統計法

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統計法
日本国政府国章(準)
日本の法令
法令番号 平成19年法律第53号
種類 行政手続法
効力 現行法
成立 2007年5月16日
公布 2007年5月23日
施行 2009年4月1日
所管 総務省
主な内容 統計について
条文リンク 統計法 - e-Gov法令検索
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統計法(とうけいほう、平成19年法律第53号)は、公的統計の作成及び提供に関し基本となる事項を定めることにより、公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする日本法律である。この公的統計とは、国の行政機関・地方公共団体などが作成する統計である。統計調査により作成される統計(調査統計)のほか、業務データを集計することにより作成される統計(いわゆる「業務統計」)や他の統計を加工することにより作成される統計(加工統計)も公的統計に該当する。

現行法は、1947年3月26日公布された統計法(昭和22年法律第18号)を全面改正して2007年5月23日に公布したもの。改正の前後を区別するため「旧統計法」「新統計法」と呼ぶことがある。

旧統計法[編集]

旧統計法[1]1947年に成立した[2]。その後、統計調査の重複を避けることなどを目的として1952年に成立した統計報告調整法[3]とともに、日本の統計制度を半世紀以上にわたって規定した[4]

この旧統計法下の統計制度とその問題については、「日本の公的統計制度の歴史#旧統計法下の統計制度」を参照。

改正の流れ[編集]

骨太の方針などで経済社会の実態を的確に捉えるための統計制度改革が提言されたことを受け、経済社会統計整備推進委員会、及び統計制度改革検討委員会の報告を経て作成された「統計法案」が、内閣から第166回国会に提出された(2007年2月13日)。国会での審議を経て、同年5月16日に成立。改正法の附則第2条により、統計報告調整法は廃止された。[5]

新統計法は2009年4月1日に施行。ただし第1章(総則)、第5章(統計委員会)、国民経済計算(第6条)、事業所母集団データベース(第27条)、統計基準(第28条)、匿名データ(第35条)に関する事項はこの限りでない(附則第1条)[5]

この全部改正以降、統計法は5回改正されている。

  1. 2008年(平成20年)地方法人特別税等に関する暫定措置法[6] による改正。
  2. 2015年(平成27年)内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律[7] による改正。統計委員会内閣府から総務省に移動(第44条)。
  3. 2018年(平成30年)統計法及び独立行政法人統計センター法の一部を改正する法律[8] による改正。統計委員会の所掌事務と構成を明確化(第5章)。調査票情報の利用に関して、提供条件を新設(第33条の2)するとともに、利用成果の公表などに関する規定を追加(第33条)。
  4. 2021年(令和3年)デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律[9] による改正。個人情報保護に関する法制の整備にあわせて、関連条文(第52条)を改正。
  5. 2022年(令和4年)刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律[10] による改正。同年の刑法改正[11]懲役刑が廃止されて拘禁刑が創設されたことにあわせ、罰則関係の条文を変更。2025年6月16日施行予定[12]

新統計法[編集]

以下の記述は、2023年9月現在の法律に基づく。未施行の法改正[10] の情報が反映していないことに注意されたい。

概要[編集]

「公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与すること」(第1条) を目的とする。そのための基本理念として、公的統計の体系的整備を行政機関等の相互協力と役割分担の下に成し遂げること、公的統計作成において中立性と信頼性を確保すること、公的統計を国民が容易に入手して効果的に利用できるよう提供すること、公的統計作成に用いた個人や法人その他の団体に関する秘密を保護することを謳っている(第3条)。具体的な制度として、つぎのような事項に関する規定を置いている。[13]

用語[編集]

つぎの用語について、第2条で定義を示している。(以下の説明の文章は条文どおりでないので注意。)

