真空管式コンピュータ一覧

ウィキペディアから無料の百科事典

EDSAC

真空管式コンピュータ(しんくうかんしきコンピュータ)とは、第一世代コンピュータとも言い[1]真空管論理回路を使用したプログラム可能なデジタルコンピュータである。それ以前には電気機械式リレーを使用したシステムがあり、その後には(集積回路ではない個別の)トランジスタを使用したシステムがある。1940年代から1950年代にかけて製造されたが、1960年代に入ると信頼性に優れ、消費電力の少ないトランジスタの普及に伴い真空管コンピュータは廃れた。

この一覧では、真空管式コンピュータの中でも特筆すべきものを挙げている。その中には、トランジスタを併用しているものもある。

名称 年月 備考
Atanasoff–Berry Computer 1942年 チューリング完全ではなく、プログラム可能ではない。線型方程式系を解くことができる。
Colossus 1943年 初のプログラム可能(スイッチとプラグパネルによる)な電子デジタルコンピュータ。暗号解読用コンピュータで、ドイツのローレンツ暗号英語版の解読のために使用された。21世紀に完全動作するレプリカが作製され、ブレッチリー・パーク国立コンピューティング博物館でデモンストレーションされている。
ENIAC 1945年 初の大規模な汎用プログラマブル電子デジタルコンピュータ。ペンシルベニア大学ムーア・スクール(電気工学部)がアメリカ陸軍の弾道研究所のために建造した。当初は部品間の配線を変更することでプログラムされていたが、後にプログラム内蔵方式に変更された。
Manchester Baby 1948年 1948年6月に稼働した初のプログラム内蔵方式の電子コンピュータ。Manchester Mark Iのプロトタイプ。マンチェスター科学産業博物館英語版でレプリカが実演されている。
SSEC 1948年 IBMが開発した電気機械式計算機。
Manchester Mark I 1949年 1949年4月に稼働。初のインデックスレジスタ。1951年にFerranti Mark 1に置き換えられた。
EDSAC 1949年 1949年5月6日に稼働し、1958年までケンブリッジ大学で使用された。完全動作するレプリカがブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館にある。
BINAC 1949年 初の商用のプログラム内蔵式コンピュータだが、動作が不安定だったため、顧客先では使用されなかった。
CSIRAC 1949年 現存する最古の第一世代コンピュータ。ただし、修理されておらず、動作しない。
SEAC 1950年 アメリカ合衆国で初めて稼働したプログラム内蔵式コンピュータ。国立標準局が製作し、局内で使用された。ロジックに半導体ダイオード回路を使用した。以降のコンピュータのいくつかはSEACの設計に基づいている。
SWAC 1950年 アメリカ国家標準局が使用した。2,300の真空管が使われていた。ウィリアムス管を使用した、256ワード(37ビット幅)のメモリを備えていた。
UNIVAC 1101(ERA Atlas) 1950年 2,700本の真空管を論理回路に使用した
MADDIDA 1950年 微分方程式を解くための専用デジタルコンピュータ。6トラックの磁気ドラムを使用して、44台の積分回路が実装された。積分回路の相互接続は、ビットの適切なパターンをトラックの1つに書き込むことによって指定された。
パイロットACE 1950年 アラン・チューリングが設計した。
Elliott 152英語版 1950年 海軍の火器管制用コンピュータ。リアルタイムの制御が可能なシステムだが、プログラムは固定式だった。
Harvard Mark III 1951年 5,000本の真空管と1,500個のダイオードを使用した。
Ferranti Mark 1 1951年 初の商用で稼働したコンピュータ。Manchester Mark Iを元に設計された。
EDVAC 1951年 ENIACの後継機で、同様にペンシルベニア大学ムーア・スクールがアメリカ陸軍弾道研究所のために建造した。世界で初めて設計されたプログラム内蔵方式コンピュータの1つであるが、稼働開始が遅れた。EDVACの設計がまとめられた「EDVACに関する報告書の第一草稿」は、多くの他のコンピュータに影響を与えた。
