虫垂
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虫垂(ちゅうすい、英語: appendix、vermiform process、ラテン語: appendix vermiformis、虫様突起(ちゅうようとっき)とも)は、盲腸の後内側表面から突起状に垂れ下がった細長い器官[1][2]。
機能
[編集]大阪大学などによるマウスを実験動物として用いた2014年の研究報告 (Masahata et al. 2014) では、小腸及び大腸にて特異的に作用する免疫グロブリンA(IgA)を虫垂リンパ組織が産生していることが明らかとなり、虫垂を失うと大腸の腸内細菌バランスが崩れ、腸管感染症や炎症性腸疾患を発症することが報告された[3][4]。こうしたメカニズムが明らかになる以前にも虫垂の有無が腸内細菌バランスに影響することは知られていたため、かつては虫垂に善玉菌の備蓄機能が備わっているという仮説が唱えられていたが、現在では否定されている。
一方、草食動物にとって虫垂は生命維持に欠かせない器官である。虫垂は草の繊維を構成するセルロースを分解するバクテリアの棲息場所となっており、食物の分解に欠かせないからである。
虫垂の切除
[編集]虫垂の炎症を虫垂炎といい、虫垂炎が進行すると細菌が腹膜内に侵入して深刻な腹膜炎に至ることがある[1]。かつては生理機能がないと考えられ、虫垂炎を予防するために異常所見がなくても外科的手術により切除されることがあった。
ほかの疾病との関連
[編集]- パーキンソン病
成人早期に虫垂切除をすると、パーキンソン病の発症リスクが19 - 25%下がるとの米国の研究結果がある[5]一方、48万人のカルテを元にした研究では虫垂切除を行っていない患者群で0.29%だった発症割合が切除した患者群では0.92%とリスクの増加が認められた[6]。
- 下痢型過敏性腸症候群
理由は未解明とされているが虫垂切除により下痢型過敏性腸症候群が改善したとの報告がある[7]。
大腸がん
日本国内での大腸がんによる年間死亡者数が約5万人[8]と、虫垂切除術の年間施術件数が約5万件[9]であり、因果関係を示す研究がなされていないが、興味深い統計である。
脚注
[編集]- ^ a b Gillian Pocock , Christopher D. Richards『オックスフォード・生理学 原書3版』 (植村慶一、岡野栄之訳)丸善、2009年、462頁
- ^ 内田さえ、原田玲子、佐伯由香 編『人体の構造と機能 第4版』 医歯薬出版、2015年、278頁
- ^ “無用の長物と考えられていた虫垂の免疫学的意義を解明~炎症性腸疾患の制御に繋がる新たな分子機構~”. 独立行政法人科学技術振興機構. 2024年9月19日閲覧。
- ^ “虫垂は無用の長物にあらず、免疫に重要”. Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」. 2024年9月19日閲覧。
- ^ “パーキンソン病、始まりは腸から? 虫垂切除で発症リスク19~25%減”. www.afpbb.com (2018年11月1日). 2024年9月19日閲覧。
- ^ “虫垂切除でパーキンソン病リスクが高まる?”. CareNet (2019年5月28日). 2019年7月5日閲覧。
- ^ 山根貴夫, 宮島綾子, 八田一葉 ほか、「虫垂切除により下痢型過敏性腸症候群が改善した2例」 『日本外科系連合学会誌』 2017年 42巻 6号 p.952-956, doi:10.4030/jjcs.42.952
- ^ “"年約5万人が死亡するサイレントキラー"大腸がんの初期症状はここに出る…医師が40代から年一回勧める検査 下痢と便秘を繰り返したり、出血がみられたら要注意”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2024年3月30日). 2024年4月1日閲覧。
- ^ “全国の虫垂炎の治療実績・手術件数”. 病院口コミ検索Caloo・カルー. 2024年4月1日閲覧。
参考文献
[編集]- Masahata, K; Umemoto, E; Kayama, H; Kotani, M (Apr 2014). “Generation of colonic IgA-secreting cells in the cecal patch”. Nature Communications. doi:10.1038/ncomms4704.