しきさい
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気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) | |
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所属 | JAXA |
主製造業者 | NEC |
公式ページ | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) |
国 | ![]() |
国際標識番号 | 2017-082A |
カタログ番号 | 43065 |
状態 | 運用中 |
目的 | 地球観測 |
設計寿命 | 5年 |
打上げ場所 | 種子島宇宙センター |
打上げ機 | H-IIAロケット 37号機 |
打上げ日時 | 2017年12月23日 10時26分22秒(JST) |
軌道投入日 | 2017年12月23日 |
本体寸法 | 2.5 m x 2.5 m x 4.6 m |
最大寸法 | 太陽電池パドル展開時:16.5m |
質量 | 2090 kg (推薬含む) |
発生電力 | 4,000 W以上(EOL) |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 太陽同期準回帰軌道 |
高度 (h) | 798km |
軌道傾斜角 (i) | 98.6度 |
降交点通過 地方時 | 10:30±00:15 |
搭載機器 | |
SGLI | 多波長光学放射計 |
しきさい(GCOM-C、気候変動観測衛星)は、地球の気候変動を光学センサにより観測する日本の人工衛星。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2017年から運用し、地球環境変動観測ミッションGCOMにおいて計画された2機のうちの1機。
2017年12月23日にH-IIAロケット37号機で超低高度技術試験機つばめ(SLATS)と共に打ち上げられた。愛称の「しきさい」は「つばめ」と共に公募を元に決定した。プロジェクト総開発費は322億円[1]。日本電気が製造した。
2022年12月に設計寿命の5年を経過したことを受け、2023年7月にプロジェクト終了が判断され後期利用に移行した[1]。プロジェクト終了審査時点で衛星全体が正常に稼働しており、運用終了後の軌道降下を考慮しても11.5年運用できる燃料が残っている[1][注釈 1]。
植生、雲、エアロゾルなどの分布を継続的に観測することで、観測データを気象や水産分野へ利用したり、地球全球の放射収支・炭素循環の正確なモデル化に貢献し将来の気候変動を予測し、政府政策の根拠となる役割が期待されている[1]。
観測機器
[編集]SGLI
[編集]多波長光学放射計(SGLI, Second-generation Global Imager)は, みどりIIに搭載されたGLI (Global Imager)の後継センサである。みどりIIの機械走査のGLIセンサが大型化・複雑化しすぎた反省から、2系統の簡素な観測装置に分割し、かつ、観測対象チャンネルを絞り込むことによって、信頼性とサバイバビリティの向上を図っている。
SGLIは, GLIに比べ, 地表面分解能が高いこと(1 km → 250 m), 陸上エアロゾル等を観測するための偏光・多方向観測機能を持つこと等の改善を行っている[2]。一方, SGLIで観測出来るチャンネル数は19と、GLIの36チャンネルから大幅に減少している。これはGCOMで求められている観測に必要なものに絞り込んでいるためである。
SGLIは「可視・近赤外放射計部」(VNR: Visible and Near Infrared Radiometer) と「赤外走査放射計部」(IRS: InfraRed Scanning radiometer)の2つの放射計から構成される。前者のSGLI-VNRはもも1号のMESSR、ふよう1号のOPS/VNIR、みどりのAVNIR、だいちのAVNIR-2センサの技術を継承している。
観測幅はSGLI-VNRで1,150 km、SGLI-IRSで1,400 kmであり、日本付近(緯度 35度)において2 日に1回の観測が可能である。全チャンネルで機械走査であったGLIセンサの1,600 kmから後退しているものの、分解能250 mの高分解能で観測できるチャンネル帯は増えている。SGLI-VNRに新たに追加された偏光観測機能により, エアロゾルの粒子の大きさが判別できるため、エアロゾルの発生源が推測可能になる。
SGLI-VNR
[編集]SGLI-VNRは, 直下方向を観測する非偏光観測センサ(NPサブユニット; 11チャンネル)と、+45°方向から-45°方向の範囲で切り替え、多方向観測ができる偏光観測センサ(PLサブユニット; 2チャンネル)から構成されている。検出器にはCCDを用いており、機械走査が不要な電子走査方式(プッシュブルーム方式)の放射計である。非偏光観測センサ(NP)は観測方向の異なる3 本の鏡筒で構成され, それぞれが画角24°で, あわせて合計70°(約1,150 km)の走査幅をもつ。陸域・沿岸では250 mの分解能、外洋域では1 kmの分解能で観測する。偏光観測センサ(PL)は、673.5 nm 用と868.5 nm 用の2 本の鏡筒を用いて、0°, +60°, -60°の3つの方向の偏光面について偏光観測を行う。また、衛星進行方向に対して前後45°の範囲内で任意の角度に設定が可能なチルト機構が実装されている。約1,150km の幅を1 km の分解能で観測する。[2]
SGLI-IRS
[編集]SGLI-IRSは、地上から受けた光を短波長赤外(SWIR:1.05µm - 2.21µm、4 チャンネル)と熱赤外(TIR:10.8µm、12.0µm、2 チャンネル)に分光し、各々の検出器へ導入する。IRS の走査方式は、走査鏡による機械走査方式(ウイスクブルーム方式)である。0.74 秒間に1 回、地表面を走査し、1 回の走査で観測幅80°(約1,400km)を観測する。[2]