ハーウェル・コンピュータ 1951年 オリジナルが稼働する世界最古のコンピュータ。ブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館で時々デモンストレーションが行われる。
Whirlwind 1951年 約5,000本の真空管を使用。初めて磁気コアメモリを使用。
UNIVAC I 1951年 世界初の商用コンピュータ。46台が製造された。
LEO 1951年 世界初の顧客側によって作られたコンピュータ。レストランチェーンであるJ・リヨンス英語版が製造した。EDSACを元に設計された。
UNIVAC 1101 1951年 ERA英語版が設計した。論理回路に2,700本の真空管を使用した。
ホレリス電子計算機英語版(HEC) 1951年 アンドリュー・ドナルド・ブース英語版が最初の設計を行い、ブリティッシュ・タビュレーティング・マシン英語版(BTM)が製造した。HEC 1はブレッチリー・パークの国立コンピューティング博物館に展示されている。
IASマシン 1951年 プリンストン高等研究所(IAS)にて製造された。ジョン・フォン・ノイマンの設計(ノイマン型)に基づいていることから、「ノイマン・マシン」とも呼ばれる。1,500本の真空管を使用した。このコンピュータを元に15台のコンピュータが製作された。
MESM 1951年 ソビエト連邦初の汎用電子コンピュータ。キエフ近郊で製造された。6,000本の真空管を使用した。基本的にノイマン型アーキテクチャに近い設計だが、プログラム用とデータ用の2つの独立したメモリを持っていた。
Remington Rand 409 1952年 レミントンランドが製造した。パンチカード計算機であり、プラグボードでプログラミング可能であった。
Harvard Mark IV英語版 1952年 ハワード・エイケンの指導の下でハーバード大学アメリカ空軍のために製造した。
G1 1952年 ゲッティンゲンのマックス・プランク物理学研究所ヘインズ・ビリング英語版らにより製造された[2][3][4]
ORDVAC 1952年 イリノイ大学弾道研究所のために製造した。ILLIAC Iと互換性があった。
ILLIAC I 1952年 イリノイ大学が製造した。教育研究機関が自前で開発して所有した最初のコンピュータ。
MANIAC I英語版 1952年 ロスアラモス国立研究所がIASマシンをベースとして製造した。
IBM 701 1952年 IBMがIASマシンをベースとして製造した。1号機は米国原子力委員会に納入され、「国防計算機」とも呼ばれた。
BESM-1, BESM-2 1952年 ソビエト連邦で製造された。
Bull Gamma 3 1952年 フランスのグループ・ブルが製造した。約400本の真空管を使用した[5][6][7]
AVIDAC英語版 1953年 IASマシンをベースとして製造された。
FLAC英語版 1953年 SEACをベースとして製造された。パトリック空軍基地英語版に設置された。
JOHNNIAC英語版 1953年 ランド研究所がIASマシンをベースとして製造した。
IBM 702 1953年 IBMが製造したビジネス用途のコンピュータ。
UNIVAC 1103 1953年 ERAが設計した。
RAYDAC 1953年 レイセオンが海軍ミサイル試験センターのために製造した。
ストレラ英語版 1953年 ソビエト連邦で製造された。
データトロン英語版 1954年 エレクトロデータ英語版が製造した商用コンピュータ。
IBM 650 1954年 世界初の大量生産されたコンピュータ。
IBM 704 1954年 世界初の浮動小数点数演算ハードウェアを搭載した量産機。科学用途向け。
IBM 705 1954年 IBM 702とほぼ互換性のある業務用コンピュータ。ミュンヘンコンピュータ博物館に動作しない状態のものが所蔵されている。
BESK 1954年4月 スウェーデン初の真空管を使用した電子計算機であり、製造時は世界最速の計算速度を有した。
IBM NORC 1954年12月 IBMが米海軍装備局のために製造した。世界初のスーパーコンピュータであり、少なくとも2年間は世界最速のコンピュータだった。論理回路に9,800本の真空管を使用した。
UNIVAC 1102英語版 1954年 米空軍のために製造されたUNIVAC 1101のカスタマイズ版。
