豪中関係

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豪中関係
AustraliaとChinaの位置を示した地図

オーストラリア

中華人民共和国

豪中関係(ごうちゅうかんけい)では、オーストラリア中華人民共和国の外交関係を扱う。

20世紀まで

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  • 1850年代ビクトリア植民地で金鉱が発見されると、瞬く間にゴールドラッシュが発生。海外から多くの労働者、特に中国人労働者は1850年代だけでも3万人を越える数が押し寄せた。当時、人口が200万人に達していなかったオーストラリア大陸で中国系住民が増加することは、イギリス出身者による政府運営を目指す人々には問題視される出来事であり、各地の植民地政府は上陸税を課すなどして中国人労働者の上陸を阻止するなど軋轢が生じた。後に編集された『オーストラリア連邦年鑑』によれば、それでも1881年のオーストラリア全土の中国系住民の人口は約38500人を数えている。しかし、1901年にオーストラリアが独立して白人の価値観を中心とした白豪主義政策が実施されると、中国人労働者の数は減少していった[1]

21世紀

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2007年

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  • 2007年12月、労働党ケビン・ラッドが首相に就任。ラッドは中国語に堪能な上に、北京に外交官として滞在した経験を有する中国通で、歴史的にアメリカ合衆国に大きく依存していたオーストラリアの外交方針が中国寄りになる転機となった[2]。ただし、ラッドは翌年の訪中時に、北京大学で中国のチベット政策に批判的な講演を行う[3]など一線を引いていた。

2009年

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  • 2009年7月、中国国家機密保護局は、オーストラリアに拠点とする鉱業分野の大手企業リオ・ティントの社員4人を拘束。6年間にわたって関係者に賄賂を贈り産業スパイ行為を働いたとして非難[4]。翌年、社員は産業スパイ罪で懲役7 - 14年の判決を受けた[5]

2012年

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  • 2012年、オーストラリア政府は、投資家用ビザ制度を改定。海外の投資家が500万ドルを指定された投資先に一定期間投資すれば、オーストラリア国内に居住権が得られるようになった。このビザ制度を利用して中国人富裕層のオーストラリア移住が加速した。元々オーストラリア国内に居住していた中国系住民も加えると、2016年の国勢調査時点で中国系豪州人は121万3903人、人口の3.9%を占めるようになった[8]

2014年

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  • 2014年11月、習近平国家主席(党総書記)がオーストラリアを訪問。アボット首相と会談したほか、議会で両国の経済的連携の重要性を強調。両国関係を「包括的な戦略的パートナーシップ」に引き上げることを発表した[9]

2015年

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  • 2015年6月17日、オーストラリアと中国はFTA(豪中自由貿易協定)に調印。このFTAによりオーストラリアは5年以内に全ての商品、中国は最長15年で96.8%の商品の関税を撤廃することとなった[10]

2016年

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2017年

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  • 2017年6月、オーストラリアの2大政党である自由党労働党中国共産党とつながりをもつ実業家2人から、それぞれ約10年間にわたり巨額の献金を受け取っていたことが明らかになった[12]。オーストラリアの情報機関は、中国が実業家2人を介し、オーストラリアの政治献金制度を用いて政府や議会に介入していると懸念を表明、政治家らに警告を行っていた[13]
  • 2017年、野党・労働党のサム・ダスティヤリ上院議員が、中国人実業家から資金援助をうけ、南シナ海の領有権問題で中国寄りの発言をしていたことが判明。同年中に上院議員は辞職した[14]。同年12月、マルコム・ターンブル政権は、外国人による政治献金を禁じる法案を提出(翌年可決)。外国人の政治介入を制限する方向を打ち出したが、中国政府がこれを敵視政策だとして反発した[15]

2018年

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  • 2018年4月、前年からの動きを受け、中国政府はターンブル首相を含む、オーストラリア政府関係者に対してビザ発給を停止することを発表[16]。成競業・駐オーストラリア大使は、オーストラリアのメディアの取材で「中国に無責任かつ否定的な発言が目立つようになった」とオーストラリア側の政治的な動きを批判。「望ましくない影響が出るかもしれない」と貿易への影響を示唆した。また、同年5月、アルゼンチンで開かれたG20地域外相会合に合わせて王毅中国外相とビショップ豪外相が会談。中国側は「豪州側の原因によって両国関係は困難に直面している。関係改善したいなら色眼鏡を外して中国の発展を見てほしい」と申し入れが行われた[17]