行政機関
内閣に置かれる機関、内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁内閣府設置法または国家行政組織法が規定する機関。
独立行政法人等
独立行政法人のほか、法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人、特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、政令で定めるもの。
公的統計
行政機関、地方公共団体、独立行政法人等(以下「行政機関等」という)が作成する統計[注釈 1]
基幹統計
国勢統計国民経済計算のほか、総務大臣が一定の条件に該当するとして指定する統計
統計調査
行政機関等が、統計の作成を目的として、個人または法人その他の団体に対し、事実の報告を求める調査。ただし、次に掲げるものを除く: (1) 行政機関等がその内部において行うもの, (2) この法律及びこれに基づく命令以外の法律又は政令において、行政機関等に対し、報告を求めることが規定されているもの, (3) 政令で定める行政機関等が政令で定める事務に関して行うもの
基幹統計調査
基幹統計の作成を目的とする統計調査。
一般統計調査
行政機関が行う統計調査のうち基幹統計調査以外のもの。
事業所母集団データベース
事業所に関する情報を、電子計算機検索できるように体系的に構成したもの。
統計基準
公的統計の統一性または総合性を確保するための技術的な基準。[注釈 2]
行政記録情報
行政機関の職員が職務上作成/取得した情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして当該行政機関が保有しているもののうち、行政文書に記録されているもの。ただし、調査票情報、事業所母集団データベースに記録されている情報、匿名データを除く。
調査票情報
統計調査で集めた情報のうち、文書図画または電磁的記録に記録されているもの。[注釈 3]
匿名データ
一般の利用に供することを目的として、調査票情報を、特定の個人または法人その他の団体の識別(他の情報との照合による識別を含む)ができないように加工したもの。


なお、「統計」が何を指すかについての定義は、法律中にはない。この点は旧統計法とおなじ[2](p117) である。

目次[編集]

  • 第一章 総則(第一条―第四条)
  • 第二章 公的統計の作成
    • 第一節 基幹統計(第五条―第八条)
    • 第二節 統計調査
      • 第一款 基幹統計調査(第九条―第十八条)
      • 第二款 一般統計調査(第十九条―第二十三条)
      • 第三款 指定地方公共団体又は指定独立行政法人等が行う統計調査(第二十四条・第二十五条)
    • 第三節 雑則(第二十六条―第三十一条)
  • 第三章 調査票情報等の利用及び提供(第三十二条―第三十八条)
  • 第四章 調査票情報等の保護(第三十九条―第四十三条)
  • 第五章 統計委員会(第四十四条―第五十一条)
  • 第六章 雑則(第五十二条―第五十六条の二)
  • 第七章 罰則(第五十七条―第六十二条)
  • 附則

基本計画[編集]

公的統計を体系的・効率的に整備するため、公的統計の整備に関する基本的な計画(おおむね5年にわたる具体的な取組の工程表)を作成することが定められている(第4条)。この基本計画は、統計委員会の調査審議やパブリックコメントなどを経て、閣議により決定することとなっている。

基幹統計[編集]

基幹統計とは、国勢統計国民経済計算のほか、行政機関が作成し、又は作成すべき統計であって、

  1. 全国的な政策を企画立案し、又はこれを実施する上において特に重要な統計
  2. 民間における意思決定又は研究活動のために広く利用されると見込まれる統計
  3. 国際条約又は国際機関が作成する計画において作成が求められている統計その他国際比較を行う上において特に重要な統計

のいずれかに該当するものとして総務大臣が指定するものである(第2条)。総務大臣は、基幹統計を指定しようとするときは、あらかじめ、当該行政機関の長に協議するとともに、統計委員会の意見を聴かなければならない(第7条)。

なお、国勢調査の実施と国勢統計の作成(第5条)、国民経済計算の作成(第6条)については特に法律中に直接の規定を置いている。

基幹統計調査[編集]

