傘帽子

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傘帽子を被った女性。
傘帽子を被った男性。

傘帽子(かさぼうし、英語:Umbrella hat[注釈 1])は帽子のように被ることができる[2][3][注釈 2]ヘッドマウント傘[8][9]かぶる傘[10]アンブレラハット[11]などの呼び名もある。釣り[8]ゴルフ[12]ガーデニング[13]などレジャー用途にも用いられ、レジャーハット[10]フィッシング用帽子[8]とも呼ばれる。1880年に特許が出願され[14]、1970年代にはルー・ブロックも改良版を開発した[15][16]セントルイスではブロックにちなんでブロッカブレラ(Brockabrella)として親しまれた[17][18][19]

普通の傘のような支柱はなく[11]、大きさは直径約60cm程度[20][8]から約80cm[11][9]のものがある。風通しのために通風孔を設けたり、二段構造にしたタイプも製造されている[9][10]。頭のベルトで装着するが、首かけが付いたタイプもある[9][10]。通常の傘と違って両手がふさがらないため、農作業をしたり自転車に乗ったりすることもできるが[11][8][9]、歩行時には骨の先端が他人の目を突きかねないというリスクが指摘されている[10]

歴史[編集]

19世紀末 - 20世紀初頭[編集]

1881年12月13日、傘帽子はアメリカ合衆国の特許第250803号「Sunshaid Hat」(日傘帽子、日除け帽子)として特許取得された[14]

1900年前後にロバート・W・パッテン英語版は自身が製作した傘帽子を装着し、「アンブレラマン」として有名になる[21]。パッテンはジョン・ハーガー英語版によって風刺画に用いられ、『シアトル・タイムズ』などに登場した[21]

1909年
1910年
1910年
1910年
1910年
「アンブレラマン」としてシアトルで有名になったロバート・W・パッテン英語版は、1909年以降ジョン・ハーガー英語版によって『シアトル・タイムズ』やポストカードに描かれた[21]

20世紀中期 - 後半[編集]

ルー・ブロック米国野球殿堂入りしたメジャーリーガーであり、引退後は様々な事業を展開した[17]。ブロック自らもブロッカブレラを着用した写真が残っている[22]

カナダのCarl C Riordonは支柱がパイプになっている3段スライド式の傘帽子を考案。素早く伸縮できることをねらったもので、1941年にアメリカで特許成立[23]。日本では高橋米作が支柱がないタイプの傘帽子を考案し、1965年に日本の実用新案として出願。支柱に沿ってスライドする部分が支柱の付け根となる部分に差し込まれる形になっており、1968年に実用新案が成立した[6][注釈 3]

一方アメリカではアメリカ野球殿堂入りもしている元メジャーリーガールー・ブロックも傘帽子の改良版を発明[15][16]。これは支柱がないことに加え、骨の部分が折り畳み傘のように骨が2つに折れるタイプで、よりコンパクトに収納ができた[16]。1977年に出願され、1982年に特許が成立している[16]。ブロックにちなんで、「ブロッカブレラ」としてセントルイスで広まった[17][18][19]

20世紀末 - 21世紀[編集]

1988年にはアメリカで帽子のような形状をした傘帽子が特許成立し[24]、2013年には日本でヘルメットに小型の傘を吸着させる傘帽子も考案された[25]。また、帽子から風を出してエアーカーテンのように雨を防ぐというアイデアが考案され、2009年に「風傘帽子」として日本で特許出願されている[26]

傘帽子は釣りゴルフといったレジャー用途を中心に、インターネット上で1000円から1500円程度の価格で販売が進んだ[8][3][12]。蒸れないように傘の上部に開口部を設け、その上に小型の傘を設けた2段階式の傘帽子も製作されており[9]、遅くとも2016年には市販されている[3]。さらに2018年にはイタリアブランドフェンディ」が、自社のロゴをデザインした傘帽子を発売している[27]

2020年東京オリンピックは開催時期の都合で猛暑が予想され、熱中症対策が懸念されていた[28][10][29][注釈 4]。日傘の有効性が指摘される中、2019年5月24日の記者会見で小池百合子東京都知事が東京オリンピックでの猛暑対策として傘帽子の試作品を発表した[31]。これにはを遮る素材を用いられており[31][32]、東京ブランド「Tokyo Tokyo」として制作されたという[33]。同年7月26日ビーチバレーのテスト大会ではボランティア[20][32]8月17日ホッケーのテスト大会では東京都の職員が試着し[28]、検証が行われた。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 日本の伝統的な「笠」はumbrella hatとは言わず、Kasaと呼ばれる[1]
  2. ^ 帽子のつばの部分が傘のように広く、かつ折り畳めるものも、「傘帽子」[4][5]と呼ばれている。また、本項目で取り扱う傘帽子を「折畳式日除け用笠」[6]や「傘状笠帽子」[7]と呼んだ例がある。
  3. ^ 中華民国籍の宋明雄も同様の実用新案を1974年に日本で出願した[2]が、高橋の前例などがあったことから拒絶査定を受けている(特許情報プラットフォームの「実全昭50-112327」における「経過情報」に基づく。2019年10月12日閲覧。)。
  4. ^ 2015年に発表された早稲田大学田辺新一らの解析と実験では、気温30℃の場合に日傘を用いると体感気温が2℃低下するとされている[30]。また、2019年にNHKクローズアップ現代+という番組で、レインコートを着用した際の体調の変化を観察。協力した医師からが蒸発しないため更なる発汗を招き、脱水症状になる危険が指摘されている[29]