DYSEAC 1954年 アメリカ国立標準局が製造したSEACの改良版。トラックの荷台に据え付けられており、世界初の可搬式コンピュータである。
WISC英語版 1954年 ウィスコンシン大学マディソン校が製造した。
CALDIC 1955年 コスト低減と操作の容易性を基本理念として設計製作された。
イングリッシュ・エレクトリック DUECE英語版 1955年 ACEの商用版。
Zuse Z22英語版 1955年 初期の商用コンピュータ。
ERMETHドイツ語版[8][9] 1955[10] チューリッヒ工科大学エドゥアルト・シュティーフェルハインツ・ルティスハウザーアンブロス・シュパイザーにより製造された。スイス初の真空管式コンピュータ。
WEIZAC英語版 1955年 イスラエルのワイツマン科学研究所で製造された。初の中東で設計されたコンピュータ。
アクセル・ヴェナー=グレン ALWAC III-E英語版 1955年
IBM 305 RAMAC 1956年 初の二次記憶装置として可動ヘッドハードディスクドライブを使用した商用コンピュータ。
SMIL英語版 1956年 スウェーデンでIASマシンをベースに製造された。
Bendix G-15 1956年 ベンディックス社が科学・工業用に製造した小型コンピュータ。450本の真空管と300個のゲルマニウムダイオードを使用した。
LGP-30 1956年 リブラスコープ英語版が製造したデータ処理システム。113本の真空管と1450個のダイオードを使用した[11]
UNIVAC 1103A 1956年 ハードウェア割り込みを持つ初のコンピュータ。
FUJIC 1956年 日本初の電子コンピュータ。富士フイルムでレンズの性能計算のために設計された。
Ferranti Pegasus英語版 1956年 事務用の磁歪遅延線メモリを備えた真空管コンピュータ。完全動作品が残る世界で2番目に古いコンピュータ[12]
SILLIAC 1956年 シドニー大学でILLIACとORDVACをベースに製造された。
RCA BIZMAC英語版 1956年 RCA初の商用コンピュータ。25,000本の真空管を使用した。
ウラルシリーズ 1956 - 1964年 ソ連のコンピュータ。Ural-1からUral-4までが製造された。
DASK 1957年 デンマーク初のコンピュータ。初期のALGOLが実装された。
UNIVAC 1104 1957年 UNIVAC 1103の30ビット版。
Ferranti Mercury英語版 1957年 フェランティによる初期の商用真空管式コンピュータ。コアメモリとハードウェアによる浮動小数点演算を備えていた。
IBM 610 1957年 個人での使用を念頭に置いて設計された小型コンピュータ。世界初のパーソナルコンピュータの一つ。
FACIT EDB英語版 2 1957年
MANIAC II英語版 1957年 カリフォルニア大学ロスアラモス国立研究所が製造。
MISTIC英語版 1957年 ミシガン州立大学がILLIAC Iをベースに製造。
MUSASINO-1 1957年 ILLIAC Iをベースに製造された日本のコンピュータ。
EDSAC 2英語版 1958年 初のマイクロプログラム制御装置とビットスライスハードウェアアーキテクチャを備えたコンピュータ。
IBM 709 1958年 IBM 704の改良版
UNIVAC II英語版 1958年 UNIVAC Iの完全互換性のある改良版
UNIVAC 1105英語版 1958年 UNIVAC 1103の後継機
AN/FSQ-7英語版 1958年 これまでに製造された中で最大の真空管式コンピュータ。半自動式防空管制組織(SAGE)計画のために52台が製造され、1983年まで使用された。
ZEBRA英語版 1958年 オランダで設計され、イギリスのSTC社英語版が製造した。[13]
Ferranti Perseus英語版 1959年 [14][15][16]
TAC 1959年 東京大学が開発したコンピュータ。
TIFRAC英語版 1960年 初のインドで開発されたコンピュータ。ムンバイのタタ基礎研究所英語版が開発した。
CER-10英語版 1960年 初のユーゴスラビアで開発されたコンピュータ。一部にトランジスタを使用していた。
Sumlock ANITA英語版 1961年 世界初の卓上計算機

