癌胎児性抗原

ウィキペディアから無料の百科事典

癌胎児性抗原(がんたいじせいこうげん、: Carcinoembryonic antigen, CEA)は、腫瘍マーカーの一つで、細胞接着因子に関係する分子量約20万の糖タンパク質である。1965年カナダフィル・ゴールドサミュエル・O・フリードマンがヒトの大腸癌の組織から最初に抽出したが、大腸癌組織のみならず2-6月齢の胎児の消化管や肝臓および膵臓にも存在することが判明したため癌胎児性抗原と命名した[1]

概要

[編集]

このCEAという腫瘍マーカーのみで癌を検出することは困難である。補助的検査に使用され、他の腫瘍マーカーや臨床検査方法(CT検査、MRI検査、内視鏡検査、超音波)などと併用される[2][3]。高値である場合は、他の診断方法を併用し精密検査を行う。1から2か月程度の期間をおいた後に再検査を行い、変動が無ければ高値でも問題ないこともある[4]。また、外科手術後の経過観察にも用いられ、再発・転移の有無判断材料のひとつとしても利用される[5]。とくに肺腺癌においては陽性率が高いとされている[6]。一方、胃癌に於いては術後の高値と再発の相関は低いとする報告がある[7]

癌胎児性抗原に関係した細胞接着因子を構成するヒトの遺伝子はCEACAM1, CEACAM3, CEACAM4, CEACAM5, CEACAM6, CEACAM7, CEACAM8, CEACAM16, CEACAM18, CEACAM19, CEACAM20, CEACAM21などがある[8]

基準値

[編集]

正常値 : 5 ng/mL以下 (0.1 - 5.0 ng/mL)

高値を示す病態

[編集]

主に腺癌に対する指標となるが、腫瘍がなくても加齢や喫煙により数値の上昇が見られることがある[2]。また、夏期の週間平均気温が25℃を超えた急激な上昇は一過性のCEA高値を示すことがあるとの報告がある[9]

悪性疾患
消化器癌(大腸癌、胃癌、胆道癌、膵臓癌、肝臓癌 など)
その他の癌(肺癌、乳癌、子宮癌、尿路系癌、甲状腺髄様癌 など)
肺癌のうち非小細胞肺癌の30%から50%で上昇[6]
良性疾患
肝炎(急性・慢性)、肝硬変、閉塞性黄疸潰瘍性大腸炎、胃潰瘍、糖尿病、慢性肺疾患、甲状腺機能低下症[10]、腎不全、粘液嚢胞腺腫[11]、原発性肺クリプトコッカス症[12]大腸憩室炎[13] など。

参考書籍

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ Gold P, Freedman SO (1965). “Specific carcinoembryonic antigens of the human digestive system”. J Exp Med 122 (3): 467-481. doi:10.1084/jem.122.3.467. PMID 4953873. https://doi.org/10.1084/jem.122.3.467. 
  2. ^ a b 黒木政秀 腫瘍マーカー 癌胎児性抗原 (CEA) 『日本臨床』 Vol.68 (2010) No.S7 p.674-677。
  3. ^ 大倉久直、「腫瘍マーカーは早期診断にどこまで有用か」『日本内科学会雑誌』 94巻 12号 2005年 p.2479-2485, doi:10.2169/naika.94.2479
  4. ^ CEA:消化器系がんの腫瘍マーカー 腫瘍マーカー.com
  5. ^ 大塚隆生, 佐藤清治, 北島吉彦 ほか、「耐糖能障害とともにCEA値が推移した胃癌術後腫瘍マーカー偽陽性の1例」『日本臨床外科学会雑誌』 70巻 1号 2009年 p.62-65, doi:10.3919/jjsa.70.62
  6. ^ a b 東山聖彦, 高見康二, 尾田一之 ほか 「肺癌の腫瘍マーカー -現況と今後の動向-」『日本分子腫瘍マーカー研究会誌』 20巻 2005年 p.84-86, doi:10.11241/jsmtmr.20.84
  7. ^ 山田哲司, 森善裕, 北川晋 ほか、「胃癌治癒切除後の腫瘍マーカー測定の臨床的意義」『日本消化器外科学会雑誌』 22巻 9号 1989年 p.2217-2222, doi:10.5833/jjgs.22.2217
  8. ^ Shirasu N, Kuroki M (2016). “CEACAM5 (carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 5 (carcinoembryonic antigen))”. Atlas Genet Cytogenet Oncol Haematol 20 (5): 243-249. https://hdl.handle.net/2042/62772. 
  9. ^ 吉田晃浩, 関谷正徳, 内藤通孝, 「夏季に血清CEA値が高値を示した1症例」『医学検査』 63巻 3号 2014年 p.305-310, 日本臨床衛生検査技師会, doi:10.14932/jamt.13-23
  10. ^ 山縣朋浩, 井筒友香, 坂根貞樹 ほか、「頸動脈狭窄と冠動脈3枝病変を有し,CEA上昇の対応に苦慮した甲状腺機能低下症の1例」『内科』 114 (2014), No.2 p.337-340, NAID 40020161307
  11. ^ 武藤桃太郎, 武藤瑞恵, 石川千里 ほか, 「血清CEA高値を契機に発見された虫垂粘液嚢胞腺腫の2例」『日本農村医学会雑誌』 63巻 1号 2014年 p.49-56, doi:10.2185/jjrm.63.49
  12. ^ 五十嵐知文, 中川晃, 吉田豊 ほか , 「血清CEA高値を示した原発性肺クリプトコッカス症の1例」『日本胸部疾患学会雑誌』 32巻 4号 1994年 p.339-343, doi:10.11389/jjrs1963.32.339
  13. ^ 佐久間晶子, 吉松和彦, 横溝肇 ほか,「高CEA血症を呈したS状結腸憩室炎の1例」『日本外科系連合学会誌』 38巻 5号 2013年 p.1058-1062, doi:10.4030/jjcs.38.1058

外部リンク

[編集]