ジェニーン・ジョーンズ
ウィキペディアから無料の百科事典
ジェニーン・ジョーンズ Genene Jones | |
---|---|
個人情報 | |
生誕 | 1950年7月13日 アメリカ合衆国 テキサス州サンアントニオ |
殺人 | |
犠牲者数 | 立証されたのは2人、60人以上の可能性[1] |
犯行期間 | 1977年–1982年 |
国 | アメリカ合衆国 |
州 | テキサス州 |
逮捕日 | 1983年[2] |
司法上処分 | |
刑罰 | 3件の罪に対し99年の禁錮刑 |
有罪判決 | 殺人罪 |
判決 | 3件の罪に対し99年の禁錮刑 |
ジェニーン・アン・ジョーンズ(英: Genene Anne Jones、1950年7月13日[3] - )は、1970年代から1980年代にかけて、自身が担当する60人余りの乳幼児を殺害した疑いがある准看護師・ヘルスケア・シリアルキラーである。
1984年に、小児ふたりの殺害・傷害(殺人未遂)の罪で有罪判決を受けた[4]。殺害にはジゴキシン(強心薬)やヘパリン(抗凝固薬)、後にはサクシニルコリン(筋弛緩薬)が用いられたが、代理ミュンヒハウゼン症候群やヒーロー・コンプレックスを抱えていた可能性が指摘されている[5]。
最初の有罪判決後、ジョーンズが務めていた時期の公式記録が破棄されたことから、被害者の正確な数は分かっていないが、これは病院側が新たな起訴を阻止するためだったのではないかと考えられている[6][1][7][8]。
出自と経歴
[編集]ジョーンズは1950年7月13日にテキサス州サンアントニオで生まれ[3][9]、ナイトクラブのオーナー夫妻に養子として引き取られた[10]。16歳の時には弟がパイプ爆弾で自殺し、翌年養父も末期癌で死亡した[3][11]。
彼女は高校時代の恋人と1968年に結婚し、子どもを1人もうけた後、1974年に離婚した(その後1977年に復縁し、さらにもう1人が生まれている)[10]。起訴の直前、ジョーンズは19歳の看護助手と再婚したが、起訴後の1983年12月に相手側から離婚届が提出された[12]。最初の結婚の頃は美容師として働いていたが、1977年に資格取得のため看護学校へ入学した[12][13]。卒業後はサンアントニオのメソジスト病院、またある私立病院に勤務したが、出しゃばった判断を行うなどの理由で長続きしなかったという[14]。
彼女はベア郡立病院(現ユニバーシティ・ヘルス・システム)の小児集中治療室で准看護師として働き始めたが、ジョーンズの勤務中には、彼女が看護した子どもたちが大勢亡くなっていた[15]。病院は訴訟を起こされることを恐れ、ジョーンズを含めた准看護師全員へ解雇に応じるよう求め、代わりに小児集中治療室のスタッフを正看護師のみに変更した[16]。解雇前、ジョーンズの勤務時間は「死のシフト」、また彼女自身も「死の看護師」と呼ばれていたほどだったが、ベア郡の検死医に異状死に関する報告は一切無かったという[16]。1984年にジョーンズが有罪判決を受けた後、ベア郡立病院は彼女が勤務していた時期の公式記録を破棄しており、正確な被害者数は分かっていない[6][1][7][8]。
彼女はその後、サンアントニオに程近いテキサス州カーヴィルに移り、小児科の開業病院に勤めることになった[9]。彼女はここで6人の子どもへ毒を盛ったとして罪に問われた。医師は自分とジョーンズしか入ることのできない薬品庫で、穿刺の痕が残るサクシニルコリン(筋弛緩剤)の瓶を見つけた[17]。中身は満量に見えたが、後の調査で希釈されていたことが判明した[17][18]。この脱分極性筋弛緩薬は、投与すると全身の筋肉が弛緩して心停止・呼吸不全・窒息を引き起こすことになる[19]。ジョーンズは自身の働きについて、カーヴィルで小児集中治療室を設立する助けがしたかったのだと主張した[20][21]。
刑事訴追
[編集]ジョーンズは1983年に逮捕され、カーヴィルの開業病院にて15ヶ月の女児をサクシニルコリンで殺した罪で、1984年2月に99年の禁錮刑を言い渡された[22][23]。また同じ年の10月には、ヘパリン(抗凝固薬)による4ヶ月の男児殺人未遂で60年の禁錮刑判決を受けた[23]。
2016年3月の段階で、ジョーンズはテキサス刑事司法部のレーン・マリー・ユニットに収監されていた[4]。彼女は刑務所の過密を防ぐために作られた以前の州法により、2018年3月に満期釈放となることが決まっていた(この法律は、模範囚の刑期を実質的に3分の1にするものだった)[4][24][25]。これを防ぐため、ジョーンズは2017年3月25日に、致死量の抗てんかん薬を投与して11ヶ月の乳児を殺害した罪で起訴された[26][27][28]。ベア郡の地方検事を務めるニコ・ラフッドは、他の子どもたちに対する殺人罪についても起訴される可能性を示唆した。1984年に言い渡された刑期が満了した後、彼女は州の拘置所に移され、新たな刑事訴追の手続開始を待つ状況である[29][30]。
2020年1月16日、ジョーンズは司法取引により1981年12月12日に生後11か月のジョシュア・ソーヤーを殺害した罪を認める代わりにこれは他の4つの容疑が取り下げられ、仮釈放のある終身刑を宣告された[31][32]。但し、早くてもジョーンズが87歳になるまでは仮釈放されない。
メディア