2019年

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  • 日本のキリンホールディングスは、傘下ライオンネイサンの乳飲料事業を中国の蒙牛乳業に6億豪ドルで売却する契約を締結。しかしオーストラリア政府が売却に反対する方針を示したため買収契約は実現できなかった。フライデンバーグ財務相は蒙牛乳業に対し「提案された買収は国益に反する」と伝えていた[18]
  • オーストラリアの報道機関は、香港と台湾、オーストラリアで中国のスパイ活動に関わっていた男性がオーストラリアへの亡命を申請し、中国の政治干渉活動に関する情報をオーストラリアに提供したと報道した[19]。一方、中国系メディアは、オーストラリア治安当局が男性を早々に「取るに足らない人物」と判断していたとして一連の報道を非難した[20]
  • オーストラリアのテレビ局は、中国の情報機関が総選挙に中国系男性(その後死亡)をメルボルン郊外の選挙区から立候補させようとしていたと報道した。オーストラリアの治安情報局は、報道を受けて候補擁立疑惑を捜査していると明かし「敵対的な外国の情報活動は、我々の国と安全保障に脅威をもたらしている」と表明した[21]

2020年

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  • 2020年、2019新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるようになると、同年4月、スコット・モリソン首相や外相が、感染が最初に拡大した中国における初期対応などの検証作業が必要だと主張。中国側はこれに激しく反発して、同年5月にオーストラリア産牛肉の大幅な輸入制限[22]や、大麦への追加関税措置、国民に向けオーストラリアへの渡航自粛を要請するなどの措置を打ち出した[23]。同年12月、オーストラリアは大麦の関税措置について、WTOに紛争解決手続きの申し立てを行うことを発表した[24]
  • 2020年6月、オーストラリア政府は、海外からの投資の一部を制限する目的で外国投資法を改定。外国人が安全保障に関わる分野の事業を買収する案件については、外国投資審査委員会が規模にかかわらず精査することが示された。このため、金鉱山の買収などを計画していた中国企業が撤退するなどの影響が見られた[25]
  • 2020年8月23日、オーストラリア政府は次世代通信規格(5G)を使ったネットワークへの参入条件を厳格化。名指しはしないものの中国の通信機器大手ファーウェイのオーストラリア国内での展開を制限させるものとなった[26]
  • 2020年11月、中国はオーストラリア産ワインの輸入に対して反ダンピング課税に向けた保証金の徴収(輸入額の最大212.1%の保証金を税関に納める)を開始[27]。さらに12月には同ワインが政府の補助金を受けて安く輸出され、中国企業に損害を与えているとして、関税を11月の保証金に上乗せして課すことを発表した[28]

2021年

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  • 2021年4月21日、オーストラリア政府は、2018年以降にビクトリア州が中国と独自に締結した一帯一路に関連する協定2件を破棄することを発表した[29]
  • 2021年6月19日、オーストラリア政府は、中国が2020年に導入した豪州産ワインに対する高率関税は不当であるとして、世界貿易機関に提訴することを発表した[30]
  • 2021年9月16日、中国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を申請。翌17日、オーストラリアのテハン貿易相は、2国間で「解決すべき重要な問題がある」と述べ、TPP参加に応じられないとの立場を示唆した[31]
  • 2021年9月16日、オーストラリアはアメリカ、イギリスとの新たな安全保障の枠組みであるオーカスを発表。オーカスでは中国の海洋進出に対抗するために、オーストラリアが進めていた通常動力潜水艦建造計画を破棄、新たにアメリカの原子力潜水艦を導入することなどを示した。中国側は地域の安定に対する無責任な脅威だと非難した[32]
  • 2021年12月8日、アメリカが新疆ウイグル自治区における人権侵害を理由に2022年北京オリンピックの外交的ボイコットを発表すると、オーストラリアは他の同盟諸国に先駆けてボイコットに追随することを発表。中国側は強烈な不満を表明した[33]