機器 | チャンネル | 中心波長 | バンド幅 | 飽和輝度 W/(m2 sr um) | 分解能 | 観測対象 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
SGLI- VNR | 非偏光 観測 | VN1 | 379.9 nm | 10.6 nm | 240 - 241 | 250 m | 陸上エアロゾル・大気補正・海色・雪氷 |
VN2 | 412.3 nm | 10.3 nm | 305 - 318 | 植生・陸上エアロゾル・大気補正・海上エアロゾル・光合成有効放射量・雪氷 | |||
VN3 | 443.3 nm | 10.1 nm | 457 - 467 | 植生・海上エアロゾル・大気補正・光合成有効放射量・海色・雪氷 | |||
VN4 | 490.0 nm | 10.3 nm | 147 - 150 | 海色(クロロフィル濃度・懸濁物質濃度) | |||
VN5 | 529.7 nm | 19.1 nm | 361 - 364 | 光合成有効放射量・海色(クロロフィル濃度) | |||
VN6 | 566.1 nm | 19.8 nm | 95 - 96 | 海色(クロロフィル濃度・懸濁物質濃度・有色溶存有機物) | |||
VN7 | 672.3 nm | 22 nm | 69 - 70 | 植生・陸上エアロゾル・大気補正・海色 | |||
VN8 | 672.4 nm | 21.9 nm | 213 - 217 | ||||
VN9 | 763.1 nm | 11.4 nm | 351 - 359 | 1000 m | 水雲幾何学的厚さ | ||
VN10 | 867.1 nm | 20.9 nm | 37 - 38 | 250 m | 植生・陸上エアロゾル・大気補正・海色・雪氷 | ||
VN11 | 867.4 nm | 20.8 nm | 305 - 306 | ||||
偏光 観測 | P1 | 672.2 nm | 20.6 nm | 295, 315, 293 | 1000 m | 植生・陸上エアロゾル・大気補正・海色 | |
P2 | 866.3 nm | 20.3 nm | 396, 424, 400 | 植生・陸上エアロゾル・大気補正・海色・雪氷 | |||
SGLI- IRS | 近赤外 (SWIR) | SW1 | 1050 nm | 21.1 nm | 289.2 | 1000 m | 水雲光学的厚さ・粒径 |
SW2 | 1390 nm | 20.1 nm | 118.9 | 雪氷面上雲検知 | |||
SW3 | 1630 nm | 195 nm | 50.6 | 250 m | |||
SW4 | 2210 nm | 50.4 nm | 21.7 | 1000 m | 水雲光学的厚さ・粒径 | ||
熱赤外 (TIR) | T1 | 10.785 µm | 0.756 µm | 340 | 250 m | 地表・海面・雪氷面温度・火災検知・植生水ストレス等 | |
T2 | 11.975 µm | 0.759 µm | 340 |
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 観測対象としている気候変動は太陽活動に影響を受け、太陽活動周期が10年から15年であることから、同程度の長期連続観測が重要と考えられている
出典
[編集]- ^ a b c d “気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) プロジェクト終了審査の結果について|2023年8月29日 宇宙開発利用部会 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門”. 文部科学省. 2025年3月25日閲覧。
- ^ a b c d “気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)データ利用ハンドブック”. JAXA. 2019年9月10日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/gcom-c/
- https://jpn.nec.com/ad/cosmos/shikisai/index.html
- 安藤成将「気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の開発」『日本航空宇宙学会誌』第67巻第6号、日本航空宇宙学会、2019年、209-214頁、doi:10.14822/kjsass.67.6_209、ISSN 0021-4663、NAID 130007659678。, (認証あり)
- 岡村吉彦「気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の観測運用」『日本航空宇宙学会誌』第67巻第9号、日本航空宇宙学会、2019年、315-321頁、doi:10.14822/kjsass.67.9_315、ISSN 0021-4663、NAID 130007703368。
- 石澤淳一郎, 高橋陪夫, 大吉慶, 中右浩二, 髙倉有希, 岡村吉彦「気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の利用実証」『日本航空宇宙学会誌』第67巻第12号、日本航空宇宙学会、2019年、395-400頁、doi:10.14822/kjsass.67.12_395、ISSN 0021-4663、NAID 130007757416。
- 村上浩「気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の科学観測」『日本航空宇宙学会誌』第68巻第1号、日本航空宇宙学会、2020年、22-26頁、doi:10.14822/kjsass.68.1_22、ISSN 0021-4663、NAID 130007783606。