カトゥーリ・カルミナ

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カトゥーリ・カルミナラテン語: Catulli Carminaカトゥルス))は、ドイツ作曲家カール・オルフ1940年から1943年にかけて作曲した世俗カンタータである。オルフはラテン語: ludi scaenici舞台音楽劇)という副題をつけた。

この作品は主にローマ時代詩人カトゥルスラテン語詩を中心に、その前後に作曲家自身が書いたテキストを付加して作曲されている。本曲はトリオンフィ(ラテン語: Trionfi勝利三部作の一部であり、カルミナ・ブラーナアフロディーテの勝利の間に挟まれた第二作である。

楽器編成は、恐らくストラヴィンスキーバレエカンタータ結婚[1]からインスパイアされたパーカッションオーケストラで構成されている。

演奏時間[編集]

約35分。初期の録音では「老人達による承認の叫び声」が省略されることが多かったが、近年は省略なしの録音が殆どである。

楽器編成[編集]

構成[編集]

オルフ自身が作詞したラテン語のテキストを含む前奏曲[2]カトゥルスを使用した劇的な物語、そして前奏曲音楽を回想する短い後奏曲の3つの部分に分かれている。[3]

前奏曲では、若い女性と若い男性のグループが、永遠の("eis aiona"、ここだけギリシャ語を使用している)献身、そして互いに欲情した状態でのエロティックな行為についての非常に露骨な感情を交互に歌う。

オルフ自身が作詞した歌詞には、当時としては余りに卑猥な単語、"mentula"(ラテン語で「陰茎」)が含まれていたため、世界初のトリオンフィ三部作録音を依頼されたドイツ指揮者オイゲン・ヨッフムは、作曲者に"mentula"を回避した改変版の作詞を依頼し、承諾された。そのため、初期の録音であるオイゲン・ヨッフムモノラル盤(1954年-1955年録音)やユージン・オーマンディ盤(1967年録音)では、その改変版歌詞("mentula"を"anuli"、ラテン語で「巻毛」に変更し、その他の部分も"anuli"に合わせて変更)が使用されており、"mentula"を採用したレコードに付加された翻訳歌詞も、その多くが空白のまま放置されていた。

若者のグループが歌い終わると、老人のグループが「永遠の愛などありえない!」と人生虚無について例を挙げながら歌い、性愛の虚しさを歌った「カトゥルス」を聴くよう促す。若者達は「そこまで言うなら聴きましょう!」("Audiamus!")と承諾し、カトゥルスの詩に基づいた物語が始まる。

物語は、身持ちが良いとは言えない女性、レスビアへのに狂うローマ時代の若者、カトゥルスについて語られる。テノールソリストカトゥルスを、ソプラノソリストレスビアを演じる。

この物語は、カトゥルスと、人妻であるクローディアの歴史上の事実にほぼ基づいて作られており、カトゥルスでは、クローディアの名が偽名であるレスビアに置き換えられている。カトゥルスはクローディアとの関係について多くの詩を書き、オルフはそのうちの幾つかを選び、意図的に並べ替えた上でこのカンタータに使用している。

カトゥルスの詩は、現在では整理番号が与えられている。[4][5] 使用されている歌詞は概ねカトゥルスが書いた原詩だが、"O mea lesbia"といった歌詞や、老人達による承認の叫び声などの幾つかの書き込み、第109番の詩に対する単語の追加等が見られる。

前奏曲(ラテン語: PRAELUSIO[編集]

前述の通り、若い男女は「永遠の愛」を賞賛する歌を歌うが、老人達によって疑問を投げかけられる。老人達はカトゥルスの悲劇的な運命を連想させる歌を歌い、若者達を「という怪物」から救出しようと試みる。

第一部(ラテン語: ACTUS I[編集]

第二部(ラテン語: ACTUS II[編集]

第三部(ラテン語: ACTUS III[編集]

これらの詩の選択と並べ替えは、「愛が永遠に続くなどあり得ない」ということを舞台上の若者達に明確に示すために行われている。

後奏曲(ラテン語: EXODIUM[編集]

若者達はすぐさま老人達の忠告を無視することを決心し、カンタータは老人達の憤激をものともせず、若者達の"Eis aiona!"(永遠に!)の連呼で幕を閉じる。

音楽[編集]

オーケストラ前奏曲後奏曲でのみ演奏し、カトゥルスが歌う箇所ではソリストギリシャコロスの形式を模した合唱のみを伴う。この作品は、カルミナ・ブラーナよりも多くのリフレインシンコペーションリズムの導入を試みている。音楽学者達は、この作品が前作の「カルミナ・ブラーナ」に比べ、なぜこれ程までに長期にわたりあまり知られてこなかったのかを議論してきた。彼らは、ナチス・ドイツの崩壊と第二次世界大戦の余波によるヨーロッパの憂鬱な感情が原因で、長い間、聴衆に提示される機会が与えられなかったからであると結論付けた。

録音[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Reclaiming Antiquity for the Present: Carl Orff and the Trionfi. By Hans Jörg Jans, Orff-Zentrum, Munich”. American Symphony Orchestra. 2020年8月9日閲覧。
  2. ^ Helm, Everett (July 1955). “Carl Orff”. en:The Musical Quarterly XLI (3): 285–304. doi:10.1093/mq/XLI.3.285. http://mq.oxfordjournals.org/cgi/reprint/XLI/3/285 2020年8月9日閲覧。. 
  3. ^ Orff, Carl (1943) (Latin). Catulli Carmina (Klavierauszug [piano vocal score]). Mainz: B. Schott's Söhne. 3990 
  4. ^ Catullus” (Latin). 2020年8月9日閲覧。 “posted from the Whitman College Classics Department from a revised version of Mynors' Oxford text of 1958”
  5. ^ Fordyce, C.J. (1966) [1961]. Catullus, a commentary. Gaius Valerius Catullus. Oxford at the Clarendon Press: Oxford University Press 

外部リンク[編集]