2023年

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脚注 

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  1. ^ 鈴木 清史 (2010年). “オーストラリアの戸惑い : 2つの巨大貿易国のはざまで (日本とアジアの相互の照射 p54 ” (PDF). 静岡大学人文学部アジア研究センター. 2020年12月17日閲覧。
  2. ^ オーストラリア総選挙は中国が争点、親中派のラッド党首が優勢に”. フランス通信社 (2007年10月31日). 2020年12月15日閲覧。
  3. ^ 豪首相、北京大学で中国語のスピーチを披露”. フランス通信社 (2008年4月9日). 2020年12月15日閲覧。
  4. ^ リオ・ティントは6年間スパイ行為働いた=中国国家機密保護局”. ロイター (2009年8月10日). 2020年12月15日閲覧。
  5. ^ リオ社員4人、産業スパイ罪で懲役7~14年 中国で判決”. 日本経済新聞 (2009年3月29日). 2020年12月15日閲覧。
  6. ^ 今度はオーストラリア?「旅行、留学のボイコットを!」、高まる反豪感情―中国”. レコードチャイナ (2020年8月12日). 2020年12月15日閲覧。
  7. ^ ウイグル問題で豪映画祭辞退の中国映画監督が声明「慎重な態度とるべき」”. レコードチャイナ (2009年7月24日). 2020年12月15日閲覧。
  8. ^ 豪、多文化主義の危機(中国化進む世界)” (2020年8月29日). 2020年12月24日閲覧。
  9. ^ 中豪関係を包括的・戦略的パートナーシップに格上げへ”. 新華社 (2014年11月17日). 2020年12月24日閲覧。
  10. ^ 中韓と中豪、2つのFTAが発効”. ジェトロ (201-12-28). 2020年12月15日閲覧。
  11. ^ ターンブル豪首相が来週訪中へ、経済界から1000人超の代表団同行”. ロイター (2016年4月8日). 2020年12月15日閲覧。
  12. ^ 豪政党、中国人富豪2人から巨額献金受領 スパイ関連法を検証へ”. フランス通信社 (2017年6月6日). 2020年12月15日閲覧。
  13. ^ 豪、中国人富豪の永住権剥奪 献金疑惑で共産党との関係調査” (2018年2月6日). 2020年12月15日閲覧。
  14. ^ 豪野党議員、中国との癒着スキャンダルで辞職”. フランス通信社 (2020年12月12日). 2020年12月15日閲覧。
  15. ^ 豪、多文化主義の危機(中国化進む世界)”. 日本経済新聞 (2020年3月29日). 2020年12月15日閲覧。
  16. ^ 豪政府関係者に訪中ビザが下りず、関係悪化か 共産党浸透阻止法案をめぐって”. 大紀元 (2020年4月14日). 2020年12月15日閲覧。
  17. ^ 豪中関係、急速な悪化豪で規制法案、中国反発「貿易面の影響も」”. 日本経済新聞 (2018年5月22日). 2020年12月15日閲覧。
  18. ^ キリンHD、豪乳飲料事業の売却中止 豪中摩擦が影響か”. 日本経済新聞 (2020年8月25日). 2020年12月24日閲覧。
  19. ^ 中国から亡命希望の元スパイ、豪に膨大な情報を提供 報道”. AFP (2019年11月23日). 2021年6月19日閲覧。
  20. ^ 「中国高級スパイ」問題は収束、散々騒ぎ立てた豪メディアはすっかり沈黙―中国メディア”. レコードチャイナ (2019年12月2日). 2021年6月19日閲覧。
  21. ^ 豪州に忍び寄る中国 情報機関が総選挙擁立…謎の死 自称元スパイが亡命申請”. 毎日新聞 (2019年11月28日). 2021年6月19日閲覧。
  22. ^ 中国が豪産食肉も標的に、牛肉輸入停止”. NNA.ASIA (2020年5月14日). 2020年12月17日閲覧。
  23. ^ ポスト・コロナの豪中関係-オーストラリアは旗幟(きし)を鮮明にしたのか?”. 国際情報ネットワーク分析 IINA 笹川平和財団. 2020年12月15日閲覧。
  24. ^ ビジネス短信 オーストラリア政府、大麦への追加関税で中国をWTOに提訴へ” (2020年12月17日). 2020年12月17日閲覧。
  25. ^ 焦点:膨張する中国企業の鉱物資源買収、豪加当局が「待った」”. ロイター (2020年7月9日). 2020年12月24日閲覧。
  26. ^ オーストラリア、中国ファーウェイを5Gから締め出し”. CNN (2020年8月23日). 2020年12月24日閲覧。
  27. ^ 中国、豪産ワインに反ダンピング措置 対立余波が拡大”. 日本経済新聞 (2020年11月27日). 2020年12月15日閲覧。
  28. ^ 中国、豪州産ワインに追加関税 豪政府の補助金を非難”. 2020-12-10. 2020年12月15日閲覧。
  29. ^ 豪、州政府の中国「一帯一路」参加協定を破棄”. AFP (2021年4月22日). 2021年4月22日閲覧。
  30. ^ 豪、中国をWTO提訴へ 大麦に続きワインでも”. 日本経済新聞 (2021年6月19日). 2021年6月19日閲覧。
  31. ^ 豪、中国TPP加入交渉に応じない立場示唆”. 京都新聞 (2021年9月17日). 2021年9月17日閲覧。
  32. ^ 豪、中国の反発を一蹴 原潜配備めぐり”. AFP (2021年9月17日). 2021年9月17日閲覧。
  33. ^ 五輪「外交的ボイコット」、米豪に続き英も表明…中国外務省「強烈な不満と断固とした反対」”. 読売新聞 (2021年12月8日). 2021年12月9日閲覧。
  34. ^ 豪中首脳が会談 安保では対立、経済は改善 「双方の利益に目を」”. 朝日新聞DIGITAL (2023年11月7日). 2023年11月9日閲覧。

関連項目 

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