廿日市女子高生殺害事件
ウィキペディアから無料の百科事典
テレビ番組・中継内での各種情報(終了した番組・中継を含みます)は、DVDやBlu-rayなどでの販売や公式なネット配信、または信頼できる紙媒体またはウェブ媒体が紹介するまで、出典として用いないで下さい。 |
廿日市女子高生殺害事件 | |
---|---|
正式名称 | 廿日市市上平良における女子高校生等被害殺人事件 |
場所 | ![]() |
座標 | |
標的 | |
日付 | 2004年(平成16年)10月5日[1] 午後3時ごろ[1] (UTC+9) |
概要 | 男が民家に侵入し、折り畳みナイフで女子高校生を刺殺し、祖母に一時意識不明の重体に陥らせる重傷を負わせた[1][3]。 |
懸賞金 | 300万円[4] |
攻撃手段 | 折り畳みナイフで刺す[3] |
武器 | 折り畳みナイフ[3] |
死亡者 | 1人[1] |
負傷者 | 1人[1] |
犯人 | 男S(逮捕時35歳:山口県宇部市在住) |
容疑 | 殺人・殺人未遂[5] |
動機 | 性的暴行を遂げられなかったことや職場及び家庭環境に対する怒り[5] |
対処 | 2018年4月13日に被疑者を逮捕・5月24日に起訴 |
謝罪 | 広島地裁の公判における最終意見陳述で「自分勝手な都合で大切な家族の命を奪った。申し訳ございませんでした」と謝罪した[5]。 |
刑事訴訟 | 無期懲役(第一審判決・控訴せず確定) |
遺族会 | 殺人事件被害者遺族の会(宙の会) |
管轄 |
廿日市女子高生殺害事件(はつかいち じょしこうせいさつがいじけん)とは、2004年(平成16年)10月5日に広島県廿日市市に住む女子高生が自宅で刺殺され、その祖母が重傷を負わされた事件。長らく未解決事件だったが2018年(平成30年)に犯人が逮捕され、2020年(令和2年)に無期懲役が確定した。
事件概要
[編集]2004年10月5日午後3時ごろ、男S(事件当時21歳)が広島県廿日市市上平良の民家に侵入、家の中にいた高校2年の女子高校生(当時17歳)を刃物で襲撃した[1]。
女子高校生は高校から帰宅後、祖母らに「午後4時ごろまで寝る」と伝え、自宅離れ2階の自室で仮眠を取っていたところをSに刺されたとみられる[1]。刺された女子高校生はあわててベッドを離れ、悲鳴と階段を駆け下りる音を聞いた祖母(当時72歳)と妹が駆けつけると、離れ玄関先で大量の血を流して階段上り口付近で倒れている女子高校生[1]と近くで立っているSを目撃した[1]。部屋では枕元の音楽機器に接続されていたイヤホンが外れていた。
妹は近くの商店に逃げ込んだが、その間に離れ1階でSは祖母にも襲いかかり、背中や腹を10か所ほど刺して逃走した[1][7]。妹は裸足のまま、30m離れた近所の園芸店に助けを求めた[8]。女子高校生と祖母は共に意識不明の重体に陥って病院に運ばれたが[1]このうち女子高校生はまもなく出血多量で死亡、祖母はその後意識を回復した[1][9]。
事件直後、広島県警察捜査一課は廿日市警察署に捜査本部を設置して犯人の男の行方を追った[6][10]。凶器を事前に準備した上で被害者を1階の玄関まで追って刺すという凶悪性の高い犯行であり、強固な殺意を抱いた人物による計画的犯行の疑いがあるとしたが、女子高校生は学校内でのトラブルなどもなく、犯人の動機などは不明であった[9][11]。そのため、被害者である妹と祖母以外の目撃者や有力情報などもないまま、長らく未解決事件となっていた。
被疑者の逮捕
[編集]逮捕に至るまでの経緯
[編集]事件発生から14年間にわたり犯人が逮捕されず、父親はブログで事件の風化せぬよう、非常に熱心に呼びかけを続けていた。2008年2月には、犯人逮捕につながる有力情報の提供者に最高300万円の懸賞金を支払う捜査特別報奨金制度対象事件ともなったこともあり、報道や難事件を扱うテレビ番組などで未解決事件として取り上げられるようになった[4]。
2010年には、殺人事件における公訴時効(15年)が廃止されたものの、まったく捜査の進展が見られなかった[12]。
別の暴行事件から犯人逮捕
[編集]2018年4月13日、別の暴行事件で任意捜査対象であった山口県宇部市の35歳の会社員の男S(事件当時21歳)のDNA型・指紋が、当時現場で採取されたDNA型・指紋などと一致したため、本件の殺人容疑で逮捕された[13]。
Sは、宇部市内にある土木建築会社に、13年前から勤務していた[14]。社長は「無断欠勤などなく、仕事態度は真面目であった」と評価しており、口数は少なくて大人しかったという[14]。被疑者の父親も、「気は弱いし、引っ込み思案の性格」と評している。