脚注[編集]

  1. ^ Hsu, John Y. (December 21, 2017). Computer Architecture: Software Aspects, Coding, and Hardware. CRC Press. p. 4. ISBN 142004110X. https://books.google.com/books?id=ZUe2ackElHEC 2017年12月29日閲覧。 
  2. ^ The G1, G2, and G3 of Billing in Göttingen”. www.quantum-chemistry-history.com. 2018年5月24日閲覧。
  3. ^ Research, United States Office of Naval (1953) (英語). A survey of automatic digital computers. Office of Naval Research, Dept. of the Navy. https://archive.org/details/bitsavers_onrASurveyomputers1953_8778395 
  4. ^
  5. ^ technikum29-Team. “A first generation tube calculator: BULL GAMMA 3 - technikum29” (英語). www.technikum29.de. 2017年11月5日閲覧。
  6. ^ Tatnall, Arthur; Blyth, Tilly; Johnson, Roger (2013-12-06) (英語). Making the History of Computing Relevant: IFIP WG 9.7 International Conference, HC 2013, London, UK, June 17-18, 2013, Revised Selected Papers. Springer. pp. 124. ISBN 9783642416507. https://books.google.com/books?id=Y5e6BQAAQBAJ&lpg=PA124&dq=BULL%20GAMMA&hl=en&pg=PA124#v=onepage&q=BULL%20GAMMA&f=false 
  7. ^ Research, United States Office of Naval (1953) (英語). A survey of automatic digital computers. Office of Naval Research, Dept. of the Navy. https://archive.org/details/bitsavers_onrASurveyomputers1953_8778395 
  8. ^ Trueb, Lucien F. (2015) (英語). Astonishing the Wild Pigs: Highlights of Technology. ATHENA-Verlag. pp. 141–142. ISBN 9783898967662. https://books.google.com/books?id=o62DDgAAQBAJ&lpg=PA141&dq=%22ERMETH%22%20%22weighed%22&hl=en&pg=PA141#v=onepage&q=%22ERMETH%22%20%22weighed%22&f=false 
  9. ^ 10 brilliant things to discover at the new-look Museum of Communication” (英語). Time Out Switzerland. 2018年6月4日閲覧。
  10. ^ Computer Science Research at ETH” (英語). www.inf.ethz.ch. 2018年6月4日閲覧。
  11. ^ LGP 30, technikum 29: Living Museum, http://www.technikum29.de/en/computer/lgp30 
  12. ^ Pegasus at the V&A, Computer Conservation Society, (June 2016), http://www.computerconservationsociety.org/ 2016年8月29日閲覧。 
  13. ^ Computer History Museum - Standard Telephones and Cables Limted, London - Stantec Zebra Electronic Digital Computer”. Computerhistory.org. 2017年4月24日閲覧。
  14. ^ Lavington, Simon Hugh (1980) (英語). Early British Computers: The Story of Vintage Computers and the People who Built Them. Manchester University Press. pp. 78. ISBN 9780719008108. https://books.google.com/books?id=AU28AAAAIAAJ&lpg=PA78&dq=Ferranti%20Perseus%201959&hl=en&pg=PA78#v=onepage&q=Ferranti%20Perseus%201959&f=false 
  15. ^ Information, Reed Business (1959-03-05). “To compute Swedish premiums” (英語). New Scientist. Reed Business Information. pp. 517. https://books.google.com/books?id=dGk-B_pvnN8C&lpg=PA517&dq=Ferranti%20%22Perseus%22%20first&hl=en&pg=PA517#v=onepage&q=Ferranti%20%22Perseus%22%20first&f=false 
  16. ^ . 195904.pdf“REFERENCE INFORMATION: A Survey of British Digital Computers (Part 2) - Perseus”. Computers and Automation 8 (4): 34. (Apr 1959). http://bitsavers.trailing-edge.com/pdf/computersAndAutomation/. 

参考文献[編集]

  • ジョエル・シャーキン 『コンピュータを創った天才たち―そろばんから人工知能へ』名谷一郎訳、草思社、1989年 ISBN 978-4794203564
  • 遠藤諭 『計算機屋かく戦えり』 アスキー、1996年。ISBN 9784756106070

関連項目[編集]