ホルモース反応

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ホルモース反応: formose reaction)は、ホルムアルデヒドからを合成する化学反応で、アレクサンドル・ブートレロフによって1861年に発見された[1][2]。ホルモース(formose)とは、ホルムアルデヒドformaldehyde)とアルドース(aldose)を組み合わせて作られた語である。

反応機構[編集]

反応は塩基水酸化カルシウムのような二価金属によって触媒されるが、チアゾリウムなども使用可能である[3]。反応の中ではアルドール反応、レトロアルドール反応(アルドール反応の逆反応)、そしてアルドース-ケトース異性化が起こっており、中間体はグリコールアルデヒドグリセルアルデヒドジヒドロキシアセトンそしてさまざまなテトロースである。1959年にはロナルド・ブレスローが以下の反応機構を提案した[4]

ホルモース反応
ホルモース反応

反応は、2分子のホルムアルデヒドが縮合してグリコールアルデヒド(1)が形成することにより始まる。グリコールアルデヒドは別の当量のホルムアルデヒドとアルドール反応を起こし、グリセルアルデヒド(2)を作る。次に、グリセルアルデヒドの異性化によりジヒドロキシアセトン(3)が形成する。そしてグリコールアルデヒドと反応することによりリブロース(4)、異性化してリボース(5)を作る。また、ジヒドロキシアセトンはホルムアルデヒドと反応してエリトルロース(6)、異性化してアルドテトロース(7)を作る。アルドテトロースはレトロアルドール反応により2分子のグリコールアルデヒドに分離する。

水酸化カルシウムとホルムアルデヒドが錯形成し図のようなエンジオール構造を形成してホルモース反応が進行する。
水酸化カルシウムを触媒としたホルモースの開始反応

水酸化カルシウムを触媒とした場合、グリコールアルデヒドの生成時は図のようなエンジオール構造を持った錯体が中間体として生成され、四炭糖が分解するときも同様の中間体錯体を形成することが知られている[5]。副反応としてカニッツァーロ反応が起こり、メタノールギ酸塩が生じると中和により水酸化カルシウムの触媒作用が失活する。

自然発生説とホルモース反応[編集]

ホルモース反応は単純なホルムアルデヒドからRNAを構成するリボースのような複雑なを作るため、自然発生説の問題にとって重要な反応である。初期の地球を模した実験では、ペントースホルムアルデヒドグリセルアルデヒドコールマナイトまたはケルナイトのようなホウ素化合物の混合物から生成した[6]。興味深いことに、宇宙空間においてホルムアルデヒドとグリコールアルデヒドが分光学的に観測されている。

脚注[編集]

  1. ^ Butlerov, A. C. R. Acad. Sci. 1861, 53, 145-147
  2. ^ Self-organizing biochemical cycles PNAS | November 7, 2000 | vol. 97 | no. 23 | 12503-1250 doi:10.1073/pnas.220406697
  3. ^ 博之, 斎本; 好弘, 重政 (1992). “ホルモース合成反応の最近の進展”. 有機合成化学協会誌 50 (8): 703–712. doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.50.703. https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/50/8/50_8_703/_article/-char/ja/. 
  4. ^ Breslow, R. Tetrahedron Lett. 1959, 1, 21, 22-26.
  5. ^ FUJINO, Kiyoharu; KOBAYASHI, Junichi; HIGUCHI, Izumi (1972). NIPPON KAGAKU KAISHI (12): 25–31. doi:10.1246/nikkashi.1976.25. ISSN 2185-0925. http://dx.doi.org/10.1246/nikkashi.1972.2292. 
  6. ^ Borate Minerals Stabilize Ribose A. Ricardo, et al. Science 303, 196 (2004); doi:10.1126/science.1092464