しかし、2018年4月上旬にイラついたという理由で、後ろを向いていた部下の左足上部大腿部を走り寄って蹴り上げ、警察に通報された。その際に山口県警察がSの指紋を採取し、このデータを本件遺留物の指紋と照合したところ一致を見たことから、SのDNAを採取して鑑識によるDNA鑑定を経て、本事件における殺人罪での逮捕につながった[14][15]。
供述によると、Sは事件当日に山口県宇部市から広島県廿日市市の犯行現場までバイクで向かったという[16]。事件発生前後には、バイクに乗った不審な男性の目撃情報が複数寄せられていた。また、犯行現場の廿日市市に居住歴はなく、「以前務めていた会社を解雇され、自棄自暴になった」「通りすがりに犯行に及んだ」などと供述した[17][18]。
同年5月3日にSは、重傷を負わされた祖母に対する殺人未遂罪で再逮捕され、5月24日に殺人罪と殺人未遂罪で広島地検に起訴された[19][20]。
刑事裁判
[編集]第一審・広島地裁
[編集]2020年3月3日、広島地裁(杉本正則裁判長)で裁判員裁判の初公判が開かれ、罪状認否で被告人Sは「間違っていません」と述べて起訴事実を認めた[21][22]。
同年3月4日、被告人質問が行われ、被害者をターゲットにした理由についてSは「勤務先を朝寝坊し遅刻したので、怒られると思い寮を出てミニバイクで東京方面に向かって逃げた。広島県に入り、下校中の女子高生を何人か見掛けて考えた」と回答した[23]。また、逮捕された時の心境については「ほっとした気分になった」と回答した[23]。
3月10日に論告求刑公判が開かれ、検察官は長期間逃亡していることから再犯が懸念されることなどを挙げた上で「暴行目的で襲った上、逃げた被害者に対し職場や家庭環境への不満をぶつけた。動機は身勝手で酌量の余地はない」としてSに無期懲役を求刑した[24][5]。同日の最終弁論で弁護人は「殺害は突飛的な行動だった」として量刑の減軽を求め、結審した[24][5]。被害者の父親は被害者参加制度を利用して公判に参加し、意見陳述で「自分の子どもの命が奪われたらと考えてほしい。厳しい判決を強く願っています」と述べてSへの死刑を求めた[5]。
3月18日、広島地裁(杉本正則裁判長)は検察官の求刑通り被告人Sを無期懲役とする判決を言い渡した[25]。この判決に対して検察側・被告人側の双方とも控訴しなかったため、同年4月2日付で無期懲役の判決が確定した[26][27]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n 「廿日市で高2女子刺殺 民家に男侵入、逃走」『中国新聞』中国新聞社、2004年10月6日。オリジナルの2004年10月13日時点におけるアーカイブ。2024年11月18日閲覧。
- ^ 「自宅で殺害の◯◯◯◯さん通夜、同級生すすり泣き」『読売新聞』読売新聞社、2004年10月8日。オリジナルの2004年10月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b c 「【判決要旨】廿日市女子高生刺殺事件(2020年3月18日掲載)」『中国新聞』中国新聞社、2020年7月28日。オリジナルの2025年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b 「04年広島の女子高生殺害 懸賞金1年間延長 警察庁」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2018年3月1日。オリジナルの2025年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b c d e f 「高2女子刺殺で36歳無職男に無期求刑 広島地裁」『産経新聞』産業経済新聞社、2020年3月10日。オリジナルの2025年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b 『日本経済新聞』2004年10月6日東京朝刊39頁「高2女子刺され死亡、若い男逃走 広島 自宅で、祖母も重体」(日本経済新聞東京本社)
- ^ 「廿日市2人殺傷、不審な男が家うかがう」『中国新聞』中国新聞社、2004年10月7日。オリジナルの2004年10月12日時点におけるアーカイブ。2024年11月18日閲覧。
- ^ 「白昼の住宅地に衝撃 震える妹、救助求める」『中国新聞』中国新聞社、2004年10月6日。オリジナルの2004年12月12日時点におけるアーカイブ。2024年11月18日閲覧。
- ^ a b 「廿日市2人殺傷 凶器、事前に準備」『中国新聞』中国新聞社、2004年10月9日。オリジナルの2004年10月12日時点におけるアーカイブ。2024年11月18日閲覧。