基幹統計を作成するために行われる基幹統計調査については、次のような規定が設けられている。

行政機関の長は、基幹統計調査を行おうとするときは、あらかじめ、総務大臣の承認を受けなければならない。この承認を受けようとする行政機関の長は、(1)調査の名称及び目的、(2)調査対象の範囲、(3)報告を求める事項及びその基準となる期日又は期間、(4)報告を求める個人又は法人その他の団体、(5)報告を求めるために用いる方法、(6)報告を求める期間、(7)集計事項、(8)調査結果の公表の方法及び期日、(9)使用する統計基準その他総務省令で定める事項を記載した申請書を総務大臣に提出しなければならない。なお、この申請書には、調査票その他総務省令で定める書類を添付しなければならない。総務大臣は、行政機関の長から承認の申請があったときは、統計委員会の意見を聴かなければならない。ただし、統計委員会が軽微な事項と認めるものについては、この限りでない。(第9条)

総務大臣は、基幹統計調査が、承認の申請の(2)調査対象の範囲、(3)報告を求める事項及びその基準となる期日又は期間、(4)報告を求める個人又は法人その他の団体、(5)報告を求めるために用いる方法、(6)報告を求める期間が当該基幹統計の作成の目的に照らして必要かつ十分なものであり、かつ、統計技術的に合理的かつ妥当なものであり、かつ、他の基幹統計調査との間の重複が合理的と認められる範囲を超えていないものであると認めるときは、同項の承認をしなければならない。(第10条)

行政機関の長は、第九条第一項の承認に基づいて基幹統計調査を行う場合には、基幹統計の作成のために必要な事項について、個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができ、この報告を求められた個人又は法人その他の団体は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。(第13条)

行政機関の長は、その行う基幹統計調査の正確な報告を求めるため必要があると認めるときは、当該基幹統計調査の報告を求められた個人又は法人その他の団体に対し、その報告に関し資料の提出を求め、又はその統計調査員その他の職員に、必要な場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。(第15条)

何人も、国勢調査その他の基幹統計調査の報告の求めであると人を誤認させるような表示又は説明をすることにより、当該求めに対する報告として、個人又は法人その他の団体の情報を取得してはならない。(第17条)

二次利用[編集]

公的統計を広く一般に利用可能とするため、調査情報の二次利用に関する規定が設けられている。具体的には、個人を識別できないように加工した匿名データの作成と大学や研究機関等によるその利用 (第35条および第36条)、「委託による統計の作成」(いわゆるオーダーメード集計: 第34条)、匿名化のじゅうぶんでないために個人を識別できる可能性のある調査票情報を提供 (第33条および第33条の2) という3種類の手続きがある。

情報の保護[編集]

統計法に基づく統計調査で収集する調査票情報については、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)[17] は適用しない(第52条)。そのかわり、これらの情報をあつかう行政機関地方公共団体独立行政法人等とそれらの職員、それらの機関から委託を受けて情報をあつかう者、調査票情報または匿名データの提供を受ける者には、情報の適正な管理と秘密漏洩の防止が義務づけられる(第39-43条)。統計作成のために収集する行政記録情報や、事業所母集団データベース記載の情報についても同様である。

統計委員会[編集]

総務省統計委員会を置く(第44条)[注釈 4]。同委員会の所掌する事務は次のとおりである(第45条)。

  • 統計及び統計制度の発達及び改善に関する基本的事項について、総務大臣の諮問に応じて調査審議する。また、それらの事項に関して、総務大臣に意見を述べる。
  • 公的統計の整備に関する基本的な計画の案の作成と変更、基幹統計の指定・変更・解除、基幹統計調査の承認・変更・中止、基幹統計作成のための協力を行政機関等に求めること、統計基準の設定等について総務大臣に意見を述べる。
  • 公的統計の整備に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、総務大臣又は総務大臣を通じて関係行政機関の長に勧告を行う。
  • 国民経済計算の作成基準について、内閣総理大臣に意見を述べる。
  • 基幹統計調査に係る匿名データを作成する行政機関の長に意見を述べる。
  • 統計法の施行の状況についての報告に対して、この法律の施行に関し、総務大臣又は関係行政機関の長に対し、意見を述べる。
  • そのほか、統計法の規定によりその権限に属させられた事項。

