ミマス (衛星)

ウィキペディアから無料の百科事典

ミマス
Mimas
探査機「カッシーニ」による撮影 (2010年2月) 左の巨大クレーターはハーシェルクレーターと呼ばれる。
探査機「カッシーニ」による撮影
(2010年2月)
左の巨大クレーターはハーシェルクレーターと呼ばれる。
仮符号・別名 Saturn I, S 1
見かけの等級 (mv) 12.8(平均)
分類 土星の衛星
軌道の種類 内大衛星群
発見
発見日 1789年9月17日[1]
発見者 ウィリアム・ハーシェル[1]
軌道要素と性質
軌道長半径 (a) 185,539 km[2]
近日点距離 (q) 181,700 km
遠日点距離 (Q) 189,100 km
離心率 (e) 0.0196[2]
公転周期 (P) 約 22 時間 40 分
(0.942 日[2]
軌道傾斜角 (i) 1.574°
(土星の赤道)
土星の衛星
物理的性質
三軸径 415.6 × 393.4 
× 381.2 km[3]
半径 198.2 ± 0.4 km[3]
表面積 493,647.75 km2[1]
体積 ~3.26 ×107 km3[1]
質量 (3.7493 ± 0.0031) ×1019 kg[4][5]
土星との相対質量 6.75 ×10−8
平均密度 1.1479 ± 0.007 g/cm3[3]
表面重力 0.064 m/s2[1]
脱出速度 ~0.159 km/s[1]
自転周期 0.9424218 日
(公転と同期)
アルベド(反射能) 0.962 ± 0.004[6]
表面温度 ~64 K
大気圧 0 Pa
Template (ノート 解説) ■Project

ミマス[7][8] (Saturn I Mimas) は、土星の第1衛星1789年に天文学者ウィリアム・ハーシェルによって発見された[9]。その後、ウィリアムの息子のジョン・ハーシェル1847年ギリシア神話巨人族の一人ミマースにちなみ命名、発表した[1]

発見と命名

[編集]

ミマスは1789年9月17日にイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって発見された。発見には40フィート望遠鏡が使用されたとされる[1][10]

ミマスの名称を提案したのは、ウィリアム・ハーシェルの息子で天文学者のジョン・ハーシェルである。ミマスを含む既に発見されていた7つの衛星に対して、1847年に発表した『Results of Astronomical Observations made at the Cape of Good Hope』の中で命名した[11]

軌道共鳴

[編集]
Fリングとミマス。

ミマスは半径18.6万kmのほぼ円軌道を約22時間40分かけて一周する天体で、土星の主要な衛星の中では最も土星の近くにある[12]

土星の環の中に見られる多数の特徴は、ミマスとの共鳴によって形成されている。例えば、土星の2つの幅広い環であるA環B環の間の領域から物質を弾き出し、カッシーニの間隙を形成するという役割を果たしている。カッシーニの間隙の内縁付近にはホイヘンスの空隙が存在し、この空隙内の粒子はミマスと 2:1 の軌道共鳴を起こしている。つまりミマスが一回公転する間に、この領域の粒子はちょうど二回公転する。カッシーニの間隙中の粒子はミマスの重力で常に同じ場所で同じ方向に引っ張られることになるため、間隙の外側へと取り除かれる[13]。また、C環とB環の境界はミマスと 3:1 の共鳴を起こしている。

F環の小さな羊飼い衛星であるパンドラは、ミマスとの軌道共鳴により公転周期がミマスに対して2:3の整数比となる軌道を回っており、ミマスと平均運動共鳴を起こしている。ミマス自身も2つ外側を周回する更に大きな衛星テティスと1:2の軌道共鳴を保っている。

物理的特性

[編集]
カッシーニ探査機が撮影したミマス。

ミマスの密度は 1.17 g/cm3と低く、氷および少量の岩石だけで構成されると考えられている。土星から受ける潮汐力のため、ミマスは415×394×381kmの三軸不等楕円体で近似される形に歪んでいる[14]。この楕円体の形状は、カッシーニによって撮影された画像でも顕著である。

また、一般的な天体は昼の半球の赤道付近が最も高温になるが、ミマスの表面温度はこの単純な分布には従っていない。原因としては、ミマス表面の氷の状態に地域差があり、熱を逃がす効率が異なっているためという説がある[15]。この構造の画像がゲームキャラクターのパックマンに似ていることがNASAのプレスリリースでも言及され、話題となった[15][16]

宇宙探査機カッシーニ2005年以降ミマスへの接近・調査を行っており、NASAは2014年10月17日に衛星の内部に水が蓄積されていると発表した[17]