[編集]1991年のテレビ映画『デッドリー・メディスン』(原題)では、スーザン・ラッタンがジョーンズを演じたほか[33]、2002年のオリジナルビデオ映画『マス・マーダー』(原題、英: "Mass Murder")ではアリシア・バータが彼女を演じた[34]。またディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーシリーズ『フォレンジック・ファイルズ』(原題)では、"Lethal Injection"(意味:致死量の注射)として彼女の事件が取り上げられたほか(シーズン5エピソード10)[35]、2016年にイギリスで制作されたドキュメンタリーシリーズ『ナーシズ・フー・キル』(原題、英: ""Nurses Who Kill"")のシーズン1エピソード3[36]、インヴェスティゲーション・ディスカヴァリーのシリーズ『デッドリー・ウィメン』(原題、英: ""Deadly Women"")のシーズン2エピソード4『ダーク・シークレッツ』(原題、英: ""Dark Secrets"")でも取り上げられた[37]。また、スティーヴン・キングの小説『ミザリー』に登場するアニー・ウィルクスの造型に影響を与えたと言われている[38][39]。
脚注
[編集]- ^ a b c Hauser, Christine (June 23, 2017). “Texas Nurse Suspected of Killing Up to 60 Children Is Charged With Murder” (英語). ニューヨーク・タイムズ. ISSN 0362-4331 June 23, 2017閲覧。
- ^ ディ・マイオ & フランセル 2018, p. 184.
- ^ a b c ディ・マイオ & フランセル 2018, p. 176.
- ^ a b c “TDCJ Offender Details”. offender.tdcj.texas.gov. テキサス刑事司法部. 5 February 2017閲覧。 “SID Number: 03193016 TDCJ Number: 00380650 Name: JONES, GENENE”(2016年5月25日段階のアーカイブ)
- ^ ディ・マイオ & フランセル 2018, pp. 191–192.
- ^ a b Bever, Lindsey (26 May 2017). “‘Angel of Death’ nurse charged with killing another baby, suspected in up to 60 other deaths”. ワシントン・ポスト 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b King, Wayne (February 6, 1984). “Five Given Injections Quit Breathing, Doctor Says In Nurse's Trial” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331 June 23, 2017閲覧。
- ^ a b “Former Nurse Indicted in Texas Child Injury Case” (英語). The New York Times. (November 22, 1983). ISSN 0362-4331 June 23, 2017閲覧。
- ^ a b Elkind, Peter. “The Death Shift”. テキサス・マンスリー (August 1983) 2018年4月16日閲覧。.
- ^ a b “Personality Spotlight;NEWLN:Nurse Genene: Convicted murderer”. United Press International. (February 15, 1984) March 27, 2016閲覧。
- ^ “Microsoft Word - Jones, Genene _fall, 2006_.doc - Jones, Genene _fall, 2006_.pdf” (PDF). ラドフォード大学. 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b Anderson, Teresa (January 14, 1984). “Nurse Genene faces trial in children's hospital deaths”. United Press International March 27, 2016閲覧。
- ^ The Encyclopedia of Serial Killers. Infobase Publishing. (2006). pp. 138-139. ISBN 0816069875 March 27, 2016閲覧。
- ^ ディ・マイオ & フランセル 2018, p. 177.
- ^ Zielinski, Alex (26 May 2017). “Bexar County Prosecutors Re-Open "Angel of Death" Case” (英語). San Antonio Current 21 October 2017閲覧. "In 1982, Jones was a young nurse working in the pediatric intensive care unit at Bexar County Hospital (now University Hospital)."