統計委員会の委員は13人以内(第46条)。その互選により、委員長を選ぶ(第49条)。委員のほかに、特別の事項を調査審議させるための臨時委員、専門の事項を調査させるための専門委員を置くことができる(第46条)。これらは、学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する(第47条)。いずれも非常勤である。委員の任期は2年(再任可)。臨時委員・専門委員は、当該事項に関する調査等の終了時に解任される(第48条)。

統計委員会には、総務省及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命した幹事が置かれる[注釈 5]。幹事は、委員会の所掌事務について、委員、臨時委員及び専門委員を補佐する(第49条の2)。

罰則[編集]

統計調査に係る情報の騙取や漏洩、調査への回答の拒否や妨害、統計作成過程での捏造や改竄による統計の真実性の侵害、匿名データの漏洩や不正流用については、懲役刑を含む罰則がある (第57-61条)。

注釈[編集]

  1. ^ 従来は「政府統計」「官庁統計」と呼ばれていたものであるが、中央政府官庁以外の地方公共団体独立行政法人の作成する統計もふくむことを明示するために「公的統計」という用語が採用されている。[14]
  2. ^ 「統計基準」について条文では抽象的な定義しかあたえられていないが、日本標準産業分類標準地域コードなどのように、多くの統計が共通で使用する標準的な取り決めのことを指すようである。[15]
  3. ^ 条文上の定義では、統計調査で集めた情報を記録したものはなんでも「調査票情報」ということになる。ただし、実際の運用においては、統計データの保管・提供段階において、将来の利活用のために保管する集計用個別データ等を電磁的方法で記録したもの[16] のことを特にいうようである。
  4. ^ 2007年(平成19年)の統計委員会設立当初は内閣府に置かれていたが、2015年(平成27年)の法改正[7] により、総務省に移った。この改正法の附則第3条により、法改正前後の統計委員会は「同一性をもって存続するもの」とされている。
  5. ^ 「幹事」の規定は、2018年(平成30年)の法改正[8] で新設された(第49条の2)。

出典[編集]

  1. ^ 統計法 (昭和22年法律第18号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  2. ^ a b 山中四郎・河合三良『統計法と統計制度』統計の友社、1950年1月。doi:10.11501/1152950NCID BN10766192 
  3. ^ 統計報告調整法 (昭和27年法律第148号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  4. ^ 森博美「「統計法」と法の目的」『統計いばらき』第613号、茨城県企画部統計課; 茨城県統計協会、2005年6月、1-2頁。  https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11333679
  5. ^ a b 統計法 (平成19年5月23日法律第53号)〔昭和22年法律第18号の全部改正〕 - 国立国会図書館 日本法令索引
  6. ^ 地方法人特別税等に関する暫定措置法(平成20年4月30日法律第25号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  7. ^ a b 内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律(平成27年9月11日法律第66号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  8. ^ a b 統計法及び独立行政法人統計センター法の一部を改正する法律(平成30年6月1日法律第34号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  9. ^ デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年5月19日法律第37号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  10. ^ a b 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年6月17日法律第68号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  11. ^ 刑法等の一部を改正する法律(令和4年6月17日法律第67号) - 国立国会図書館 日本法令索引
  12. ^ 統計法(令和四年法律第六十八号による改正):刑法等一部改正法施行日 - e-Gov法令検索
  13. ^ 総務省|統計制度|統計法について”. 総務省. 2023年4月18日閲覧。
  14. ^ 松井博『公的統計の体系と見方』日本評論社、2008年。ISBN 9784535554726NCID BA86882304 
  15. ^ 統計基準等”. www.soumu.go.jp. 国民生活と安心・安全. 総務省. 2023年6月18日閲覧。
  16. ^ 総務省政策統括官(統計基準担当) (2022年3月29日). “調査票情報等の管理及び情報漏えい等の対策に関するガイドライン(平成21年2月6日)” (PDF). www.soumu.go.jp. 総務省. p. 24. 2023年6月18日閲覧。
  17. ^ 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号) - e-Gov法令検索

関連項目[編集]

外部リンク[編集]