アンキーセース
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アンキーセース(古希: Ἀγχίσης, Anchīsēs)は、ギリシア神話の人物である。ラテン語ではアンキーセス。長母音を省略してアンキセスとも表記される。
トロイア王イーロスの娘テミステーとアッサラコスの子カピュスの子[1][2]。一説にアッサラコスの子[3][4]、またカピュスの子でラーオコオーンと兄弟とも言われる[5]。愛と美の女神アプロディーテーに愛されたことで知られ、アイネイアース、リュロスをもうけた。またヒッポダメイアという娘もいた。
神話
[編集]アプロディーテーとの恋
[編集]神話によれば、ゼウスはアプロディーテーが神々を人間と結びつけていたので、アプロディーテーがいい気になって自慢したりしないように、アプロディーテーにアンキーセースへの恋を吹き込んだという。
アプロディーテーはイーデー山で暮らすアンキーセースを見て恋の虜になった。そこでアプロディーテーはキュプロスに帰って身なりを整え、再びアンキーセースを訪ねた。アンキーセースはアプロディーテーを見て、あまりの美しさに女神ではないかと疑った。しかしアプロディーテーは神の姿を隠し、プリュギア王オトレウスの娘であると偽り、ヘルメース神がアンキーセースの妻とするために自分をさらって連れて来たと言った。アンキーセースは愛欲に逆らえず、アプロディーテーと一夜をともにした。
翌朝、アプロディーテーは神の姿に戻り、アンキーセースを起したが、目覚めたアンキーセースはその姿を見てすっかりおびえてしまった。彼は女神と交わった男は精を失うと信じていたので[6]、精を失った身体で生き続けることがないよう懇願した。アプロディーテーはアンキーセースをなだめ、彼の子を身ごもったこと、その子を5年間ニュムペーに育てさせた後に連れてくること、そしてアプロディーテーに子供を生ませたことをみだりに話すと怒ったゼウスが雷を投げつけるだろうことを伝えて去っていった[7]。
トロイアの脱出
[編集]しかしアンキーセースは酒に酔ってアプロディーテーに愛されたことを話してしまったので[3]、ゼウスの雷に撃たれ、仕事のできない身体になってしまった[8]。また一説にハチに目を刺されて失明したという[9]。
後にトロイア戦争でイーリオス城が陥落したさい、アンキーセースはアイネイアースに従わず、脱出せずに城内に残ろうとした。しかし雷鳴とともに天に流星が現れ、逃げるべき方向を示したとき、ついに諦めて、アイネイアースに背負われて脱出した。その後トロイアを出航してイタリアを目指し、シチリア島で死んだという[10]。
系図
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脚注
[編集]参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会(2001年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ホメロス『イリアス(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)