- ^ a b ディ・マイオ & フランセル 2018, pp. 178–179.
- ^ a b ディ・マイオ & フランセル 2018, p. 181.
- ^ “Genene Jones / Female Serial Killers”. Crime Library. 2018年4月16日閲覧。
- ^ “Explaining the Wicked Phenomenon of the Angels of Death | True Crime Magazine”. True Crime Magazine. (6 June 2017) 21 October 2017閲覧。
- ^ Hickey, Eric (2010). Serial Murderers and Their Victims (5th edition). Belmont, CA: Wadsworth. p. 182. ISBN 978-0-495-60081-7
- ^ Holmes, Ronald; Holmes, Stephen (1998). Contemporary Perspectives on Serial Murder. Thousand Oaks, CA: Sage Publications. p. 42. ISBN 978-0-7619-1421-1
- ^ CNN Wire (2017年5月30日). “‘She is pure evil’: Former Nurse May Be Responsible for Deaths of Nearly 60 Children”. WNEP.com. 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b Welsh, Stacey (2018年1月3日). “TIMELINE: The case against suspected serial killer Genene Jones”. KENS. 2018年4月16日閲覧。
- ^ Schwartz, Carly (February 24, 2011). “Genene, serial baby killer, scheduled for early release in Texas”. The Huffington Post. April 30, 2013閲覧。
- ^ ディ・マイオ & フランセル 2018, pp. 193–194.
- ^ Elkind, Peter (25 May 2017). “Prosecutors Race to Keep Angel-of-Death Behind Bars”. Texas Monthly. Pro Publica 16 July 2017閲覧。
- ^ 生田綾 (2017年5月27日). “乳児60人前後を殺害か "死の天使"と呼ばれた看護師、別事件で起訴”. ハフポスト日本版. 2018年4月16日閲覧。
- ^ “乳児殺した看護師を別事件で起訴、60人前後殺害の疑いも 米国”. フランス通信社 (2017年5月27日). 2018年4月16日閲覧。
- ^ “Former Texas Nurse Accused of Killing Dozens of Kids in '80s”. Snopes (2017年5月26日). 2017年5月26日閲覧。
- ^ Ellis, Ralph; Kaye, Randi; Andone, Dakin (26 May 2017). “Texas nurse indicted in second child's death”. CNN (Turner Broadcasting System) 21 October 2017閲覧。
- ^ Zavala, Elizabeth (2020年1月16日). “Baby killer Genene Jones sentenced to life in the death of an S.A. infant; 4 other cases dismissed(赤ちゃん殺人犯のジェニーン・ジョーンズは、1件の乳児殺害の罪で終身刑を宣告され、他の4件の訴訟は棄却された。)”. w:San Antonio Express-News 2024年9月12日閲覧。
- ^ Andone, Dakin (2020年1月17日). “A former nurse suspected of killing dozens of children has been sentenced to life in prison(数十人の子供を殺害した疑いのある元看護師に終身刑宣告)” 2024年9月14日閲覧。
- ^ Tucker, Ken (8 November 1991). “Deadly Medicine”. EW.com - Entertainment Weekly (Time Inc.) 21 October 2017閲覧。
- ^ “Mass Murder”. imdb.com. StageDirect (2002年). 21 October 2017閲覧。
- ^ “Forensic Files - Season 5, Ep 10: Nursery Crimes”. youtube.com. FilmRise (8 July 2016). 21 October 2017閲覧。
- ^ “Nurses Who Kill”. www.netflix.com. DCD RIghts (2016年). 21 October 2017閲覧。
- ^ “Dark Secrets | Deadly Women” (英語). www.investigationdiscovery.com (30 October 2008). 21 October 2017閲覧。
- ^ Shultz, Christopher (2013年8月15日). “Nurse That Inspired Stephen King's 'Misery' Set For Early Release”. litreactor.com. 2018年4月16日閲覧。
- ^ Kelley, Laura (2017年1月27日). “The Death Shift: This is Why Genene Jones is No Angel of Death”. REBEL CIRCUS. 2018年4月16日閲覧。
参考文献
[編集]- ディ・マイオ, ヴィンセント、フランセル, ロン 著、満園真木 訳『死体は嘘をつかない 全米トップ検死医が語る死と真実』(初版)東京創元社、新宿区、2018年1月31日。ISBN 978-4-488-00386-9 。
関連項目
[編集]- ヘルスケア・シリアルキラー
- 寿産院事件
- ビヴァリー・アリット - イングランドで子どもたちを殺したシリアルキラー