- ^ 「高2女子殺害、短髪・細目・丸顔…警察が似顔絵公開」『読売新聞』読売新聞社、2004年10月8日。オリジナルの2004年10月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ 「犯人像・動機絞れず 廿日市2人殺傷あすで1週間」『中国新聞』中国新聞社、2004年10月11日。オリジナルの2004年10月13日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ 「「犯人、絶対捕まえる」…父親ら情報提供呼びかけ 広島・廿日市市の女子高生刺殺事件から11年」『産経新聞』産業経済新聞社、2015年10月5日。オリジナルの2025年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ 「14年前の高2殺害で逮捕=山口の35歳会社員-指紋、DNA型一致・広島県警」『時事通信』2018年4月13日。オリジナルの2018年4月13日時点におけるアーカイブ。2018年4月13日閲覧。
- ^ a b c 「××容疑者の知人ら「まじめ」「信じられない」=広島高2殺害」『時事通信』2018年4月13日。オリジナルの2018年6月12日時点におけるアーカイブ。2018年6月12日閲覧。
- ^ 「広島・廿日市女子高生刺殺、山口の男逮捕 現場慰留の指紋・DNA型が一致 別の暴行事件で山口県警に書類送検」『産経新聞』産業経済新聞社、2018年4月13日。オリジナルの2024年12月19日時点におけるアーカイブ。2024年11月18日閲覧。
- ^ 小山美砂、東久保逸夫、松田栄二郎「「廿日市は通りすがり」 容疑者、バイク利用か」『毎日新聞』毎日新聞社、2018年4月14日。オリジナルの2018年4月14日時点におけるアーカイブ。2018年4月14日閲覧。
- ^ 「容疑者 広島に居住歴なし、被害者との関係焦点」『産経新聞』産業経済新聞社、2018年4月14日。オリジナルの2020年9月21日時点におけるアーカイブ。2018年6月12日閲覧。
- ^ 「「騒がれて逃げようとしたので刺した」と35歳男」『産経新聞』産業経済新聞社、2018年4月16日。オリジナルの2020年9月21日時点におけるアーカイブ。2018年6月12日閲覧。
- ^ 「広島高2刺殺事件で男を再逮捕」『徳島新聞』徳島新聞社、2018年5月3日。オリジナルの2018年6月12日時点におけるアーカイブ。2018年6月12日閲覧。
- ^ 「乱暴目的で侵入、逃げられ殺害 地検判断、男を起訴」『産経新聞』産業経済新聞社、2018年5月24日。オリジナルの2020年9月21日時点におけるアーカイブ。2018年6月12日閲覧。
- ^ 「【初公判詳報】廿日市女子高生殺害事件 被告、起訴事実認める」『中国新聞』中国新聞社、2020年3月3日。オリジナルの2021年1月27日時点におけるアーカイブ。2020年3月4日閲覧。
- ^ 「16年前の女子高校生刺殺、初公判で起訴事実認める」『読売新聞』読売新聞社、2020年3月3日。オリジナルの2020年3月3日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b 「【第2回公判・被告人質問詳報】廿日市女子高生刺殺事件(2020年3月4日掲載)」『中国新聞』中国新聞社、2020年7月28日。オリジナルの2025年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年3月11日閲覧。
- ^ a b 『読売新聞』2020年3月11日大阪朝刊第二社会面36頁「高2女子殺害 無期求刑 広島地裁 弁護側「突飛的行動」」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2020年3月19日大阪朝刊第二社会面34頁「高2刺殺 無期判決 広島地裁 「身勝手極まりない」」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2020年4月2日大阪夕刊第二社会面8頁「広島高2刺殺 無期判決確定」(読売新聞大阪本社)
- ^ “《廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記14》【最終回】 遺族に感情移入し、会見で感極まった裁判員”. 鹿砦社 (2020年10月5日). 2023年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月26日閲覧。
関連項目
[編集]- 殺人事件被害者遺族の会(宙の会)
外部リンク
[編集]- H16.10.5 ~ 女子高校生被害殺人事件(廿日市市上平良) 捜査特別報奨金対象事件 - 広島県警察。現在は容疑者の逮捕を伝える記事になっている。
- ~娘への想い~ - 遺族によるブログ。ブログ名に被害者の実名が使われているため、該当箇所を省略している。