土星の主要な衛星の中では大きさ・質量ともに7番目に大きいが、土星の衛星でミマス自身より直径が小さいものをすべて合わせたよりも大きな質量を持つ。

地形

[編集]
ハーシェル・クレーター

ミマスの主な地形はクレーターと峡谷であり、アーサー王物語およびティーターンにちなみ命名されている。

ミマス最大のクレーターであるハーシェル(ウィリアム・ハーシェルにちなむ)は直径 130 km に達し、ミマスの直径の3分の1に及ぶ。クレーターの壁は高さ約 5 km、深さは 10 km で、クレーターの中央丘は底部からの高さが 6 km ある。比較としてこのサイズ比率を地球に置き換えると直径 4,000 km 以上に達し、オーストラリアよりも大きくなる。このクレーターを形成した衝突はミマスをほとんど完全に破壊するところであったと考えられる。ハーシェルクレーターの反対側では、クレーターを形成した衝突で発生した衝撃波が到達したことによって引き起こされたと思しき破砕跡を見ることができる[1][18]。この外見は、アメリカ映画スター・ウォーズシリーズ』に登場する宇宙要塞「デス・スター」に似通っており、このことは報道や研究機関のリリースでもしばしば言及されている[15][19][20]。しかし、ミマスがボイジャー1号によって撮影されたのは第1作『エピソード4/新たなる希望』公開の3年後であるため、これは単に偶然の一致である。また、デス・スターの半径は80 kmと設定されており、半径約200 kmのミマスはそれよりも大きい。

ミマスの表面はクレーターで満たされているが、それらはハーシェルよりもはるかに小さい。また、クレーターの分布は一定ではなく、表面の大部分は直径 40 km 以上のクレーターで覆われているが、南極領域では 20 km 以上のクレーターは見当たらない。これは、何らかの過程により南極地域から大きいクレーターが失われたと考えられる[1]

ミマス表面に見られる地質特性としては、3種類が公式に確認されている。クレーターと、細長い谷であるカズマ地形、および連鎖クレーターである。ハーシェルクレーターの反対側にはカズマ地形が複数見られる。

ミマスの地形図。

特異な秤動と内部構造

[編集]

2014年に、ミマスの秤動は自身の軌道運動のみでは説明できない要素を持っていることが報告された[21]。この秤動の異常成分は、内部が静水圧平衡状態になく細長いコアを持っていることによるものか、あるいは内部を持っていることによって引き起こされていると考えられた。

しかしミマスに内部海があった場合、構造学的に活発な特徴を示すエウロパに働くのと同程度かそれを上回る程度の表面潮汐応力が発生することが後に指摘された。ミマスの表面には表面のひび割れなどの構造学的な活発さを示す特徴が見られず、これは内部海が存在するという考えと矛盾する[22]。さらにミマスにコアが形成されたとすると、その過程で内部海も形成される可能性が高く、それに伴って地質学的な活動を引き起こすはずである。そのためミマスがコアを持っていることで異常な秤動成分が引き起こされるという仮説にも問題がある。その他の可能性としては、ハーシェルクレーターがあることによるミマスの質量分布の非対称性によって異常な秤動が引き起こされているという説が提案されている[22]

2022年1月にはカッシーニのデータの分析により、表面から24 - 31 km下に内部海が存在する可能性が示された[20]。2024年2月にパリ天文台などのチームが発表した研究によると、ミマスの秤動は内部海によるものであり、内部海は地下20 - 30 kmにあると推定された。またこの内部海は形成されてから2,500万年に満たない新しいものであることもわかった[23][24]

