である。

利用[編集]

アイヌ人は食用とし、若い茎を生食したり、茎を刻んでご飯に炊き込んだ。または冬季の保存用食用として乾燥保存した[11]アリューシャン列島でも食用とされる[9]

また、葉を半日ほど蔭干したものを2-3月ほど3-4倍に希釈したホワイトリカーに漬けて、黄緑色のリキュールをつくることができる。漬けた葉は40-50日ほどで容器から取り上げる[11]

ギャラリー[編集]

マルバトウキ属[編集]

マルバトウキ属(マルバトウキぞく、学名:Ligusticum L.)は、セリ科で、北半球に分布し、約60種あり、日本にはマルバトウキのみ1種が分布する。多年草で、葉は3出複葉または3出羽状複葉になる。花は複散形花序をなし、その基部に総苞片が、小花序の基部に小総苞片がある。ふつう萼歯片はなく、花弁は5個で白色。雄蕊は5個、花柱は2個あり、花柱の基部に隆起する柱下体は平たい円錐形になる。果実は分果の側面、ときに背面から圧扁を受け、油管は平たく途中で消える種がある。成熟した果実は、種子と果皮が分離する[6]。属名、Ligusticum は、ラテン語で古代イタリアの Liguria 地方(リグーリア州)の形容語 Ligusticos に由来する。Liguria 地方では栽培品の薬用のセリ科植物が多かったという[9][12]

山崎敬 (2001) は、セリ科シラネニンジン属 Tilingia Regel について、「果実の稜の張り出す程度の違いで,マルバトウキ属 Ligusticum から区別されているが,大きな差異は見いだせないので,中国での処置と同様にマルバトウキ属として扱った」として、本属に含める見解を採る[13]

脚注[編集]

  1. ^ a b c マルバトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ マルバトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  5. ^ マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  6. ^ a b c d e f g 鈴木浩司 (2017)「セリ科」『改訂新版 日本の野生植物 5』p.396
  7. ^ a b c d e f g 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1244
  8. ^ a b c d e 『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』pp.20-21
  9. ^ a b c d 北川政夫「マルバトウキ」『朝日百科 世界の植物3』p.590
  10. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1512
  11. ^ a b 橋本郁三著『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』p.215
  12. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1465
  13. ^ Takasi YAMAZAKI, Umbelliferae in Japan II, 22. Ligusticum L., The Journal of Japanese Botany, 『植物研究雑誌』, Vol.76, No.5, pp.281-283, 287, (2001).

参考文献[編集]

  • 北村四郎他総監修『朝日百科 世界の植物3』、1978年、朝日新聞社
  • 北村四郎・村田源著『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』、1984年、保育社
  • 橋本郁三著『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』、2007年、柏書房
  • 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  • Takasi YAMAZAKI, Umbelliferae in Japan II, 22. Ligusticum L., The Journal of Japanese Botany, 『植物研究雑誌』, Vol.76, No.5, pp.281-283, 287, (2001).