交点数 (結び目理論)

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最小交点数が7以下の合成結び目でない結び目の表(鏡像は省略している)。

交点数(こうてんすう、Crossing number)とは、位相幾何学の一分野である結び目理論において結び目(絡み目)またはその射影図に対して定義される量。結び目(絡み目)の交点数は結び目(絡み目)の不変量である。

定義[編集]

結び目(絡み目)の(正則な)射影図において、その中に含まれる交点の個数を、その射影図の交点数という。また、結び目(絡み目)の射影図のうち交点数が最も少ない射影図を最小交点射影図といい、最小交点射影図の交点数をその結び目(絡み目)の交点数という(射影図の交点数と区別するために最小交点数または最小交差数ということもある)。

絡み目Lの交点数は記号としてはc(L)で表すことが多い。

性質[編集]

与えられた結び目・絡み目に対してその交点数を求める一般的な方法は知られていないが、交代絡み目の場合は、既約交代射影図が最小交点射影図となることが知られているので容易に求めることができる(テイト予想も参照)。非交代結び目の場合は、その結び目が n 交点の射影図を持ち、なおかつ n-1 交点以下の全ての結び目と異なることを(不変量などを用いて)示すことができれば、交点数が n であるといえたことになる。

絡み目 L1L2合成L1 # L2 とすると、定義より明らかにc(L1 # L2)≦c(L1) + c(L2)が成立するが、さらにc(L1 # L2) = c(L1) + c(L2)が成立するどうかは未解決問題となっている。ただし交代絡み目に限れば成立するということが1987年頃に証明されている[1]

一般的な結び目の表は、最小交点数が少ない順に分類されている。各交点数に対する合成結び目でない結び目の個数は、以下のようになっている(この表では鏡像は区別していない)[2]

交点数 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
結び目の個数 1 0 0 1 1 2 3 7 21 49 165 552 2176 9988 46972 253293

交点数が0,3,4の結び目はそれぞれ自明な結び目三葉結び目8の字結び目であり、交点が2つ以下の結び目の射影図は全て自明な結び目となるため交点数1,2の結び目は無い。

また、n が4以上であれば n 交点の素な結び目の個数より n+1 交点の素な結び目の個数の方が多いことが予想されるが、証明はされていない。ただし、n が4以上のときに n 交点の結び目の個数が n に関する指数関数によって下からおさえられることが分かっている。

交点数が少ないうちは交代結び目・可逆な結び目の割合が多い(7交点以下の素な結び目で非可逆な結び目や非交代結び目は無い)。しかし交点数が増えるにしたがって交代結び目の占める割合は減っていく。

奇数の交点数を持つ結び目は両手型結び目[3]にならないと予想されていたが、15交点の両手型結び目が1997年に発見された。交代結び目については、交点数が奇数なら両手型でないことが証明されている[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b テイト予想が解決されたときに系として示されている。
  2. ^ 『結び目の数学』33頁・『結び目理論概説』8頁。
  3. ^ ある結び目とその結び目の鏡像が同値のとき、その結び目を両手型結び目という。例えば8の字結び目は両手型結び目であるが、三葉結び目はそうではない。

参考文献[編集]

  • C. C. アダムス 著、金信泰造 訳『結び目の数学 結び目理論への初等的入門』培風館、1998年1月、67-69頁。ISBN 978-4-563-00254-1 
  • 鎌田聖一『曲面結び目理論』丸善出版〈シュプリンガー現代数学シリーズ 第16巻〉、2012年3月。ISBN 978-4-621-08509-7 
  • 鈴木晋一『結び目理論入門』サイエンス社〈数理科学ライブラリ 1〉、1991年12月、18頁。ISBN 978-4-7819-0633-1 
  • 村杉邦男『結び目理論とその応用』日本評論社、1993年6月、47-49頁。ISBN 978-4-535-78199-3 
  • W. B. R. リコリッシュ 著、秋吉宏尚 ほか 訳『結び目理論概説』シュプリンガー・ジャパン、2000年1月。ISBN 978-4-431-70859-9