ミマスを扱った作品

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j NASA (2017年12月8日). “In Depth | Mimas – Solar System Exploration: NASA Science”. アメリカ航空宇宙局. 2018年11月26日閲覧。
  2. ^ a b c Jet Propulsion Laboratory (2013年8月23日). “Planetary Satellite Mean Orbital Parameters”. Jet Propulsion Laboratory Solar System Dynamics. ジェット推進研究所. 2018年11月26日閲覧。
  3. ^ a b c Roatsch, T.; Jaumann, R.; Stephan, K.; Thomas, P. C. (2009). “Cartographic Mapping of the Icy Satellites Using ISS and VIMS Data”. Saturn from Cassini-Huygens. pp. 763–781. doi:10.1007/978-1-4020-9217-6_24. ISBN 978-1-4020-9216-9 
  4. ^ Jacobson, R. A.; Spitale, J. et al. (2005). “The GM values of Mimas and Tethys and the libration of Methone”. Astronomical Journal 132 (2): 711–713. Bibcode2006AJ....132..711J. doi:10.1086/505209. http://www.ciclops.org/media/sp/2007/2679_7441_0.pdf. 
  5. ^ Jacobson, R. A.; Antreasian, P. G.; Bordi, J. J.; Criddle, K. E.; Ionasescu, R.; Jones, J. B.; Mackenzie, R. A.; Meek, M. C. et al. (December 2006). “The Gravity Field of the Saturnian System from Satellite Observations and Spacecraft Tracking Data”. The Astronomical Journal 132 (6): 2520–2526. Bibcode2006AJ....132.2520J. doi:10.1086/508812. http://iopscience.iop.org/1538-3881/132/6/2520/fulltext. 
  6. ^ Verbiscer, A.; French, R.; Showalter, M.; Helfenstein, P. (2007-02-09). “Enceladus: Cosmic Graffiti Artist Caught in the Act”. Science 315 (5813): 815. Bibcode2007Sci...315..815V. doi:10.1126/science.1134681. PMID 17289992. http://www.sciencemag.org/content/315/5813/815.abstract 20 December 2011閲覧。.  (supporting online material, table S1)
  7. ^ 『オックスフォード天文学辞典』(初版第1刷)朝倉書店、404頁。ISBN 4-254-15017-2 
  8. ^ 太陽系内の衛星表”. 国立科学博物館. 2019年3月9日閲覧。
  9. ^ Herschel, W. (1790). “Account of the Discovery of a Sixth and Seventh Satellite of the Planet Saturn; With Remarks on the Construction of Its Ring, Its Atmosphere, Its Rotation on an Axis, and Its Spheroidical Figure”. Philosophical Transactions of the Royal Society of London 80 (0): 1–20. doi:10.1098/rstl.1790.0001. 
  10. ^ Herschel, William Philosophical Transactions of the Royal Society of London, Vol. 80, reported by Arago, M. (1871). “Herschel”. Annual Report of the Board of Regents of the Smithsonian Institution: 198–223. オリジナルの2016-01-13時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160113070818/http://laplaza.org/~tom/People/Herschel.htm 2006年11月26日閲覧。. 
  11. ^ Lassell, W. (1848). “Satellites of Saturn”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 8 (3): 42–43. doi:10.1093/mnras/8.3.42. ISSN 0035-8711. 
  12. ^ David R. Williams. “Saturnian Satellite Fact Sheet”. アメリカ航空宇宙局. 2010年4月3日閲覧。
  13. ^ http://www.astronomy.ohio-state.edu/~pogge/Ast161/Unit6/rings.html
  14. ^ Thomas, P. C. et al. (2006年). “Shapes of the Saturnian Icy Satellite”. 37th Lunar and Planetary Science Conference. 2010年3月31日閲覧。
  15. ^ a b c “1980s Video Icon Glows on Saturn Moon”. NASA JPL. (2010年3月29日). http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2010-103 2010年3月30日閲覧。 
  16. ^ Saturn moon looks like Pac-Man in image taken by Nasa spacecraft”. デイリー・テレグラフ (2010年3月30日). 2010年4月2日閲覧。
  17. ^ http://www.nasa.gov/jpl/cassini/saturn-moon-may-hide-a-fossil-core-or-an-ocean/index.html#.VEE2_cV_uSo
  18. ^ Elkins-Tanton, Linda E. (2006). Jupiter and Saturn. Infobase Publishing. p. 144. ISBN 9781438107257 
  19. ^ Kelly Young (2005年2月11日). “Saturn's moon is Death Star's twin”. New Scientist. http://www.newscientist.com/article/dn6999 2010年3月31日閲覧。 
  20. ^ a b デス・スターに似た土星の衛星「ミマス」氷の下に内部海が存在する?”. sorae (2022年1月20日). 2022年2月14日閲覧。
  21. ^ Tajeddine, R.; Rambaux, N.; Lainey, V.; Charnoz, S.; Richard, A.; Rivoldini, A.; Noyelles, B. (2014-10-17). “Constraints on Mimas' interior from Cassini ISS libration measurements”. Science 346 (6207): 322–324. Bibcode2014Sci...346..322T. doi:10.1126/science.1255299. 
  22. ^ a b Rhoden, A. R.; Henning, W.; Hurford, T. A.; Patthoff, D. A.; Tajeddine, R. (2017-02-24). “The implications of tides on the Mimas ocean hypothesis”. Journal of Geophysical Research: Planets. Bibcode2017JGRE..122..400R. doi:10.1002/2016JE005097. 
  23. ^ V. Lainey; N. Rambaux; G. Tobie; N. Cooper; Q. Zhang; B. Noyelles; K. Baillié (2024年2月7日). "A recently formed ocean inside Saturn's moon Mimas". ネイチャー (英語). 626. doi:10.1038/s41586-023-06975-9. ISSN 1476-4687
  24. ^ 「液体の水が存在する土星の衛星を発見 土星の衛星ミマスの地下深くには生まれたての海が広がっていた」『Newton』第44巻第5号、ニュートンプレス、2024年3月26日、5頁、ISSN 0286-0651JAN 4910070470541 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]