出典[編集]

  1. ^ a b Kasa ? traditional Japanese hats”. traditionscustoms.com. 2019年9月7日閲覧。
  2. ^ a b 宋明雄「無主軸の嵌合式傘帽子」実全昭50-112327(実願昭49-020779、1974年2月22出願、1975年9月12日公開)
  3. ^ a b c 便利だけど勇気をためされる傘帽子 使うポイントは「恥を捨てられるか」”. おたくま経済新聞 (2016年5月2日). 2019年10月12日閲覧。
  4. ^ 石井清文「傘帽子」特開平10-130931(特願平08-325825、1996年10月31日出願、1998年5月19日公開)
  5. ^ 丹羽眞理子「傘帽子」特開2018-031097(特願2016-165536、2016年8月26日出願、2018年3月1日公開)
  6. ^ a b 高橋 1968.
  7. ^ 飯塚幸子「傘状笠帽子」実全昭49-137714(実願昭48-036059、1973年3月24日出願、1974年11月27日公開)
  8. ^ a b c d e f 松尾 2018a.
  9. ^ a b c d e f 松尾 2018b.
  10. ^ a b c d e f デイリーポータルZ 2019.
  11. ^ a b c d 櫻井伸樹 (2017年12月1日).“オフロードアイテムレビュー 両手が自由に使える!キャップのようにかぶるカサ”. バイクブロス. 2019年10月12日閲覧。(写真 - 楠堂亜希、関野温)
  12. ^ a b 絶対目立つ! 個性的ゴルフ帽子ベスト10。コンペ景品でもウケる!” (2019年1月14日) 2019年9月1日閲覧。
  13. ^ サイトー (2016年7月12日).“カレシが付けて来たらどうする?メンタルが試される帽子型の傘「ハッと!アンブレラ」”. クレイジー. 2019年10月12日閲覧。
  14. ^ a b Gray 1881.
  15. ^ a b Brock and Nielson 1979.
  16. ^ a b c d Brock 1982.
  17. ^ a b c John Harry Stahl and Bill Nowlin, ed. (2013).“LOU BROCK”. Drama and Pride in the Gateway City: The 1964 St. Louis Cardinals. U of Nebraska Press. p.16. ISBN 9780803243729.(英語)
  18. ^ a b Andy Strasberg (2014).“Four PERFECT EXPOSURE”. San Diego Baseball Fantography. Arcadia Publishing. p.36. ISBN 9781467131698. (英語)
  19. ^ a b Dan O'Neill and Adam Wainwright (2016).“Own Brockabrella”.St. Louis Cardinals Fans' Bucket List]. Triumph Books. ISBN 9781633194984. (英語)
  20. ^ a b 佐藤恵子 (2019年7月30日).“見た目はダサいけど 五輪向け「かぶる傘」の意外な効用”. 朝日新聞デジタル (2019年7月30日). 2019年10月12日閲覧。
  21. ^ a b c HistoryLink.org 2018.
  22. ^ Chris Lee (July 2 2010).“The Brockabrella”. St. Louis Post-Dispatch. 2019年9月1日閲覧。(英語)
  23. ^ Carl 1941.
  24. ^ Bing T. Wu (1988年8月2日). ““Umbrella Hat”. US4760610A (PDF). (Google Patent版
  25. ^ 後藤文彦「表面が滑らかなヘルメットの上からでも装着できる吸盤つき傘帽子」特開2015-058330(特願2013-209616、2013/09/17出願、2015/03/30公開)
  26. ^ 瓦谷誠男「風傘帽子」特開2010-196232(特願2009-065166、2009年2月23日出願、2010年9月9日公開)
  27. ^ Fendi Umbrella Hatのご紹介”. Around The World Trading Inc. (2018年6月28日) 2019年10月12日閲覧。
  28. ^ a b 丸山 2019.
  29. ^ a b 2019年7月25日(木) 熱中症・交通渋滞 五輪1年前 ”安全な大会”どう実現?”. クローズアップ現代. NHK. 2019年10月12日閲覧。
  30. ^ 宮嶋裕基、尾方壮行、中村俊太、田辺新一夏季屋外スポーツ観戦時の採涼手法の効果予測に関する研究」『平成27年度空気調和・衛生工学会大会(大阪)学術講演論文集』第6巻 温熱環境評価 編、2015年6月、C-29
  31. ^ a b 小国綾子 (2019年8月8日).“都の暑さ対策「かぶる傘」 五輪本番でも見られるか”. 毎日新聞. 2019年10月12日閲覧。
  32. ^ a b 都の暑さ対策「かぶる傘」 五輪本番でも見られるか”日本経済新聞 (2019年8月8日) 2019年10月12日閲覧。
  33. ^ 篠原修司 (2019年5月27日).“「東京五輪ボランティアユニフォームだ」とかぶる傘をつけたコラ画像のデマ、2万件以上拡散”. Yahoo!ニュース. 2019年10月13日閲覧。

参考文献[編集]

(特許・実用新案文献)

(ニュースサイトなど)

外部リンク[編集]